いろいろ短編集

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コメディー(軽いもの)

神様が書いたweb小説

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〈前書き〉
作中小説投稿サイトは小説家になろうをモデルにしております

小説本文↓
――――――――――――――――――――――――

「……」

 神さまはある日。

「!」

(すごい物語ストーリーを思いついたぞぃ!)

 神さまは思った。
 これは、誰かと共有せねばならぬ!
 でなければもったいない物語ストーリーだ!

 神さまは小説を書いた。
 全60話、文字数約30万文字の長編だった。

(よく書けておるのぅ。
誰かに見せたいのぅ)

 しかし。

(わしの周りはイエスマンばかりじゃからのぅ……)

 周りの者にこの小説を読ませたところで

『素晴らしいです、神さま!』

 と言う賛辞が返って来るだけだ。
 見せる前からわかる。

 神さまはそんなものを望んでいるわけではない。

(わしは読者の『本当の気持ち』が知りたいんじゃ!
本音の感想を知りたいんじゃ。
そして賛辞を……)

 と思ったので小説投稿サイトに投稿することにした。
 神さまだが、他の人間と同じ手順でweb小説を投稿する。

(ドキドキするのぅ)

 神さまは胸を高鳴らせる。

(もしかして1話投稿して早速ランキング1位なのでは……)

 小説を投稿して1時間経った後、神さまはわくわくしながらアクセス数を確認した。

(10アクセス……じゃと……?)

 思っていたよりずっと少ない! と神さまはガッカリしたが。
 思い直す。
 いや、10人もの人間が読んでくれた!
 神さまの威光も使わずに。
 偉大なる一歩だ!

(明日も投稿するぞぃ)

 それから何日も神さまは毎日投稿を続けた。
 とうとう投稿済み話数は全60話中半分の、30話となった。

 しかし。

(相変わらずの投稿直後10前後アクセスじゃのう……)

 おかしい……。と気付き始める。
 1話しかないときは『10人読んでくれた』と思えたが。
 もう30話である。
 多分、投稿直後のアクセスは小説投稿サイトの『新着小説一覧』から来てくれたときのアクセス。
 つまりはご新規さん……。
 何故30話もあるのに、10アクセス前後なのだろう?
 もっとアクセス数が増えても良いのではないか?

 神さまは考えるのをやめた。

(『神さまパワー』使うぞぃ!)

 神さまは『神さまパワー』を使い、今日自分の小説ページを訪れた人をることにした。千里眼だ。過去とかでも全然OK、時空を越えた『神さまパワー』。

 神さまは視た。
 まずは今日の全アクセス、10アクセスの内の最初の1アクセスを残した人間。
 小説投稿直後、一人目の訪問者。
 30代の会社員の男だった。
 電車の座席に座りつつ、スマホで小説投稿サイトを見ている。
 新着小説一覧ページを見、神さまの書いた小説名を見てタップし小説トップページを見た後、……そっ閉じした。
 そっ閉じと言うかブラバブラウザバック

(何故じゃあ~!)

 神さまは男の脳を覗いてみる。

『30話もある。めんどくせっ』

 と男は思考していた。
 
(ひどいのぅ)

 小説投稿サイトには『10万文字ブースト』があるとも聞くのに。

『10万文字くらいなきゃ読む気が起きない』

 と言う人もいると聞くのに。

 仕方ない。
 色々な人間がいることは神さまも十分承知していた。
 
 神さまは次の訪問者を視に行った。

 2人目の訪問者はお風呂に入っている若い女だった。
 しかし神さまなので女のお風呂シーンに喜んだりなどしない。
 フーン、である。無関心。

 若い女は湯船に浸かりながら、水に濡れないようジップ○ックに入れたスマホで小説投稿サイト新着小説一覧を見ていた。
 そして神さまの小説名をタップし……
 ブラバした。

(何故じゃ!)

 神さまは若い女の脳を覗いた。

『あらすじ硬い。面倒くさそー』

 と女は思っていた。

 神さまは憤慨した。

(わしが何年生きていると思っておる!
若い女子おなごのような砕けた文章書けるわけあるかい!)

 しかし。
 『人間は面倒くさがり』なことを神さまは思い出した。
 その性質は娯楽に対してすら当てはまるのだ。

(わしの小説は面倒くさがりの人間にはちと向かなかったかのぅ……)

 と自己弁護しつつ、神さまは次々と自分の小説にアクセスした者を視ていった。

 3人目、トップページあらすじブラバ。

『コレジャナイ』

 4人目、トップページあらすじブラバ。

『もうちょっと軽いのが読みたい』

 5人目、トップページあらすじブラバ。

『こう言うややこしそうなの、求めてない』

 6人目は少し違った。

(今日初めてのあらすじを越えての小説本文ページクリックじゃ!)

 神さまはわくわくしながら、6人目を見守ったが。
 1ページ目を開いて間もなく、ブラバした。
 速い!
 読むのが速いのか? と思いながら脳を覗くと、 
 
『こう言う文章、読むのめんどくさい』

 だった。

(このような美麗な文章を『面倒くさい』とは……。
嘆かわしいことじゃ)

 この人間が読まないくせに小説本文1ページ目をクリックしたせいで、貴重な今日の10アクセスの内の2アクセスが消費されてしまった。

 つまり。
 ここまでで10アクセス中7アクセス分の内訳を知ってしまったわけだが。
 あと3アクセスのうちに、ちゃんと小説を読んでくれた人は果たしているのだろうか?

 その後、神さまは7人目と8人目を視たが、やはり『あらすじブラバ』だった。

 残りはあと1アクセス。

(もう駄目じゃ……)

 と神さまは思った。

(あと1アクセス。
確かめるまでもなく、『あらすじブラバ』じゃ。
視る前からわかるぞぃ)

 肩を落とす。

(誰も読んでいないなら。
エタるのかのぅ……)

 エタ――完結しないまま投稿ストップ――は良くないと聞くが。
 誰も見ていないならエタっても良いのではないか?

 神さまはしかし、最後に、自分に引導を渡すためにも、と。
 『最後の1アクセス』をした人間を視ることにした。

 その人間――男――は整頓された部屋にいた。
 パソコンの前に座っている。

(なぬ……)

 今男の目の前でパソコンに映し出されているのは『新着小説一覧』ではなかった。
 
(これは……)

 『小説情報ページ』。

 男は神さまの小説の『小説情報ページ』を見ていた。
 そして、

「最新話投稿したようだな」

 とつぶやくと。
 『最新話を読む』と言うリンクを踏んだ。

 その後、静かに男は開いたページを見続けた。
 その時間約10分。

(こ、こやつ……!
わしの小説を読んだ!
ちゃんと読んだ!
しかも最新話!)

 きっとこの男は……
 神さまの小説を前々から読んでいて。
 神さまの小説の『小説情報ページ』をパソコンのブラウザでブックマーク保存しておいて。
 神さまがよく小説を投稿する時間にその『小説情報ページ』を訪れて。
 『小説情報ページ』の『最終投稿日』を確認して。
 『最新話』が投稿されたと知り、『最新話を読む』リンクをクリックしたのだ。
 
(ありがとう……)

 神さまは男が読んでくれたことに感激しお礼を言う。
 少し迷ったが、脳の中を覗いて男が読後何を思っているのか視るのはやめることにした。

 何を思っていても良い……。
 最新話を投稿直後に読もうとするくらい、待っていてくれただけで……。

 そして神さまは男の様子を視るのをやめた。


※※※

 その後も神さまはweb小説の投稿を続けた。
 落ち込むと、ときどき『最後の1アクセス』の男を見に行った。
 相変わらず投稿直後とは限らずとも読んでくれているようで安心する。

 そして神さまはとうとうエタらずに小説全文投稿を終えた。
 投稿前に既に全60話分書いてあったとは言え、推敲などをしつつ投稿していったから、なかなか時間をとられる大変な作業だった。

(結局思ったより読まれなかったのぅ)

 神さまは『完結ブースト』後のアクセス数を見ながら思う。

(しまったのぅ。
よく考えれば、わしが書く必要なかったのじゃ)

 神さまは気付いた。
 自分の『神さまパワー』を使い、この小説のストーリーを有名作家に書くよう仕向ければ良かったのだ。
 例えばノーベル賞作家などの脳に、神さまが考えたストーリーを『さも自分が思いついたように』閃かせれば良かった。
 そうすれば、小説を書く才能のある人間が神さまの考えたストーリーを良い構成で素晴らしい美文で書いてくれただろうに。
 そして『有名作家が書いた小説』と言うことでたくさんの人に読んでもらえ、ストーリーを知ってもらえただろうに。

(しかし、今更じゃのう……)

 もう既に何人かの人間に読まれてしまったので、今更そんなことはできない。
 有名作家にあらぬ疑い――『盗作』の疑い――を生じさせてしまうかもしれないし。

 それに……。

(『わし』が書いた物を読んでくれた者がおったのじゃ……)

 神さまはあの日の『最後の1アクセス』の男が最終話を読むところも視た。
 男はちゃんと全話読み切ってくれたのだ。

 神さまは男の脳を視ていないから男の本当の感想を知らない。
 もしかするとこの男は几帳面に整頓された彼の部屋から推測できるように神経質なところがあり、一度少しでも読んだものは最後まで読まないと気が済まないタイプで。
 だからイヤイヤながらも神さまの小説を読み切ったのかもしれない。そんな可能性もある。
 男の本当の感想など神さまにもわからなかった。脳を視ていないから。

(しかし、この男がわしを励ましたのには違いない……)

 神さまは男のパソコンに向かう後ろ姿を視つつ思った。

(褒美を遣わそう……)

 神さまはこの男のこれからの人生を幸福なものにしてあげることにした。
 『神さまパワー』発動!


※※※

 結局。
 神さまは一つの小説を書き、投稿し、読者を得て。
 そしてこの世に存在する多くの小説家が望んでいる夢を叶えた。

 その夢とは『自分が書いた小説を、読んだ読者を幸せにすること』。


 

〈終〉
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