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第四章『ファースト・ブラッド/A-311小隊、やがて少年たちは戦火の中へ』
Int.21:真影の詩、真夏の蒼穹と金色の少女②
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そんな紆余曲折がありつつも、二人は桂川駅から無事に東海道本線の列車に乗り込むことが出来た。
時間帯が午前九時もそこそこ過ぎた頃と微妙な頃合いだからか、既に通勤ラッシュの過ぎ去った車内は割と空いていた。座席にも余裕で座れるぐらいに空いていたが、しかし桂川駅から目的地の京都駅までは僅か五分ばかしの時間しか掛からない。たかだか二駅ばかり、座るのも面倒なので立っていようということで、一真とエマの二人は扉近くの壁にもたれ掛かりつつ、立ったまま電車に揺られていた。
「ところで、今日はどこ回るんだ?」
そんな具合で電車に揺られながら、すぐ傍に立つエマに一真が訊く。何せ、何処へ行くかだとか何をしに行くかだとか、そういうことは今回、一切決めていないのだ。一応電車に乗ったはいいが、流石に一真も気になったので訊いてみた、というわけだ。
すると、エマは唇に立てた人差し指を当てて「んー……」と思い悩む仕草を見せる。その後でうん、と小さく独りで頷くと、
「まあ、観光かな?」
「観光?」
「うん」訊き返す一真に、エマがもう一度頷いて肯定する。
「ステラもそうなんだけど、僕たち交換留学生ってこっちに来てから、色々と手続きとかで面倒なことが多かったからね。それに武闘大会とかもあったから、忙しくてとてもこの辺りを見て回ってる時間が無かったんだ」
「言われてみれば、かもな」
「だから、折角の夏休みだし、色々見ておきたくてね。カズマは、この辺詳しいの?」
「微妙なところだ」
苦笑いをしながら、エマの問いかけに一真が微妙な色で返す。この辺りは地元でもないし、本格的に回ったのも瀬那との一度きりだけだ。だから、詳しいかと聞かれてそうだと言えば、それは確実に嘘になってしまう。
「あ、そっか。カズマは京都の出身じゃなかったんだよね、確か」
「そういうこと。――――にしたって、観光目当てならもっと早くに言っておいてくれれば、白井辺りに適当な良い感じの所を見繕わせられたんだが」
しかし、エマは「ううん」と首を横に振る。
「こういうのは、行き当たりばったりぐらいが丁度楽しいんだ。……カズマは、そう思わない?」
「うーむ……」
首を傾げるエマに問われ、一瞬だけ一真は思い悩む。その後で、
「……まあ、嫌いじゃない」
そうやって頷いて、エマの問いかけに肯定の意志を示した。
「なら、いいじゃないか。行き当たりばったり、何処へ行くかも無計画。それぐらいな方が楽しいんだ、冒険ってのは」
クスッと小さく微笑みながらエマにそう言われると、一真も思わず頬を緩ませてしまい。「……かもな」なんて風に、半分無意識の内に頷いてしまう。
そんなやり取りを交わしている内に、二人を乗せた東海道本線の列車は目的地の京都駅へと到着し。そのままホームに降りて暫く歩き、自動改札を潜り抜けて、一真とエマの二人は京都駅の構内へと足を踏み入れた。
とはいえ、流石にエマでもこの周辺は買い物なんかでちょくちょく来ているらしく、割と心得ているらしい。であれば京都駅周辺を今更見て回る必要も無いと二人は判断し、とりあえず別の場所へ行くことに決めた。
「で、何処に行きたい?」
京都駅の構内をぶらりとアテもなく歩きながら一真が訊けば、エマはそんな一真の方を見上げて「カズマに任せるよ」と告げ、にっこりとまた微笑んだ。
「任せる、ったってなあ……」
任せられても、割と困るんだが……――――。
とはいえ、任せられた以上はなんとかするのが男というもの。軽く腹を括った一真は、しかし地図がなければどうしようもないということで、駅構内にある観光案内所みたいな所で観光マップを頂戴し、それを使って今日、エマをどこに連れて行ってやるかを考えることにした。
「へー、流石は京都だね。色々ありすぎて、分かんないや」
構内にあるちょっとしたベンチに座りながら一真が観光マップと睨めっこしていると、横からひょいと顔を出してきたエマが地図を覗き込みながら、割と素で驚嘆したみたいに驚きの声を上げる。
「ま、流石は修学旅行のド定番ってだけはあるな」
「修学、旅行?」
「要は、卒業旅行みたいな感じ。それを学校側が引率で、学年丸ごと集団でどこぞに引っ張っていくような感じの風習さ」
首を傾げ疑問符を浮かべたエマにそう説明してやると、エマは「へえー」と、また感嘆したような声を上げる。よく考えれば修学旅行は殆ど日本独自の風習みたいなものだから、生粋のフランス人である彼女がその概念を知らないのも無理ないことだ。
「それの定番が、京都なの?」
「まあな」観光マップに視線を落としたままで、肯定する一真。
「他にも色々行くところは多いけど、さて修学旅行だって言われて一番に思い浮かぶイメージは、やっぱり京都が一番かもね」
「ふーん……?」
至極感心した様子で頷くエマを横目に、一真は「よし」と言って地図を畳みながら立ち上がると、エマの方に振り返った。
「決まった?」
「決まった」ニッと口角を緩ませながら、見上げるエマに一真が即答する。
「つっても、とりあえずひとつかふたつぐらい行くところが決まったぐらいだけどな。後は――――」
「――行き当たりばったり、でしょ?」
ニコッと微笑んだエマにそう言われ、一真も「だな」と小さく微笑み返す。
「じゃあ行こうか、カズマ。エスコートはお願いね?」
少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そう言ってエマはベンチに座ったまま、片手をスッと一真の方に差し出してくる。それを一真は握り返しながら、
「お任せあれ」
頷きながら、一真はそんなエマの腕を引き。その身体ごと、彼女の身体を自分の方に引き寄せる。
時間帯が午前九時もそこそこ過ぎた頃と微妙な頃合いだからか、既に通勤ラッシュの過ぎ去った車内は割と空いていた。座席にも余裕で座れるぐらいに空いていたが、しかし桂川駅から目的地の京都駅までは僅か五分ばかしの時間しか掛からない。たかだか二駅ばかり、座るのも面倒なので立っていようということで、一真とエマの二人は扉近くの壁にもたれ掛かりつつ、立ったまま電車に揺られていた。
「ところで、今日はどこ回るんだ?」
そんな具合で電車に揺られながら、すぐ傍に立つエマに一真が訊く。何せ、何処へ行くかだとか何をしに行くかだとか、そういうことは今回、一切決めていないのだ。一応電車に乗ったはいいが、流石に一真も気になったので訊いてみた、というわけだ。
すると、エマは唇に立てた人差し指を当てて「んー……」と思い悩む仕草を見せる。その後でうん、と小さく独りで頷くと、
「まあ、観光かな?」
「観光?」
「うん」訊き返す一真に、エマがもう一度頷いて肯定する。
「ステラもそうなんだけど、僕たち交換留学生ってこっちに来てから、色々と手続きとかで面倒なことが多かったからね。それに武闘大会とかもあったから、忙しくてとてもこの辺りを見て回ってる時間が無かったんだ」
「言われてみれば、かもな」
「だから、折角の夏休みだし、色々見ておきたくてね。カズマは、この辺詳しいの?」
「微妙なところだ」
苦笑いをしながら、エマの問いかけに一真が微妙な色で返す。この辺りは地元でもないし、本格的に回ったのも瀬那との一度きりだけだ。だから、詳しいかと聞かれてそうだと言えば、それは確実に嘘になってしまう。
「あ、そっか。カズマは京都の出身じゃなかったんだよね、確か」
「そういうこと。――――にしたって、観光目当てならもっと早くに言っておいてくれれば、白井辺りに適当な良い感じの所を見繕わせられたんだが」
しかし、エマは「ううん」と首を横に振る。
「こういうのは、行き当たりばったりぐらいが丁度楽しいんだ。……カズマは、そう思わない?」
「うーむ……」
首を傾げるエマに問われ、一瞬だけ一真は思い悩む。その後で、
「……まあ、嫌いじゃない」
そうやって頷いて、エマの問いかけに肯定の意志を示した。
「なら、いいじゃないか。行き当たりばったり、何処へ行くかも無計画。それぐらいな方が楽しいんだ、冒険ってのは」
クスッと小さく微笑みながらエマにそう言われると、一真も思わず頬を緩ませてしまい。「……かもな」なんて風に、半分無意識の内に頷いてしまう。
そんなやり取りを交わしている内に、二人を乗せた東海道本線の列車は目的地の京都駅へと到着し。そのままホームに降りて暫く歩き、自動改札を潜り抜けて、一真とエマの二人は京都駅の構内へと足を踏み入れた。
とはいえ、流石にエマでもこの周辺は買い物なんかでちょくちょく来ているらしく、割と心得ているらしい。であれば京都駅周辺を今更見て回る必要も無いと二人は判断し、とりあえず別の場所へ行くことに決めた。
「で、何処に行きたい?」
京都駅の構内をぶらりとアテもなく歩きながら一真が訊けば、エマはそんな一真の方を見上げて「カズマに任せるよ」と告げ、にっこりとまた微笑んだ。
「任せる、ったってなあ……」
任せられても、割と困るんだが……――――。
とはいえ、任せられた以上はなんとかするのが男というもの。軽く腹を括った一真は、しかし地図がなければどうしようもないということで、駅構内にある観光案内所みたいな所で観光マップを頂戴し、それを使って今日、エマをどこに連れて行ってやるかを考えることにした。
「へー、流石は京都だね。色々ありすぎて、分かんないや」
構内にあるちょっとしたベンチに座りながら一真が観光マップと睨めっこしていると、横からひょいと顔を出してきたエマが地図を覗き込みながら、割と素で驚嘆したみたいに驚きの声を上げる。
「ま、流石は修学旅行のド定番ってだけはあるな」
「修学、旅行?」
「要は、卒業旅行みたいな感じ。それを学校側が引率で、学年丸ごと集団でどこぞに引っ張っていくような感じの風習さ」
首を傾げ疑問符を浮かべたエマにそう説明してやると、エマは「へえー」と、また感嘆したような声を上げる。よく考えれば修学旅行は殆ど日本独自の風習みたいなものだから、生粋のフランス人である彼女がその概念を知らないのも無理ないことだ。
「それの定番が、京都なの?」
「まあな」観光マップに視線を落としたままで、肯定する一真。
「他にも色々行くところは多いけど、さて修学旅行だって言われて一番に思い浮かぶイメージは、やっぱり京都が一番かもね」
「ふーん……?」
至極感心した様子で頷くエマを横目に、一真は「よし」と言って地図を畳みながら立ち上がると、エマの方に振り返った。
「決まった?」
「決まった」ニッと口角を緩ませながら、見上げるエマに一真が即答する。
「つっても、とりあえずひとつかふたつぐらい行くところが決まったぐらいだけどな。後は――――」
「――行き当たりばったり、でしょ?」
ニコッと微笑んだエマにそう言われ、一真も「だな」と小さく微笑み返す。
「じゃあ行こうか、カズマ。エスコートはお願いね?」
少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そう言ってエマはベンチに座ったまま、片手をスッと一真の方に差し出してくる。それを一真は握り返しながら、
「お任せあれ」
頷きながら、一真はそんなエマの腕を引き。その身体ごと、彼女の身体を自分の方に引き寄せる。
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