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第四章『ファースト・ブラッド/A-311小隊、やがて少年たちは戦火の中へ』

Int.67:ファースト・ブラッド/吉川ジャンクション迎撃戦⑤

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「――――ッ!」
 近接格闘短刀を両手に、敵のド真ん中で立ち尽くすステラと深紅のFSA-15Eストライク・ヴァンガード。遠く離れた丘の上からその僅かな、ほんの一瞬で飛来してきた140mm徹甲弾は――――ステラの眼前に迫っていた大量のグラップル種の一団を、文字通りの血煙へと変えた。
 貫徹に特化した超大口径の徹甲弾は、たかがグラップルの十体や二十体如きを撃ち貫いたところで、その勢いを衰えさせはしない。MBT主力戦車の正面装甲すらブチ抜ける140mm徹甲弾の威力は、正に常軌を逸していた。
 千切れ飛んだグラップル種の手足が宙を舞い、赤い血の豪雨が降り注ぐ中。ただでさえ紅い装甲を更に血の色で汚しながらステラが見たものは、真っ正面に居た敵の群れ、その全てが文字通り吹き飛ぶシーンだった。
『そっちへ抜けろ、ステラちゃんっ!!』
 丘の上に膝を突いたまま、狙撃滑腔砲の再装填を急がせる白井が、叫ぶ。
「ッ――――!」
 ステラはそのまま、背部のメイン・スラスタを全開に吹かす。両足の裏側でゴルフ場の芝を土ごと抉りながら、地を這うようにしてステラのFSA-15Eストライク・ヴァンガードが、降り注ぐ鮮血の豪雨の中を一気に駆け抜ける。
 白井の一撃によって、包囲網の一部が文字通り抉れ飛んでいた。そこにステラは飛び込み、一気に敵の包囲網から脱する。
『さてと、もう一丁……!』
 そうしている間にも、白井はマッチ棒を加えたままの口で小さく独り言を呟き。そうすれば、丘の上で爆炎と共に再び閃光が瞬き、耳をつんざく爆音が轟いた。
 飛来した二発目の140mm砲弾は、今度はHEAT-MP多目的榴弾だった。丘の上、足元の地面に敢えて並べたカートリッジを素早く交換することで、白井は一瞬の内でカートリッジごと弾種の交換を成し遂げていたのだ。
 凄まじい速さで飛来した140mm口径HEAT-MP砲弾は、ステラ機を追おうと動き始めていた敵集団の、丁度足元ぐらいの地面にめり込み、着弾。そうして信管が作動すれば、ステラの背後で凄まじい爆発が巻き起こる。
 通常の対物榴弾と比べれば、HEAT-MPの爆発力は劣る。しかし満員電車の如く至近に密集していたグラップル種たちには効果的で、この一撃で数十体が一度に吹き飛ばされていた。生きている奴も手足が吹っ飛んでいたり五体不満足で、砲弾の加害範囲に脅威たり得る戦闘力を有した敵の姿は、殆どが消え失せている。
「……アンタへの礼、今は敢えて言わない」
『へへっ、礼なんて要らねえさ』
 視界の端に映る白井のウィンドウから小さく眼を逸らしながら、スラスタ全開で後退するステラが小声でそう呟けば。すると白井はニッと小さく笑みを浮かべながらそう返し、
『俺は俺の出来ることを、したいようにしただけのことさね。結果オーライなら、それで良しだ。……だろ、ステラちゃん?』
 そうやって白井は、普段通りの気の抜けた声色でステラにそう、言ってやった。
「……ふっ」
 ステラは尚もそっぽを向いたままで、しかし小さく笑みを浮かべる。その頬が小さく朱に染まっていたのを、この戦闘状況下では誰も気付いていなかった。
『さてと、露払いはここまでだ。…………締めの仕上げは頼んだぜ、相棒』
 そうしながら、白井は三撃目のHEAT-MP弾を撃ち放っていて。その一撃でステラを囲んでいたグラップルとソルジャーの六割近くを滅せれば、白井は小さくそう、呟いていた。
『――――オーケィ、白井! 刻んだぜ、その言葉ッ! ここから先は、俺の戦いだァァァァッ!!!』
 不敵に笑う白井が呟き、それを胸に深く刻みつければ、満を持して吶喊するはこの男を置いて他に無し。
 兵装を失い、全開出力でスラスタを吹かしながら全力で後退する、傷付いた深紅のFSA-15Eストライク・ヴァンガードとステラ・レーヴェンス。その背中の向こう側で――――白き閃光が、流星の如き勢いで突き抜ける。
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