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XV 銀行強盗①

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「お前ら何をこそこそ話している!」
強盗の怒号が銀行内に響き渡る。それを聞いて幽子が笑いながら振り向く。
「あーいや?強盗怖いなーって話してただけでーす…。」
「ちっ、緊張感ないのかてめぇら…!」
一人の強盗が舌打ちをした。奥では他二人の強盗が銀行の職員数人に指示を出していた。どうやら金を出させようとしているようだ。
「んー、にしてもどうするかねェ…。」
幽子が強盗を見つめていると、強盗達の黒い服に何かロゴが描かれているのに気づく。
「…ライオン?」
その服には白いライオンの顔が描かれていた。鋭い牙をこちらに向け、今にも唸り声を上げそうな雰囲気を出していた。
(ねぇ、一華ちゃん。これどうしよう…私の魔法じゃ脱出もできないよ…センちゃんも今日は置いてきちゃったし。)
それまでただ強盗達を見つめていた一華が空の方を見て囁く。
(…こんなところで聞くのもなんですけど…あなたの魔法、なんていうんです?)
(え、『エンゲージ』…仲良くなった人の魔法を使える魔法なの。)
(……そう。)
一華はそれだけ言って空から顔を逸らす。
「…?」
「お前ら妙な動きはするなよ。俺たちは金を奪った。警察を呼ぶ隙も与えなかったんだ、後は安全に帰るだけで…。」
すると、銀行の外からサイレンのような音が鳴り響く。強盗が外を見ると、数台のパトカーによって銀行が包囲されていた。
「何!?」
「君たちは包囲されている!今すぐ投降するんだ!」
「なんだ!?誰がいつの間に通報した!」
サイレンの音を聞き、人質がざわつく。
「警察だ…!」「やった、コレで助かる!」
3人ほどいる強盗の一人が人質に銃を向ける。
「うるせぇ!!撃たれたくなかったら静かにしてろ…!」
ガァンッ!
「ひぃ!」
そこまで叫んでから、強盗の一人が天井にハンドガンを向けて発砲する。先ほどまで一言も喋らずに受付のテーブルに腰を下ろしていた人物だ。覆面から見える目は氷のように冷たい視線を放っていた。
「お前が静かにしろ。警察サツがきたところで、俺たちが捕まると決まったわけじゃねえだろ。それともお前はあんな犬ッコロ共に俺たちが捕まるとでも言いたいのか?」
「そ、そういうわけじゃねえけどよ…っ!」
(あの男…すごく冷静に状況を見てる。アイツがリーダーと見て間違いはなさそうですね…。幽子、あの人は特に警戒して…ん?)
一華が幽子に耳打ちしようとしたが、先ほどまでそこにいた幽子はどこにもいなかった。縄だけが地面に落ちており、本人の姿はどこにもなかった。
「…幽子?」
一華の声を聞き、先ほどリーダーらしき男に諭された男が振り向く。
「何!?おいお前ら!そこにいた女はどこにいた!確実に動けないように縛ったはずだろう!!」
男が銃を向けて一華に叫ぶ。
「そ、そんなこと私たちに聞かれても…!」
一華がそこまで言うと、銀行の奥にあるトイレの扉が開く。
「な…っ!?」
「ごめんごめん、ちょっとトイレ行きたくてさ!席外してたんだけど~…あれ、警察きたの?」
先ほどまで半狂乱気味だった男が、幽子に銃口を向ける。
「て、てめぇ!!どうやって縄を抜けた!?かなりキツく縛ったはずだぞ!!」
幽子は男に銃口を向けられて両手を上げる。
「わーっと!ごめんごめん!トイレ行きたかったけど我慢できなくてさー、つい抜けちゃった。」
「は、はぁ…!?」
男が困惑していると、先ほどまで受付のテーブルに座ったまま動かなかった男が立ち上がる。
「お前…あまり妙なことをするなよ。」
「いやいや、ボク縄抜けを一時期趣味で特訓してたせいでさー、こうやってたまーにクセで縄抜けしちゃうんだよね。(もちろん嘘だけど…)」
「ふん…。」
幽子がチラリと人質たちを見る。怯えてはいるが、強盗含めて全員が幽子を見つめていた。
(よし、目立つ行動をして視線を集めるのは成功。あとはどうにかコイツらをとっ捕まえて……。)
幽子がそんなことを考えていると、再び銀行内に銃声が響き渡った。
「……っ!」
幽子が自身のズボンのポケットを見る。ズボンのポケットに穴が開き、その中にあったスマートフォンに大きな穴が空いていた。
「くだらん。貴様がこっそり抜け出して警察を呼んだんだろう。無駄なことをするな。」
「はっ、なんのこと?ボクは何も…。」
男がハンドガンの向きを変え、もう一度発砲した。
「う…がぁっ!」
撃たれたのは一華だった。左脇腹に穴が空き、ソコから血が溢れ出す。
「一華ちゃん!!」「一華!!」
幽子が発砲した男を睨みつける。
「おい!なんで一華を撃った!?動いたのは私なんだぞ、狙うなら私を…っ!!」
「ソコの雑魚を騙すならそれでいいだろう。しかし俺を騙そうとするにはちょいと演技がお粗末なんじゃないか?」
男は銃を向けたまま幽子に迫る。
「………っ。」
幽子はこれ以上は危険だと手を上げる。
「お前が何をしたか知らんが、人間なら納得だな。」
「…同じ?」
幽子の質問するとほぼ同時に、男の体に異変が起きる。銃を持った右腕に何か模様のようなものが現れ始め、それは銃を巻き込んで手首まで広がった。目を凝らしてみると、それはジグソーパズルのような模様だった。
「な…っ!?」
男の右手首から先が模様の形にばらける。それは空中を浮遊して幽子に迫り、幽子の顔の右側で再び集まって手の形になった。幽子の右こめかみに銃を押し付けて空中で静止した。よく見てみると分離した部分は同じくジグソーパズルのような凹凸おうとつがあった。
「これは…魔法!?」
「お前がどんな能力を持っているかは知らんが…。」
次は左手に模様が現れ、肩まで伸びて分離した。男が着ている服やグローブを巻き込んでパズルとなり、分離して幽子の首を掴む。
「ぐ…っ!」
「これなら近づかずに始末できる。わざわざ縄から脱出したということは自対象のみか触れたり、近距離でないと発動できない魔法なのだろう?」
(こ…こいつ!ボクの魔法を警戒して近づかないのか…完全に距離の取り方が素人じゃない!!)
「さぁ、言え。お前のその力はなんだ?どんな能力だ、言ってみろ!ソコのぶち抜いたガキを止血するのもそれからだ。それまではそのまま出血で苦しんでいてもらおう。」
男は冷静に距離を保ちながら銃を幽子に押し付ける。
(このままじゃ全員殺される…。)
「ボ、ボクの魔法は…。」
男がじっと幽子を見つめる。幽子は男の目を見て唾を飲み込む。
「…さぁ?なんだろうね?」
「……。」
幽子がニコリと微笑む。
「ボクの魔法くらい自力で当ててみなよ、おじさん。」
「ふん、無駄なことを…良いだろう、死ね!」
男が銃をこめかみに押しつけて引き金を引く。
「幽子ちゃんっ!!」
空がそう叫ぶと同時に銃が放たれ、幽子の頭部を貫通した。
「……ッ!?」
しかし、弾丸は幽子に当たらず、銀行の壁まで飛んでいった。たしかに幽子の頭部は貫いたのだが、幽子の頭部を無傷で通過して行ったのだ。さらに首を掴んでいた左腕は離していないはずなのに首から外れていた。
「なん…っ!?」
幽子が猛ダッシュで男に迫る。近くに迫ってからよく観察すると、幽子は全ての人からに見えていた。
「ちいっ!」
幽子の体が半透明から戻った瞬間、男の腹に蹴りをいれた。男は蹴りを喰らった瞬間体をパズルにしてばらけさせ、先ほどより後方へバックステップで移動する。
「手応えがないなぁ…それ。」
「お、お前動くんじゃねえ!」
もう一人の男が銃を向ける。しかし幽子は男の警告を無視して走って接近する。
「てめぇぇっ!」
男が3発発砲するが、再び幽子の体が半透明になると、弾丸は幽子の体を通過して背後の壁に当たる。
「くそ…っ!」
男がもう一度銃を発砲しようとするが、幽子は男に接近して顎を横から殴りつけた。
「ぐぁ…っ!?」
男は脳が揺さぶられ足元をふらつかせる。幽子はその隙を見て男から銃を奪い取る。
「やりぃ!ボクにかかればこんなもんだよ!」
幽子は銃を男に向ける。銃を奪われた男は手をあげていたが、パズルの男はその場でじっとしていた。
「動くな。」
男は右腕を戻して幽子にそう言った。
「ボクは銃を奪った、形勢逆転だよ。動くなってのはキミの方だよおじさん!」
幽子はパズルの男に銃を向け直す。もはや銃を奪われた男の方は警戒するに値しないようだ。
「…ゆ、幽子ちゃん…っ。」
空の声が聞こえ、幽子が空の方を見る。先程の銃を左手に持ち変え、空に突きつけられていた。
「お前…ッ!」
左手は手首より前は体に戻っていた。男はまっすぐ幽子を睨みつける。
「お前が抵抗すればこのガキを殺す。ま、大人しくしとけば殺しはしないさ。仲間が迎えにするまで俺はココで待ってるだけで良いんだからな。」
「…でも!お前は銃を空ちゃんに突きつけてる!私は銃を持ってて今のお前は丸腰だろ!?」
男が上着のポケットから何かを取り出す。それは黒いジグソーパズルのピースだった。
「……?」
すると、同じポケットからパズルのピースが何個も飛び出し、男の右手の中でハンドガンとなり幽子に銃口が向けられた。
「で?誰が丸腰だって?」
(なるほどね、そんな応用方法もあると…使い勝手が良すぎない?ソレ。)
男は空と幽子の二人に銃口を向けながら立ち上がる。
「お前のその魔法とやら…半透明になる、というよりは…幽霊のような状態になる魔法だな?実に面白いが…弱点がわかりやすいな。どうやら、その幽霊化を解かないとようだな。」
「………。」
「できるなら半透明のまま俺に蹴りを入れたりアイツを殴りつければ良いし、わざわざ銃を手に入れたのにお前は半透明にならずに銃を構えてる。俺の考では『幽霊になってる間は手に物が持てない』かつ『物理的攻撃が効かない分、自分も物理的に攻撃ができない』と言ったところ、か。」
「へぇ、おじさん観察眼すごいね~。ボクびっくりしちゃったよ…。」
幽子は銃口を向けたまま冷や汗をかく。
(嘘ォ~…このおじさんボクの魔法の欠点デメリット全部見抜いてるんだけど…厄介だなぁ、なんでそんな一発で分かるの?)
「さぁ、そのまま抵抗せずじっとしててもらおうか…。」
男が銃口を向けたまま時計をチラリと見た。
「仲間が迎えにくるまでにもう時間がない、さっさとお前を拘束して…。」
ソコまで言って、男の声は大きな音によってかき消された。
「……なんだ、今のは?」
何かがような音が再び銀行内に響く。
「幽子…っ!」
すると、一華が体を震わせながら起き上がっていた。
「アンタのせいでなんで私が撃たれなくっちゃあならないのよ…ふざけてんじゃないよ…っ!!」
出血したまま、一華が体を動かす。その度に物が千切れる音が聞こえてきた。
「ま、まさか…っ!!」
「おかげで出血けどね!」
一華が力一杯腕を広げ、縄をちぎって拘束を解いた。よく見てみると一華の髪の先が、微かに赤く染まっていた。
「まさか貴様…!!」
男がそう言った瞬間、一華は男の目の前に接近していた。その目には怒りの感情がこもっていた。
「は…速いッ!」
「オラァッ!」
一華が拳を振り下ろすと、男は体をパズルにしてばらけさせて回避した。一華の拳が殴りつけた壁にめり込み、大きくヒビを入れた。
「ひぃっ!!」
人質の何人かが驚いた声を漏らす。一華は男のピースが集まりきって再び形になるところを見つめていた。
「ち…っ!」
「貴様までその力を持っているとはな…なるほど、お前らあの財閥のところのガキか?」
「ご名答!ボクたちは財閥の魔法少女!アンタが同じ魔法持ちなら私たちも躊躇いなく魔法を使えるってもんよ!」
「幽子。撃たれて痛かった。後でしばく。」
「嫌でーす。」
男は空に向けていた腕を即座に戻して二人に銃を構える。一華は傷口を手で押さえながら拳を構え、幽子は銃を構えている。
「形勢逆転って言ったでしょ?」
「良いだろう。お前たちが確かな実力を持った戦士であることは理解した。そのことに関しては経緯を評してやろう。しかし俺はここから逃げないといけないんでな、多少強引な方法を取らせてもらおう。」
男がチラリと銀行の奥を見る。すると、他の強盗二人が戻ってきていた。
「な…おい!なんでガキが二人脱出してるんだ!?それになんで銃を…っ!」
「黙ってこっちに来い。」
男が右腕をパズルで分離させて、戻ってきた強盗一人を引っ張ってきた。
「おい!余計なことをするな!」
幽子が引き金に指をかけて構えるが、男はまるで気に求めず引っ張った男を見つめていた。
「お前らはあくまで俺たち『放浪獅子ノマド』の下っ端だ、こんな時くらい役に立て。」
「は…?」
すると、その掴まれた男の皮膚にパズルの模様が現れ始め、外れたピースのところから血が噴き出し始めた。男が自ら分離した時と違い、皮膚が裂け千切れる音が周りに聞こえていた。
「な……っ!」
「ほれよ。」
男が引っ張ったその男を幽子たちの方に突き飛ばす。すると、男の皮膚がジグソーパズルのピースとなってバラバラになり、血を幽子たちの方に向かって勢いよく噴き出した。
「!?」
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