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4話 映画館で告白
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結局観に行ったのは、ジャンルごちゃまぜの映画だった。席に着くと、彼女はじっくりとパンフレットを読みこんでいる。これは邪魔しない方がいいのだろうか。少し考えて、結局声をかけた。
「カズミさん、何か買ってきますが何がいいですか」
「あ、一緒に行きたい」
「え?」
まさかの返答に言葉に詰まる。なんとなく、どうぞと言われるか、何かオーダーされるかと思っていたのに。
「ひとりの方がよかった?」
「いえ全然」
「じゃ一緒に行っていい?」
「よ、喜んで」
情けないことにどもってしまう。彼女が微笑んだことで、思考も一瞬止まってしまう。
「平坂くんって、映画鑑賞中にポップコーンとか食べる人?」
「俺はあんまり食べないですね。映画に集中しちゃう方なんで」
不意に彼女の満面の笑みが向けられる。本日三度目の不意打ちだ。
「私もそっち。みんな何で映画中に食べられるのかわからない」
「俺も食べててもつい手が止まっちゃって」
「そうそう、私も」
「飲み物はどうします?」
「私は大丈夫。さっきペットボトルの買っちゃったし」
「え、なら俺も平気なんですけど」
「いや、買いたいなら買っていいよ?」
「いや、俺もさっき買ったのあるし」
二人で顔を見合わせる。
「じゃあ、戻ろっか」
「はい」
「ごめんね。気を遣わせちゃったみたいで」
「いえこちらこそ。俺に合わせてくれたんですよね」
「いや、一緒に並びたかっただけ」
この人はどういうつもりでそういうことを言うのだろうか。
「それはつまり?」
「なに?」
「一緒に並びたかった、というのは」
「そのままの意味だけど」
ここはからかうか、黙っているのが得策か。あーもう。
「あーじゃあそれはつまり、俺と片時も離れたくなかった、ということですかね」
さあ彼女の返答はどうだろう。何か突っ込んでもらえるか、あっさり流されそうな気もするが。
「まあ折角の最初のデートだからね。なるべくなら一緒にいたいかな」
おおっと、これは。
「カズミさん、なぜそこまでのこと言ってくれるのに、付き合ってくれないんですか」
「その話はあとにして。映画始まっちゃう」
「まだ始まりませんよ」
「わかってるわよ」
「面白かった」
「ですね」
「ごちゃごちゃし過ぎてつまらないかもとか思ってたけど、意外と楽しめた」
「俺もです」
「平坂くんが最後まで映画観るタイプで良かった」
「ああ、エンドロールを最後までってことですか? 最近の映画ってそのあとにおまけがあったりしますもんね」
「ホントにそう。最後まで観ないタイプの人ってもったいないわよね」
「ですね」
「映画館デートってそういうことにも気づけるわよね。相手がせっかちかどうかとか」
「確かに」
俺は第一段階クリア、と思っていいのだろうか。
「映画館での映画久しぶり」
「どれくらいぶりですか?」
「ここ数年は見てなかったな。全部レンタルとかだった」
「俺は結構観に行ってましたね。二、三ヵ月前にもいったし」
「誰と?」
「あ、俺ひとりで行っちゃうんですよ」
「そうなんだ。私はまだ一人ではみたことないな。だいたい友達か家族と一緒だったし、好きな人と映画デートなんてホント久しぶり」
今回は無言を貫く。なんでこの人はこう、ちょいちょい男心をくすぐる発言をするんだろう。またしても不意を突かれて悶え始める。ここはもうちょっと攻めてやる。身体ごと彼女の方を向き、思い切って聞いてみる。
「カズミさん、俺のこと好きなんですよね?」
「……うん」
俺を見て頷いた彼女は、わずかに照れた仕草をする。薄暗い館内でなければ染まった頬も見えたかもしれない。
「俺もカズミさんのこと好きです」
「うん」
「俺と付き合ってください」
「まだ無理かな」
まだってなんだ。
「カズミさん、何か買ってきますが何がいいですか」
「あ、一緒に行きたい」
「え?」
まさかの返答に言葉に詰まる。なんとなく、どうぞと言われるか、何かオーダーされるかと思っていたのに。
「ひとりの方がよかった?」
「いえ全然」
「じゃ一緒に行っていい?」
「よ、喜んで」
情けないことにどもってしまう。彼女が微笑んだことで、思考も一瞬止まってしまう。
「平坂くんって、映画鑑賞中にポップコーンとか食べる人?」
「俺はあんまり食べないですね。映画に集中しちゃう方なんで」
不意に彼女の満面の笑みが向けられる。本日三度目の不意打ちだ。
「私もそっち。みんな何で映画中に食べられるのかわからない」
「俺も食べててもつい手が止まっちゃって」
「そうそう、私も」
「飲み物はどうします?」
「私は大丈夫。さっきペットボトルの買っちゃったし」
「え、なら俺も平気なんですけど」
「いや、買いたいなら買っていいよ?」
「いや、俺もさっき買ったのあるし」
二人で顔を見合わせる。
「じゃあ、戻ろっか」
「はい」
「ごめんね。気を遣わせちゃったみたいで」
「いえこちらこそ。俺に合わせてくれたんですよね」
「いや、一緒に並びたかっただけ」
この人はどういうつもりでそういうことを言うのだろうか。
「それはつまり?」
「なに?」
「一緒に並びたかった、というのは」
「そのままの意味だけど」
ここはからかうか、黙っているのが得策か。あーもう。
「あーじゃあそれはつまり、俺と片時も離れたくなかった、ということですかね」
さあ彼女の返答はどうだろう。何か突っ込んでもらえるか、あっさり流されそうな気もするが。
「まあ折角の最初のデートだからね。なるべくなら一緒にいたいかな」
おおっと、これは。
「カズミさん、なぜそこまでのこと言ってくれるのに、付き合ってくれないんですか」
「その話はあとにして。映画始まっちゃう」
「まだ始まりませんよ」
「わかってるわよ」
「面白かった」
「ですね」
「ごちゃごちゃし過ぎてつまらないかもとか思ってたけど、意外と楽しめた」
「俺もです」
「平坂くんが最後まで映画観るタイプで良かった」
「ああ、エンドロールを最後までってことですか? 最近の映画ってそのあとにおまけがあったりしますもんね」
「ホントにそう。最後まで観ないタイプの人ってもったいないわよね」
「ですね」
「映画館デートってそういうことにも気づけるわよね。相手がせっかちかどうかとか」
「確かに」
俺は第一段階クリア、と思っていいのだろうか。
「映画館での映画久しぶり」
「どれくらいぶりですか?」
「ここ数年は見てなかったな。全部レンタルとかだった」
「俺は結構観に行ってましたね。二、三ヵ月前にもいったし」
「誰と?」
「あ、俺ひとりで行っちゃうんですよ」
「そうなんだ。私はまだ一人ではみたことないな。だいたい友達か家族と一緒だったし、好きな人と映画デートなんてホント久しぶり」
今回は無言を貫く。なんでこの人はこう、ちょいちょい男心をくすぐる発言をするんだろう。またしても不意を突かれて悶え始める。ここはもうちょっと攻めてやる。身体ごと彼女の方を向き、思い切って聞いてみる。
「カズミさん、俺のこと好きなんですよね?」
「……うん」
俺を見て頷いた彼女は、わずかに照れた仕草をする。薄暗い館内でなければ染まった頬も見えたかもしれない。
「俺もカズミさんのこと好きです」
「うん」
「俺と付き合ってください」
「まだ無理かな」
まだってなんだ。
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