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4話 お医者さんとの対話
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マリアの要請により、医者はすぐに来た。
「こんにちはマリアさん」
医者の優しい微笑みに、マリアはドキドキした。
彼はマリアの家の主治医をしている医者であったが……
マリアは焦りながら内心思った。
(若いお医者様の方がいらっしゃってしまいました)
主治医は親子でマリアの家を担当している。
始めは父親の方が主治医であったが、成長した息子が医者になって以来、息子の方が父に代わり診察することも増えたのだ。
(老先生の方が話しやすかったのですけれども……)
仕方ない、とマリアは思った。
『老先生の方が良かった』と言っている場合ではない。
マリアは若い医者――名前をジョンと言った――に話を切り出した。
「実は……ジョンお兄さま……」
マリアはジョンと仲が良かった――『ジョンお兄さま』と呼ぶくらいに。
まだマリアもジョンもほんの子どもの頃、老医師が診察しにくるとき度々ジョンも一緒にマリアの家へ来たので、2人はよく一緒に遊んだものだった――マリアの方が4つほど年下なので、『マリアがジョンに遊んでもらっていた』と言う方が正しいか。
と言うわけでマリアとジョンはほぼ幼なじみである。そして彼は婚約者トム以外で、マリアが唯一打ち解けて話ができる、若い男性であった。
だから今回の相談はとても言いにくかった――ジョンに軽蔑されたくないと思ったのだ、トムのように。
しかし、仕方がない。
真剣な顔でジョンを見つめて、
「わたくし、イジメをしてしまったのです」
そうマリアが言いにくかったことを思い切って言うと、
「えっ」ジョンは驚いた。
「マリアさんが、イジメ……?」
目を丸くしたビックリ顔をした後、半笑いになってマリアを見ると、
「冗談、でしょう?」
マリアは苦しげにジョンをジッと見つめた。
ジョンはマリアの視線に困り顔を返し、
「あまり良い冗談ではありませんけどね……
不謹慎と言うか」
マリアを訝しげに見つめ、
「マリアさんらしくない冗談だ……」
「冗談じゃありませんの」
マリアは悲しげに言った。
「わたくし、本当にイジメをしておりますの」
「どうして?」
ジョンは真顔になって聞いた。
「どうしてイジメなど?
理由があるのでしょう?」
「ありませんの」
マリアは答えた。
「わたくし、何の接点もないクラスメートを理由もなくいじめているのです……」
「……何故?」
ジョンは重ねて聞いた。
マリアはジョンが、むしろ自分のことを信じてくれているからこそ何度も『何故』と聞いてくれると理解したので、嬉しくもあったが。
そんな彼に『理由もなくイジメをしている』と言うのがつらくもあった。
何度か『何故?』『理由は特にない』と言うやりとりをした後、マリアはジョンを家に呼んだ理由を話し始めた。
「……お兄さま。
わたくしもわたくしが理由もなくイジメをする理由が知りたいのです。
それでお兄さまのお力をお借りしたく……」
「と言うと……?」ジョンは考えこむような表情で、
「心理分析、とか?」
「わたくしには専門的なことはわかりませんが……」
マリアは悲しげに言った。
「でも。
何らかの、理由があると思うのです」
マリアはそこで、勇気を持って自分の『予想』を言った。
「わたくし、わたくしは『夢遊病』だと思うんです!」
「えっ」ジョンは目を丸くした。
マリアはジョンの反応に顔を熱くしながらも、『自分はふざけてそんなことを言っているわけではない』とジョンを真剣に見つめ返した。
そう。マリアが医者を家に呼んだのは……
自分は学校でイジメをしている
↓
しかし、自分は授業中以外は寝ているか(授業の間の休み時間)、トムと一緒にご飯を食べている(昼休み)
↓
ならば、いつイジメをしているのだろう?
↓
休み時間に眠っている間に、無意識のうちにしているのかも?
↓
そう言えば最近、本で『夢遊病』について読んだ
↓
自分も『夢遊病』かもしれない
……と、そんな思考を経た結果。
自分を『夢遊病』と疑ったからであった……
「こんにちはマリアさん」
医者の優しい微笑みに、マリアはドキドキした。
彼はマリアの家の主治医をしている医者であったが……
マリアは焦りながら内心思った。
(若いお医者様の方がいらっしゃってしまいました)
主治医は親子でマリアの家を担当している。
始めは父親の方が主治医であったが、成長した息子が医者になって以来、息子の方が父に代わり診察することも増えたのだ。
(老先生の方が話しやすかったのですけれども……)
仕方ない、とマリアは思った。
『老先生の方が良かった』と言っている場合ではない。
マリアは若い医者――名前をジョンと言った――に話を切り出した。
「実は……ジョンお兄さま……」
マリアはジョンと仲が良かった――『ジョンお兄さま』と呼ぶくらいに。
まだマリアもジョンもほんの子どもの頃、老医師が診察しにくるとき度々ジョンも一緒にマリアの家へ来たので、2人はよく一緒に遊んだものだった――マリアの方が4つほど年下なので、『マリアがジョンに遊んでもらっていた』と言う方が正しいか。
と言うわけでマリアとジョンはほぼ幼なじみである。そして彼は婚約者トム以外で、マリアが唯一打ち解けて話ができる、若い男性であった。
だから今回の相談はとても言いにくかった――ジョンに軽蔑されたくないと思ったのだ、トムのように。
しかし、仕方がない。
真剣な顔でジョンを見つめて、
「わたくし、イジメをしてしまったのです」
そうマリアが言いにくかったことを思い切って言うと、
「えっ」ジョンは驚いた。
「マリアさんが、イジメ……?」
目を丸くしたビックリ顔をした後、半笑いになってマリアを見ると、
「冗談、でしょう?」
マリアは苦しげにジョンをジッと見つめた。
ジョンはマリアの視線に困り顔を返し、
「あまり良い冗談ではありませんけどね……
不謹慎と言うか」
マリアを訝しげに見つめ、
「マリアさんらしくない冗談だ……」
「冗談じゃありませんの」
マリアは悲しげに言った。
「わたくし、本当にイジメをしておりますの」
「どうして?」
ジョンは真顔になって聞いた。
「どうしてイジメなど?
理由があるのでしょう?」
「ありませんの」
マリアは答えた。
「わたくし、何の接点もないクラスメートを理由もなくいじめているのです……」
「……何故?」
ジョンは重ねて聞いた。
マリアはジョンが、むしろ自分のことを信じてくれているからこそ何度も『何故』と聞いてくれると理解したので、嬉しくもあったが。
そんな彼に『理由もなくイジメをしている』と言うのがつらくもあった。
何度か『何故?』『理由は特にない』と言うやりとりをした後、マリアはジョンを家に呼んだ理由を話し始めた。
「……お兄さま。
わたくしもわたくしが理由もなくイジメをする理由が知りたいのです。
それでお兄さまのお力をお借りしたく……」
「と言うと……?」ジョンは考えこむような表情で、
「心理分析、とか?」
「わたくしには専門的なことはわかりませんが……」
マリアは悲しげに言った。
「でも。
何らかの、理由があると思うのです」
マリアはそこで、勇気を持って自分の『予想』を言った。
「わたくし、わたくしは『夢遊病』だと思うんです!」
「えっ」ジョンは目を丸くした。
マリアはジョンの反応に顔を熱くしながらも、『自分はふざけてそんなことを言っているわけではない』とジョンを真剣に見つめ返した。
そう。マリアが医者を家に呼んだのは……
自分は学校でイジメをしている
↓
しかし、自分は授業中以外は寝ているか(授業の間の休み時間)、トムと一緒にご飯を食べている(昼休み)
↓
ならば、いつイジメをしているのだろう?
↓
休み時間に眠っている間に、無意識のうちにしているのかも?
↓
そう言えば最近、本で『夢遊病』について読んだ
↓
自分も『夢遊病』かもしれない
……と、そんな思考を経た結果。
自分を『夢遊病』と疑ったからであった……
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