上 下
4 / 8

4話 お医者さんとの対話

しおりを挟む
マリアの要請により、医者はすぐに来た。

「こんにちはマリアさん」
医者の優しい微笑みに、マリアはドキドキした。

彼はマリアの家の主治医をしている医者であったが……
マリアは焦りながら内心思った。
(若いお医者様の方がいらっしゃってしまいました)

主治医は親子でマリアの家を担当している。
始めは父親の方が主治医であったが、成長した息子が医者になって以来、息子の方が父に代わり診察することも増えたのだ。

(老先生の方が話しやすかったのですけれども……)

仕方ない、とマリアは思った。
『老先生の方が良かった』と言っている場合ではない。

マリアは若い医者――名前をジョンと言った――に話を切り出した。
「実は……ジョンお兄さま……」

マリアはジョンと仲が良かった――『ジョンお兄さま』と呼ぶくらいに。
まだマリアもジョンもほんの子どもの頃、老医師が診察しにくるとき度々たびたびジョンも一緒にマリアの家へ来たので、2人はよく一緒に遊んだものだった――マリアの方が4つほど年下なので、『マリアがジョンに遊んでもらっていた』と言う方が正しいか。

と言うわけでマリアとジョンはほぼ幼なじみである。そして彼は婚約者トム以外で、マリアが唯一打ち解けて話ができる、若い男性であった。
だから今回の相談はとても言いにくかった――ジョンに軽蔑されたくないと思ったのだ、トムのように。

しかし、仕方がない。
真剣な顔でジョンを見つめて、
「わたくし、イジメをしてしまったのです」
そうマリアが言いにくかったことを思い切って言うと、
「えっ」ジョンは驚いた。

「マリアさんが、イジメ……?」
目を丸くしたビックリ顔をした後、半笑いになってマリアを見ると、
「冗談、でしょう?」

マリアは苦しげにジョンをジッと見つめた。
ジョンはマリアの視線に困り顔を返し、
「あまり良い冗談ではありませんけどね……
不謹慎と言うか」

マリアを訝しげに見つめ、
「マリアさんらしくない冗談だ……」

「冗談じゃありませんの」
マリアは悲しげに言った。
「わたくし、本当にイジメをしておりますの」

「どうして?」
ジョンは真顔になって聞いた。
「どうしてイジメなど?
理由があるのでしょう?」

「ありませんの」
マリアは答えた。
「わたくし、何の接点もないクラスメートを理由もなくいじめているのです……」

「……何故?」
ジョンは重ねて聞いた。

マリアはジョンが、むしろ自分のことを信じてくれているからこそ何度も『何故』と聞いてくれると理解したので、嬉しくもあったが。
そんな彼に『理由もなくイジメをしている』と言うのがつらくもあった。

何度か『何故?』『理由は特にない』と言うやりとりをした後、マリアはジョンを家に呼んだ理由を話し始めた。

「……お兄さま。
わたくしもわたくしが理由もなくイジメをする理由が知りたいのです。
それでお兄さまのお力をお借りしたく……」

「と言うと……?」ジョンは考えこむような表情で、
「心理分析、とか?」

「わたくしには専門的なことはわかりませんが……」
マリアは悲しげに言った。
「でも。
何らかの、理由があると思うのです」

マリアはそこで、勇気を持って自分の『予想』を言った。
「わたくし、わたくしは『夢遊病』だと思うんです!」

「えっ」ジョンは目を丸くした。
マリアはジョンの反応に顔を熱くしながらも、『自分はふざけてそんなことを言っているわけではない』とジョンを真剣に見つめ返した。

そう。マリアが医者を家に呼んだのは……


自分は学校でイジメをしている
 ↓
しかし、自分は授業中以外は寝ているか(授業の間の休み時間)、トムと一緒にご飯を食べている(昼休み)
 ↓
ならば、いつイジメをしているのだろう?
 ↓
休み時間に眠っている間に、無意識のうちにしているのかも?
 ↓
そう言えば最近、本で『夢遊病』について読んだ
 ↓
自分も『夢遊病』かもしれない


……と、そんな思考を経た結果。
自分を『夢遊病』と疑ったからであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...