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Chapter-03『BLACK EXECUTER』
第十章:ヴァルキュリア・スクランブル/03
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――――昼下がりの街中を、スカイブルーの閃光が駆け抜ける。
その閃光の名は、C3型コルベット・スティングレイ。幌屋根を畳んだまま全開加速でブッ飛ばすそんなコルベットを駆るのは、当然のことながら篠宮有紀だった。
隣のサイドシートには戒斗の姿もある。二人とも、豪勢な昼食を終えたばかりだというのにひどく難しい顔をしていた。
そんな顔をしている理由は……敢えて語るまでもなく明白だろう。
ともかく、戒斗は有紀の運転するコルベットに揺られながら……何処へ行くのかも分からないまま、ただ彼女に連れられていた。
「――――情報によれば、現場に現れたのはバッタ型のグラスホッパー・バンディット。以前にセラくんやアンジェくん、それにセイレーンが交戦した奴だね。今回はそれに加えて……未確認の単一種が大量に現れたそうだ」
「未確認の、単一種?」
疑問符を浮かべる隣の戒斗に、有紀はステアリングを操作しながら「ああ」と頷き返す。
「詳細は未だ不明だ。だが……同種のバンディットが複数体現れたのは、少なくともP.C.C.Sが記録している限りでは初めてのことだね」
――――これを見てくれ。
有紀は言うと、小脇に抱えていたタブレット端末をひょいと戒斗の方へと差し出してくる。
受け取った戒斗がその端末に視線を落とすと、何かを写した画像データが映っていた。状況を鑑みるに、どうやらこれが有紀の言う未確認の単一種、百体以上が同時に出現した謎のバンディットということになるのか。
「……本当に、これがバンディットなのか?」
「にわかには信じがたい話だが、しかし本部のバンディットサーチャーが連中全てをバンディットだと認識している。であるのならば……私も未だに信じられないが、それでも連中はバンディットに間違いない」
タブレットに映る画像を見て、信じられないような顔をして問うてくる戒斗に対し、有紀が苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「これが……こんなのが、バンディットなのか」
呟きながら、戒斗は改めて手元のタブレット端末に視線を落としてみた。
だって、画面に映っているのは――――明らかに、人間だったのだ。
異形というにはあまりにも人間らしい姿をした、見慣れた二足歩行のシルエット。顔こそ黒い目出し帽とゴーグルで覆われているから窺い知れないが、しかし……どう見たって、これは人間だ。
灰色の装甲が特徴的なコンバットアーマーを身に纏い、頭には同色のヘルメット。手には見たこともない自動ライフルやサブ・マシーンガンを携えているその姿は……何というか、SF映画に出てくる兵士に近いような感じだ。
喩えるならば『スターウォーズ』の帝国軍、ストームトルーパーといったところだろうか。
とにかく、その未確認の敵というのは、バンディットというにはあまりにも人間すぎる見た目をしていたのだ。
だからこそ、戒斗はこうも当惑した表情を浮かべている。これがバンディットと言われても……今まであんな異形の怪人ばかり見てきたからか、余計に信じられない。
どうやらそれは有紀も同様のようで、彼女も彼女で何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。
「便宜上、奴らを『コフィン・タイプ』と呼称することが決まったそうだ。どうやら能力はそれほどでもないらしいが、それでも生身の人間が太刀打ち出来るレベルを超えているのは間違いない。……厄介だよ、これは」
「でも、アンジェにセラ、それにセイレーンなら」
――――彼女たちなら、きっと。
そう思い戒斗は呟いたのだが、しかし有紀の反応はというと……難しい顔のままで。彼女の苦い横顔は、神姫たちのこの先に待ち受ける苦難を暗示しているかのように戒斗には思えていた。
「セイレーンが来てくれるかどうかは別として、仮にアンジェくんたちが間に合ったとしても……それでも、この量のバンディットを捌ききるのは難しいだろうね」
「くっ……!」
有紀の答えを聞いて、戒斗が悔しそうに歯噛みをする。
そんな彼の苦々しい表情をチラリと横目に見ながら、有紀はボソリと言った。
「だから、君に頼みがある」
「俺に、頼み……?」
きょとんとした戒斗に、有紀は「ああ」と頷きつつ。同時に握っていたステアリングを大きく振り回した。
ブレーキペダルを踏み込んで減速しつつ、同時にアクセルを軽く煽って回転数を合わせながら……素早くシフト操作をし、ギアをトップの四速から二速まで一気に叩き落とす。
そうしながら有紀はステアリングを振り回し、ギャァァッとタイヤの鳴る横滑り状態……いわゆるドリフト状態で目の前の急角度なカーブへと猛スピードで突っ込んでいく。
アクセルを煽って後輪を適度に空転させながら、ドリフト状態に陥ったコルベットを涼しい顔でコントロールし、有紀はそのまま素早くカーブを脱出させる。
こんな過激極まった運転で顔色ひとつ変えていない辺り、有紀のテクニックは相当なものだったが……それに付き合わされても平然としている戒斗も、色んな意味で大概だった。
「――――君も、戦ってくれ」
そうしてドリフトでカーブを脱した後、素早く体勢を立て直し。またフルスロットルで加速させながらで有紀が戒斗に言う。
「戦うって、俺には神姫の力なんて……!!」
「そう、神姫の力は……ヴァルキュリア因子の力は女性にしか発現しない。君が男である以上、奇跡的に神姫へと覚醒する可能性は万に一つもない」
「だったら、どうしてそんなことを俺に……!?」
「――――方法は、ある」
困惑する戒斗に有紀は言うと「これに目を通しておいてくれ」と言って、あるファイルを隣の彼に手渡した。
「XVS‐01、ヴァルキュリア・システム……?」
ファイルを受け取った戒斗は、それの表紙に記された謎の名前を見つめながら首を傾げて。そんな彼を横目にチラリと見つつ、有紀は「その通りだ」とまたニヤリと笑みを浮かべてみせた。
そして、彼女は告げる。ステアリング片手にスカイブルーの愛機を振り回しながら、ついさっき言い掛けて、でも言えなかった言葉を。自分の持てる全てを注ぎ込み、そして造り上げた――――そんな、重騎士の名を。
「人類の叡智の結晶、人間の自由と平和を守るために私が造り上げた最強の重騎士…………。
――――それが、疑似神姫型強化外骨格『ヴァルキュリア・システム』。私はそれを、戒斗くん……君だけにしか託せないと思ったから、君をP.C.C.Sに迎え入れたんだ」
(第十章『ヴァルキュリア・スクランブル』了)
その閃光の名は、C3型コルベット・スティングレイ。幌屋根を畳んだまま全開加速でブッ飛ばすそんなコルベットを駆るのは、当然のことながら篠宮有紀だった。
隣のサイドシートには戒斗の姿もある。二人とも、豪勢な昼食を終えたばかりだというのにひどく難しい顔をしていた。
そんな顔をしている理由は……敢えて語るまでもなく明白だろう。
ともかく、戒斗は有紀の運転するコルベットに揺られながら……何処へ行くのかも分からないまま、ただ彼女に連れられていた。
「――――情報によれば、現場に現れたのはバッタ型のグラスホッパー・バンディット。以前にセラくんやアンジェくん、それにセイレーンが交戦した奴だね。今回はそれに加えて……未確認の単一種が大量に現れたそうだ」
「未確認の、単一種?」
疑問符を浮かべる隣の戒斗に、有紀はステアリングを操作しながら「ああ」と頷き返す。
「詳細は未だ不明だ。だが……同種のバンディットが複数体現れたのは、少なくともP.C.C.Sが記録している限りでは初めてのことだね」
――――これを見てくれ。
有紀は言うと、小脇に抱えていたタブレット端末をひょいと戒斗の方へと差し出してくる。
受け取った戒斗がその端末に視線を落とすと、何かを写した画像データが映っていた。状況を鑑みるに、どうやらこれが有紀の言う未確認の単一種、百体以上が同時に出現した謎のバンディットということになるのか。
「……本当に、これがバンディットなのか?」
「にわかには信じがたい話だが、しかし本部のバンディットサーチャーが連中全てをバンディットだと認識している。であるのならば……私も未だに信じられないが、それでも連中はバンディットに間違いない」
タブレットに映る画像を見て、信じられないような顔をして問うてくる戒斗に対し、有紀が苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「これが……こんなのが、バンディットなのか」
呟きながら、戒斗は改めて手元のタブレット端末に視線を落としてみた。
だって、画面に映っているのは――――明らかに、人間だったのだ。
異形というにはあまりにも人間らしい姿をした、見慣れた二足歩行のシルエット。顔こそ黒い目出し帽とゴーグルで覆われているから窺い知れないが、しかし……どう見たって、これは人間だ。
灰色の装甲が特徴的なコンバットアーマーを身に纏い、頭には同色のヘルメット。手には見たこともない自動ライフルやサブ・マシーンガンを携えているその姿は……何というか、SF映画に出てくる兵士に近いような感じだ。
喩えるならば『スターウォーズ』の帝国軍、ストームトルーパーといったところだろうか。
とにかく、その未確認の敵というのは、バンディットというにはあまりにも人間すぎる見た目をしていたのだ。
だからこそ、戒斗はこうも当惑した表情を浮かべている。これがバンディットと言われても……今まであんな異形の怪人ばかり見てきたからか、余計に信じられない。
どうやらそれは有紀も同様のようで、彼女も彼女で何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。
「便宜上、奴らを『コフィン・タイプ』と呼称することが決まったそうだ。どうやら能力はそれほどでもないらしいが、それでも生身の人間が太刀打ち出来るレベルを超えているのは間違いない。……厄介だよ、これは」
「でも、アンジェにセラ、それにセイレーンなら」
――――彼女たちなら、きっと。
そう思い戒斗は呟いたのだが、しかし有紀の反応はというと……難しい顔のままで。彼女の苦い横顔は、神姫たちのこの先に待ち受ける苦難を暗示しているかのように戒斗には思えていた。
「セイレーンが来てくれるかどうかは別として、仮にアンジェくんたちが間に合ったとしても……それでも、この量のバンディットを捌ききるのは難しいだろうね」
「くっ……!」
有紀の答えを聞いて、戒斗が悔しそうに歯噛みをする。
そんな彼の苦々しい表情をチラリと横目に見ながら、有紀はボソリと言った。
「だから、君に頼みがある」
「俺に、頼み……?」
きょとんとした戒斗に、有紀は「ああ」と頷きつつ。同時に握っていたステアリングを大きく振り回した。
ブレーキペダルを踏み込んで減速しつつ、同時にアクセルを軽く煽って回転数を合わせながら……素早くシフト操作をし、ギアをトップの四速から二速まで一気に叩き落とす。
そうしながら有紀はステアリングを振り回し、ギャァァッとタイヤの鳴る横滑り状態……いわゆるドリフト状態で目の前の急角度なカーブへと猛スピードで突っ込んでいく。
アクセルを煽って後輪を適度に空転させながら、ドリフト状態に陥ったコルベットを涼しい顔でコントロールし、有紀はそのまま素早くカーブを脱出させる。
こんな過激極まった運転で顔色ひとつ変えていない辺り、有紀のテクニックは相当なものだったが……それに付き合わされても平然としている戒斗も、色んな意味で大概だった。
「――――君も、戦ってくれ」
そうしてドリフトでカーブを脱した後、素早く体勢を立て直し。またフルスロットルで加速させながらで有紀が戒斗に言う。
「戦うって、俺には神姫の力なんて……!!」
「そう、神姫の力は……ヴァルキュリア因子の力は女性にしか発現しない。君が男である以上、奇跡的に神姫へと覚醒する可能性は万に一つもない」
「だったら、どうしてそんなことを俺に……!?」
「――――方法は、ある」
困惑する戒斗に有紀は言うと「これに目を通しておいてくれ」と言って、あるファイルを隣の彼に手渡した。
「XVS‐01、ヴァルキュリア・システム……?」
ファイルを受け取った戒斗は、それの表紙に記された謎の名前を見つめながら首を傾げて。そんな彼を横目にチラリと見つつ、有紀は「その通りだ」とまたニヤリと笑みを浮かべてみせた。
そして、彼女は告げる。ステアリング片手にスカイブルーの愛機を振り回しながら、ついさっき言い掛けて、でも言えなかった言葉を。自分の持てる全てを注ぎ込み、そして造り上げた――――そんな、重騎士の名を。
「人類の叡智の結晶、人間の自由と平和を守るために私が造り上げた最強の重騎士…………。
――――それが、疑似神姫型強化外骨格『ヴァルキュリア・システム』。私はそれを、戒斗くん……君だけにしか託せないと思ったから、君をP.C.C.Sに迎え入れたんだ」
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