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少年期

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 貴族の子供ならば誰しもが、従僕などの取り巻きと共に幼年期を過ごす。

 しかしレーヴェには取り巻きと言った取り巻きがいなかった。厳密にいうと存在はしたのだが、実際に幼年期を共に過ごしていたかというと話は別だった。

 レーヴェに課された厳しい授業や訓練は、本来子供なら自由に遊んでいたであろうはずの時間を奪い、結果としてレーヴェの孤立を生んだ。

 国王から冷遇されている、という誰が見ても明らかな事実もまた、レーヴェの孤立を加速させた。第二王子でありながら取り巻きも連れず、ただ一人で教育を受けるレーヴェに付け入ろうと様々な勢力の子供が近づきもした。しかし、その頃のレーヴェは貴族の駆け引きなど何も知らない。父親の期待に応えようと一生懸命に努力する子供でしかなかった。父親と敵対するよう促すようなことを吹き込んでくる輩は、レーヴェとはとてもソリが合わなかった。

(いいもん、孤独じゃなくて孤高だもん)

 レーヴェとしてはもはや開き直っていたりするが、それは前世の喪女あってのこと。

(ゲームのレーヴェは、ずっと一人だったのかな……)

 中身が多少変化したところで、生まれた境遇が変わるわけではない。同年代の子供と遊ぶこともせず、ただ孤独に苦しんでいたゲームのレーヴェは、どんな気持ちだったのだろう。

 気分が落ち込んだレーヴェは視線を落とす。すると磨かれた廊下から目に入るのは、憂いを含んだ美しい推し。

(やっっっぱ推し最高フェイスだ。この顔がくっついてるってだけで午後の授業も頑張れそう)

 自分の機嫌を即座に自分で取る。感情は常にジェットコースターレベルで上昇と下降を繰り返す。

 ただ、例え前世の喪女がインストールされているといえど、いつまで経っても平気なわけではない。

 落ち込む時間が毎日少しずつ伸びていく。

 彼との出会いは、そんな午後のこと。

 いつも通り授業を受けようとしていたレーヴェだったが、教師が病で休んでいたことを思い出す。

 珍しく暇になりどこか持て余し気味になったレーヴェは、あてもなく城を歩こうかと考えていた。

「レーヴェ王子、これはこれは。奇遇ですね」

 男はまるで旧知の仲のように話しかけてきたが、直接会った覚えはない。ただ、知らない顔でもない。確か外務卿の一派の中で見た覚えがある。

 外務卿が完全に国王と敵対していることを知らぬ者はいない。つまり、この光景を見られるのは少々不味いわけだ。

 親しげに話しかけられたのを見られた時点で、レーヴェは反国王の勢力に取り込まれてしまう。

(迂闊だったぁああ! レーヴェ様ならこんなヘマはしないはず! うわぁああやらかした!)

 レーヴェの内心を見透かしたように男は言った。

「大丈夫ですよ、今ここらには誰もいません。にしてもその年でそこまで理解していらっしゃるとは。やはり、噂通り聡明なお方なのですね」

「……人払までして、何か用か?」

「なに、レーヴェ王子に少しでもお近づきになりたいと思いましてね。なんでもレーヴェ王子には従僕がいないとか。そんなことでは国の威信に関わるというものでしょう。不肖ながら私がお力添えを、と」

 男は道を退けると、背にいたと思われる少年が姿を表す。平凡な黒髪だが、どこか兄を思い出して不快だった。

「はっ、ハンスっち申するけんねっ! レーヴェ様ん従僕ば務めしゃしぇていただきよったいっち、こうしてお目にかかった次第でいるけん!」

 勢いよく言い切った同年代と思われる少年は、強い訛りがあった。この国の生まれではないだろう。

 彼ならば足がつかないし、外国語の訓練に付き合わせるために従僕としたと思われるだろう。それも外務省のコネクションを利用したのだろうか。とにかく、完璧な選出だった。

「……なるほど」

 しかし何よりレーヴェが思ったのは、彼の名前がハンスということだ。

(彼が……ゲームでレーヴェ様の"親友"だったキャラクター。そして、これから死ぬであろう人間)
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