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Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』

第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る/01

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 第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る


「――――セラ!」
 雨の降る昼休み。私立神代かみしろ学園の校舎、屋上へと続く蝶番ちょうつがいの錆び付いたドアの手前。その踊り場のような場所でセラフィナ・マックスウェルが独り、壁際にもたれ掛かる形で座り込んでいると。すると、そんな彼女の名を呼ぶ誰かの声が階段の下から聞こえてきた。
「……アンジェ」
 座り込んだ格好のまま、ぼうっと虚空を見上げていた顔を下げ。閉じていた瞼をゆっくりと開き、セラが階段の下に視線を流してみると――――そこからセラの方を仰ぎ見ていたのは、やはり彼女にとって実に見慣れた少女の顔だった。
 ――――アンジェリーヌ・リュミエール。
 セミショートに切り揃えた、金糸より透き通るプラチナ・ブロンドの髪を揺らす彼女が、アイオライトのような蒼くぱっちりした瞳でじいっとセラの方を見上げていた。
「セラ、こんなところでどうしたの?」
「なんでもない」
 座り込んだまま、ぶっきらぼうに言うセラ。アンジェはそんな彼女に首を傾げつつ、小さく笑むと「隣、いいかな?」と彼女に問うてみる。
「好きにしなさいな」
「それじゃあ、遠慮なく♪」
 やはりぶっきらぼうな調子ながら、一応は許可してくれたセラにアンジェは嬉しそうに微笑んで。そう言うと彼女は半ばまで昇っていた階段を最後まで昇りきり、座り込んでいたセラのすぐ隣にちょこんと腰を落とす。
「ふんふふーん……♪」
 小脇に抱えていた包みを開き、鼻歌交じりに弁当箱を開くアンジェ。そんな彼女の横で、セラもセラで傍らに置いてあったコンビニ袋から昼食の菓子パンを取り出し、包みを破いたそれに齧り付く。
「……それ」
「ん?」
「アンタが作ってきたの?」
 そうして菓子パンを囓りながら、隣のアンジェの弁当をチラリと横目に見つつ、セラが何気ない調子でボソリと呟き問いかける。するとアンジェはうんと頷いて、
「趣味だからねー、お料理作るの」
 そう言って質問に答えながら、アンジェはニッコリと隣のセラに微笑みかけた。
「……そう」
 そんな彼女の微笑みを真横に見ながら、何処か素っ気ない調子で返しながら。セラはふと……この間のことを思い出していた。
「そういえばアンジェ、アンタこの間……怪物騒ぎに巻き込まれたんですってね」
 ――――ウィスタリア・セイレーンが現れた、あの商店街での一件のことを。
「あはは、大変だったよ」
 何気ない調子でセラが呟くと、アンジェは弁当箱の中身を口に運びつつ、困った感じに苦笑いを浮かべる。
 そんな彼女に、セラはこんな問いを投げ掛けてみた。
「その時に、何か見なかった?」
 ――――ある種の確信を秘めた、そんな問いかけを。
(遥さんのことは……やっぱり、秘密にしておいた方がいいよね)
 問われたアンジェは胸の内でそう思うと、一瞬の逡巡の後にセラに対してこう答える。
「うーん、別に何も見なかったよ?」
 ひとえに、遥が神姫ウィスタリア・セイレーンであることを隠すために。まさかセラもあの場に居合わせていて、そして遥と同じ神姫であることも知らないままに……アンジェは、嘘をついた。
「本当に?」
 ――――嘘だ。
 今アンジェが自分に嘘をついたこと、それを確信しつつも……セラは更に食い付いていく。
「……噂、あくまで噂なんだけれど、ヒーローみたいなのが怪物を倒したって噂なのよ。だから……その場に居合わせたアンジェなら、それを見たんじゃないかって」
「あはは、本当に何も見てないよー」
 だが、アンジェは尚も笑顔で否定する。
「……そう」
 そんなアンジェの笑顔を、彼女の横顔を横目に見ながら呟くセラは、ほんの少しだけ表情を曇らせていた。
 あの時……現場に駆けつけたあの時に、アンジェが戒斗と一緒に、あの謎の神姫のすぐ傍に居た場面を見ていたからこそ。だからこそ、セラは表情を曇らせていた。
(アンジェ……どうして嘘なんか)
 理由は分からない。自分を巻き込むまいとしているのか、それとも言ったって信じて貰えないと思っているのか。或いは、あまりにショッキングな出来事だったせいで未だに記憶が混乱しているのか。
 どれだけ考えても、アンジェが嘘をついた理由がセラには分からなかった。
 分かるはずが、ないのだ。だってセラは――――間宮遥が神姫であることを、あの場に現れてアンジェたちを救った蒼い神姫、ウィスタリア・セイレーンであることを知らないのだから。
 だから……どれだけ思考を巡らせたところで、セラが答えに辿り着くはずがなかった。
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