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7話 ファミレスで告白

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「今度のデートはホテルで食事なんてどうです?」
 二人でスーパーの在庫を仕分けしながら、唐突に切り出した。周囲に人がいないのは確認済みだ。思ったよりも反応しない彼女に、俺はなおも続けた。
「ビュッフェとか、楽しそうじゃありません?」
 彼女が動きを止めたので、俺も手を止めて目を向ける。マスクの下の表情を読み取ろうと見つめ合っていると、彼女の真剣な瞳がふっと緩み、笑い声が漏れて来た。
「何ですか」
「私の反応を見てる」
「そりゃ見ますよ」
「観察してる」
「だからしますって」
「『ホテル』に反応するかどうか、気になったんでしょ」
 何でバレたんだ。いや、そりゃバレるか。そうでなくてもホテルというワードはそれだけで威力がある。
「でも惜しかったわね」
「何がです?」
「『ホテルで食事』って言い方はよかったわ。でももう少し粘ってみればよかったのに焦っちゃったのね。ディナーでビュッフェがないこともないけど、その『ホテルの食事』ってランチでしょ」
「うわ、そこまでわかるんですか」
「最初から平坂くんが緊張してるのがわかったからね。何か企んでるのかなって思ってたら案の定ね」
「恥ずかしいな、もう」
 ちらちら俺が見ていたのがバレていたのか。せっかくちょっと強気にいったのに。
「私の動揺が見たかった?」
「動揺というか、どんな反応するのかなって」
「それで私がディナーの方だと誤解したら、ランチですよってからかうつもりだったの?」
「いやそこまでは。でもまあ、そんな感じです。OKだったらホントにホテルのディナーに誘っていいんだろうなって思うし、ダメだったらビュッフェの良さを熱弁して紛らわそうかと」
「そんなこざかしい真似しなくていいのに」
「こざかしいって」
「いつもストレートなのが平坂くんのいいところだもの」
「そんなに俺のこと好きならもう付き合ってくださいよ」
「考え中です」
「いつまで考えてるんですか」
「もうちょっとかな」
「今夜は何時に終わります?」
「8時」
「じゃあ待ってますから、帰りに夕食どこかで食べません?」
「いいけど、あなた6時上がりでしょ」
「待ってますよ」



 二人で入ったのは近くのファミレス。共にパスタを注文し、サラダは二人で分け合った。
「本当はディナーに誘うならもっとこう、ドレスコードがあるようなところの方がいいんでしょうけど」
「何言ってんのよ。そういうとこも悪くないけど、いくらデートだからって毎回そんな高いとこばっか行ってられないじゃない」
「まあカズミさんがいいなら、いいんですけど」
「映画の帰りだって普通のレストラン行ったり、ファストフード行ったりしてるじゃない」
「だからこそちょっと思ったんですよ。毎回簡素なとこばっかりだなって」
「簡素ってねえ。別にそんなのただの好みだし。あなたもし付き合ったら、ホントに毎回そういうとこに行かなきゃダメなんじゃないかとか思ってる?」
「毎回とまでは言いませんけど、やっぱりデートならそれなりのことに行くべきかなって」
「今までどんな人と付き合ってたか知らないけどね。スーパーでバイトしてる人にそこまで期待しないわよ」
「そう言われるとちょっと自分が情けなく感じます」
「やめてよ。それじゃ同じとこで働いてる私まで情けないって言ってるみたいじゃない」
「いやそうじゃなくて。俺が勝手にデートにそういうイメージがあるだけで。あとデートとかしたことないです」
「私が初めて?」
「言っときますけど、冗談じゃなくて事実ですからね」
「その割には結構臆せず誘ってくるじゃない」
「自分でもびっくりですよ。っていうか好きな人が出来ること自体も驚きでしたから」
「じゃあ私が初恋?」
「うーん、好きだった子はいましたね」
「あら、つまんない」
「映画の中のヒロインですけど」
「私も初恋はそうだったわ。映画の主人公ってかっこよすぎよね」
「ホントに」
 食事を終えると、デザートを食べるかどうかに話題が移る。
「食後のデザートって食べますか?」
「物足りなかったら食べるけど、基本はあんまり食べないわ」
「俺もそれよりビールですかね」
「言えてる。私もそっちの方が多いわ。家には常備してあるし」
「今度家に行ってもいいですか」
「今度ね」
「はい、今度」
 言葉にしない思惑を瞳に宿し、互いにそれに気づきながらも触れはしない。今は静かに微笑むだけで十分だ。
「カズミさん、俺と付き合ってください」
「また今度ね」
 今日はさわやかにかわされた。
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