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Execute.03:ノエル・アジャーニ -Noelle Adjani-
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「とーちゃーくっ!!」
シャーリィと別れ、零士がノエルたちに連れて来られた先は、何故かというべきなのか予想通りと言うべきなのか。そこはいつも小雪に連れられて来ている、あのゲームセンターだった。
「またここかよ」
「まあまあ、小雪のリクエストだから」
全力で呆れる零士を、傍らのノエルが苦笑いで宥めつつ。はしゃいで先を行く小雪を追いかけて、二人も店内へ。賑やかな喧噪の大波たちが奏でる多重奏が支配する、そんな煌びやかな店内へと足を踏み入れていく。
まあ、そこからはいつもの具合だ。アストロシティ筐体に詰め込まれた格闘ゲームでは、このテのゲームに不慣れなノエルを小雪がレクチャーし。かと思えばノエルは見慣れないクレーンゲームに眼を輝かせていて、彼女が必死に取ろうとしていた白兎のぬいぐるみは零士が取ろう……としたが上手くいかず、こちらも結局は小雪のウデに任せることとなった。
「はい、ノエルちゃんっ!」
「うわあ、ありがとう小雪っ!!」
見事に一発で白兎のぬいぐるみをゲットしてみせた小雪が、それを手渡すと。ぱぁっと顔を明るくし、嬉しさを滲ませたノエルが感極まって彼女に抱きついたりなんかしていた。
小雪は、このテのゲームは大得意なのだ。クレーンゲームには特に、昔は一時期随分と凝っていたと聞く。餅は餅屋というワケではないが、やはりプロフェッショナルに任せて正解だったようだ。凄く嬉しそうな笑顔を浮かべる、そんなノエルの横顔を見ていれば、零士は特にそう思う。
その後の流れも、いつも通りだ。他にも色々と店内を巡り、電子ドラムを模した音楽リズムゲームでは零士が小雪どころか、初心者のノエルにまでボロ負けしてしまい、落ち込むあまり思わず床に手を突いて項垂れてしまったほど。零士は昔からこういった、いわゆる音ゲーが大の苦手なのだ。
で、次は定番のガンシューティング・ゲーム。最大で二人同時にしかプレイできない筐体だったから、小雪が「ノエルちゃんの腕前、見たいっ!」と言い出し、零士とノエルの二人でのプレイとなってしまった。彼女なりに、気を遣ってくれたのだろうか。
勿論、小雪は知らないが、二人はプロの拳銃稼業だ。当然、静かに闘志を燃やし合う。とはいえ協力プレイなので、二人の戦いぶりはそれこそ、嘗てのパリでの戦い、女傭兵ベアトリス・ブランシャールとの激戦を彷彿とさせるほどだった。
「レイ、右の奴!」
「もう仕留めた、そっちをフォローする」
「こっちも終わったよ……っと!」
「慌てるな、こういう時はショットガンだ」
「流石に慣れてるね。でも、僕だってレイに負けてられないんだ!」
とまあ、こんな具合。「おぉぉぉ……!」と小雪が興奮する傍ら、結局二人はワンコインで四ステージ全てクリアし、エンディングまで行ってしまったのだった。常日頃から事あるごとに切った張ったの鉄火場へと身を投じてきた二人だ、この程度は造作もない。
「さーてお二人さんっ! 最後はやっぱり……これでしょっ!!」
こんな感じで、そろそろゲーセンを出ようかと言っていた頃。小雪に連れられた二人が目の前にしたのは、やはりというべきかあの超・本格化レースゲーム、レーシングギア4の筐体の前だった。
「ノエル、初めてだからって手加減はしないぜ?」
「ふふっ、お手柔らかに頼むよ」
「私だって居るんだから、今日こそ零士に目にもの見せてやるんだからー!!」
やはり、これをやらずして終われない。三人はそれぞれの筐体に横並びになって座ると、百円硬貨を投入。店内対戦モードを選択し、それぞれの車種を選択した後で、ステージ選択に入る。
「一応訊くけどさノエル、場所は何処が良い?」
「うーん、よく分かんないからなあ。僕は二人にお任せするよ」
「右に同じ。今日は小雪に任せるさ」
「んー? じゃあ今日は……どうしよっかな、富士でいいか」
「とりあえず訊いてやるが、小雪。なんで富士だ?」
「だって、ストレート長いじゃん」
「だろうな、君らしいぜ」
そんなこんななやり取りがあって、走るステージは小雪の希望で、静岡に実在する富士スピードウェイに決定した。およそ一・五キロの長大なホーム・ストレートに、そこから一気に減速して突っ込む鋭角なヘアピン形状の第一コーナー。低・中・高速のコーナーが入り乱れた、テクニカルさとハイスピードを両立したコースだ。ゲーム内で再現しているのは2005年のリニューアル後の、世界基準に併せたテクニカルさが増やされた富士スピードウェイだった。
そして、それぞれが選んだ車種はこんな具合だった。勿論、全員クラッチ使用の完全マニュアル・モードだ。
車種は、零士が白の三菱・スタリオンGSR-VR最終型。小雪の方はいつも通り黒の日産・スカイラインGT-R最終型のVスペックⅡといった具合で、そしてノエルの方はといえば……。
「うおー、ノエルちゃん渋ぅーい」
「コルベット・スティングレイか、良い趣味してるぜ」
「あはは、昔この子とはちょっと縁があってね」
ノエルが選んだのは、1970年式と思われるアメリカ製のC3型シボレー・コルベット・スティングレイだった。ボディカラーは、彼女のアイオライトのような瞳の色とよく似た深い蒼。小雪の眼から見ても、零士の眼から見ても渋いチョイスだ。というか、これを収録しているゲーム自体も中々に凄まじい。収録台数は一体何百台なのやら。
と、ここからは小雪は元より零士も知らぬことではあったが。実はこのC3型コルベット・スティングレイ、過去にシャーリィから訓練を受けていた頃、彼女自身がこの日本で乗り回していた一台でもあるのだ。色も全く同じで、ノエルが初めて乗った車の一台でもある。今から思えば完全にシャーリィの趣味を押し付けられた格好だが、それでもノエルにとっては思い出深い一台だった。
(今頃あの子、何処で何してるんだろう)
一旦日本を離れた時、シャーリィが引き取ったところまでは知っている。だが、その後であのコルベット・スティングレイがどうなったのかは、ノエル自身も知らない。
そんな、嘗ての相棒に思いを馳せつつ。ノエルは筐体から映えるステアリングを細く長い両手できゅっと握った。仮想世界といえ、またあの子に乗れるようなものなのだ。負けたくないという思いは、一層強まっていく。
「じゃあ、やろうか二人とも」
「手加減は抜きで行かせて貰うぜ、ノエル。それに小雪も」
「今日こそ零士に勝ってやるんだから!」
「僕も負ける気は無いよ。幾ら相手がレイと小雪だからってね」
「満場一致で慈悲の心は無しってか。全く泣かせるぜ、ホントによ」
そして、三人の分身が仮想世界のサーキットへと飛び出していく。
シャーリィと別れ、零士がノエルたちに連れて来られた先は、何故かというべきなのか予想通りと言うべきなのか。そこはいつも小雪に連れられて来ている、あのゲームセンターだった。
「またここかよ」
「まあまあ、小雪のリクエストだから」
全力で呆れる零士を、傍らのノエルが苦笑いで宥めつつ。はしゃいで先を行く小雪を追いかけて、二人も店内へ。賑やかな喧噪の大波たちが奏でる多重奏が支配する、そんな煌びやかな店内へと足を踏み入れていく。
まあ、そこからはいつもの具合だ。アストロシティ筐体に詰め込まれた格闘ゲームでは、このテのゲームに不慣れなノエルを小雪がレクチャーし。かと思えばノエルは見慣れないクレーンゲームに眼を輝かせていて、彼女が必死に取ろうとしていた白兎のぬいぐるみは零士が取ろう……としたが上手くいかず、こちらも結局は小雪のウデに任せることとなった。
「はい、ノエルちゃんっ!」
「うわあ、ありがとう小雪っ!!」
見事に一発で白兎のぬいぐるみをゲットしてみせた小雪が、それを手渡すと。ぱぁっと顔を明るくし、嬉しさを滲ませたノエルが感極まって彼女に抱きついたりなんかしていた。
小雪は、このテのゲームは大得意なのだ。クレーンゲームには特に、昔は一時期随分と凝っていたと聞く。餅は餅屋というワケではないが、やはりプロフェッショナルに任せて正解だったようだ。凄く嬉しそうな笑顔を浮かべる、そんなノエルの横顔を見ていれば、零士は特にそう思う。
その後の流れも、いつも通りだ。他にも色々と店内を巡り、電子ドラムを模した音楽リズムゲームでは零士が小雪どころか、初心者のノエルにまでボロ負けしてしまい、落ち込むあまり思わず床に手を突いて項垂れてしまったほど。零士は昔からこういった、いわゆる音ゲーが大の苦手なのだ。
で、次は定番のガンシューティング・ゲーム。最大で二人同時にしかプレイできない筐体だったから、小雪が「ノエルちゃんの腕前、見たいっ!」と言い出し、零士とノエルの二人でのプレイとなってしまった。彼女なりに、気を遣ってくれたのだろうか。
勿論、小雪は知らないが、二人はプロの拳銃稼業だ。当然、静かに闘志を燃やし合う。とはいえ協力プレイなので、二人の戦いぶりはそれこそ、嘗てのパリでの戦い、女傭兵ベアトリス・ブランシャールとの激戦を彷彿とさせるほどだった。
「レイ、右の奴!」
「もう仕留めた、そっちをフォローする」
「こっちも終わったよ……っと!」
「慌てるな、こういう時はショットガンだ」
「流石に慣れてるね。でも、僕だってレイに負けてられないんだ!」
とまあ、こんな具合。「おぉぉぉ……!」と小雪が興奮する傍ら、結局二人はワンコインで四ステージ全てクリアし、エンディングまで行ってしまったのだった。常日頃から事あるごとに切った張ったの鉄火場へと身を投じてきた二人だ、この程度は造作もない。
「さーてお二人さんっ! 最後はやっぱり……これでしょっ!!」
こんな感じで、そろそろゲーセンを出ようかと言っていた頃。小雪に連れられた二人が目の前にしたのは、やはりというべきかあの超・本格化レースゲーム、レーシングギア4の筐体の前だった。
「ノエル、初めてだからって手加減はしないぜ?」
「ふふっ、お手柔らかに頼むよ」
「私だって居るんだから、今日こそ零士に目にもの見せてやるんだからー!!」
やはり、これをやらずして終われない。三人はそれぞれの筐体に横並びになって座ると、百円硬貨を投入。店内対戦モードを選択し、それぞれの車種を選択した後で、ステージ選択に入る。
「一応訊くけどさノエル、場所は何処が良い?」
「うーん、よく分かんないからなあ。僕は二人にお任せするよ」
「右に同じ。今日は小雪に任せるさ」
「んー? じゃあ今日は……どうしよっかな、富士でいいか」
「とりあえず訊いてやるが、小雪。なんで富士だ?」
「だって、ストレート長いじゃん」
「だろうな、君らしいぜ」
そんなこんななやり取りがあって、走るステージは小雪の希望で、静岡に実在する富士スピードウェイに決定した。およそ一・五キロの長大なホーム・ストレートに、そこから一気に減速して突っ込む鋭角なヘアピン形状の第一コーナー。低・中・高速のコーナーが入り乱れた、テクニカルさとハイスピードを両立したコースだ。ゲーム内で再現しているのは2005年のリニューアル後の、世界基準に併せたテクニカルさが増やされた富士スピードウェイだった。
そして、それぞれが選んだ車種はこんな具合だった。勿論、全員クラッチ使用の完全マニュアル・モードだ。
車種は、零士が白の三菱・スタリオンGSR-VR最終型。小雪の方はいつも通り黒の日産・スカイラインGT-R最終型のVスペックⅡといった具合で、そしてノエルの方はといえば……。
「うおー、ノエルちゃん渋ぅーい」
「コルベット・スティングレイか、良い趣味してるぜ」
「あはは、昔この子とはちょっと縁があってね」
ノエルが選んだのは、1970年式と思われるアメリカ製のC3型シボレー・コルベット・スティングレイだった。ボディカラーは、彼女のアイオライトのような瞳の色とよく似た深い蒼。小雪の眼から見ても、零士の眼から見ても渋いチョイスだ。というか、これを収録しているゲーム自体も中々に凄まじい。収録台数は一体何百台なのやら。
と、ここからは小雪は元より零士も知らぬことではあったが。実はこのC3型コルベット・スティングレイ、過去にシャーリィから訓練を受けていた頃、彼女自身がこの日本で乗り回していた一台でもあるのだ。色も全く同じで、ノエルが初めて乗った車の一台でもある。今から思えば完全にシャーリィの趣味を押し付けられた格好だが、それでもノエルにとっては思い出深い一台だった。
(今頃あの子、何処で何してるんだろう)
一旦日本を離れた時、シャーリィが引き取ったところまでは知っている。だが、その後であのコルベット・スティングレイがどうなったのかは、ノエル自身も知らない。
そんな、嘗ての相棒に思いを馳せつつ。ノエルは筐体から映えるステアリングを細く長い両手できゅっと握った。仮想世界といえ、またあの子に乗れるようなものなのだ。負けたくないという思いは、一層強まっていく。
「じゃあ、やろうか二人とも」
「手加減は抜きで行かせて貰うぜ、ノエル。それに小雪も」
「今日こそ零士に勝ってやるんだから!」
「僕も負ける気は無いよ。幾ら相手がレイと小雪だからってね」
「満場一致で慈悲の心は無しってか。全く泣かせるぜ、ホントによ」
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