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四章 アレクサンドラとディアナ

68.アレクサンドラとディアナ-1

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 アレクサンドラの作った夕飯を食べながら真子が口を尖らせる。

「一緒にごはん作りたかったのに」

「ごめんなさいね」

 口では謝っているが、アレクサンドラは口の端をわずかに上げて満足そうな顔をしているのであまり説得力は無かった。
 真子はアレクサンドラの長いもう一回で意識を飛ばしてしまい、アレクサンドラが起こしに来た時には真子の身の回りもきれいに整えられすでに食事の支度も終わっていた。
 真子は最近やっと使えるようになった回復魔術を自分にかけてなんとか起き上がった。
せっかくマルタに習った料理を披露できなかったので真子は不満だった。

「今日はもう自分の部屋で寝るから」

「そんな、寂しいわ。一緒に寝ましょうよ」

 真子がプリプリと怒ってそう告げると、アレクサンドラが真子の手を両手で包み込むように握った。
 愛しい人に切ない目で寂しいと言われてしまうと真子の心も揺れる。
 最近は会える時間も短くて少しでも長く一緒にいたいのは真子も同じだ。

「今夜はもう手を出さないから。ね、一緒に寝るだけ」

「ほんとに?」

「心配ならふたつの月に誓いましょうか?」

「誓わなくて良いけど……。信じるからね?」

「ありがとう、マーコ」

 アレクサンドラは握った手を持ち上げて、その指先にキスを落とした。


 *****


 一緒に後片付けをして、夜はアレクサンドラのベッドに潜り込んだ。
 アレクサンドラが真子を腕の中に収めて額にキスを落とす。

「騎士団との合同任務ももうすぐ終わりそうよ。そうしたら一緒に過ごせる時間も増やせるわ」

「そうなの?」

「えぇ、騎士団とずっと探っていた常闇のアジトをとうとう見つけたの。常闇の討伐は魔術騎士団が中心になって騎士団、魔術士団と協力して行う大規模なものになるわ。ディアナを捕らえられればマーコももう少し自由に外を歩けるようになるはずよ」

 アレクサンドラが腕の中の真子を強く抱きしめる。
 アレクサンドラの腕の中でもぞもぞと動きながら真子が尋ねた。

「ねぇ、常闇ってフェリシア様が壊滅させたんじゃなかったの?」

「そうね。以前の常闇と今の常闇とはほぼ別物よ。常闇の生き残りだったディアナが新たな犯罪集団を作って常闇を名乗っているのよね」

「ディアナは昔の常闇の生き残りだったんだ……。アレクもそうだったんだよね?」

 アレクサンドラがふぅ、と深いため息をついた。
「ディアナは私を恨んでいるのよ」

 その声色は少し悲しみを帯びていた。


 *****


 常闇のアジトにはたびたび幼い子どもが拐われてきた。
 魔術士になるかも、と女装や男装をさせられた上でこき使われて、多くはそのまま衰弱するかどこか別の場所に売られていった。
 ディアナもそんな常闇に拐われてきた子の一人だった。

『その能力は隠しなさい』

 拐われてきた少年が目が覚めてすぐに魔術を発動させようとしたのを見て、アレクサンドラが止めた。

『あなた、名前は?』

『ディーン』

 青い髪に深い青い色の目をした少年はディーンと名乗った。

『親は?』

『あいつらに殺された……』

 街から村に帰る馬車を常闇に襲われ、大人は皆殺しにされて子どもだったディーンは積み荷と共に拐われてきたようだった。
 早くから魔術のようなものを使えたディーンを心配した親に連れられ、街の高名な魔術士に見てもらった帰りだったという。
 僕のせいだ、と泣くディーンをアレクサンドラはなぐさめた。落ち着いたころにディーンはアレクサンドラに尋ねた。

『ねぇ、君の名前は?』

『アタシに名前は無いわ。たいてい赤髪とかガキとか呼ばれているわね。アタシはここに来る前のことは覚えてないの。魔術が使えることがあいつらにバレたら、アタシみたいに悪いことをさせられてしまう。逃げだすチャンスを待ちましょう』

 その頃のアレクサンドラに名前はなかった。
 幼いディーンとアレクサンドラは、いつか一緒に逃げ出そうと約束をしたのだった。
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