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新たなる世界

スペースポート前にて

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しばらくは新たな襲撃も警戒していたが、襲撃されるより前に鉄道会社が手配したバス…と言う名のホバーシップと、救急車に相当するであろうホバーシップが次々に現れ、わたしたちは御徒町駅まで移送してもらえる事になった。
世界観に合わせてなのか、ホバーシップは見た目も移動する様も完全にSFだった。座席に座り込み窓の外を眺めたが正に飛ぶように景色が変わり、程なくして車外の風景は茶けた岩山から未来的なビル群が並ぶ街へと変貌を遂げた。
「なんか秋葉…黄泉葉原とも違うのね」
御徒町駅前の道路で降ろされたわたしはマイナに感想を言う。
その道路もわたしのおぼろげな記憶の中にある、大して広くもない片側二車線の車道とかではなく、タイヤなしのホバーシップが五、六車線くらいは横に広がって走ることが出来るほど広い。
街並みも高いビルがメインで、元の御徒町の低層街とは明らかに趣が異なる。
「宙港都市ですからね、ここ。都会ですよ」
「と言うことは御徒町駅は駅というより宇宙港」
「ですね。これほどSF感溢れる景色なのに、漢字で【御徒町駅】って結構なアレですよね」
マイナが指差した先にはオカチマチ・スペースポートのターミナルビルらしい巨大な建物があり…
確かに漢字で【御徒町駅】と表記されたプレートがデカデカと掲げられていた。
「怪しいハリウッド映画みたいだな」
「…出入りする人はみんな、メガネにカメラで背が低いイメージなんです?」
「まーステレオタイプてのはあるからなあ」
「で、結局どうするの?」
茶長低無が降りてきてから、そーいやそうだった、ととりあえずの方向指針を失っていた事を思い出した。
「マイナは上野へ行きたいんでしょ?」
「まあ一応」
「山手線はしばらくは無理そうよ。脱線した車両どけたり、線路自体も補修点検、でしょうし」
茶長低無が何故かその辺を細かく鉄道職員に聞いていた。鉄ちゃんなのか?
「すると…鉄道復旧までは御徒町に滞在する?どうせ秋葉原にも素直に帰れそうにもないし」
「まあ…でしょうね。なんだかんだ六時間で移動できる山手線が最強だし」
「お金はありますからしばらくはそれでもいいですかね。ホテル連泊にするか、いっそ部屋でも借りるか…」
マイナが逡巡する横で、わたしは通りに居並ぶ建物の看板を眺めていた。
本来の御徒町駅周辺なら食べ物屋が多かった印象もあるが、この同名の異世界宙港都市はかなりな近未来感のあるビルディングが建ち並び、風景としては大分無機質な感じだった。食い物屋とかがありそうには一見見えない。
「…とはいえとりあえずはホテル宿泊で様子見でしょうね。スペースポートビル内のホテル見に行きますか」
マイナの言葉に頷き、わたしたちはスペースポートターミナルビルの方へ歩き出す…
そこへ。
車道を走っていたホバーシップのうちの一台が急停止し、ドアが開いて数人が勢いよく飛び出し、わたしたち目掛けて突進して来た。見覚えのある挙動。先程の襲撃者…ロボどもだと思えた。
数は六。対象の倍の数を揃えたあたり、学習の跡が見える。だが…
近接の間合いに入る前に、茶長低無の手斧が、四体の頭部箇所を破壊。
わたしとマイナの剣がそれぞれ一体を三つに斬りおろしたことで呆気なく戦闘は終わる。
襲撃ロボを吐き出したホバーシップはまだ道路に停止している。抑えたいところだが…と考えているとひとり接近戦から除外されていた茶長低無が同じことに気付き、ホバーシップに向かって駆け出していた。
足を止める意味でか、再び手斧を出現させ、ホバーシップに向かい、斧を二つ放つ。
タイヤが無いからどこ狙うべきか分からんが、大丈夫なんだろうか…エンジン直撃で爆発とかしねーだろーな…
だがその心配は悪い意味で杞憂に終わる。
ホバーシップ内からさらにもうひとり、悠然と降り立ったそいつは、茶長低無の手斧二つを剣先を振るうと軽く絡め取り、手斧はホバーシップを傷つけることなく地に落ちた。
現れた姿は他のロボとは明らかに異なり、二メートルを越すであろう偉丈夫であった。ゆったりとした着物のような服装に、複雑な意匠を施された胸当て。
手にある剣はわたしたちのものと同質と思えた。ペイジかエースか、あるいは完全一致でキングかクイーンもあり得るのか…
切れ長の眼差し、黒い長髪。美形の部類に入るであろう。見た目は二十代から三十代、肉体的にも筋骨隆々、出来上がった感があり、見るからに強そうだ。口数が少ないのもペイルガン一派の十把一絡げとは明らかに異なる。
「…手配書通り、見た目はガキの女が三人。だが、実力は折り紙つきか。」
左手に持った紙切れと見比べながら、男は低く静かに語る。
まずいな…このシリアス感。
巨赤龍以来久しく感じなかったマジなやつだ。ヒリヒリとした、命のやり取りが目の前にある。
「剣の錆にしてやる、治安維持部隊が来る前にな!」
男は一番手近な茶長低無目掛け、襲い掛かった。
「キミねぇ…笑わせる、タダの剣使い風情が!」
聞き捨てならない単語を発しながら、茶長低無がカードを繰り出す。
その手にあるのは見覚えの無い絵札。
「はじめようか、<女教皇>!」
え?そんなの持ってたの?
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