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Execute.05:シチリアへようこそ -Welcome to Sicily-
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シチリア島、そこは数々の文明と人種が古代より交錯してきた土地。長靴のような格好をした雄大なイタリア半島の南側、地中海のド真ん中に悠然と浮かぶこの場所は、様々な文明が交差する場所でもあった。
一八世紀から一九世紀を生きた、かのドイツ人の文豪ゲーテ曰く「イタリア、それもシチリアを抜きにしては、何一つ心に刻みつけるものはない。シチリアにこそ全てを解く鍵がある」。遠い過去から今現在に至るまで、そして恐らくはまだ見ぬ未来に於いても。人々を魅了し続ける地中海の宝石、それがきっと、このシチリアという場所なのだろう。
また、マフィア発祥の地としても知られているのが、このシチリア島だ。今では闇社会に蠢く犯罪組織の代名詞のようになってしまった言葉だが、元々は彼らを指す言葉だった。マフィアを扱った映画、1972年の「ゴッドファーザー」や、或いは1988年の「ニュー・シネマ・パラダイス」などでも、このシチリアを舞台とするシーンがある。
とまあ、こういった具合に歴史深い土地を、零士は翌日になればまたノエルを引き連れてカターニア市内の高級ホテルを出て、銀のマセラティ・メラクSSでかっ飛ばしていた。
「……♪」
昼頃を少し手前にした、現地時間の午前十一時過ぎ。降り注ぐ暖かな陽光を車のガラス越しに浴びながら、零士は掛けたサングラス越しに行く先を見据え。隣でご機嫌そうに小さく鼻歌なんか歌うノエルをチラリと横目に、カターニア市内の中をぐるぐるとメラクSSに走らせている。
今日の目的は、襲撃予定地となる製薬会社のラボの下見だ。しかしそれだけでは味気なさ過ぎるので、観光も兼ねようということで、こうしてアテもなく市内をぐるぐる回っているのだ。
ちなみに、そう提案したのは意外にも零士の方からだ。何でまたこんな提案をしたのか、確たる理由は自分でもよく分からないが。とはいえ、こうしてノエルが楽しそうな顔をしてくれているので、ひとまずは良しとしよう。
「どうだノエル、シチリアは?」
「とっても綺麗な街だね」と、にこやかな笑顔でノエル。
「気候も暖かいし、心地良いな。レイは前にも来たことがあるの?」
続けてノエルに訊き返されると、零士は「何度かな」と、メラクSSのギアを一段上へ突っ込みながらで短く答えてやる。
「それでも、シチリアは随分と久し振りだ。ヨーロッパは回る機会が多いんだが、どうにも地中海に用事は少なくてさ。何だかんだ、来るのは二年ぶりぐらいかもな」
「そっか。……二年、か」
二年。
その言葉を聞いて、ノエルがほんの少しだけ横顔を曇らせたのを。それを零士は、サングラスの隙間からの横目で見逃さなかった。
見逃さなかったが、しかし敢えてそれを深く追求することはしなかった。彼女がほんの僅かに表情を曇らせた理由を、何となく察せてしまっていたから。
きっと、ノエルが思い出してしまったのは両親のことだろう。彼女がミラージュとなる切っ掛けとなった出来事、即ち両親の死を思い出してしまったから。故に彼女は、少しばかりのセンチメンタルを覚えてしまったのではないだろうか。
確証は、ない。だが確信はあった。だからこそ零士は、彼女に対してほんの少しの申し訳なさを感じていた。何の気無しの発言といえ、こんな時にまで妙なことを彼女に思い出させてしまったことを、詫びたい気分だった。
「……そろそろ、下見に行くか」
だが、零士はそうしなかった。下手に詫びてしまえば、またノエルに要らぬコトを思い出させてしまいそうだったから。普段なら詫びているようなタイミングでも、しかし今は出先の海外。それも、任務をすぐ目の前にしているような時期だ。彼女の気分をこれ以上、変に揺らしたくはなかった。
故に、零士は話を切り替えるようにそう言ったのだ。シチリア観光は一旦切り上げて、ラボの方の敵情視察に行こうと。
「そうだね。確か、此処から近いんだっけ?」
「近くもないけど、かといって遠くもない。……ま、言ってる内に着くさ」
一八世紀から一九世紀を生きた、かのドイツ人の文豪ゲーテ曰く「イタリア、それもシチリアを抜きにしては、何一つ心に刻みつけるものはない。シチリアにこそ全てを解く鍵がある」。遠い過去から今現在に至るまで、そして恐らくはまだ見ぬ未来に於いても。人々を魅了し続ける地中海の宝石、それがきっと、このシチリアという場所なのだろう。
また、マフィア発祥の地としても知られているのが、このシチリア島だ。今では闇社会に蠢く犯罪組織の代名詞のようになってしまった言葉だが、元々は彼らを指す言葉だった。マフィアを扱った映画、1972年の「ゴッドファーザー」や、或いは1988年の「ニュー・シネマ・パラダイス」などでも、このシチリアを舞台とするシーンがある。
とまあ、こういった具合に歴史深い土地を、零士は翌日になればまたノエルを引き連れてカターニア市内の高級ホテルを出て、銀のマセラティ・メラクSSでかっ飛ばしていた。
「……♪」
昼頃を少し手前にした、現地時間の午前十一時過ぎ。降り注ぐ暖かな陽光を車のガラス越しに浴びながら、零士は掛けたサングラス越しに行く先を見据え。隣でご機嫌そうに小さく鼻歌なんか歌うノエルをチラリと横目に、カターニア市内の中をぐるぐるとメラクSSに走らせている。
今日の目的は、襲撃予定地となる製薬会社のラボの下見だ。しかしそれだけでは味気なさ過ぎるので、観光も兼ねようということで、こうしてアテもなく市内をぐるぐる回っているのだ。
ちなみに、そう提案したのは意外にも零士の方からだ。何でまたこんな提案をしたのか、確たる理由は自分でもよく分からないが。とはいえ、こうしてノエルが楽しそうな顔をしてくれているので、ひとまずは良しとしよう。
「どうだノエル、シチリアは?」
「とっても綺麗な街だね」と、にこやかな笑顔でノエル。
「気候も暖かいし、心地良いな。レイは前にも来たことがあるの?」
続けてノエルに訊き返されると、零士は「何度かな」と、メラクSSのギアを一段上へ突っ込みながらで短く答えてやる。
「それでも、シチリアは随分と久し振りだ。ヨーロッパは回る機会が多いんだが、どうにも地中海に用事は少なくてさ。何だかんだ、来るのは二年ぶりぐらいかもな」
「そっか。……二年、か」
二年。
その言葉を聞いて、ノエルがほんの少しだけ横顔を曇らせたのを。それを零士は、サングラスの隙間からの横目で見逃さなかった。
見逃さなかったが、しかし敢えてそれを深く追求することはしなかった。彼女がほんの僅かに表情を曇らせた理由を、何となく察せてしまっていたから。
きっと、ノエルが思い出してしまったのは両親のことだろう。彼女がミラージュとなる切っ掛けとなった出来事、即ち両親の死を思い出してしまったから。故に彼女は、少しばかりのセンチメンタルを覚えてしまったのではないだろうか。
確証は、ない。だが確信はあった。だからこそ零士は、彼女に対してほんの少しの申し訳なさを感じていた。何の気無しの発言といえ、こんな時にまで妙なことを彼女に思い出させてしまったことを、詫びたい気分だった。
「……そろそろ、下見に行くか」
だが、零士はそうしなかった。下手に詫びてしまえば、またノエルに要らぬコトを思い出させてしまいそうだったから。普段なら詫びているようなタイミングでも、しかし今は出先の海外。それも、任務をすぐ目の前にしているような時期だ。彼女の気分をこれ以上、変に揺らしたくはなかった。
故に、零士は話を切り替えるようにそう言ったのだ。シチリア観光は一旦切り上げて、ラボの方の敵情視察に行こうと。
「そうだね。確か、此処から近いんだっけ?」
「近くもないけど、かといって遠くもない。……ま、言ってる内に着くさ」
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