上 下
5 / 88
Execute.01:少年、ゼロの狭間に揺蕩う -Days of Lies-

/01-4

しおりを挟む
「んふー、とーちゃーく!」
 駐輪場にVT250Fを停めた零士が小雪に連れられてきた先は、市内にある小雪行きつけのゲームセンターだった。
 多種多様な筐体から響く賑やかな多重奏が、自動ドアが開くたびに店の中から漏れ出てくる。煌びやかにぴかぴかと光り、音の波が身体を包み込んで。そんな喧噪が支配するこのゲームセンターは、零士にとってもまた見知った店だった。小雪に連れられては、こうしてよく訪れる羽目になっているのだ。
「零士っ、はやくはやくっ!」
「慌てるなよ、別に逃げやしない」
 はしゃぎ回って、零士を手招きする小雪に小さく肩を竦めつつ。零士は先を行く彼女の後を、制服スラックスのポケットに手なんか突っ込みながら、ゆったりとした足取りで歩いて行く。
 そうして、零士は小雪に連れられるがまま、幾つも幾つもの筐体をハシゴし、対戦やら協力プレイやらに付き合わされては、何枚もの百円玉を溶かしていった。
 小雪の選ぶジャンルは多種多様で、体感型や古めかしい'90年代のアストロシティ筐体に詰め込まれた格闘ゲームに、縦、或いは横スクロールのシューティングゲームなどなど。対戦にしろ何にしろ五分五分の勝率だったが、しかしガンシューティング・ゲームだけはいつもいつも零士の圧勝だった。
「よーし! 零士、次はこれやろっ!」
 と、いい加減零士が疲れを感じてきたところで連れて来られたのは、かなり大仰なレースゲームの筐体の傍だった。
 レーシングギア4、それがこのレースゲーム筐体のタイトルだ。ロールケージ風のバーに囲まれた中には、割と本格的なレース用のフルバケットシートを模ったシートが据えられていて。このテのアーケードゲームには珍しくサイドブレーキ・レヴァーが付いていて、シフトノブは実際のマニュアル車と変わらないHゲート式。そして更にはクラッチ・ペダルまでもが存在しているという超・本格派のレースゲームだ。
「良いだろう、付き合うぜ小雪」
 こんな本格的な筐体の前に連れて来られてしまっては、零士としても血が滾るというものだ。新しい百円玉をポケットから取り出す左手が、闘志に燃えているのが分かる。
「ふふーん、此処に来たんなら、やっぱりこれやらないとね」
 と、誘ってきた小雪の方もこんな具合に、俄然やる気だ。
 ちなみに小雪、これでもかなりの好き者で。他のカジュアルなレースゲームでなく敢えてこれを選ぶのは、「免許取ったら貯金してGT-R買うの!」が半ば口癖となっている物好きの彼女らしいチョイスなのかもしれない。小雪は車のチューニング専門誌や走り屋系雑誌を学園に持ち込んでは、昼休みによく零士に話を振ってくるのだ。曰く「零士しか分かってくれない話題」らしいが。
「場所は?」
「首都高・C1……と言いたいところだけど、今日はそんな気分じゃ無いからね。零士が選んで良いよ」
「んじゃあ筑波で」
「一応訊くけど、なんで筑波?」
「走りやすい」
「あ、そう」
 とまあこんな阿呆な会話を交わしている間にも、二人はそれぞれ隣り合った筐体に座り百円玉を投入し、一対一の対戦モードを選択していた。
 走るステージは、零士の希望で実在の筑波サーキット。そして選んだ車種といえば、零士が白いFC3S型のサバンナ・RX-7のモデルGT-X、そして小雪が黒のBNR34型、日産・スカイラインGT-R最終型だ。ちなみに、両方ともクラッチ使用の完全マニュアル・モードを選択している。
「小雪はまたRかよ」
「良いじゃん、好きなんだし。……ほら零士、始まるよ?」
「負けた方は明日、昼飯奢りな」
「うー、それじゃあ絶対負けられないじゃないのさ。私、今月ちょっと厳しいんだよ」
「悪いが、武士の情けは俺の辞書に無いぜ」
「えー!? 零士ひどーい!」
「泣かせるぜ、全くよ」
 そんな阿呆な会話を繰り返している内に、シグナル・スタート。二人はほぼ同時にギアを入れ、零士の方は後輪を派手にホイール・スピンさせながら、二人の分身が仮想空間へと飛び出していく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...