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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』
Int.22:虚構空間、少年は幻影の戦場へ⑦
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『――――よし、終わりだ。シミュレータを停止。訓練生各位はシミュレータがスタンバイ位置に戻り次第、出て後半組と交代しろ』
あれだけ派手に動き回っていたシミュレータ装置が再び乗降用キャット・ウォークの近くに戻り、閉じられていた上面の乗降用ハッチが自動的に開く。そこから先んじて瀬那が降機して、前席が後方にスライドすると一真もまたシミュレータから降りようと、開いたハッチの縁に手を掛けようとした。
「一真」
とした所で、シミュレータ装置の上部に乗ったままの瀬那が、開いたハッチから一真に向けて片手を差し出してくる。
「おっ、サンキュ」
一瞬戸惑いながらも、一真は差し出されたその手を取った。一真のデカい無骨な手と瀬那の補く長い華奢な手とが重なり、そんなお人形さんじみた手からは想像も出来ないほどの強い力で引っ張り上げられたものだから、一真は思わず驚いて「うおっ」と声を出してしまう。
「っととと……。瀬那、意外と力あるんだな」
開いたハッチの枠に腰掛けながら、一真が言う。
「うむ。これでも鍛えているのでな」
「伊達に毎日毎日、刀ぶら下げてるワケじゃないってか」
「無論だ。――――っと」
未だに一真の手を握りっぱなしだったのにやっと気付いた瀬那は、「す、すまぬっ」と言うと慌てて一真の手を離し、瀬那は頬を小さく赤らめるとそっぽを向いてしまう。
「ん……?」
そんな瀬那の反応を怪訝に思いながらも、しかし遠くから聞こえてくる「ほら、さっさと降りてこい」という西條の声に急かされ、一真もシミュレータ装置から傍の乗降用キャット・ウォークに飛び降り、前半組を集める西條の元へと急いだ。
「さて、前半組の諸君はご苦労だった。待ってた後半組の奴らも、随分騒いでたぞ」
と、一同を集めた西條はまず最初にそう言って話を始めた。シミュレータ装置の傍にはそれぞれ"01"~"03"、そして"04"~"06"のシミュレーション状況をリアルタイムで映すモニタがそれぞれ一台ずつ設置されているから、後半組はそこから一真たちの訓練状況を見て騒いでいたのだろう。
「何分今日が初めてのシミュレータ訓練だ、撃墜判定を喰らうのも致し方ない。……ま、詳しいことは後だ。さっさと一人ずつ総評を言ってやるとしよう。
じゃあ最初、弥勒寺」
「あっ、はい」
真っ先に呼ばれるとは思わなかったので、一真は一瞬面食らう。それを西條は意に介さず、今回の訓練を終えての一真のざっとした評価を彼に告げる。
「全体的な動かし方としてはまだまだだ。……が、こればっかりは慣れと場数が物を言う。今日が初めてということを考えれば、寧ろ上等と言っても良い」
「あっ、ありがとうございます」
「兵装の使い方も適切だ。アーチャーが居る中での落下強襲はアレだが、状況次第では確かに選択肢には入る。咄嗟に対艦刀でなく短刀を使う判断も、悪くない。流石に知識が頭に入っているだけのことはあるな」
「恐縮です」
頭の後ろを手で押さえながら一真が何度か腰を低くすると、西條は「うむ」と頷き、
「次、東谷」と、霧香の総評に移る。
「…………はい」
呼ばれた霧香の顔は、やはり感情の起伏が少なそうな無表情めいた顔色だった。
「文句無しだ、何も言うことはない。というか東谷、本当に初めてか?」
「…………」コクッ、と短く頷き、霧香が肯定の意志を示す。
「むう、まあいいか……。
――――だが、少しばかり単独で突出しすぎるきらいがあるな。そこは直した方がいいと、私は思うぞ」
「……はい」
「では、次……チッ、白井」
「ちょっと教官!? 今チッって言いませんでした!?」
「気のせいだ、お前の耳が悪いだけだ。……チッ」
「ホラ! やっぱ言った! 今やっぱ言ったって!」
やはりやかましい反応でうるさい顔を撒き散らす白井に「少し黙ってろ」と西條は釘を刺し、それから「こほん」と咳払いをしてから改めて白井の総評を告げる。
「ハッキリ言って、下手くそだ」
「直球!?」
「だがさっきも言った通り、筋自体は決して悪くない。弥勒寺もそうだが、後は慣れだ。お前は初めて動かす上、弥勒寺のように予備知識も無い。ならばこの程度は、仕方ないといえば仕方ないぞ」
「ほっ……」
安心して胸をなで下ろす白井だったが、しかし次に西條はニィッとほくそ笑み、
「ま、何度も言うように前代未聞の死因だったがな。転んで起き上がれずにそのまま袋叩きだぞ?」
「だから教官んん!? それ言わないでくださいって! お願いしますからっ!」
「駄目だ。向こう十年はネタにさせて貰うよ」
「酷いわっ! 酷すぎるじゃないっ!」
何故か女言葉になって嘆く白井の反応を実に愉しげに眺めながら「はっはっは」と笑った西條は、続けて「では、次に綾崎」と瀬那を呼んだ。
「はっ」
「お前も中々に筋が良い。特に近接格闘はピカイチだろうな。流石は武道経験者だけある、ということか」
「恐縮であります」
「まあ射撃の方はイマイチだが、前衛張る分には問題ない範囲じゃないか? とにかく、センスは良い。これからも精進することだ」
随分とあっさりした総評を瀬那に言い終えた後で、西條は「……では、壬生谷」と、少し苦い顔で美弥の総評を始める。
「は、はい……」
今から西條が告げるであろう言葉がなんとなく自ずと分かっているからなのか、美弥は顔を俯き気味に、暗い顔で反応する。西條も少しバツが悪そうにしながら「……こほん」と咳払いをすると、意を決し美弥の総評を始めた。
「正直、かなりアレだ」
「……はい」
西條の言う"アレ"の意味が決して良い方向でないことは、この場に居る一真も含めた他の五人も、暗黙の内に理解することだった。
「まあ、後は練習次第って所だろうな……。そう気を落とすことはない」
「は、はい……」
落ち込み気味に頷く美弥。それを傍から見ていた一同は、あの白井ですらも神妙な顔でそれを見守ることしか出来ない。
――――美弥にきっとパイロット適性が無いんじゃないかってことは、恐らくこの場に居る誰もが共通して思っていることだろう。敢えてそれを口にしないだけで、一真は白井や瀬那、それにステラとでさえ目線だけで頷き合い、それが共通認識であることを暗黙の内に確認し合っている。
そんな空気に西條も辟易してきたのか、「……では、ステラ」とすぐに話題を変え、美弥から全員の意識を逸らさせた。
「当然だが、完璧だ。日本機は慣れてないだろうが、動かしてみた感想はどうだ?」
「悪くないですね」と、サッと髪を手で払いながらステラが答える。
「動きが柔らかくて、近距離戦闘は随分とやりやすく感じられましたわ。ただ」
「ただ、何だ?」
「あの……対艦刀、でしたっけ? サムライ・ソードは使い方がよく分かりませんでした。尤も私はアグレッサー部隊でしたから、仮想敵を演じる過程で何度か使ってみたことはありましたけれど。それでもやっぱり、使い慣れてない物は振り回しにくいですね」
――――ステラが73式対艦刀を使いづらいと言うのも当然だ、と一真は胸の奥で呟いていた。
何せ米軍は陸・海・空・海兵隊の四軍に於いてどの軍も対艦刀を正式配備していないのだ。こればかりはお国柄というか、そもそも長剣の類を使う文化に乏しいだけに、対艦刀を使うという発想が思い浮かばなかったのかもしれない。
基本的に米軍のTAMS戦術教本では、敵との近接戦闘に対処する際には機体標準装備のコンバット・ナイフ(国防軍で言うところの近接格闘短刀)を使うか、或いはアサルト・ライフルで対処しつつ下部マウントにガン・バヨネット(銃剣)、或いは代用品として機体装備のコンバット・ナイフを着剣し格闘戦を行えとされているのだ。ちなみに余談だが、米軍の言うガン・バヨネットは国防軍でも93式銃剣として似たような物が配備されている他、米軍の物と同じように突撃機関砲下部に短刀を銃剣代わりに装着できる。
――――閑話休題。
とにかく、米軍にはこういった事情があるのだ。これではステラが対艦刀の使い勝手を知らないのだって無理もない。寧ろ数度でも使用した経験があるというだけ、流石は元アグレッサー部隊だっただけはある。
「ま、無理に対艦刀を使う必要も無いだろう。必要であれば君のFSA-15Eにも装備させられるが、要らなければ要らないで構わない」
うんうん、と腕を組んで頷きながら西條は言うと、次に「では」と言って、
「とりあえず、現段階で私が見た限りの諸君らに対する総評はこんなところだ。以上で本日のシミュレータ訓練を終了とする」
そう最後にまとめて、前半組の訓練過程を締め括った。
あれだけ派手に動き回っていたシミュレータ装置が再び乗降用キャット・ウォークの近くに戻り、閉じられていた上面の乗降用ハッチが自動的に開く。そこから先んじて瀬那が降機して、前席が後方にスライドすると一真もまたシミュレータから降りようと、開いたハッチの縁に手を掛けようとした。
「一真」
とした所で、シミュレータ装置の上部に乗ったままの瀬那が、開いたハッチから一真に向けて片手を差し出してくる。
「おっ、サンキュ」
一瞬戸惑いながらも、一真は差し出されたその手を取った。一真のデカい無骨な手と瀬那の補く長い華奢な手とが重なり、そんなお人形さんじみた手からは想像も出来ないほどの強い力で引っ張り上げられたものだから、一真は思わず驚いて「うおっ」と声を出してしまう。
「っととと……。瀬那、意外と力あるんだな」
開いたハッチの枠に腰掛けながら、一真が言う。
「うむ。これでも鍛えているのでな」
「伊達に毎日毎日、刀ぶら下げてるワケじゃないってか」
「無論だ。――――っと」
未だに一真の手を握りっぱなしだったのにやっと気付いた瀬那は、「す、すまぬっ」と言うと慌てて一真の手を離し、瀬那は頬を小さく赤らめるとそっぽを向いてしまう。
「ん……?」
そんな瀬那の反応を怪訝に思いながらも、しかし遠くから聞こえてくる「ほら、さっさと降りてこい」という西條の声に急かされ、一真もシミュレータ装置から傍の乗降用キャット・ウォークに飛び降り、前半組を集める西條の元へと急いだ。
「さて、前半組の諸君はご苦労だった。待ってた後半組の奴らも、随分騒いでたぞ」
と、一同を集めた西條はまず最初にそう言って話を始めた。シミュレータ装置の傍にはそれぞれ"01"~"03"、そして"04"~"06"のシミュレーション状況をリアルタイムで映すモニタがそれぞれ一台ずつ設置されているから、後半組はそこから一真たちの訓練状況を見て騒いでいたのだろう。
「何分今日が初めてのシミュレータ訓練だ、撃墜判定を喰らうのも致し方ない。……ま、詳しいことは後だ。さっさと一人ずつ総評を言ってやるとしよう。
じゃあ最初、弥勒寺」
「あっ、はい」
真っ先に呼ばれるとは思わなかったので、一真は一瞬面食らう。それを西條は意に介さず、今回の訓練を終えての一真のざっとした評価を彼に告げる。
「全体的な動かし方としてはまだまだだ。……が、こればっかりは慣れと場数が物を言う。今日が初めてということを考えれば、寧ろ上等と言っても良い」
「あっ、ありがとうございます」
「兵装の使い方も適切だ。アーチャーが居る中での落下強襲はアレだが、状況次第では確かに選択肢には入る。咄嗟に対艦刀でなく短刀を使う判断も、悪くない。流石に知識が頭に入っているだけのことはあるな」
「恐縮です」
頭の後ろを手で押さえながら一真が何度か腰を低くすると、西條は「うむ」と頷き、
「次、東谷」と、霧香の総評に移る。
「…………はい」
呼ばれた霧香の顔は、やはり感情の起伏が少なそうな無表情めいた顔色だった。
「文句無しだ、何も言うことはない。というか東谷、本当に初めてか?」
「…………」コクッ、と短く頷き、霧香が肯定の意志を示す。
「むう、まあいいか……。
――――だが、少しばかり単独で突出しすぎるきらいがあるな。そこは直した方がいいと、私は思うぞ」
「……はい」
「では、次……チッ、白井」
「ちょっと教官!? 今チッって言いませんでした!?」
「気のせいだ、お前の耳が悪いだけだ。……チッ」
「ホラ! やっぱ言った! 今やっぱ言ったって!」
やはりやかましい反応でうるさい顔を撒き散らす白井に「少し黙ってろ」と西條は釘を刺し、それから「こほん」と咳払いをしてから改めて白井の総評を告げる。
「ハッキリ言って、下手くそだ」
「直球!?」
「だがさっきも言った通り、筋自体は決して悪くない。弥勒寺もそうだが、後は慣れだ。お前は初めて動かす上、弥勒寺のように予備知識も無い。ならばこの程度は、仕方ないといえば仕方ないぞ」
「ほっ……」
安心して胸をなで下ろす白井だったが、しかし次に西條はニィッとほくそ笑み、
「ま、何度も言うように前代未聞の死因だったがな。転んで起き上がれずにそのまま袋叩きだぞ?」
「だから教官んん!? それ言わないでくださいって! お願いしますからっ!」
「駄目だ。向こう十年はネタにさせて貰うよ」
「酷いわっ! 酷すぎるじゃないっ!」
何故か女言葉になって嘆く白井の反応を実に愉しげに眺めながら「はっはっは」と笑った西條は、続けて「では、次に綾崎」と瀬那を呼んだ。
「はっ」
「お前も中々に筋が良い。特に近接格闘はピカイチだろうな。流石は武道経験者だけある、ということか」
「恐縮であります」
「まあ射撃の方はイマイチだが、前衛張る分には問題ない範囲じゃないか? とにかく、センスは良い。これからも精進することだ」
随分とあっさりした総評を瀬那に言い終えた後で、西條は「……では、壬生谷」と、少し苦い顔で美弥の総評を始める。
「は、はい……」
今から西條が告げるであろう言葉がなんとなく自ずと分かっているからなのか、美弥は顔を俯き気味に、暗い顔で反応する。西條も少しバツが悪そうにしながら「……こほん」と咳払いをすると、意を決し美弥の総評を始めた。
「正直、かなりアレだ」
「……はい」
西條の言う"アレ"の意味が決して良い方向でないことは、この場に居る一真も含めた他の五人も、暗黙の内に理解することだった。
「まあ、後は練習次第って所だろうな……。そう気を落とすことはない」
「は、はい……」
落ち込み気味に頷く美弥。それを傍から見ていた一同は、あの白井ですらも神妙な顔でそれを見守ることしか出来ない。
――――美弥にきっとパイロット適性が無いんじゃないかってことは、恐らくこの場に居る誰もが共通して思っていることだろう。敢えてそれを口にしないだけで、一真は白井や瀬那、それにステラとでさえ目線だけで頷き合い、それが共通認識であることを暗黙の内に確認し合っている。
そんな空気に西條も辟易してきたのか、「……では、ステラ」とすぐに話題を変え、美弥から全員の意識を逸らさせた。
「当然だが、完璧だ。日本機は慣れてないだろうが、動かしてみた感想はどうだ?」
「悪くないですね」と、サッと髪を手で払いながらステラが答える。
「動きが柔らかくて、近距離戦闘は随分とやりやすく感じられましたわ。ただ」
「ただ、何だ?」
「あの……対艦刀、でしたっけ? サムライ・ソードは使い方がよく分かりませんでした。尤も私はアグレッサー部隊でしたから、仮想敵を演じる過程で何度か使ってみたことはありましたけれど。それでもやっぱり、使い慣れてない物は振り回しにくいですね」
――――ステラが73式対艦刀を使いづらいと言うのも当然だ、と一真は胸の奥で呟いていた。
何せ米軍は陸・海・空・海兵隊の四軍に於いてどの軍も対艦刀を正式配備していないのだ。こればかりはお国柄というか、そもそも長剣の類を使う文化に乏しいだけに、対艦刀を使うという発想が思い浮かばなかったのかもしれない。
基本的に米軍のTAMS戦術教本では、敵との近接戦闘に対処する際には機体標準装備のコンバット・ナイフ(国防軍で言うところの近接格闘短刀)を使うか、或いはアサルト・ライフルで対処しつつ下部マウントにガン・バヨネット(銃剣)、或いは代用品として機体装備のコンバット・ナイフを着剣し格闘戦を行えとされているのだ。ちなみに余談だが、米軍の言うガン・バヨネットは国防軍でも93式銃剣として似たような物が配備されている他、米軍の物と同じように突撃機関砲下部に短刀を銃剣代わりに装着できる。
――――閑話休題。
とにかく、米軍にはこういった事情があるのだ。これではステラが対艦刀の使い勝手を知らないのだって無理もない。寧ろ数度でも使用した経験があるというだけ、流石は元アグレッサー部隊だっただけはある。
「ま、無理に対艦刀を使う必要も無いだろう。必要であれば君のFSA-15Eにも装備させられるが、要らなければ要らないで構わない」
うんうん、と腕を組んで頷きながら西條は言うと、次に「では」と言って、
「とりあえず、現段階で私が見た限りの諸君らに対する総評はこんなところだ。以上で本日のシミュレータ訓練を終了とする」
そう最後にまとめて、前半組の訓練過程を締め括った。
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