41 / 131
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る/01
しおりを挟む
第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る
「――――セラ!」
雨の降る昼休み。私立神代学園の校舎、屋上へと続く蝶番の錆び付いたドアの手前。その踊り場のような場所でセラフィナ・マックスウェルが独り、壁際にもたれ掛かる形で座り込んでいると。すると、そんな彼女の名を呼ぶ誰かの声が階段の下から聞こえてきた。
「……アンジェ」
座り込んだ格好のまま、ぼうっと虚空を見上げていた顔を下げ。閉じていた瞼をゆっくりと開き、セラが階段の下に視線を流してみると――――そこからセラの方を仰ぎ見ていたのは、やはり彼女にとって実に見慣れた少女の顔だった。
――――アンジェリーヌ・リュミエール。
セミショートに切り揃えた、金糸より透き通るプラチナ・ブロンドの髪を揺らす彼女が、アイオライトのような蒼くぱっちりした瞳でじいっとセラの方を見上げていた。
「セラ、こんなところでどうしたの?」
「なんでもない」
座り込んだまま、ぶっきらぼうに言うセラ。アンジェはそんな彼女に首を傾げつつ、小さく笑むと「隣、いいかな?」と彼女に問うてみる。
「好きにしなさいな」
「それじゃあ、遠慮なく♪」
やはりぶっきらぼうな調子ながら、一応は許可してくれたセラにアンジェは嬉しそうに微笑んで。そう言うと彼女は半ばまで昇っていた階段を最後まで昇りきり、座り込んでいたセラのすぐ隣にちょこんと腰を落とす。
「ふんふふーん……♪」
小脇に抱えていた包みを開き、鼻歌交じりに弁当箱を開くアンジェ。そんな彼女の横で、セラもセラで傍らに置いてあったコンビニ袋から昼食の菓子パンを取り出し、包みを破いたそれに齧り付く。
「……それ」
「ん?」
「アンタが作ってきたの?」
そうして菓子パンを囓りながら、隣のアンジェの弁当をチラリと横目に見つつ、セラが何気ない調子でボソリと呟き問いかける。するとアンジェはうんと頷いて、
「趣味だからねー、お料理作るの」
そう言って質問に答えながら、アンジェはニッコリと隣のセラに微笑みかけた。
「……そう」
そんな彼女の微笑みを真横に見ながら、何処か素っ気ない調子で返しながら。セラはふと……この間のことを思い出していた。
「そういえばアンジェ、アンタこの間……怪物騒ぎに巻き込まれたんですってね」
――――ウィスタリア・セイレーンが現れた、あの商店街での一件のことを。
「あはは、大変だったよ」
何気ない調子でセラが呟くと、アンジェは弁当箱の中身を口に運びつつ、困った感じに苦笑いを浮かべる。
そんな彼女に、セラはこんな問いを投げ掛けてみた。
「その時に、何か見なかった?」
――――ある種の確信を秘めた、そんな問いかけを。
(遥さんのことは……やっぱり、秘密にしておいた方がいいよね)
問われたアンジェは胸の内でそう思うと、一瞬の逡巡の後にセラに対してこう答える。
「うーん、別に何も見なかったよ?」
ひとえに、遥が神姫ウィスタリア・セイレーンであることを隠すために。まさかセラもあの場に居合わせていて、そして遥と同じ神姫であることも知らないままに……アンジェは、嘘をついた。
「本当に?」
――――嘘だ。
今アンジェが自分に嘘をついたこと、それを確信しつつも……セラは更に食い付いていく。
「……噂、あくまで噂なんだけれど、ヒーローみたいなのが怪物を倒したって噂なのよ。だから……その場に居合わせたアンジェなら、それを見たんじゃないかって」
「あはは、本当に何も見てないよー」
だが、アンジェは尚も笑顔で否定する。
「……そう」
そんなアンジェの笑顔を、彼女の横顔を横目に見ながら呟くセラは、ほんの少しだけ表情を曇らせていた。
あの時……現場に駆けつけたあの時に、アンジェが戒斗と一緒に、あの謎の神姫のすぐ傍に居た場面を見ていたからこそ。だからこそ、セラは表情を曇らせていた。
(アンジェ……どうして嘘なんか)
理由は分からない。自分を巻き込むまいとしているのか、それとも言ったって信じて貰えないと思っているのか。或いは、あまりにショッキングな出来事だったせいで未だに記憶が混乱しているのか。
どれだけ考えても、アンジェが嘘をついた理由がセラには分からなかった。
分かるはずが、ないのだ。だってセラは――――間宮遥が神姫であることを、あの場に現れてアンジェたちを救った蒼い神姫、ウィスタリア・セイレーンであることを知らないのだから。
だから……どれだけ思考を巡らせたところで、セラが答えに辿り着くはずがなかった。
「――――セラ!」
雨の降る昼休み。私立神代学園の校舎、屋上へと続く蝶番の錆び付いたドアの手前。その踊り場のような場所でセラフィナ・マックスウェルが独り、壁際にもたれ掛かる形で座り込んでいると。すると、そんな彼女の名を呼ぶ誰かの声が階段の下から聞こえてきた。
「……アンジェ」
座り込んだ格好のまま、ぼうっと虚空を見上げていた顔を下げ。閉じていた瞼をゆっくりと開き、セラが階段の下に視線を流してみると――――そこからセラの方を仰ぎ見ていたのは、やはり彼女にとって実に見慣れた少女の顔だった。
――――アンジェリーヌ・リュミエール。
セミショートに切り揃えた、金糸より透き通るプラチナ・ブロンドの髪を揺らす彼女が、アイオライトのような蒼くぱっちりした瞳でじいっとセラの方を見上げていた。
「セラ、こんなところでどうしたの?」
「なんでもない」
座り込んだまま、ぶっきらぼうに言うセラ。アンジェはそんな彼女に首を傾げつつ、小さく笑むと「隣、いいかな?」と彼女に問うてみる。
「好きにしなさいな」
「それじゃあ、遠慮なく♪」
やはりぶっきらぼうな調子ながら、一応は許可してくれたセラにアンジェは嬉しそうに微笑んで。そう言うと彼女は半ばまで昇っていた階段を最後まで昇りきり、座り込んでいたセラのすぐ隣にちょこんと腰を落とす。
「ふんふふーん……♪」
小脇に抱えていた包みを開き、鼻歌交じりに弁当箱を開くアンジェ。そんな彼女の横で、セラもセラで傍らに置いてあったコンビニ袋から昼食の菓子パンを取り出し、包みを破いたそれに齧り付く。
「……それ」
「ん?」
「アンタが作ってきたの?」
そうして菓子パンを囓りながら、隣のアンジェの弁当をチラリと横目に見つつ、セラが何気ない調子でボソリと呟き問いかける。するとアンジェはうんと頷いて、
「趣味だからねー、お料理作るの」
そう言って質問に答えながら、アンジェはニッコリと隣のセラに微笑みかけた。
「……そう」
そんな彼女の微笑みを真横に見ながら、何処か素っ気ない調子で返しながら。セラはふと……この間のことを思い出していた。
「そういえばアンジェ、アンタこの間……怪物騒ぎに巻き込まれたんですってね」
――――ウィスタリア・セイレーンが現れた、あの商店街での一件のことを。
「あはは、大変だったよ」
何気ない調子でセラが呟くと、アンジェは弁当箱の中身を口に運びつつ、困った感じに苦笑いを浮かべる。
そんな彼女に、セラはこんな問いを投げ掛けてみた。
「その時に、何か見なかった?」
――――ある種の確信を秘めた、そんな問いかけを。
(遥さんのことは……やっぱり、秘密にしておいた方がいいよね)
問われたアンジェは胸の内でそう思うと、一瞬の逡巡の後にセラに対してこう答える。
「うーん、別に何も見なかったよ?」
ひとえに、遥が神姫ウィスタリア・セイレーンであることを隠すために。まさかセラもあの場に居合わせていて、そして遥と同じ神姫であることも知らないままに……アンジェは、嘘をついた。
「本当に?」
――――嘘だ。
今アンジェが自分に嘘をついたこと、それを確信しつつも……セラは更に食い付いていく。
「……噂、あくまで噂なんだけれど、ヒーローみたいなのが怪物を倒したって噂なのよ。だから……その場に居合わせたアンジェなら、それを見たんじゃないかって」
「あはは、本当に何も見てないよー」
だが、アンジェは尚も笑顔で否定する。
「……そう」
そんなアンジェの笑顔を、彼女の横顔を横目に見ながら呟くセラは、ほんの少しだけ表情を曇らせていた。
あの時……現場に駆けつけたあの時に、アンジェが戒斗と一緒に、あの謎の神姫のすぐ傍に居た場面を見ていたからこそ。だからこそ、セラは表情を曇らせていた。
(アンジェ……どうして嘘なんか)
理由は分からない。自分を巻き込むまいとしているのか、それとも言ったって信じて貰えないと思っているのか。或いは、あまりにショッキングな出来事だったせいで未だに記憶が混乱しているのか。
どれだけ考えても、アンジェが嘘をついた理由がセラには分からなかった。
分かるはずが、ないのだ。だってセラは――――間宮遥が神姫であることを、あの場に現れてアンジェたちを救った蒼い神姫、ウィスタリア・セイレーンであることを知らないのだから。
だから……どれだけ思考を巡らせたところで、セラが答えに辿り着くはずがなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
大事なのは
gacchi
恋愛
幼いころから婚約していた侯爵令息リヒド様は学園に入学してから変わってしまった。いつもそばにいるのは平民のユミール。婚約者である辺境伯令嬢の私との約束はないがしろにされていた。卒業したらさすがに離れるだろうと思っていたのに、リヒド様が向かう砦にユミールも一緒に行くと聞かされ、我慢の限界が来てしまった。リヒド様、あなたが大事なのは誰ですか?
婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します
Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。
女性は従姉、男性は私の婚約者だった。
私は泣きながらその場を走り去った。
涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。
階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。
けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた!
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる