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第五章『ブルー・オン・ブルー/若き戦士たちの挽歌』

Int.85:ブルー・オン・ブルー/舞い降りる漆黒、雷撃と焔

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『キャビン減圧完了、ハッチ開放! 降下六十秒前!』
 C-5JM"スーパー・ギャラクシー"大型輸送機の中、キャビンの中に横たわる漆黒のTAMSのコクピットで、独りの青年がデータリンク通信で聞こえる機長の声を片耳に、ただ瞼を閉じていた。
『おーおー、やってらやってら。雅人ぉ! 俺たちの下、すげードンパチ始まってんぜ』
「降下前だ。私語は慎め、省吾」
 雅人、と呼ばれた彼が片眼の瞼を開きながら疎めれば、何処かチャラ付いた声の、省吾というらしいもう一機の彼が『えー』と不満げにぶー垂れる。
『……全く、貴方はどうしてこう、緊張感というものが持てないのかしら』
『あー! クレアちゃんまでひでーや!』
 とすれば、横から割り込んでくるのはクールな女の声。省吾の口からクレアと名の飛び出してきた彼女の顔は、雅人の視界の端にも網膜投影で映し出されていた。ウィンドウに映る白すぎる肌と白銀の髪は、相変わらず眩しい。
『そうですよ、省吾さん。今回ばかりはクレアちゃんと、雅人の言う通りですっ』
『うう……。そうかいそうかい、皆で俺を虐めるのかい。俺ぁ哀しいよ、チームワークってもんは無いのか?』
「フッ、愛美に一本取られたな、省吾」
 スーパー・ギャラクシーのキャビンに搭載された最後の一機から飛んでくる、今度は快活な愛美の声に心折れる省吾を、雅人がほくそ笑むような顔でニヤニヤと眺める。
『降下、三十秒前!』
 何て会話を交わしていれば、また機長の声がデータリンク通信に響き渡った。
「各機、最終チェック。分かってるだろうが、特にパラシュート・ザックは念入りに確認しておけ。いざ降りてパラが開きませんでしたじゃあ、洒落にならない」
『ブレイズ04、りょーかーい。、ったく、皆ひどいぜ……』
『……ブレイズ03、問題は無い。雅人、私はいつでもいける』
『ブレイズ02、こっちも大丈夫だよっ』
 最終確認をするように促す雅人の言葉に、省吾、クレア、そして愛美の順で反応すれば、雅人は「なら良い」と満足げに頷き、
「ブレイズ・リーダーより"ブレイズ・シード"。現地の状況を説明してくれ」
『――――ブレイズ・シード、了解。現在地上では京都A-311訓練小隊、及び随伴のヘリ部隊がアンノウンの襲撃を受けている模様です。総数はおよそ七機。殆どは外国機の取るに足らない有象無象ですが、一機だけ腕の立つJS-16Eが混ざっています。一応、気を付けてください』
 雅人が呼びかければ、そうやって応答し簡潔に状況を報告してくれるのはコールサイン・"ブレイズ・シード"。即ち彼らの支援と管制を行うCPオフィサーの、実に冷静沈着な冷え切った少女の声だ。
「JS-16E? ≪飛焔≫が混ざってるのか。……だとすれば、厄介だな」
『降下、十秒前! お客さん方、準備頼む!』
 外国機ばかりなアンノウンの中に一機だけ自国の特殊作戦機≪飛焔≫が混ざっていることを怪訝に思い、そう雅人がひとりごち唸っていれば、再び無線に轟くのはそんな、降下直前を告げる機長の声だ。
『五秒前! 四、三、二、一。……今! 射出、降下開始!』
 そして、最後のファイヴ・カウントと共に機体を繋ぎ止めていたパレットの固定が外れ。キャビン上のレールを流れるようにして、まず最初の二機がスーパー・ギャラクシーの開いたハッチから機外へと滑り出していく。
 続けて、奥の二機も同様に投げ出される。四機はパレットを分離し、そのまま暫くの間自由落下を継続。暫くしたところで背中に背負ったパラシュート・ザックから傘をバッと開き、一気に減速する。
 星の瞬く雲の掛かった夜空に現れたのは、四機の黒いTAMSたちだった。JS-17C≪閃電≫が二機に、FSA-15J≪雪風≫が一機。そして雅人の乗る謎の一機も含めた、その全てが装甲を漆黒に染め上げていた。
 ただ、その肩に光るエンブレムだけが、黒く染まる中にポッと浮かび上がっている。雷光と、燃え盛る焔を表したエンブレムの隅に刻まれるのは、"202st-Special Mobility Squadron"の文字。そして――――。
「――――こちらは第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫、これより戦闘に参加する」
 "Lightning-Blaze"と、刻まれていた。
 暗い夜闇の中を舞い降りる、漆黒に染め上がる四機のTAMSたち。その中の一機――――雅人の駆るJS-16G≪飛焔≫が、暗闇の中にその赤い双眸を獰猛に光り、唸らせた。
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