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穴蔵の底へ

王と女王と四

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「本物…だよね。まあ、さっきの連中もある意味では本物なんだろうけど」
わたしはキングオブソーズは出さないまでも、警戒しながらマイナを迎える。
「流石ですね。闘争本能だけであれらと戦い、何かを知り得ましたか」
マイナの声音は悲しげだった。
「サンラプンラが言っていた墓守り、ってのは本当だった訳だ。マイナはそこの四人と同じような、王墓の守護者だった、って事だよね」
「まあ、行きがかり上」
マイナの歩が止まる。
わたしたちとある程度の距離を保ち。
剣の間合いではない。魔術か、弓矢か…
少なくとも向こうに先手を許さざるを得ない間合い。
「と言うことは、やるしかないって感じかな…」
「お望みですか?」
マイナが、絞り出すように低い声で応じる。
「バックアップ期待で戦う戦場として整備してありましたが、別にそれが無いからと言って、不利になる訳じゃ無いんですよ…?」
マイナの手元には、剣持つ女王のカードが見えた。
瞬時にそれが剣に変わる。
クイーンオブソーズ。わたしのキングオブソーズに比肩しうる剣のカード。
そして音も無く、一瞬で詰まる間合い。
マジか。マイナにとってはあの間合いでさえ剣撃の間合いなのか。
キングオブソーズ出現による刀身での受けはギリギリ間に合い、マイナを力の限り弾き飛ばし、間合いを整える。
全身から冷や汗が吹き出る。
目の前にいるのは見慣れた家事万能のアキバ好きの内気な少女ではない。
控えめに言っても死神そのものだ。
軽いマイナの体を弾き飛ばしたは良いが、マイナは宙返りで華麗に着地、床を蹴ると再び高速で間合いを詰める。
突きを往なし、カウンターで切り払おうとするわたしの剣に反応し、刃先をギリギリで躱して再び宙返り、後方へ飛び、距離を取られる。
どこまで距離を離せばマイナの間合いから外れるのかさえ分からない…
そのわたしの背後から、手斧が飛んだ。
マイナはだがそれをいともあっさりと弾き、手斧は宙を虚しく舞った後、マイナの手桶に収まる。
そう。マイナはあれほどの剣戟を繰り広げていながら、左手の手桶は手放さず、右手のクイーンオブソーズのみで戦っているのだ。
「軽く往なすじゃない!気に入らない!」
茶長低無がなぜか猛然と手斧の連続投擲を始めた。
「…あなたですか」
マイナは冷めた目で茶長低無を見、
ゆっくりと歩きながら、クイーンオブソーズで手斧ひとつひとつを正確に叩き落とし、
「ただのプラモ作りの好敵手でありさえしてくれれば良かったものを」
「…無駄っぽいか。まあそうでしょうね!」
茶長低無の空いた右手に握られたカード。剣のカード。数字が見えた。
剣へ変えそれを振りかざし、マイナへ突進する茶長低無。
無茶だ。
だが、茶長低無の「つもり」も即座にわたしは理解した。
マイナが茶長低無の動きに合わせ、体をそちらへ向ける…
わたしの脚…黒靴が踵を鳴らす。
猛然と駆け、わたしはマイナの背後へぐるりと回り込む。
茶長低無の剣とわたしのキングオブソーズ。
ふたつがマイナという中心点に、同時に殺到した…!
だが。
そこにあったのはマイナではなく。
左手にあった手桶。手桶は前後からわたしたちの剣で串刺しになったまま。
マイナの姿を探す。
だが。
わたしの視界に入ったのは。
背後からクイーンオブソーズで貫かれ、赤く塗れた剣先を胸元から見せる茶長低無の、信じられないといった表情だった。
頭に血が上った。
いや、血の気が引いたのか?
とにかく、意識が白んだ。思考らしい思考は無かった、と言える。
だがわたしは空いた左の籠手でクイーンオブソーズの刃先を掴み、強く引き寄せ、体勢を崩したマイナの剣持つ手を、キングオブソーズを手放した右手で強烈に叩き付け、剣から手を離させた。
クイーンオブソーズを背から胸に突き立てられながら、茶長低無が倒れる。
そしてマイナも苦痛に顔を歪めながら、床に崩れ落ちた。
「か…勝った、わね…」
「喋るな!待て…何かこういう時に!」
わたし自身左手の出血が続いていたが、
それどころではない。
プレボは…忘れがちだがまだ開幕十連で確か、七つくらい見てないアイテムが!
「いや、大丈夫だから…」
そう言い放った茶長低無の声のトーンは既にいつもの感じであった。
「え?」
クイーンオブソーズが床に転がっている。
刀身にへばりついた血こそ生々しいが、
茶長低無自身の貧相な胸部には傷口が見当たらない。
「…このフォーオブソーズは剣札としては雑魚だけど、身代わりでダメージを肩代わりする…って。猊下から頂いてたのよ…」
茶長低無の手にあった剣は、一枚のカードに戻ると、直後に炭化して崩れ去った。
「ああいうギリギリになるだろうと思ったからね」
息を深く吐く茶長低無。
「痛ゥ…なかなか、やりますね…わたしも手段を選んでられない状況でしたけど、あーやっちゃったなー、まあ剣傷くらいなら死ぬ前に蘇生させればいーかなーとか思ってましたけど」
マイナはマイナでそう言いながら、右手を左手で摩っている。摩る左手は薄く輝きを放ち、青白かったマイナの顔色に血色が戻った。
「…数秒耐えてくれれば傷口塞ぐくらいは出来ますからね」
殺し合う同士で生き残りの手段を確保しながら戦ってたのか…
「お前ら人悪過ぎじゃねーの…心配して損したわ」
わたしは顔を二人に見せないように背を向け、毒づく。
「一時的なものとはいえ仲間を殺されたのに、その相手を殺さず、怪我させて戦闘不能に追い込んだだけのひとに言われたくないですね」
「まったくだわキミ」
なんで茶長低無とマイナが同意してんだか…ちょい前まで本気で殺し合ってたろうに。
わたしは慌てて目を擦り、二人に向き直った。
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