17 / 131
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
第二章:紅蓮の乙女/05
しおりを挟む
そうして時間は過ぎて、夕方。放課後の訪れを告げるチャイムの音色が鳴り響く中、戒斗はいつものように神代学園の校門前にオレンジ色のZ33を横付けし、アンジェの帰りを待っていた。
「…………」
仄かに熱の籠もった、茜色の夕陽に照らされて煌めくオレンジ色のボディに寄りかかりつつ、無言のまま待つこと暫く。戒斗がふとしたタイミングで伏せていた眼を上げ、視線を校門の方に向けてみると……すると校門の向こう側から、手を振りながら歩いて来るアンジェの姿が彼の眼に映った。
「あの娘は……?」
だが、いつもと異なっている点がひとつ。手を振って笑顔で歩いて来るアンジェの隣に、まるで彼女に付き従うようにして、一際目立つ容姿をした……やたらと背の高い、物凄く綺麗な女の子の姿があったのだ。
あの背丈、どう見ても一八〇センチ級だ。一七五センチの戒斗よりも明らかに大きい。
アンジェと親しそうにしている辺り、彼女の友達だろうか。しかしアンジェにあんな友達が居た覚えは無いし、それにアンジェを毎日この学園まで送り迎えしているのに、戒斗は彼女の顔に全く見覚えがなかった。あんなに目立つ容姿をしていたら、否が応でも記憶に残りそうなものだが…………。
「カイトっ、ただいまっ!」
「ああ、おかえりアンジェ。……その娘は?」
「ん、セラのこと? セラならこの間戒斗にも言った、僕のクラスの転入生だよー。今日転入してきたんだ♪」
満面の笑みで嬉しそうに駆け寄ってくるアンジェを、こちらも薄い笑顔で出迎えつつ。戒斗が何気なく問うてみると、アンジェは隣に立つ長身の彼女――――セラのことを戒斗にそう説明してくれた。
とすれば、戒斗もセラを見ながら「ああ、君が例の」と納得する。そうするとセラの方も見慣れない戒斗の顔を小さく見下ろしつつ、彼にこう訊き返してくる。
「……セラフィナ・マックスウェル。貴方は?」
訊き返された戒斗はセラに名乗ろうとしたのだが、しかし戒斗が答えようとするよりも早く、アンジェが何もかもを笑顔でセラに説明してくれた。
「彼は戦部戒斗っていうんだ。この学園の卒業生で、僕とは家が隣同士で幼馴染み。さっき見せた屋上の合鍵をくれたのも、カイトなんだよー」
「……そう、アンタが噂の不良さんってワケね」
アンジェの説明を聞いて、セラが呟きながら肩を竦める。
戒斗はそんな彼女に「光栄だ」と皮肉で返しつつ、寄りかかっていたオレンジ色のボディから離れ、すぐ傍にあった助手席側のドアを慣れた手つきで開けた。
「さてと、乗ってくれアンジェ」
「ん、ありがとカイト」
そうすれば、アンジェがいつものようにZの助手席へと乗り込む。
アンジェの華奢な身体がちゃんとシートに収まったのを確認してから、戒斗は外側からドアを閉じ。そうしつつ、すぐ傍に立ったままのセラの方に向き直り。彼女の顔を小さく見上げながら、戒斗は改めてセラに話しかける。
「セラ、だったか君は」
「ええ」
「これからもアンジェと仲良くして貰えると、俺としても嬉しい。アンジェのこと、改めてよろしく頼むよ」
戒斗に言われて、セラはフッと小さく笑みを浮かべつつ。「言われなくても、よ」と薄い笑みで返し、続けて戒斗に向けてこう言った。
「アタシも結構気に入ってるからね、アンジェのことは」
「……そうか、安心した」
セラの好意的な反応を見て、戒斗は言葉通りに安堵した顔で彼女に小さく笑み。それから運転席の方に回り込むと、ドアを開けてボディと同色の本革パワーシートに身体を滑り込ませた。
キーは差しっぱなし、大排気量のV6エンジンは掛かったままだ。後はサイドブレーキを下ろし、ギアを入れるだけで走り出せる状態の愛機へと乗り込み、戒斗はシートベルトを締めつつで助手席越しにセラの方をチラリと見る。
「じゃあねセラ、また明日」
「ええ、また明日ね」
開いた窓越しに手を振るアンジェと、小さく屈んで彼女に手を振り返すセラ。そんな二人を横目に眺め、戒斗は小さく表情を緩ませると……隣のアンジェに「行こうか」と告げ、ハザードランプを切ったZ33を走らせ始めた。
何処か古めかしくも思えるエグゾーストノートを響かせ、走り去っていくオレンジ色のZ33。去って行くそのテールライトの描く軌跡を見送りながら、校門前に独り立ち尽くすセラはふと、何気なくこう思っていた。
確かに普通の学生生活……というのも、思っていたよりは悪くないのかも知れない――――と、アンジェの笑顔を思い浮かべながら。
「ふふっ……」
たった今別れたばかりの彼女の顔を思い浮かべる自分の顔に、いつしか自然と柔らかな笑みが浮かんでいたことに気付かぬまま――――セラは、遠ざかっていくテールライトを見送っていた。
(第二章『紅蓮の乙女』了)
「…………」
仄かに熱の籠もった、茜色の夕陽に照らされて煌めくオレンジ色のボディに寄りかかりつつ、無言のまま待つこと暫く。戒斗がふとしたタイミングで伏せていた眼を上げ、視線を校門の方に向けてみると……すると校門の向こう側から、手を振りながら歩いて来るアンジェの姿が彼の眼に映った。
「あの娘は……?」
だが、いつもと異なっている点がひとつ。手を振って笑顔で歩いて来るアンジェの隣に、まるで彼女に付き従うようにして、一際目立つ容姿をした……やたらと背の高い、物凄く綺麗な女の子の姿があったのだ。
あの背丈、どう見ても一八〇センチ級だ。一七五センチの戒斗よりも明らかに大きい。
アンジェと親しそうにしている辺り、彼女の友達だろうか。しかしアンジェにあんな友達が居た覚えは無いし、それにアンジェを毎日この学園まで送り迎えしているのに、戒斗は彼女の顔に全く見覚えがなかった。あんなに目立つ容姿をしていたら、否が応でも記憶に残りそうなものだが…………。
「カイトっ、ただいまっ!」
「ああ、おかえりアンジェ。……その娘は?」
「ん、セラのこと? セラならこの間戒斗にも言った、僕のクラスの転入生だよー。今日転入してきたんだ♪」
満面の笑みで嬉しそうに駆け寄ってくるアンジェを、こちらも薄い笑顔で出迎えつつ。戒斗が何気なく問うてみると、アンジェは隣に立つ長身の彼女――――セラのことを戒斗にそう説明してくれた。
とすれば、戒斗もセラを見ながら「ああ、君が例の」と納得する。そうするとセラの方も見慣れない戒斗の顔を小さく見下ろしつつ、彼にこう訊き返してくる。
「……セラフィナ・マックスウェル。貴方は?」
訊き返された戒斗はセラに名乗ろうとしたのだが、しかし戒斗が答えようとするよりも早く、アンジェが何もかもを笑顔でセラに説明してくれた。
「彼は戦部戒斗っていうんだ。この学園の卒業生で、僕とは家が隣同士で幼馴染み。さっき見せた屋上の合鍵をくれたのも、カイトなんだよー」
「……そう、アンタが噂の不良さんってワケね」
アンジェの説明を聞いて、セラが呟きながら肩を竦める。
戒斗はそんな彼女に「光栄だ」と皮肉で返しつつ、寄りかかっていたオレンジ色のボディから離れ、すぐ傍にあった助手席側のドアを慣れた手つきで開けた。
「さてと、乗ってくれアンジェ」
「ん、ありがとカイト」
そうすれば、アンジェがいつものようにZの助手席へと乗り込む。
アンジェの華奢な身体がちゃんとシートに収まったのを確認してから、戒斗は外側からドアを閉じ。そうしつつ、すぐ傍に立ったままのセラの方に向き直り。彼女の顔を小さく見上げながら、戒斗は改めてセラに話しかける。
「セラ、だったか君は」
「ええ」
「これからもアンジェと仲良くして貰えると、俺としても嬉しい。アンジェのこと、改めてよろしく頼むよ」
戒斗に言われて、セラはフッと小さく笑みを浮かべつつ。「言われなくても、よ」と薄い笑みで返し、続けて戒斗に向けてこう言った。
「アタシも結構気に入ってるからね、アンジェのことは」
「……そうか、安心した」
セラの好意的な反応を見て、戒斗は言葉通りに安堵した顔で彼女に小さく笑み。それから運転席の方に回り込むと、ドアを開けてボディと同色の本革パワーシートに身体を滑り込ませた。
キーは差しっぱなし、大排気量のV6エンジンは掛かったままだ。後はサイドブレーキを下ろし、ギアを入れるだけで走り出せる状態の愛機へと乗り込み、戒斗はシートベルトを締めつつで助手席越しにセラの方をチラリと見る。
「じゃあねセラ、また明日」
「ええ、また明日ね」
開いた窓越しに手を振るアンジェと、小さく屈んで彼女に手を振り返すセラ。そんな二人を横目に眺め、戒斗は小さく表情を緩ませると……隣のアンジェに「行こうか」と告げ、ハザードランプを切ったZ33を走らせ始めた。
何処か古めかしくも思えるエグゾーストノートを響かせ、走り去っていくオレンジ色のZ33。去って行くそのテールライトの描く軌跡を見送りながら、校門前に独り立ち尽くすセラはふと、何気なくこう思っていた。
確かに普通の学生生活……というのも、思っていたよりは悪くないのかも知れない――――と、アンジェの笑顔を思い浮かべながら。
「ふふっ……」
たった今別れたばかりの彼女の顔を思い浮かべる自分の顔に、いつしか自然と柔らかな笑みが浮かんでいたことに気付かぬまま――――セラは、遠ざかっていくテールライトを見送っていた。
(第二章『紅蓮の乙女』了)
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる