上 下
4 / 10

4話 映画館で告白

しおりを挟む
 結局観に行ったのは、ジャンルごちゃまぜの映画だった。席に着くと、彼女はじっくりとパンフレットを読みこんでいる。これは邪魔しない方がいいのだろうか。少し考えて、結局声をかけた。
「カズミさん、何か買ってきますが何がいいですか」
「あ、一緒に行きたい」
「え?」
 まさかの返答に言葉に詰まる。なんとなく、どうぞと言われるか、何かオーダーされるかと思っていたのに。
「ひとりの方がよかった?」
「いえ全然」
「じゃ一緒に行っていい?」
「よ、喜んで」
 情けないことにどもってしまう。彼女が微笑んだことで、思考も一瞬止まってしまう。
「平坂くんって、映画鑑賞中にポップコーンとか食べる人?」
「俺はあんまり食べないですね。映画に集中しちゃう方なんで」
 不意に彼女の満面の笑みが向けられる。本日三度目の不意打ちだ。
「私もそっち。みんな何で映画中に食べられるのかわからない」
「俺も食べててもつい手が止まっちゃって」
「そうそう、私も」
「飲み物はどうします?」
「私は大丈夫。さっきペットボトルの買っちゃったし」
「え、なら俺も平気なんですけど」
「いや、買いたいなら買っていいよ?」
「いや、俺もさっき買ったのあるし」
 二人で顔を見合わせる。
「じゃあ、戻ろっか」
「はい」
「ごめんね。気を遣わせちゃったみたいで」
「いえこちらこそ。俺に合わせてくれたんですよね」
「いや、一緒に並びたかっただけ」
 この人はどういうつもりでそういうことを言うのだろうか。
「それはつまり?」
「なに?」
「一緒に並びたかった、というのは」
「そのままの意味だけど」
 ここはからかうか、黙っているのが得策か。あーもう。
「あーじゃあそれはつまり、俺と片時も離れたくなかった、ということですかね」
 さあ彼女の返答はどうだろう。何か突っ込んでもらえるか、あっさり流されそうな気もするが。
「まあ折角の最初のデートだからね。なるべくなら一緒にいたいかな」
 おおっと、これは。
「カズミさん、なぜそこまでのこと言ってくれるのに、付き合ってくれないんですか」
「その話はあとにして。映画始まっちゃう」
「まだ始まりませんよ」
「わかってるわよ」



「面白かった」
「ですね」
「ごちゃごちゃし過ぎてつまらないかもとか思ってたけど、意外と楽しめた」
「俺もです」
「平坂くんが最後まで映画観るタイプで良かった」
「ああ、エンドロールを最後までってことですか? 最近の映画ってそのあとにおまけがあったりしますもんね」
「ホントにそう。最後まで観ないタイプの人ってもったいないわよね」
「ですね」
「映画館デートってそういうことにも気づけるわよね。相手がせっかちかどうかとか」
「確かに」
 俺は第一段階クリア、と思っていいのだろうか。
「映画館での映画久しぶり」
「どれくらいぶりですか?」
「ここ数年は見てなかったな。全部レンタルとかだった」
「俺は結構観に行ってましたね。二、三ヵ月前にもいったし」
「誰と?」
「あ、俺ひとりで行っちゃうんですよ」
「そうなんだ。私はまだ一人ではみたことないな。だいたい友達か家族と一緒だったし、好きな人と映画デートなんてホント久しぶり」
 今回は無言を貫く。なんでこの人はこう、ちょいちょい男心をくすぐる発言をするんだろう。またしても不意を突かれて悶え始める。ここはもうちょっと攻めてやる。身体ごと彼女の方を向き、思い切って聞いてみる。
「カズミさん、俺のこと好きなんですよね?」
「……うん」
 俺を見て頷いた彼女は、わずかに照れた仕草をする。薄暗い館内でなければ染まった頬も見えたかもしれない。
「俺もカズミさんのこと好きです」
「うん」
「俺と付き合ってください」
「まだ無理かな」
 まだってなんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

処理中です...