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三章 街角の襲撃

35.新しい朝-2

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 ジェーンとマリーベルはそれぞれの持ち場に向かうというのでその場で別れ、真子はアレクサンドラのと一緒に執務室に入った。
 するとどこからか虹色に光る鳥が飛んできてアレクサンドラの肩に留まった。
 虹色の鳥はアレクサンドラに何事かを告げると、煙のようにふっと消えた
 どうやら魔術で作られた伝令の鳥だったらしい。

「マーコ。フェリシア様が『そろそろその気になったか?』ですって」

 真子はアレクサンドラに言われて三日前のフェリシアとの話を思い出した。
 昨日、一昨日とそれどころではなくすっかり忘れていた。

「そうだ。どうしよう」

 真子はソファに座って改めて考え込む。
 自分はこの世界で異質な存在で、いつどうなってもおかしくないということ。
 この世界に来て何もわからず言われるままに流されて、それではダメだと目の前のできることから一つずつ頑張ってみようと思ったこと。

(でも、きっと、それだけじゃ足りないんだ)

 ソファの隣にアレクサンドラが座り、真子の背中に手を添えて顔を覗き込んだ。

「マーコはどうしたい?」

 アレクサンドラは真子が口を開くまで根気強く待ってくれた。

「えっと、いつか急に消えるかもしれないってただ怯えているのはイヤ。私に何ができて、何ができないのかを知らないと、やりたいこともやりたくないことも選べない、と思う」

 自分のやりたいことをきちんと口にするのは苦手だったが、真子は自分の思いを少しずつ言葉にしていく。

 フェリシアが言っていた『おぬしはもう少し己のことを知った方が良い』という言葉の意味を考える。

(やっぱり、急に消えたり違う世界に飛んだりするのは困る。優しいアレクサンドラさんは私が消えたら、きっとすごく心配するから)

 真子が目を向けると、アレクサンドラの金色の目が真子を心配するように揺れ動いた。

 真子は目をつぶりしばらく考えてから、しっかり一度うなずいて顔を上げた。

「うん。私、ちゃんと自分のことを知りたい。フェリシア様に色々教えてもらいたい」

「わかったわ。じゃあ、フェリシア様にお願いしましょう」

 アレクサンドラは真子を腕の中に優しく包みこんで、頬に軽くキスをした。

「マーコの希望を叶えてあげるって約束したものね」

 アレクサンドラのお日様のような香りが鼻をくすぐった瞬間、真子はアレクサンドラを軽く押し返して急いで身体を離した。

「待って、これダメ」

「え?」

「あの、昨日の、思い出しちゃうから」

 真子が真っ赤になりながら顔を背ける様子を見て、アレクサンドラは口に手を当てて、んっ、と喉の奥で小さく声を漏らした。
 そのままもう一度抱きしめてしまおうか悩んだ様子を見せてから、アレクサンドラはふぅと息を吐いて立ち上がった。
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