10 / 142
Sortie-01:黒翼の舞う空
第三章:楽園‐シャングリラ‐/02
しおりを挟む
付いて来いと言われたところで、しかし霧子の移動距離は僅か五メートルにも満たない程のごく短い距離だった。
「ん」
彼女が指差す先にあるのは、保健室の隅にある床。どこにでもあるような安っぽい板張りの床だ。
一体どういうことなのかと翔一が首を傾げていると、すると霧子はスッとその場にしゃがみ込み。たった今指差していた辺りの床にそっと手を触れると……おもむろに床板を引っ剥がしてしまう。
遂に霧子が乱心したのかと思い、翔一は一瞬焦ったが……しかし彼女は決して床板を力任せに引き剥がしたワケではなく。何故か油圧ダンパー仕掛けで跳ね上がった床板、まるで車のボンネットのように跳ね上がった床の向こう側にあったのは――――薄暗い地下空間へと続く階段だったのだ。
「霧子さん、これは……?」
「隠し通路」ニヤリとして霧子が言う。「まるで忍者屋敷みたいだろう?」
そう、今まさに霧子が跳ね上げた床板は出入り口のハッチであり、巧妙に擬装された地下通路への入り口でもあったのだ。
――――地下通路。
これを見てしまっては、そう表現する他にないだろう。薄暗かった階段の向こう側は、ハッチが開いたのに連動して淡い暖色の明かりが灯り始めていて。開いた瞬間こそ真っ暗で先が見通せなかったが……しかし今では、うっすらと奥が窺い知れるぐらいの明るさはある。何処までも続いていくような、冷たいコンクリート打ちっ放しの壁が延々と続く、地下への道が翔一の前に現れたのだ。
「さあ、行くとしようか」
そう言った霧子は慣れた調子で外履きに履き替えると、二人に先んじて階段に足を踏み入れ、地下へと降りていく。アリサも同じように階段を下っていくから、翔一もそれに倣って外履きのローファー靴に履き替え、同じように地下通路の階段を下り始める。
バタン、とアリサが保健室の擬装ハッチを閉めると、淡い夕暮れの陽光は地下通路から消え失せ。少し肌寒いような冷たい地下空間の中を照らし出すのは、淡い暖色の明かりだけになる。その明かりを頼りにしつつ、霧子とアリサの先導に従い翔一は通路の奥へ奥へと向かって歩き始めた。
そうして歩くこと……三分も掛からなかったか。狭い通路を通り抜けて行き着いた先にあったのは、小さな地下鉄のホームのような場所だった。
これもやはり、地下鉄のホームのようだと例える他にない。横長の空間があって、その向こうに細長い列車が停車しているのだ。二両編成で……見たこともないような、それこそ五〇〇系の新幹線みたいな流線形をした、そんな不思議な列車が待ち構えていたのだ。
「霧子さん、それにアリサ……これは……!?」
行き着いた先にあった空間と、そして待ち構えていた謎の列車を前にして、翔一が戸惑いの声を上げる。すると霧子は白衣のポケットに両手を突っ込んだ格好のまま、首だけで彼の方に振り向くと「リニアモーターカーだよ」と答えた。
「H‐Rアイランド……蓬莱島に繋がっている、直通の高速鉄道。保健室以外にも幾つか学園に出入り口はあるよ。ちなみに、隣には車両乗り入れ用のトンネルも併設されているんだ。不測の事態でリニアが使えなくなった時の為に、ね」
「蓬莱島って……まさか、あの蓬莱島?」
海岸から見えるあの島のことを思い出しながら翔一が問うと、霧子は「その通り」と頷き、彼の予想が正しいことを認める。
「海岸の遙か向こうにある、あの島さ。君も知っているだろう? 表向きには国際的な科学研究の為の云々って建前になっているけれど、実際は地球防衛軍……あーっと、正確には国連統合軍か。まあ細かいコトは抜きにしても、正体は秘密基地なんだよ、あの島は」
「…………頭が痛くなってきた」
「行けば自ずと分かることよ。……ほら、アンタもさっさと乗りなさいな」
頭痛を堪えるように眉間を押さえていると、アリサにそう促され。本当に頭痛を覚えそうになるぐらい混乱しつつも、翔一は二人と一緒になって目の前の列車……リニアに乗り込んでいく。
車両の中は新幹線というより、どちらかといえば山手線みたいな在来の通勤列車のような造りだった。つり革の類こそ見当たらないが、横一列になったベンチシートが並んでいる光景はまさにそれだ。そんなベンチシートに、アリサは翔一と横並びになって。霧子は彼らの反対側、真正面の位置に脚を組んで座る。
やがて扉が独りでに閉まり、リニアが緩やかに発車した。窓の外に見えていたホームらしき空間の景色が消え、それこそ地下鉄のような黒一色に変わり果てる。
(それにしても、秘密の地下鉄道か)
翔一たちが暮らし、そして風守学院のある天ヶ崎市は……何というか、小高い丘の上にあるような立地なのだ。海抜は結構高く、十数キロ先にある海岸、つまり翔一がアリサと出逢ったあの海岸とはかなりの高低差がある。だからこのリニアは今、緩やかな下り坂を下っている状態にあると考えるのが適切だろう。リニアモーターカーの類は凄まじく高速だと噂には聞いているが、それでも島までは結構な距離がある。どれぐらいの時間で到着するのだろうか…………。
まあ、分からないことをあれこれ考えても仕方ない。今は分からないことだらけだ。だから翔一は頭の中を整理し、事情を心得ている二人に問いかけるべく、こんなことを呟いていた。
「地球防衛軍……いや、国連統合軍か。ということは、昨日のあの黒い戦闘機も?」
翔一の疑問に、対面に座る霧子が「ああ」と静かに頷いて肯定する。
「YSF‐2/A≪グレイ・ゴースト≫。アリサくんの機体だ。アレは確か……ええと、Yナンバーが付いてるってことはだ。先行量産型の一号機だったかな?」
「少佐、あんまり機密情報をペラペラと……」
「良いじゃないか。仮にも彼はだね、私の大事な親友の一人息子なんだ。それに……イザとなれば、コイツで記憶を綺麗さっぱり消し飛ばしてしまえば良かろう?」
溜息交じりに苦言を呈するアリサに対し、ニヤリとした笑みを霧子は浮かべると。すると彼女は白衣の胸ポケットから、何やらペン状の物を取り出した。
ステンレスみたいに銀色に光る、明らかに金属質の物体だ。それこそ何処かの映画で見たことがあるような、とんでもなく既視感のあるソイツが……霧子が見せつけてくるボールペンのようなそれが記憶消去装置の類であることは、彼女の口振りから翔一も暗に察していた。
「えーと、これの正式名称は何だったっけか。確かエレクトロ・バイオメカニカル・ニュートラル・トランスミッティング――――」
「普通にニューラライザーで良いでしょうに。……それに、コイツに記憶消去が効かないのは、現に一回試した少佐自身が一番分かっていることでは?」
「ふむ、それもそうか。確かにESPに対しては効果が薄かったね、このニューラライザーは」
「ったく……本当に」
アリサに言われ、霧子は今まさに気が付いたといった風な顔を浮かべると。そのペン状の物体……ニューラライザーというらしいそれをサッと白衣の胸ポケットに戻した。
ニューラライザーを仕舞う彼女の仕草を眺めながら、呆れて物も言えないといった風にアリサが小さく溜息をつく。そんな風なやり取りを交わす二人に対し、翔一は「……まさか、宇宙人と戦争してる、なんて言いませんよね」と、恐る恐る問うてみた。
出来ればそうであっては欲しくない。しかし翔一のそんな楽観的にも程がある期待とは裏腹に、アリサは「その通りよ」と即座に頷き。そして続く霧子の言葉はといえば、こんな感じだった。
「宇宙人、って言い方は語弊があるけれどね。まあでも、概ねそういう解釈で構わないか」
「冗談だろ……?」
霧子から告げられた途端、翔一は絶句する。思わず頭を抱えたくなるぐらいのことを二人にサラッと言われ、理解が深まるどころか更に混乱が強まっただけだ。
そんな彼の様子の何処が面白いのか、対面の霧子はニタニタとした嫌らしい笑みを浮かべながら、絶句する翔一に対して更にこんなことをうそぶいた。
「ちなみにメン・イン・ブラックも実在するし、都市伝説でも定番のUFO目撃情報ってあるだろう? アレもね、実は割と本物が混じってるんだ。
…………尤も、後者に関しては宇宙人の乗り物じゃあなくて、統合軍の空間戦闘機がたまたま目撃されてしまったものなんだけれどね。確かにアレは戦闘機というよりも、UFOの方がよっぽど近いかもだ」
茶化しているのか、それとも霧子なりに真面目に説明しようとくれているのか。どちらにせよ、今の彼女の言葉で翔一の絶句度が更に上昇したのは事実だ。
「超能力者に見たこともない戦闘機、地球防衛軍と宇宙戦争……か。夢なら覚めて欲しい気分だ」
「お生憎様、これは夢じゃなくて紛れもない現実なの。何ならアンタ、信じられないのならアタシが二、三発引っぱたいてあげましょうか? そうすれば、嫌でも現実だって分かるかも」
「いいや、遠慮しておこう……」
本当に夢なら覚めて欲しい気分だったが、しかしアリサにぶたれて痛い思いをするのも御免だ。翔一は未だ激しい混乱の渦に呑まれつつも、ひとまず二人から告げられたありのままの事実を、文字通り鵜呑みにするみたくそのまま受け入れることにした。
「……ま、詳しいことは着いてからゆっくり見聞きするといいさ。ここでうだうだと話していても、それこそ仕方のないことだからね」
言いながら、霧子は白衣の胸ポケットから取り出したラッキー・ストライクの煙草をスッと咥え、擦ったマッチでいつものように火を付ける。
そうすると、アリサは至極嫌そうな顔で「羽佐間少佐、禁煙! もうっ……!」と霧子の喫煙を疎めるが。しかし霧子は口に煙草を咥えたまま、ニヤニヤとしながら「カタいこと言うなよ、丁度午後のスモークタイムなんだ」と……意味の分からないことを口走るだけで、煙草を吸うのをやめようとはしない。
「午後のティータイムみたいに言われても、駄目なものは駄目だっての! ったく、煙草の煙と臭いがホントに嫌いなのよ、アタシは……!」
尚も吹かそうとする霧子に対し、アリサはあんまりにも露骨に嫌がって。それこそサッと席から腰を浮かせ、霧子から大きく距離を取るぐらいの始末だ。
「やれやれ……相変わらず口うるさいお姫様だよ、君は」
そんな風に大変露骨な拒絶反応をされてしまうと、流石の霧子も思うところがあったらしく。結果的に折れた霧子はやれやれと肩を竦めながら、仕方ないといった風に口から煙草を離し。懐から取り出した携帯灰皿に、殆ど吸っていないそれをスッと落とした。
二人がそんな具合なやり取りを交わしている内に、リニアは早くも目的地に到着したらしく。学院の地下にあったのと同じような地下鉄のホームめいた場所へ滑り込むように停車すると、閉じていた扉がゆっくりと開き始めた。
「ん」
彼女が指差す先にあるのは、保健室の隅にある床。どこにでもあるような安っぽい板張りの床だ。
一体どういうことなのかと翔一が首を傾げていると、すると霧子はスッとその場にしゃがみ込み。たった今指差していた辺りの床にそっと手を触れると……おもむろに床板を引っ剥がしてしまう。
遂に霧子が乱心したのかと思い、翔一は一瞬焦ったが……しかし彼女は決して床板を力任せに引き剥がしたワケではなく。何故か油圧ダンパー仕掛けで跳ね上がった床板、まるで車のボンネットのように跳ね上がった床の向こう側にあったのは――――薄暗い地下空間へと続く階段だったのだ。
「霧子さん、これは……?」
「隠し通路」ニヤリとして霧子が言う。「まるで忍者屋敷みたいだろう?」
そう、今まさに霧子が跳ね上げた床板は出入り口のハッチであり、巧妙に擬装された地下通路への入り口でもあったのだ。
――――地下通路。
これを見てしまっては、そう表現する他にないだろう。薄暗かった階段の向こう側は、ハッチが開いたのに連動して淡い暖色の明かりが灯り始めていて。開いた瞬間こそ真っ暗で先が見通せなかったが……しかし今では、うっすらと奥が窺い知れるぐらいの明るさはある。何処までも続いていくような、冷たいコンクリート打ちっ放しの壁が延々と続く、地下への道が翔一の前に現れたのだ。
「さあ、行くとしようか」
そう言った霧子は慣れた調子で外履きに履き替えると、二人に先んじて階段に足を踏み入れ、地下へと降りていく。アリサも同じように階段を下っていくから、翔一もそれに倣って外履きのローファー靴に履き替え、同じように地下通路の階段を下り始める。
バタン、とアリサが保健室の擬装ハッチを閉めると、淡い夕暮れの陽光は地下通路から消え失せ。少し肌寒いような冷たい地下空間の中を照らし出すのは、淡い暖色の明かりだけになる。その明かりを頼りにしつつ、霧子とアリサの先導に従い翔一は通路の奥へ奥へと向かって歩き始めた。
そうして歩くこと……三分も掛からなかったか。狭い通路を通り抜けて行き着いた先にあったのは、小さな地下鉄のホームのような場所だった。
これもやはり、地下鉄のホームのようだと例える他にない。横長の空間があって、その向こうに細長い列車が停車しているのだ。二両編成で……見たこともないような、それこそ五〇〇系の新幹線みたいな流線形をした、そんな不思議な列車が待ち構えていたのだ。
「霧子さん、それにアリサ……これは……!?」
行き着いた先にあった空間と、そして待ち構えていた謎の列車を前にして、翔一が戸惑いの声を上げる。すると霧子は白衣のポケットに両手を突っ込んだ格好のまま、首だけで彼の方に振り向くと「リニアモーターカーだよ」と答えた。
「H‐Rアイランド……蓬莱島に繋がっている、直通の高速鉄道。保健室以外にも幾つか学園に出入り口はあるよ。ちなみに、隣には車両乗り入れ用のトンネルも併設されているんだ。不測の事態でリニアが使えなくなった時の為に、ね」
「蓬莱島って……まさか、あの蓬莱島?」
海岸から見えるあの島のことを思い出しながら翔一が問うと、霧子は「その通り」と頷き、彼の予想が正しいことを認める。
「海岸の遙か向こうにある、あの島さ。君も知っているだろう? 表向きには国際的な科学研究の為の云々って建前になっているけれど、実際は地球防衛軍……あーっと、正確には国連統合軍か。まあ細かいコトは抜きにしても、正体は秘密基地なんだよ、あの島は」
「…………頭が痛くなってきた」
「行けば自ずと分かることよ。……ほら、アンタもさっさと乗りなさいな」
頭痛を堪えるように眉間を押さえていると、アリサにそう促され。本当に頭痛を覚えそうになるぐらい混乱しつつも、翔一は二人と一緒になって目の前の列車……リニアに乗り込んでいく。
車両の中は新幹線というより、どちらかといえば山手線みたいな在来の通勤列車のような造りだった。つり革の類こそ見当たらないが、横一列になったベンチシートが並んでいる光景はまさにそれだ。そんなベンチシートに、アリサは翔一と横並びになって。霧子は彼らの反対側、真正面の位置に脚を組んで座る。
やがて扉が独りでに閉まり、リニアが緩やかに発車した。窓の外に見えていたホームらしき空間の景色が消え、それこそ地下鉄のような黒一色に変わり果てる。
(それにしても、秘密の地下鉄道か)
翔一たちが暮らし、そして風守学院のある天ヶ崎市は……何というか、小高い丘の上にあるような立地なのだ。海抜は結構高く、十数キロ先にある海岸、つまり翔一がアリサと出逢ったあの海岸とはかなりの高低差がある。だからこのリニアは今、緩やかな下り坂を下っている状態にあると考えるのが適切だろう。リニアモーターカーの類は凄まじく高速だと噂には聞いているが、それでも島までは結構な距離がある。どれぐらいの時間で到着するのだろうか…………。
まあ、分からないことをあれこれ考えても仕方ない。今は分からないことだらけだ。だから翔一は頭の中を整理し、事情を心得ている二人に問いかけるべく、こんなことを呟いていた。
「地球防衛軍……いや、国連統合軍か。ということは、昨日のあの黒い戦闘機も?」
翔一の疑問に、対面に座る霧子が「ああ」と静かに頷いて肯定する。
「YSF‐2/A≪グレイ・ゴースト≫。アリサくんの機体だ。アレは確か……ええと、Yナンバーが付いてるってことはだ。先行量産型の一号機だったかな?」
「少佐、あんまり機密情報をペラペラと……」
「良いじゃないか。仮にも彼はだね、私の大事な親友の一人息子なんだ。それに……イザとなれば、コイツで記憶を綺麗さっぱり消し飛ばしてしまえば良かろう?」
溜息交じりに苦言を呈するアリサに対し、ニヤリとした笑みを霧子は浮かべると。すると彼女は白衣の胸ポケットから、何やらペン状の物を取り出した。
ステンレスみたいに銀色に光る、明らかに金属質の物体だ。それこそ何処かの映画で見たことがあるような、とんでもなく既視感のあるソイツが……霧子が見せつけてくるボールペンのようなそれが記憶消去装置の類であることは、彼女の口振りから翔一も暗に察していた。
「えーと、これの正式名称は何だったっけか。確かエレクトロ・バイオメカニカル・ニュートラル・トランスミッティング――――」
「普通にニューラライザーで良いでしょうに。……それに、コイツに記憶消去が効かないのは、現に一回試した少佐自身が一番分かっていることでは?」
「ふむ、それもそうか。確かにESPに対しては効果が薄かったね、このニューラライザーは」
「ったく……本当に」
アリサに言われ、霧子は今まさに気が付いたといった風な顔を浮かべると。そのペン状の物体……ニューラライザーというらしいそれをサッと白衣の胸ポケットに戻した。
ニューラライザーを仕舞う彼女の仕草を眺めながら、呆れて物も言えないといった風にアリサが小さく溜息をつく。そんな風なやり取りを交わす二人に対し、翔一は「……まさか、宇宙人と戦争してる、なんて言いませんよね」と、恐る恐る問うてみた。
出来ればそうであっては欲しくない。しかし翔一のそんな楽観的にも程がある期待とは裏腹に、アリサは「その通りよ」と即座に頷き。そして続く霧子の言葉はといえば、こんな感じだった。
「宇宙人、って言い方は語弊があるけれどね。まあでも、概ねそういう解釈で構わないか」
「冗談だろ……?」
霧子から告げられた途端、翔一は絶句する。思わず頭を抱えたくなるぐらいのことを二人にサラッと言われ、理解が深まるどころか更に混乱が強まっただけだ。
そんな彼の様子の何処が面白いのか、対面の霧子はニタニタとした嫌らしい笑みを浮かべながら、絶句する翔一に対して更にこんなことをうそぶいた。
「ちなみにメン・イン・ブラックも実在するし、都市伝説でも定番のUFO目撃情報ってあるだろう? アレもね、実は割と本物が混じってるんだ。
…………尤も、後者に関しては宇宙人の乗り物じゃあなくて、統合軍の空間戦闘機がたまたま目撃されてしまったものなんだけれどね。確かにアレは戦闘機というよりも、UFOの方がよっぽど近いかもだ」
茶化しているのか、それとも霧子なりに真面目に説明しようとくれているのか。どちらにせよ、今の彼女の言葉で翔一の絶句度が更に上昇したのは事実だ。
「超能力者に見たこともない戦闘機、地球防衛軍と宇宙戦争……か。夢なら覚めて欲しい気分だ」
「お生憎様、これは夢じゃなくて紛れもない現実なの。何ならアンタ、信じられないのならアタシが二、三発引っぱたいてあげましょうか? そうすれば、嫌でも現実だって分かるかも」
「いいや、遠慮しておこう……」
本当に夢なら覚めて欲しい気分だったが、しかしアリサにぶたれて痛い思いをするのも御免だ。翔一は未だ激しい混乱の渦に呑まれつつも、ひとまず二人から告げられたありのままの事実を、文字通り鵜呑みにするみたくそのまま受け入れることにした。
「……ま、詳しいことは着いてからゆっくり見聞きするといいさ。ここでうだうだと話していても、それこそ仕方のないことだからね」
言いながら、霧子は白衣の胸ポケットから取り出したラッキー・ストライクの煙草をスッと咥え、擦ったマッチでいつものように火を付ける。
そうすると、アリサは至極嫌そうな顔で「羽佐間少佐、禁煙! もうっ……!」と霧子の喫煙を疎めるが。しかし霧子は口に煙草を咥えたまま、ニヤニヤとしながら「カタいこと言うなよ、丁度午後のスモークタイムなんだ」と……意味の分からないことを口走るだけで、煙草を吸うのをやめようとはしない。
「午後のティータイムみたいに言われても、駄目なものは駄目だっての! ったく、煙草の煙と臭いがホントに嫌いなのよ、アタシは……!」
尚も吹かそうとする霧子に対し、アリサはあんまりにも露骨に嫌がって。それこそサッと席から腰を浮かせ、霧子から大きく距離を取るぐらいの始末だ。
「やれやれ……相変わらず口うるさいお姫様だよ、君は」
そんな風に大変露骨な拒絶反応をされてしまうと、流石の霧子も思うところがあったらしく。結果的に折れた霧子はやれやれと肩を竦めながら、仕方ないといった風に口から煙草を離し。懐から取り出した携帯灰皿に、殆ど吸っていないそれをスッと落とした。
二人がそんな具合なやり取りを交わしている内に、リニアは早くも目的地に到着したらしく。学院の地下にあったのと同じような地下鉄のホームめいた場所へ滑り込むように停車すると、閉じていた扉がゆっくりと開き始めた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~
めしめし
SF
ゲーム好きの高校生、宝 光(たからひかる)は朝目が覚めるとミミック(見習い)になっていた。
身動きが取れず、唯一出来ることは口である箱の開閉だけ。
動揺しつつもステータス画面のチュートリアルを選択すると、自称創造主の一人である男のハイテンションな説明が始まった。
光がこの世界に転送されミミックにされた理由が、「名前がそれっぽいから。」
人間に戻り、元の世界に帰ることを目標にミミックとしての冒険が始まった。
おかげさまで、SF部門で1位、HOTランキングで22位となることが出来ました。
今後とも面白い話を書いていきますので応援を宜しくお願い致します。
砂漠と鋼とおっさんと
ゴエモン
SF
2035年ある日地球はジグソーパズルのようにバラバラにされ、以前の形を無視して瞬時に再び繋ぎ合わされた。それから120年後……
男は砂漠で目覚めた。
ここは日本?海外?そもそも地球なのか?
訳がわからないまま男は砂漠を一人歩き始める。
巨大な陸上を走る船サンドスチーム。
屋台で焼き鳥感覚に銃器を売る市場。
ひょんなことから手にした電脳。
生物と機械が合成された機獣(ミュータント)が跋扈する世界の中で、男は生き延びていかねばならない。
荒廃した世界で男はどこへいくのか?
と、ヘヴィな話しではなく、男はその近未来世界で馴染んで楽しみ始めていた。
それでも何とか生活費は稼がにゃならんと、とりあえずハンターになってたま〜に人助け。
女にゃモテずに、振られてばかり。
電脳ナビを相棒に武装ジャイロキャノピーで砂漠を旅する、高密度におっさん達がおりなすSF冒険浪漫活劇!
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
君を必ず
みみかき
SF
何気ない日常。変わらない日々。平凡な毎日を何となく生きる。そんなありふれたような世界がちょっとだけでも変わりますように。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であるため、実在のものとは一切関係ありません。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
World Creature Online~私はイノシシになって全てのモンスターをぶっ飛ばす~
土偶の友
SF
※タイトルを少し変更しました。
World Creature Online~この世界に存在するすべての動物植物になり、魔法やスキルを使ってモンスターを倒していく今、最も注目されているVRMMOゲーム。
私は高校に入った記念に念願のゲームを遂に始めることが出来ていた。
キャラクリエイトで選択するのは小説の影響でずっと憧れていたイノシシ。
その憧れになって私は世界中を駆け回りたい。そんな夢を持ってゲームを始めた。
「あれ? 牙なくね? てか色薄くない?」
私の希望を余所にイノシシはイノシシだけどうり坊の可愛い姿でゲームが始まってしまう。そんなトラブルはありつつも私はレベルを上げ、立派な牙を持つイノシシ目指して好き進む!
進むうちに頼りになる仲間を見つけ、ラスボス級と言われる幻想種を倒すことに。
仲間のスキルの振り方は極振りと言ってもいいほどに尖った物。しかし、その尖り具合がかみ合い奇跡を起こす!
小説家になろう様でも投稿しています。
オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
SF
黒髪ロングに紫色の瞳で個性もなく自己主張も少なく、本来ならば物語で取り上げられることもないモブキャラ程度の存在感しかない女の子。
登校時の出来事に教室を思わず飛び出した内気な小学4年生『夜空 星』はズル休みをしたその日に、街で不思議な男性からゲームのハードであるブレスレットを渡され、世界的に人気のVRMMOゲーム【FREEDOM】を始めることになる。
しかし、ゲーム開始したその日に謎の組織『シルバーウルフ』の陰謀によって、星はゲームの世界に閉じ込められてしまう。
凄腕のプレイヤー達に囲まれ、日々自分の力の無さに悶々としていた星が湖で伝説の聖剣『エクスカリバー』を手にしたことで、彼女を取り巻く状況が目まぐるしく変わっていく……。
※感想など書いて頂ければ、モチベーションに繋がります!※
表紙の画像はAIによって作りました。なので少しおかしい部分もあると思います。一応、主人公の女の子のイメージ像です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる