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少年期

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 恐らくレーヴェが無人島に一つ持っていくものを選べるとするならば、鏡だろう。

(今日も推しの顔が麗しい。今日も一日頑張れる)

 レーヴェはまるで儀式のように毎朝自分の顔を見ては、悦に浸っていた。

(幼少期寝起きの推し……跳ねた髪すら愛おしい)

 全ての原動力たる推しを摂取するのは当然なのだから仕方がない。

 今日もたっぷり推しを堪能して朝起きる。

 教師を整理して以来、レーヴェは授業も訓練も身が入り、推しの解釈違いにならないよう努力していた。

 レーヴェの辞書に不可能はない、という勢いで勉学に励む姿は使用人たちの話題を呼び、それを通じて貴族社会にも届き始めていた。

 曰く、この国の二人の王子は傑物揃いだと。

 ランベルトは自由奔放ではあるがカリスマに溢れて、レーヴェは押しが弱く目立たないものの聡明である。

 レーヴェは国王に冷遇されているが、使用人たちからの評判はすこぶる良い。だって推しが他人に親切に振る舞うのは当然だから。

 しかし周囲の評判は当人には分からないもの。国王の周囲ではレーヴェの悪評が蔓延り、反国王の勢力では国王やランベルトの悪評が蔓延っていた。

 つまりは、精神が成熟しているレーヴェとは違い、幼いランベルトにとっては周囲からの情報が全てなのだ。

「レーヴェ!」

 ランベルトはいつも唐突に現れて、レーヴェを掻き乱していく。ゲームで人となりを知っていなければ、レーヴェはとっくのとうにランベルトのことを嫌いになっていたかもしれない。

「聞いたぞ。この前は授業を放ってエリーザベトといたとな!俺はそんなこととは思わず頷いてしまったが、いけないことだぞ」

「誰がそのようなことを?」

「父上が昨日の夕食の際に申していた」

「なるほど……」

 嫌悪に満ちた表情を隠しもせず、レーヴェは不快を露わにした。だがランベルトはいつもレーヴェの感情には気づかない。ゲームでは鈍感な姿がやきもきする要素になっていたが、現実ではとてもそんな気にならない。

(ゲームのランベルトの性格は好きだったけど、王子として、なにより兄として接しているとどうにも感情の抑えが効かなくなる。俯瞰してみれば8歳の子供なのに、このレーヴェの身体が他人事にするのを許さない)

「そうだ、いつもレーヴェは夕食に顔を出さないではないか。たまには共に食べないか?父上だってそれを望んでいるだろう」

「父上が?……ハッ、兄上は本当に何もご存じないのですね」

 兄を嘲笑った。真っ直ぐで、無知で、素直で、幼く、未熟。レーヴェはとてもとても我慢できたものじゃなかった。
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