上 下
4 / 131
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』

第一章:平穏で幸せに満ち溢れた日々の中で/03

しおりを挟む
「カイト、着替え終わった?」
「見ての通りだ」
「忘れ物は?」
「あると思うか?」
「ありそうだから訊いてるんだよー。車の鍵は持ったの?」
「……すまん、忘れた」
「ほらね? 君はおっちょこちょいなんだから」
「悪かったよ……ちょっと取ってくる」
 自虐っぽく肩を竦めつつ、アンジェを廊下に待たせたまま戒斗は目の前の扉、自宅二階の自室の扉をもう一度開け、再び自分の部屋に戻っていく。
 部屋の窓際にあるデスク、その上に置いてあった車のキー……遠隔施錠のキーレスエントリー用のリモコンが内蔵された、日産のエンブレムが刻まれた少し古いキーをデスクの上から引ったくり、戒斗は履いていたジーンズのポケットにそれを収める。
「忘れ物は……これ以上あったら困るな」
 そうして無事に忘れ物のキーを確保した後で、戒斗は部屋の壁に立て掛けてあった縦長の鏡、要は姿見すがたみの鏡に映る自分の姿をチラリと横目に見つつ、何処か皮肉っぽい調子でひとりごちる。
 …………あの後朝食を終え、着替えた今の戒斗は既に外出の為の身支度を終えていた。
 今の格好は襟を開けた黒のカッターシャツ、その上から黒いカジュアルスーツジャケットを羽織り、下は履き古しのジーンズといった感じの組み合わせだ。戒斗は大抵、この組み合わせで外を出歩く。トレードマークではないが、着慣れた組み合わせの格好だ。左手首には細身なステンレス製の腕時計を巻いている。
「カイト、もう良いかな?」
 そうして姿見をチラリと眺めていると、ガチャリと扉を開けたアンジェが廊下側から呼び掛けてくる。
「流石にな。んじゃあそろそろ行くか」
 呼び掛けられた戒斗は姿見から外した視線をアンジェに向けつつ、そう言葉を返した。
「だねー。遅刻しちゃうのも嫌だし」
「分かったよ……出来るだけ急ぐ」
「あはは、そこまで急ぎすぎなくてもいいよ? 何事も、急ぎすぎたって仕方ないしさ」
 微笑む彼女と合流し、制服姿のアンジェと二人で階段を降り。そうして一階の玄関で戒斗は履き慣れたスニーカーを、アンジェの方は学園指定のローファー靴を履き、その後でアンジェが傍らに置いてあった重そうなスクールバッグを左肩に担ぐ。
「お二人とも、行ってらっしゃい。道中お気を付けて」
 そうして二人が靴を履き終えた頃、玄関の方まで歩いてきた遥がわざわざ見送ってくれる。
「おう、遥も後のことは頼んだぜ」
「ありがとっ。それじゃあ遥さん、行ってきまーすっ」
「はい、行ってらっしゃい」
 振り返った二人がそれぞれ挨拶を返し、そうすれば玄関扉を開けて二人が外界に歩み出す。
 そんな戒斗とアンジェ、二人の背中を……玄関に立つ遥が、柔らかな微笑みとともに見送っていた。
「それじゃあカイト、今日もよろしくね?」
「へいへい、分かってるよ」
 遥の優しげな視線に見送られながら、二人が家の外へと踏み出していく。
 そうして向かう先は――――ただひとつ。この戦部家に隣接した、少し大きなガレージだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...