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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.41:Forget you not./俺が俺である為に①
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「…………」
「…………」
また、こちらもほぼ同じ頃。訓練生寮の屋上で白井が転落防止の柵に肘を突きぼうっと眺めている横で、ステラもまたそのすぐ傍で柵にもたれ掛かり。二人無言のまま、ただ降り注ぐ真夏の陽光に肌を焦がしていた。
吹き付ける微風が、ツーサイドアップに結ったステラの紅い髪の尾をふわりと揺らす。ステラは揺れる前髪を指先で小さく掻き上げると、金色の瞳で横目を流し、隣でぼうっと景色を眺め続ける白井の方にチラリと視線を這わせた。
(どうしちゃったのよ、ホントに)
白井が明らかに無理をしているのは、ステラの……いや、それ以外の誰の眼から見ても明らかだった。まして彼の事情を知るステラの眼から見れば、余計に白井は無理をしているように見える。
それに、今朝の出来事もあった。白井の独白を、途中から起きていたステラも聞いている。まどかの復讐を誓った、彼の独白を……。
ステラ自身としては、別に復讐を否定する気はない。寧ろそんな彼を手伝ってやりたいぐらいだ。ステラとて白井ほどではないが、まどかの死にはショックを受けていて。そして彼女の命を奪ったあの蒼い≪飛焔≫――――マスター・エイジに対しては並々ならぬ感情を抱いている。出来ることならばこの手で、奴の眉間に.44マグナムをブチ込んでやりたいぐらいの気持ちはステラにもあった。
だから、そのことに関してステラは何も心配はしていないのだ。強いて言うなら、彼がとんでもない無茶をしでかさないかが気掛かりなぐらい。それよりも心配なのは、彼が明らかに無理をしていることの方だった。
今の白井は、まどかの死を無理矢理に振り切ろうとしている気がする。彼の負った精神的負荷は並大抵ではないはずなのに、それこそ心がポッキリ折れていたはずなのに。それなのに白井は、それを無理矢理に振り切っているようにステラの瞳には映っていた。復讐という一点のみに己を預け、折れた心を無理矢理に叩き上げ。そうして彼は満身創痍のままに無理矢理立っているようにしか見えないのだ。
――――それこそ、自ら死に向かっていっているかのように。
「…………」
そんな彼の傍で、しかしステラは彼に何と声を掛けたら良いのかが分からなくなっていた。彼に対してどう接してやればいいのか、どんな言葉を掛けてやれば良いのか。分からないままに……ただ、こうして傍に居ることしか出来ないでいる。
(お笑いね、アンタにアイツを任せられたのは、アタシだってのに。そのアタシがこのザマじゃあ、あまりにも世話ないわ)
フッ、と自らを嘲笑するかのような自嘲めいた笑みを、ステラは知らず知らずの内に浮かべてしまっていた。
結局、自分自身もまだ迷っているのだ。これから先をどうすべきなのか、彼に対してどう接していくべきなのか。そして、己の気持ちとどう向き合っていくのかを。
(……アンタならこういう時、どうするのかしら)
そうして何故かステラの脳裏に過ぎるのは、まどかではなくエマの顔だった。こういう時ならまどかを思い浮かべるのがお決まりのはずなのに、しかし今のステラはエマの方を真っ先に思い出してしまう。
正直に言って、ステラは最近になってエマ・アジャーニを羨ましくも思っていた。何処までも真っ直ぐで、自分の気持ちを隠そうともせず、いつだって己が想いを純粋すぎるほどの直球で伝えられる、そんな彼女のことが。ステラはここ最近になって、本当に羨ましく思っていた。
だからこそ、なのかも知れない。こういう時に彼女ならどうするか、何だか訊いてみたくなったのは。何処までも純粋で、芯の強い彼女ならば、今にも砕け散ってしまいそうなな彼を隣にしてどうするのかを訊いてみたくなったのは……。
(何にせよ、白井はこのままだと折れちゃう気がする)
ならば、自分はどうするべきなのか。実のところ、答えは心の奥底で出ていたのかも知れない。ただ、それを口にすることを自分が勝手に憚っていただけで――――。
「あのさ、白井」
でも、これは言わなければならない。伝えなければならない。支えになってやらなければならないのだ。散ってしまった彼女に彼を託された者として。そして、純粋すぎるほどの気持ちで隣の彼を想い続けているからこそ、ステラは意を決して口を開いた。
「んあ……? どうしたのさ、ステラちゃん」
「私は、アンタに言わなきゃならないことが――――」
と、そこまで言い掛けた時だった。キィッと扉の蝶番《ちょうつがい》が軋む音がして、そうすれば足音と共に「おっ、居た居た」なんて風にお気楽な、しかしこのタイミングでは完全に邪魔でしかない男の声が二人の耳朶を打ったのは。
「……ありゃ、もしかしてお邪魔だったかしら」
二人の横顔を見るなり、バツの悪そうな顔になって。そしてその男が――――桐生省吾が、訓練生寮の屋上に現れた。
「…………」
また、こちらもほぼ同じ頃。訓練生寮の屋上で白井が転落防止の柵に肘を突きぼうっと眺めている横で、ステラもまたそのすぐ傍で柵にもたれ掛かり。二人無言のまま、ただ降り注ぐ真夏の陽光に肌を焦がしていた。
吹き付ける微風が、ツーサイドアップに結ったステラの紅い髪の尾をふわりと揺らす。ステラは揺れる前髪を指先で小さく掻き上げると、金色の瞳で横目を流し、隣でぼうっと景色を眺め続ける白井の方にチラリと視線を這わせた。
(どうしちゃったのよ、ホントに)
白井が明らかに無理をしているのは、ステラの……いや、それ以外の誰の眼から見ても明らかだった。まして彼の事情を知るステラの眼から見れば、余計に白井は無理をしているように見える。
それに、今朝の出来事もあった。白井の独白を、途中から起きていたステラも聞いている。まどかの復讐を誓った、彼の独白を……。
ステラ自身としては、別に復讐を否定する気はない。寧ろそんな彼を手伝ってやりたいぐらいだ。ステラとて白井ほどではないが、まどかの死にはショックを受けていて。そして彼女の命を奪ったあの蒼い≪飛焔≫――――マスター・エイジに対しては並々ならぬ感情を抱いている。出来ることならばこの手で、奴の眉間に.44マグナムをブチ込んでやりたいぐらいの気持ちはステラにもあった。
だから、そのことに関してステラは何も心配はしていないのだ。強いて言うなら、彼がとんでもない無茶をしでかさないかが気掛かりなぐらい。それよりも心配なのは、彼が明らかに無理をしていることの方だった。
今の白井は、まどかの死を無理矢理に振り切ろうとしている気がする。彼の負った精神的負荷は並大抵ではないはずなのに、それこそ心がポッキリ折れていたはずなのに。それなのに白井は、それを無理矢理に振り切っているようにステラの瞳には映っていた。復讐という一点のみに己を預け、折れた心を無理矢理に叩き上げ。そうして彼は満身創痍のままに無理矢理立っているようにしか見えないのだ。
――――それこそ、自ら死に向かっていっているかのように。
「…………」
そんな彼の傍で、しかしステラは彼に何と声を掛けたら良いのかが分からなくなっていた。彼に対してどう接してやればいいのか、どんな言葉を掛けてやれば良いのか。分からないままに……ただ、こうして傍に居ることしか出来ないでいる。
(お笑いね、アンタにアイツを任せられたのは、アタシだってのに。そのアタシがこのザマじゃあ、あまりにも世話ないわ)
フッ、と自らを嘲笑するかのような自嘲めいた笑みを、ステラは知らず知らずの内に浮かべてしまっていた。
結局、自分自身もまだ迷っているのだ。これから先をどうすべきなのか、彼に対してどう接していくべきなのか。そして、己の気持ちとどう向き合っていくのかを。
(……アンタならこういう時、どうするのかしら)
そうして何故かステラの脳裏に過ぎるのは、まどかではなくエマの顔だった。こういう時ならまどかを思い浮かべるのがお決まりのはずなのに、しかし今のステラはエマの方を真っ先に思い出してしまう。
正直に言って、ステラは最近になってエマ・アジャーニを羨ましくも思っていた。何処までも真っ直ぐで、自分の気持ちを隠そうともせず、いつだって己が想いを純粋すぎるほどの直球で伝えられる、そんな彼女のことが。ステラはここ最近になって、本当に羨ましく思っていた。
だからこそ、なのかも知れない。こういう時に彼女ならどうするか、何だか訊いてみたくなったのは。何処までも純粋で、芯の強い彼女ならば、今にも砕け散ってしまいそうなな彼を隣にしてどうするのかを訊いてみたくなったのは……。
(何にせよ、白井はこのままだと折れちゃう気がする)
ならば、自分はどうするべきなのか。実のところ、答えは心の奥底で出ていたのかも知れない。ただ、それを口にすることを自分が勝手に憚っていただけで――――。
「あのさ、白井」
でも、これは言わなければならない。伝えなければならない。支えになってやらなければならないのだ。散ってしまった彼女に彼を託された者として。そして、純粋すぎるほどの気持ちで隣の彼を想い続けているからこそ、ステラは意を決して口を開いた。
「んあ……? どうしたのさ、ステラちゃん」
「私は、アンタに言わなきゃならないことが――――」
と、そこまで言い掛けた時だった。キィッと扉の蝶番《ちょうつがい》が軋む音がして、そうすれば足音と共に「おっ、居た居た」なんて風にお気楽な、しかしこのタイミングでは完全に邪魔でしかない男の声が二人の耳朶を打ったのは。
「……ありゃ、もしかしてお邪魔だったかしら」
二人の横顔を見るなり、バツの悪そうな顔になって。そしてその男が――――桐生省吾が、訓練生寮の屋上に現れた。
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