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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』
Int.18:虚構空間、少年は幻影の戦場へ③
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そうして基本的な操作訓練を行うこと、数十分。ほぼ全員がTAMSの機体操作に慣れてきたところで、やっとこさ戦闘訓練が始まることになった。
『――――さて、時間も押している。基本的な操作はここまでだ』
西條の言葉に呼応して、虚像空間に立つ三機の≪新月≫がその動きを止める。そして少しもしない内に、モニタに映る景色の向こう側――――丁度丘の稜線に沿う形で、多数の敵影が一斉に姿を現した。
幻魔――――。
ゴクリ、と生唾を飲み込む一真。知識の上で、座学の上で知っていても。例え目の前の敵が仮想空間上に浮かぶ虚像であっても、しかしいざ目の前にするとやはり妙な汗が背中を伝ってしまう。
網膜投影された数々の情報の中に、目の前の敵の大群をスキャンしたデータがパッと浮かび上がる。敵集団を構成するのは小型種族――2mほどの人間サイズ――の"ソルジャー"と、TAMSと同じ8mほどの中型種族"グラップル"、そして同じ中型種族の"アーチャー"だ。
三種類全てが一対の手足がある人型をしていて、デカい頭にギョロッとしていてアンバランスな感じの巨大な二つ眼を持つ見た目だ。体色はソルジャーが真っ白で、グラップルとアーチャーが赤茶色。前者二種は長い手足で殴りかかってくるだけの攻撃しか出来ない為、TAMSなら楽に対処できる。しかしアーチャー種は腕にあるマシーン・ガンみたいな生体器官から実体弾を飛ばし遠距離攻撃を仕掛けてくる為、TAMSにとっても厄介な相手だ……。
『見えるか? アレが諸君らが戦うべき人類の、いや地球の敵"幻魔"だ』
無線から聞こえる西條の声に、一真含め一同がゴクリと息を呑む。視界の端に映る他の瀬那たち面々は反応度合いこそそれぞれながら、しかし誰もが一様に神妙な表情を浮かべている。しかしただ一人、霧香だけは普段通りに平然とした顔だった。
『諸君らには仮想上ながら、今から連中と一戦交えて貰う。何、心配することは無いさ。仮に撃墜されたとしても死ぬわけじゃない。それに今回は初回の戦闘訓練だから、難易度は抑え目にしてある』
奴らと、戦う――――。
無意識の内に、一真は操縦桿をギュッと強く握り締める。これが仮想空間上でのシミュレーションといえども、やはり身体を緊張に支配されてしまう……。
「……一真、落ち着いてやるがよい」
としていると、後席に座る瀬那がそんな風に声を掛けてくる。見れば、視界の端に映る瀬那の顔は既に落ち着きを取り戻し、普段通りの凛としたソレに戻っていた。
「…………ああ、分かってる」
それを見て、一真も負けていられないと思った。
だから一真は、強く頷いて彼女の言葉に応じる。そしてすうっと大きく深呼吸をすると、モニタに映し出される敵だらけの景色に焦点を合わせた。
(降伏は無い、か……)
ふと、入学式の時に西條が言っていた言葉が一真の脳内でフラッシュ・バックした。あの時は何気なしに受け取っていた言葉が、今ではとてつもない重みと確かな現実感を伴って肩にのし掛かってくる。
そうだ、相手は言葉の通じぬ侵略者。奴らを相手に降伏はあり得ない。これは、人間同士の戦争なんてチャチなものじゃないのだ――――。
『では、軽くだが今回のシチュエーションをざっと説明しよう。
――――十月某日、冬期に於ける休眠期を前にし、G06四国幻基巣より出現した幻魔が大攻勢を開始。苛烈な攻勢により瀬戸内海絶対防衛線は圧迫。防衛線の一部を幻魔中規模集団に食い破られ、現在その集団は京都を目指し東進中。諸君らの任務は、突出するこれら幻魔中規模集団を撃滅することにある。
……詳しい場所とかは気にするなよ? 細かい地形までは再現してないんだ、雰囲気で考えろ』
なんて具合に想定される訓練状況をざっと説明し終えた西條は、シミュレータに乗り込む訓練生たちに続けてこう告げる。
『兵装使用は自由。機関砲でも刀でもナイフでも、好きに使え。今回の目的はあくまでも習熟だからな。
――――では、一番から三番機に交戦を許可する。全機、マスターアーム・スウィッチを解除』
「了解」
西條の指示に従い、一真たち前席パイロットはそれぞれ正面のコントロール・パネルを操作。そこから生えるトグル式の、機体兵装の安全装置であるマスターアーム・スウィッチを安全状態の"SAFE"から解除状態の"ARM"に跳ね上げる。
それからすぐに、一真は機体が背中のマウントに背負った、20mm口径の93式突撃機関砲を両手に一挺ずつ自身の≪新月≫に持たせる。背中のマウントが軽く動き、人間の手を模した機体のマニピュレータがそれの銃把をガッチリと掴む。
自分の≪新月≫がしっかりと突撃機関砲を保持出来たのを確認しつつ、一真は左右にチラリと視線を走らせた。見ると霧香機は右手に一真と同じ93式突撃機関砲を持ち、左手には腰のマウントから抜いた73式対艦刀――要は、TAMS用の大きな刀だ――を携える格好だ。ちなみに白井機の方は、一真機と同じく両手に機関砲を持っている。
『各機、準備は出来たな? 今から連中の一時停止を解除する。訓練生各機はとにかく、目の前の敵を全て平らげてみせろ。
――――状況開始!』
西條の号令を合図に、まるで人形のように動きを止めていた仮想上の幻魔たちが一斉に動き始めた。
大量の敵軍団が足で鳴らす強烈な地響きと、奇妙な鳴き声。グラップル種は醜い顔に牙を剥き、アーチャー種はマシーン・ガン状の生体器官から次々と実体弾の雨あられを降らせてくる。
(これが、戦場。これが、幻魔との戦い――――)
とても仮想空間上に再現したとは思えない、この圧倒的な威圧感。それに思わず押し潰されそうになりながらも、しかし一真は握り締めた操縦桿から手を離すことはしない。
「一番機・弥勒寺、交戦――――!」
そして、少年は幻影の戦場へと赴く。背中のスラスタを短噴射しながら強く大地を蹴った一真の≪新月≫が、仮初の蒼穹を背に吶喊する――――!
『――――さて、時間も押している。基本的な操作はここまでだ』
西條の言葉に呼応して、虚像空間に立つ三機の≪新月≫がその動きを止める。そして少しもしない内に、モニタに映る景色の向こう側――――丁度丘の稜線に沿う形で、多数の敵影が一斉に姿を現した。
幻魔――――。
ゴクリ、と生唾を飲み込む一真。知識の上で、座学の上で知っていても。例え目の前の敵が仮想空間上に浮かぶ虚像であっても、しかしいざ目の前にするとやはり妙な汗が背中を伝ってしまう。
網膜投影された数々の情報の中に、目の前の敵の大群をスキャンしたデータがパッと浮かび上がる。敵集団を構成するのは小型種族――2mほどの人間サイズ――の"ソルジャー"と、TAMSと同じ8mほどの中型種族"グラップル"、そして同じ中型種族の"アーチャー"だ。
三種類全てが一対の手足がある人型をしていて、デカい頭にギョロッとしていてアンバランスな感じの巨大な二つ眼を持つ見た目だ。体色はソルジャーが真っ白で、グラップルとアーチャーが赤茶色。前者二種は長い手足で殴りかかってくるだけの攻撃しか出来ない為、TAMSなら楽に対処できる。しかしアーチャー種は腕にあるマシーン・ガンみたいな生体器官から実体弾を飛ばし遠距離攻撃を仕掛けてくる為、TAMSにとっても厄介な相手だ……。
『見えるか? アレが諸君らが戦うべき人類の、いや地球の敵"幻魔"だ』
無線から聞こえる西條の声に、一真含め一同がゴクリと息を呑む。視界の端に映る他の瀬那たち面々は反応度合いこそそれぞれながら、しかし誰もが一様に神妙な表情を浮かべている。しかしただ一人、霧香だけは普段通りに平然とした顔だった。
『諸君らには仮想上ながら、今から連中と一戦交えて貰う。何、心配することは無いさ。仮に撃墜されたとしても死ぬわけじゃない。それに今回は初回の戦闘訓練だから、難易度は抑え目にしてある』
奴らと、戦う――――。
無意識の内に、一真は操縦桿をギュッと強く握り締める。これが仮想空間上でのシミュレーションといえども、やはり身体を緊張に支配されてしまう……。
「……一真、落ち着いてやるがよい」
としていると、後席に座る瀬那がそんな風に声を掛けてくる。見れば、視界の端に映る瀬那の顔は既に落ち着きを取り戻し、普段通りの凛としたソレに戻っていた。
「…………ああ、分かってる」
それを見て、一真も負けていられないと思った。
だから一真は、強く頷いて彼女の言葉に応じる。そしてすうっと大きく深呼吸をすると、モニタに映し出される敵だらけの景色に焦点を合わせた。
(降伏は無い、か……)
ふと、入学式の時に西條が言っていた言葉が一真の脳内でフラッシュ・バックした。あの時は何気なしに受け取っていた言葉が、今ではとてつもない重みと確かな現実感を伴って肩にのし掛かってくる。
そうだ、相手は言葉の通じぬ侵略者。奴らを相手に降伏はあり得ない。これは、人間同士の戦争なんてチャチなものじゃないのだ――――。
『では、軽くだが今回のシチュエーションをざっと説明しよう。
――――十月某日、冬期に於ける休眠期を前にし、G06四国幻基巣より出現した幻魔が大攻勢を開始。苛烈な攻勢により瀬戸内海絶対防衛線は圧迫。防衛線の一部を幻魔中規模集団に食い破られ、現在その集団は京都を目指し東進中。諸君らの任務は、突出するこれら幻魔中規模集団を撃滅することにある。
……詳しい場所とかは気にするなよ? 細かい地形までは再現してないんだ、雰囲気で考えろ』
なんて具合に想定される訓練状況をざっと説明し終えた西條は、シミュレータに乗り込む訓練生たちに続けてこう告げる。
『兵装使用は自由。機関砲でも刀でもナイフでも、好きに使え。今回の目的はあくまでも習熟だからな。
――――では、一番から三番機に交戦を許可する。全機、マスターアーム・スウィッチを解除』
「了解」
西條の指示に従い、一真たち前席パイロットはそれぞれ正面のコントロール・パネルを操作。そこから生えるトグル式の、機体兵装の安全装置であるマスターアーム・スウィッチを安全状態の"SAFE"から解除状態の"ARM"に跳ね上げる。
それからすぐに、一真は機体が背中のマウントに背負った、20mm口径の93式突撃機関砲を両手に一挺ずつ自身の≪新月≫に持たせる。背中のマウントが軽く動き、人間の手を模した機体のマニピュレータがそれの銃把をガッチリと掴む。
自分の≪新月≫がしっかりと突撃機関砲を保持出来たのを確認しつつ、一真は左右にチラリと視線を走らせた。見ると霧香機は右手に一真と同じ93式突撃機関砲を持ち、左手には腰のマウントから抜いた73式対艦刀――要は、TAMS用の大きな刀だ――を携える格好だ。ちなみに白井機の方は、一真機と同じく両手に機関砲を持っている。
『各機、準備は出来たな? 今から連中の一時停止を解除する。訓練生各機はとにかく、目の前の敵を全て平らげてみせろ。
――――状況開始!』
西條の号令を合図に、まるで人形のように動きを止めていた仮想上の幻魔たちが一斉に動き始めた。
大量の敵軍団が足で鳴らす強烈な地響きと、奇妙な鳴き声。グラップル種は醜い顔に牙を剥き、アーチャー種はマシーン・ガン状の生体器官から次々と実体弾の雨あられを降らせてくる。
(これが、戦場。これが、幻魔との戦い――――)
とても仮想空間上に再現したとは思えない、この圧倒的な威圧感。それに思わず押し潰されそうになりながらも、しかし一真は握り締めた操縦桿から手を離すことはしない。
「一番機・弥勒寺、交戦――――!」
そして、少年は幻影の戦場へと赴く。背中のスラスタを短噴射しながら強く大地を蹴った一真の≪新月≫が、仮初の蒼穹を背に吶喊する――――!
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