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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』
Int.48:決戦、白き巨人は大地に立つ
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――――そして、遂に決戦の日が訪れた。
「…………」
早朝から士官学校グラウンド脇のTAMS格納庫より運び出され、TAMS運搬用の大型車両・73式TAMS前線輸送トレーラーに乗せられる二機のTAMS。ステラのFSA-15E≪ストライク・ヴァンガード≫と一真のJS-17F≪閃電≫・タイプFが運搬される様を、一真は朝も早くからグラウンドの傍に立ち、制服スラックスのポケットに両手を突っ込みながら固唾を呑んで見守っていた。
「いよいよ、であるな」
「ああ」隣で腕組みをし、同じく作業を見守る瀬那に向けて一真が頷く。「いよいよだ」
「緊張は……其方とは、無縁であったか」
「多分な」笑いながら、瀬那の言葉に返す。「自覚が無いだけかも知れないけど」
「良い。男たるもの、戦の前にはどっしりと構えておくものだ。人事を尽くして天命を待つ、其方も昨日申しておっただろう?」
「まだ、人事は尽くしちゃいない。戦うのは、肝心なのはこれからだ」
「……そうであったな」
フッと小さく瀬那は笑う。そんな折に一真は肩を誰かに叩かれる感触を覚えたと思ったら、耳元で「よっ」と誰かが声を掛けてきた。
「白井、それに皆も」
肩を叩いてきたのは人懐っこい笑みを浮かべる白井で。それに彼の周りには美弥や、霧香の姿もあった。
「へへっ、何せ弥勒寺の晴れ舞台だ。折角だし、来ちまったぜ」
「良いのか? 土曜だから休みなのに」
「いーのいーの」バンバンと強く肩を叩きながら、白井が言う。「こういう時に連れの晴れ舞台見に来ないで、何が男だっての」
「そーですよぉ」
続けて声を上げたのは、美弥だ。
「最後まで見届けるのが、作戦立案役の役目ですしねっ!」
「美弥、君には本当に感謝しかない。美弥の立ててくれた作戦、キッチリ使わせて貰うぜ」
「はいっ!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべる美弥を見ていると、思わずこっちまで頬が緩んでしまう。
「……ふっ、見せて貰うよ、君の戦いっぷりを…………」
妙な笑みを浮かべながら意味深なことを言うのは、やはり霧香だ。相変わらずの妙な言動に困った一真は肩を竦めつつ、「ははは……じっくり見といてくれよ」と苦笑いしながら返す。
「霧香、美弥、それに白井よ。其方らも現地に見物へ行くのか?」
「勿論だぜ!」瀬那の問いかけに、威勢良くそう答えるのは白井だ。
「ふむ。であるのなら、西條教官でも錦戸教官でも、どちらかに一言話は通しておくがよい。行き帰りの関係がある故、な」
「っと、やべえやべえ……。すっかり忘れてたわ。ありがとな綾崎、助かったぜ。――――二人とも、行こうぜ!」
そう白井は瀬那に一言礼を言うと、教官二人を探しに慌ただしく駆け出していってしまった。
「あっ、待ってよお!」
「ふふふ……」
慌ててその後をバタバタと追いかける美弥と、余裕綽々といった風に早歩きで離れて行く霧香。瀬那は去って行く三人の後ろ姿を見送りながら、「相変わらず、騒がしい奴らよの」と呆れたように呟いた。
「ははは……。ま、それが白井たちの良いとこじゃないか?」
「確かに、其方の言葉にも一理あるな」
笑い合う二人の元へ、移動用の車両に乗れと錦戸が声を掛けにやって来るのは、それからすぐのことであった。
――――数時間後、嵐山演習場。
演習用のフィールド近くのスペースに、トレーラーの上で横倒しになった格好で一機の白いTAMSが横たわっていた。JS-17F≪閃電≫・タイプF。国防陸軍の現行主力機の一つで、その強化改修型。西條が何を思ったか一真に託した、彼の従者たる鋼鉄の巨人だ。
そんな≪閃電≫の横たわる73式輸送トレーラーの傍に、パイロット・スーツを身に纏った一真がゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。傍らにはヘッド・ギアを携え、歩くその足取りに迷いは欠片もない。
「……来たか、一真よ」
一真に気づき、傍らの兵装運搬コンテナにもたれて腕組みをしていた瀬那が反応する。コンテナから背を放し、彼と横並びになって瀬那も共に歩く。
「調子はどうであるか?」
「絶好調。問題なしって感じだ」
「ならよい」
うんうん、と満足したように瀬那は頷く。そうしている内に二人は輸送トレーラーのすぐ近くまで歩み寄っていて、その近くに立ち待っていた西條が一真を見つけるなり声を掛けてきた。
「良い面構えじゃないか。緊張はしてないようだね?」
「はい」頷き肯定する一真。「元々、そういう性分ですから」
「結構。――――私からはもう何も言わん。行ってこい、若人!」
バンッと西條に背中を叩かれ、一真は一層威勢良く「はい!」と返事をすると、トレーラーの梯子をよじ登っていく。
「一真っ!」
トレーラーの荷台に登った一真に、瀬那が叫んだ。
「彼奴の、ステラの性格を考えろ! ――――それが私から其方に言える、最後の助言だ!」
「……! ああ、分かったぜ瀬那!」
瀬那の言葉が、ヒントになるのか。それはまだ一真には分からない。だが背中を押す最後の切っ掛けにはなった。一真は眼下の瀬那に向け親指を立てて見せると、≪閃電≫の機体によじ登る。
「一真、勝って来るがよい! 勝って――――私の元へ、帰ってこい!」
魂からの叫びだった。そんな瀬那の叫び声は一真に届き、一真は一度小さく笑みを浮かべながら頷くと、胸部乗降ハッチから≪閃電≫のコクピットに滑り込んでいった。
横倒しになったコクピット・シートに一真が滑り込むと、身に纏うパイロット・スーツの非接触式コネクタがシートと接続され、機体と同期される。
ヘッド・ギアを頭に装着すると、視界に映し出されるのは網膜投影の各種機体情報。パイロット・スーツもヘッド・ギアも、どちらも今のところは正常に動作しているようだ。
正面に見えるコントロール・パネルを指先で操作し、機体の起動操作を開始。コクピット内の各種計器やその補助灯に光が灯ったかと思えば、一真の周囲を囲む半天周型のシームレス・モニタが目覚めた。
真っ白にホワイト・アウトしていたモニタの中央に"SENDEN-TYPE F"と一瞬メーカー・ロゴと共に映し出され、やがてそれが消えるとモニタは機体のカメラが捉える外部映像を映し始める。緑溢れる嵐山演習場の光景が、仰向けに寝転がる格好でモニタに浮かび上がった。
正面コントロール・パネルや操縦桿の生えるサイド・パネルにある各種計器やトグル・スウィッチを操作し、機体の起動作業を進めていく。UHF/VHF周波数帯無線機の動作チェック、燃料電池の残量確認、コンデンサのチェック、各部人工筋肉パッケージ、及びサーボ・モーターの動作確認、データリンク・システム稼働開始……。それら全てを素早く、しかし正確にこなしていく。ここいらの操作にももう慣れたものだ。
「こちらは弥勒寺機、機体起動作業、及びセルフ・チェック完了」
『弥勒寺機、了解。こちらは嵐山演習場管制センターだ。以後、演習終了まで貴様のコールサインは"ヴィクター2"となる。こちらはCPで構わない。復唱せよ』
無線越しに話しかければ、返ってきたのは聞き覚えのない男性士官の声だ。嵐山演習場管制センターと言っている辺り、この演習場に所属する士官だろう。
「CPへヴィクター2、コールサイン了解」
『結構。アメリカ人のお嬢ちゃん……ヴィクター1は既にフィールドへ移動を開始した。ヴィクター2も兵装受領後、速やかに演習場・A区画への移動を開始せよ』
「ヴィクター2、了解」
管制センターとの無線交信が終わると、程なくして一真の≪閃電≫を乗せたトレーラーの荷台が油圧仕掛けで独りでに起き上がり始めた。荷台が八十度近くの角度まで跳ね上がると、シームレス・モニタに映し出される視界は直立時と殆ど変わらなくなる。
『デッキのスタンバイ完了、いつでも出せる。固定解除のタイミングはそっちに委譲するぜ』
地上の整備クルーからの交信に「了解」と短く答えた一真は、機体を荷台に固定していたアームを全て解除させた。
≪閃電≫・タイプFが動き始める。輸送トレーラーの起きた荷台から離れ、遂に白き巨人は己が両脚で大地に立つ。人間の双眸にも似た頭部のカメラ・アイが、鈍く赤色の光を湛え唸りを上げた。
「…………」
早朝から士官学校グラウンド脇のTAMS格納庫より運び出され、TAMS運搬用の大型車両・73式TAMS前線輸送トレーラーに乗せられる二機のTAMS。ステラのFSA-15E≪ストライク・ヴァンガード≫と一真のJS-17F≪閃電≫・タイプFが運搬される様を、一真は朝も早くからグラウンドの傍に立ち、制服スラックスのポケットに両手を突っ込みながら固唾を呑んで見守っていた。
「いよいよ、であるな」
「ああ」隣で腕組みをし、同じく作業を見守る瀬那に向けて一真が頷く。「いよいよだ」
「緊張は……其方とは、無縁であったか」
「多分な」笑いながら、瀬那の言葉に返す。「自覚が無いだけかも知れないけど」
「良い。男たるもの、戦の前にはどっしりと構えておくものだ。人事を尽くして天命を待つ、其方も昨日申しておっただろう?」
「まだ、人事は尽くしちゃいない。戦うのは、肝心なのはこれからだ」
「……そうであったな」
フッと小さく瀬那は笑う。そんな折に一真は肩を誰かに叩かれる感触を覚えたと思ったら、耳元で「よっ」と誰かが声を掛けてきた。
「白井、それに皆も」
肩を叩いてきたのは人懐っこい笑みを浮かべる白井で。それに彼の周りには美弥や、霧香の姿もあった。
「へへっ、何せ弥勒寺の晴れ舞台だ。折角だし、来ちまったぜ」
「良いのか? 土曜だから休みなのに」
「いーのいーの」バンバンと強く肩を叩きながら、白井が言う。「こういう時に連れの晴れ舞台見に来ないで、何が男だっての」
「そーですよぉ」
続けて声を上げたのは、美弥だ。
「最後まで見届けるのが、作戦立案役の役目ですしねっ!」
「美弥、君には本当に感謝しかない。美弥の立ててくれた作戦、キッチリ使わせて貰うぜ」
「はいっ!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべる美弥を見ていると、思わずこっちまで頬が緩んでしまう。
「……ふっ、見せて貰うよ、君の戦いっぷりを…………」
妙な笑みを浮かべながら意味深なことを言うのは、やはり霧香だ。相変わらずの妙な言動に困った一真は肩を竦めつつ、「ははは……じっくり見といてくれよ」と苦笑いしながら返す。
「霧香、美弥、それに白井よ。其方らも現地に見物へ行くのか?」
「勿論だぜ!」瀬那の問いかけに、威勢良くそう答えるのは白井だ。
「ふむ。であるのなら、西條教官でも錦戸教官でも、どちらかに一言話は通しておくがよい。行き帰りの関係がある故、な」
「っと、やべえやべえ……。すっかり忘れてたわ。ありがとな綾崎、助かったぜ。――――二人とも、行こうぜ!」
そう白井は瀬那に一言礼を言うと、教官二人を探しに慌ただしく駆け出していってしまった。
「あっ、待ってよお!」
「ふふふ……」
慌ててその後をバタバタと追いかける美弥と、余裕綽々といった風に早歩きで離れて行く霧香。瀬那は去って行く三人の後ろ姿を見送りながら、「相変わらず、騒がしい奴らよの」と呆れたように呟いた。
「ははは……。ま、それが白井たちの良いとこじゃないか?」
「確かに、其方の言葉にも一理あるな」
笑い合う二人の元へ、移動用の車両に乗れと錦戸が声を掛けにやって来るのは、それからすぐのことであった。
――――数時間後、嵐山演習場。
演習用のフィールド近くのスペースに、トレーラーの上で横倒しになった格好で一機の白いTAMSが横たわっていた。JS-17F≪閃電≫・タイプF。国防陸軍の現行主力機の一つで、その強化改修型。西條が何を思ったか一真に託した、彼の従者たる鋼鉄の巨人だ。
そんな≪閃電≫の横たわる73式輸送トレーラーの傍に、パイロット・スーツを身に纏った一真がゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。傍らにはヘッド・ギアを携え、歩くその足取りに迷いは欠片もない。
「……来たか、一真よ」
一真に気づき、傍らの兵装運搬コンテナにもたれて腕組みをしていた瀬那が反応する。コンテナから背を放し、彼と横並びになって瀬那も共に歩く。
「調子はどうであるか?」
「絶好調。問題なしって感じだ」
「ならよい」
うんうん、と満足したように瀬那は頷く。そうしている内に二人は輸送トレーラーのすぐ近くまで歩み寄っていて、その近くに立ち待っていた西條が一真を見つけるなり声を掛けてきた。
「良い面構えじゃないか。緊張はしてないようだね?」
「はい」頷き肯定する一真。「元々、そういう性分ですから」
「結構。――――私からはもう何も言わん。行ってこい、若人!」
バンッと西條に背中を叩かれ、一真は一層威勢良く「はい!」と返事をすると、トレーラーの梯子をよじ登っていく。
「一真っ!」
トレーラーの荷台に登った一真に、瀬那が叫んだ。
「彼奴の、ステラの性格を考えろ! ――――それが私から其方に言える、最後の助言だ!」
「……! ああ、分かったぜ瀬那!」
瀬那の言葉が、ヒントになるのか。それはまだ一真には分からない。だが背中を押す最後の切っ掛けにはなった。一真は眼下の瀬那に向け親指を立てて見せると、≪閃電≫の機体によじ登る。
「一真、勝って来るがよい! 勝って――――私の元へ、帰ってこい!」
魂からの叫びだった。そんな瀬那の叫び声は一真に届き、一真は一度小さく笑みを浮かべながら頷くと、胸部乗降ハッチから≪閃電≫のコクピットに滑り込んでいった。
横倒しになったコクピット・シートに一真が滑り込むと、身に纏うパイロット・スーツの非接触式コネクタがシートと接続され、機体と同期される。
ヘッド・ギアを頭に装着すると、視界に映し出されるのは網膜投影の各種機体情報。パイロット・スーツもヘッド・ギアも、どちらも今のところは正常に動作しているようだ。
正面に見えるコントロール・パネルを指先で操作し、機体の起動操作を開始。コクピット内の各種計器やその補助灯に光が灯ったかと思えば、一真の周囲を囲む半天周型のシームレス・モニタが目覚めた。
真っ白にホワイト・アウトしていたモニタの中央に"SENDEN-TYPE F"と一瞬メーカー・ロゴと共に映し出され、やがてそれが消えるとモニタは機体のカメラが捉える外部映像を映し始める。緑溢れる嵐山演習場の光景が、仰向けに寝転がる格好でモニタに浮かび上がった。
正面コントロール・パネルや操縦桿の生えるサイド・パネルにある各種計器やトグル・スウィッチを操作し、機体の起動作業を進めていく。UHF/VHF周波数帯無線機の動作チェック、燃料電池の残量確認、コンデンサのチェック、各部人工筋肉パッケージ、及びサーボ・モーターの動作確認、データリンク・システム稼働開始……。それら全てを素早く、しかし正確にこなしていく。ここいらの操作にももう慣れたものだ。
「こちらは弥勒寺機、機体起動作業、及びセルフ・チェック完了」
『弥勒寺機、了解。こちらは嵐山演習場管制センターだ。以後、演習終了まで貴様のコールサインは"ヴィクター2"となる。こちらはCPで構わない。復唱せよ』
無線越しに話しかければ、返ってきたのは聞き覚えのない男性士官の声だ。嵐山演習場管制センターと言っている辺り、この演習場に所属する士官だろう。
「CPへヴィクター2、コールサイン了解」
『結構。アメリカ人のお嬢ちゃん……ヴィクター1は既にフィールドへ移動を開始した。ヴィクター2も兵装受領後、速やかに演習場・A区画への移動を開始せよ』
「ヴィクター2、了解」
管制センターとの無線交信が終わると、程なくして一真の≪閃電≫を乗せたトレーラーの荷台が油圧仕掛けで独りでに起き上がり始めた。荷台が八十度近くの角度まで跳ね上がると、シームレス・モニタに映し出される視界は直立時と殆ど変わらなくなる。
『デッキのスタンバイ完了、いつでも出せる。固定解除のタイミングはそっちに委譲するぜ』
地上の整備クルーからの交信に「了解」と短く答えた一真は、機体を荷台に固定していたアームを全て解除させた。
≪閃電≫・タイプFが動き始める。輸送トレーラーの起きた荷台から離れ、遂に白き巨人は己が両脚で大地に立つ。人間の双眸にも似た頭部のカメラ・アイが、鈍く赤色の光を湛え唸りを上げた。
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