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六章 オネエの騎士に溺愛されています

97.涙-1

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 真子は最初、夢を見ているのかと思った。

(ドガガガガンッ!!)

(ガラガラ、グシャッ!)

 何かに遮られたようなくぐもった音が聞こえる。
 どこかで硬い物が崩れ落ちたような音と激しい振動が洞窟内に伝わってきた。

(マーコ!!)

 遠くでアレクサンドラの声がする。
 ブレスレットからだろうか。

(防御壁を一部だけ解除するので、洞窟が崩れる前に急いで外に連れ出してください)

 真子は目を閉じたままのまぶたの向こうが明るくなっているのを感じ、眩しさと痛みに眉をひそめた。

「うっ……ん……」

「マーコ!!」

 突如、大きな声が頭上から降り注いだ。

「…………ア……ク……?」

「マーコ、もう少しだからがんばって!」

 明るい光の中に目を細めながら、わずかに首を動かして声のする方を見る。
 明るい光を背景にして、黒く大きな人影が見えた。
 それは懐かしく愛しい人の形をしていた。
 真子が痛む身体を動かして必死に手を伸ばすと、上から飛び降りてきた影がその手をグイと掴んだ。
 アレクサンドラは真子を素早く抱え上げ、ひょいひょいと器用に岩壁をよじ登ってポッカリと穴の開いた洞窟の天井から外に出た。

「うぅ……っ」

 動いたせいか激しい痛みが真子を襲い、真子は顔をしかめた。
 アレクサンドラは洞窟から離れた場所にマントを敷き、そこに真子をゆっくりと寝かせた。

「ジェーン、お願い」

 真子の横にジェーンがしゃがみこみ金色の魔力玉を出して真子に回復魔術をかけていく。
 ジェーンの暖かい魔力を感じていると、ドシャッという大きい音とズンとした地響きが伝わってきた。

「洞窟が崩れたのね」

 アレクサンドラのつぶやきが聞こえる。

(帰って、きた……)

 幻ではないアレクサンドラの声を聞きながら、真子は再び意識を失った。


 *****


 真子が次に目を覚ますと、そこは月の宮の自分のベッドの上だった。

「ん……」

「マーコ?」

 真子の片手を両手で握りながら祈るように額に付けていたアレクサンドラが、真子が目を覚ましたのに気づいて顔を上げた。
 真子がアレクサンドラの方に身体ごとゆっくり顔を向ける。

「ア、レク……」

「マーコ……。目が覚めて良かったわ……」

 アレクサンドラは真子の手を握っていた片手をはずし優しく頬を撫でる。
 真子はアレクサンドラの顔を見ながら、握られていない方の手をそっとアレクサンドラの顔に伸ばした。

「……泣かないで」

 アレクサンドラの頬は涙で濡れていた。
 アレクサンドラはくしゃりと顔を歪ませると、握った真子の手に顔を寄せてそのまま肩を震わせて泣き始めた。

「……クッ……ウッ」

「ごめんね……心配かけて……」

「あなたは何も悪くないわ! 巻き込んでごめんなさい。護ってあげられなくて、ごめんなさい」

 真子がかすれた声で謝ると、その言葉に被せるようにアレクサンドラが声を震わせながら否定する。

「……あのね、アレクのおかげで帰ってこられたの……」

 真子が柔らかく微笑む。

「ねぇ、アレク。私の名前を呼んで?」

「マーコ……マーコ…………マーコっ!!」

「アレク……」

「マーコ!」

 アレクサンドラはベッドの上に身を乗り出し、真子の身体を掬い上げて抱きしめた。
 二人はそのままベッドの上で抱き合って、ただ互いの名前を呼び続けた。
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