ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第73話 フェンリル討伐

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 キーーーーンッ!

 目をあけて耳を塞いでいなかったAランク達は、真っ白になった自分の視界と全く聞こえなくなった耳で平衡感覚も失いその場に倒れてしまう。

 半信半疑だったシングル三人も完全に塞ぐリスクは避けていたため、目がチカチカしておりほとんど見えない状態で、耳もほとんど聞こえない状態だった。だがある程度は塞いでいたので立ち直るものすぐだろう。

 娘たちは、俺の指示を疑いもせずに行動に移しているので誰もスタングレネードの影響下にはない。シュウは追い打ちで、フェンリルが鼻で獲物を把握できると仮定して次の行動へ移る。

 手に持った刺激臭のするアンモニアの詰まった瓶を、フェンリルに思いっきり投擲しぶつけると、フェンリルが悲鳴を上げ器用に前足で鼻をおさえている。

 まさか本当に効果があるとは……しかも効果は抜群だ。目、耳、鼻を使えなくなったフェンリルは、何とか防御の姿勢をとっている。平衡感覚があるなら木を無視して突っ走ればいいと思うのだが、それもできない状況なのだろうか?

「近接物理の最大火力の攻撃をフェンリルに!」

 切れ味や貫通力、衝撃を強くする、火・風・土の付与を近接物理陣が行い攻撃をしている。ただ一人だけ素手で攻撃していた……もちろん最年少のシェリルである。

 攻撃回数の稼げる素手で浸透勁を何発も打ち込んでいた。ダメージとして蓄積はされるだろうが、体の小さいシェリルでは決定打にかけるだろう。それでも娘たちの攻撃はしっかりとダメージを蓄積している。いくら防御態勢をとっていると言っても、付与を施した攻撃を無効化するには至らないのだ。

 俺はしっかりと強化してから、武器にまず風付与を行いあらん限りの力を使って首筋に薙刀を刺し込む。十五センチメートル程まで刺さったが、致命傷を与えるところまではいかなかったようだ。

 そのまま付与を火に変えて、薙刀でも使用できる槍術スキルの乱舞を使用する。スキルによって後押しされた薙刀の攻撃は、フェンリルの左半身に深い傷をいくつもつけた。

 乱舞が終わり距離をとると、今度は迷刀【霞】を鞘にしまったままのカエデがフェンリルの懐へ入り、火付与を行い刀スキルの抜刀術を使っていた。カエデよ、いつ覚えたんだ?

 右の前足の人間でいう膝に当たる場所へ吸い込まれるように刀が入り、七割ほど切り割いた。骨は絶たれているので、おそらくもう使い物にはならないだろう。これで機動力も攻撃力も一気に下がった。この攻撃で通用しなかったら、現代とファンタジーの合作銃ピースを使う気でいたのだ。

 一分程の俺達の攻撃ターンが終わり、フェンリルのスタングレネードとアンモニア瓶の影響が無くなってきたところで、シングルの三人も戦線に復帰してきた。

 右足はもう、筋肉と皮でつながっており、やはり使い物にならなくなっていた。フェンリルは、ぶらぶら動く手を邪魔と言わんばかりに嚙みちぎって地面に捨てた。次の瞬間シュリの目の前まで移動しており体当たりをしていた。体重差とスピードでとどまり切れず十メートル程飛ばされて止まった。

 さすがフェンリル、片足がなくなったとはいえSランクの魔物、戦闘能力が落ちてもそこら辺のAランクの魔物より圧倒的に強いだろう。

 しばらくスピードに任せて戦闘をしていたが、状況はこっちに傾いてきた。スピードはあっても、直線的な動きしかできなくなっていた。片足をなくしたせいで方向転換が難しくなっているようだ。

 それに大量の切り傷を与えた俺や、足を半分以上切り落としたカエデにターゲットが移らずに、執拗にシュリへ攻撃していた。

 後で聞いた事だが、あの時のシュリは挑発ではなくアンカーというスキルを使っていたらしい。使用中はターゲットを自分に固定するという意味でアンカーというスキル名らしい。

 左右の動きがなくなったフェンリルでは、シュリを吹っ飛ばすことはできてもそれ以上の事はかなわなくなり支援が無くてもダメージをくらう事はほとんどなくなっていた。

 英雄症候群によるエネルギーの枯渇さえなければシュリは、体を縮めれば全身を隠せるほどの大盾を軽々と扱える程硬い守りなのだ。

 今は攻撃が察知できた時に土魔法を体に付与して、自重を増やし吹っ飛ばしすら排除していた。吹っ飛ばされない時は、フェンリルが若干移動が遅れるので、その時に左右からリリスやカエデと俺が中心にダメージを重ねていた。

 時間が経つにつれて、フェンリルが目に見えるほどに動きが遅くなっていく。自分が圧倒的不利になっても逃げないのは、シュリの使っているアンカーのおかげだろう。

 逃がすことなく処理できるということは、今回の緊急招集の終わりを意味するのだ。逃がせば、それを追って追撃して処理しなければならないところであった。

 フェンリルとシュリの攻防は、もうシュリの一方的な戦況のコントロール下にあった。そんな中シュリから俺に向けて、

「ご主人様、そろそろフェンリルに止めをさしましょう。次のフェンリルの攻撃時に動きを止めますので、最大の攻撃力でお願いいたします」

 そんな言葉をシュリにかけられた。

 シュリに言われた通り、最大の攻撃力を出せるように準備をしていく。武器には火付与を行い、残った魔力の大半を消費して能力向上のスキルをブーストしている。

 フェンリルが遅くなった足で、シュリに必死に攻撃している。腐ってもSランク魔物、闘志はいささかも落ちていないが、体がそれについていけずにいた。

 シュリが隙を見て距離を詰めた。大盾でくりだされたシールドバッシュは的確にフェンリルの横っ面をとらえて、少しだけシュウよりの方向へ吹き飛ばしていた。

 シュリは俺に止めをささせたいのだろう。誰が止めをさしてもいいだろうが、目の前にチャンスがあるのだSランク魔物の討伐をいただこう。

 フェンリルとの距離を縮め、薙刀をフェンリルの首の下の地面に突き刺しす。それをあらん限りの力で振り上げ、切り上げる形で首を切り飛ばした。攻撃スキルではないが、地面の抵抗から抜き出す力を攻撃力に上乗せする攻撃と言っていいだろう。一部、抜刀術と同じ技術を使っているかたちだ。

 地擦り残月……地面を削り刃が軌道が三日月の跡を残すので、娘の誰かがそう呼び始めて定着することとなった。

「あ゛~終わった。みんなお疲れ。シュリも最後までタンクご苦労さん、お前がいなかったらフェンリルは間違いなく倒すのに被害が出たな……本当にありがとな」

「い、いえ! 大食らいの私がご主人様のお役に立てたのです。ご主人様から頂いた色々なものを少しでも返せているのであれば、私は幸せです」

 重いな。大食らいなのは解っていたし、英雄症候群を利用できればと思っただけなのに、こうも一方的に恩を感じられるとむず痒くなってしまう。

「ちょっとシュウ! あの爆音と強い光を出したあれ何なの? 危うく私たちまで戦闘出来なくなるところだったじゃない! 初めにあんな武器があるならあるって教えておきなさいよ!」

 リリスがスタングレネードの事を伝えていなかったことを言い詰めてきたのだが、シュリが間に入り威嚇している。

「シュリ、ちょっと待てって。リリスさんは自分の手札を全部公開してますか? 切り札を教えることはないですよね? 戦闘する者にとって切り札は本当の意味で切り札になるんですから。フェンリルを倒すために、使い捨てのダンジョンで拾った切り札を二つも使ったんです。倒せたのですからいいじゃないですか」

「確かに切り札は私も公開してないわ。でも味方に影響のある切り札はないわよ。フェンリルにはおそらく致命傷を与えることはできなかったでしょう。

 あのまま戦闘を続けていたら半分以上のメンバーが死んで、おそらくフェンリルを倒せないまま撤退になったでしょう。切り札を切ったあなたにお礼をいう事があっても、文句を言う筋合いはないわね。悪かったわ。みんなお疲れ様。ベースに戻りましょう」

 リリスがそう言うとみんなベースの方へ戻っていく。
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