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5.人魚姫のその後 その3
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そのまま海老沢は黙って駅まで送ってくれた。
ヒトミも気まずくて何も言えないまま、二人は電車に乗り込んだ。
ヒトミの最寄駅に着いて電車のドアが開く。
「それじゃあ……」と海老沢に声をかけようとしたら、そのまま肩を抱かれて気づくと海老沢も一緒に電車を降りていた。
「海老沢……なんで……」
「ちゃんと家まで送ります」
海老沢が不機嫌そうに顔をしかめながら言った。
ヒトミの一人暮らしのアパートは、途中少し道が暗いところがあるので送ってもらえるのはありがたいのだが、申し訳なくてヒトミが断る。
「悪いからイイよ」
「いいから行きますよ」
海老沢はさっさと改札に向かうと、ヒトミの家の方に足を進めた。
以前、水泳部の数人で鍋パーティーをした時に、海老沢もヒトミの家に来たことがあるのを思い出す。
暗く静かな帰り道を二人の足音が響く。
「……なんでカッコいいって言われるのキライなんすか?」
海老沢が怒ったようにつぶやいた。
こんな風に海老沢を振り回してしまったのが申し訳なくて、ヒトミはポツポツと理由を話し始めた。
「昔、カッコいいって褒めてくれた人がいて、私は単純だからすぐにその人のこと好きになっちゃったんだけど、その人には可愛い彼女がいたの」
ほんの一瞬の恋だったけれど、ずっとコンプレックスだったゴツい身体を褒められたのが嬉しくて舞い上がってしまった。
でも――。
「男の人はカッコいいなんて褒めてても、好きになるのは可愛い人なんだなって」
そう思うと、カッコいいと言われても全然嬉しくなくて、そう言われるのが苦手になってしまった。
「……ソイツがヘタクソだったヤツですか?」
「その人とは付き合ってないし、何もなかったよ」
ヒトミが肩をすくめる。
それでも未練がましく、その後BBQやボウリングなんかに誘われて何度か遊びに行ったけど、そのたびに彼女と仲良くしているのを見せつけられただけだった。
「先輩のこと好きでもなんでもないヤツに言われた言葉を気にして、先輩が褒め言葉を受け取れないなんて」
海老沢の声が悔しさをにじませる。
「オレはそんなヤツのせいでフラれるんすか」
ヒトミは何も答えることができなかった。
「オレはっ!! オレは……それでもカッコいい先輩が好きです」
ヒトミと海老沢はそのまま黙って歩き続けた。
ヒトミの家のドアの前まで来て、ヒトミが海老沢を見上げる。
「送ってくれてありがとう。電車まだある?」
「あー、駅前でカラオケか漫喫探して、ソコ行くんで」
スマホの画面で時間を確認してから、大丈夫っす、と海老沢がもごもごと告げた。
「あ、駅前のお店、この前つぶれちゃったから無いかも」
「……じゃあこのまま家まで歩きます。先輩が部屋のカギ閉めたのを確認したら帰るんで」
ヒトミは部屋のカギを開けながら、海老沢の家の場所を思い出した。
たしかヒトミの家から海老沢の家だと、川を迂回しなくちゃならなくてかなり遠回りになるはずだ。
「あの、泊まってく?」
ヒトミが部屋のドアを開けて半分身体を中に入れながらふり返った。
ヒトミも気まずくて何も言えないまま、二人は電車に乗り込んだ。
ヒトミの最寄駅に着いて電車のドアが開く。
「それじゃあ……」と海老沢に声をかけようとしたら、そのまま肩を抱かれて気づくと海老沢も一緒に電車を降りていた。
「海老沢……なんで……」
「ちゃんと家まで送ります」
海老沢が不機嫌そうに顔をしかめながら言った。
ヒトミの一人暮らしのアパートは、途中少し道が暗いところがあるので送ってもらえるのはありがたいのだが、申し訳なくてヒトミが断る。
「悪いからイイよ」
「いいから行きますよ」
海老沢はさっさと改札に向かうと、ヒトミの家の方に足を進めた。
以前、水泳部の数人で鍋パーティーをした時に、海老沢もヒトミの家に来たことがあるのを思い出す。
暗く静かな帰り道を二人の足音が響く。
「……なんでカッコいいって言われるのキライなんすか?」
海老沢が怒ったようにつぶやいた。
こんな風に海老沢を振り回してしまったのが申し訳なくて、ヒトミはポツポツと理由を話し始めた。
「昔、カッコいいって褒めてくれた人がいて、私は単純だからすぐにその人のこと好きになっちゃったんだけど、その人には可愛い彼女がいたの」
ほんの一瞬の恋だったけれど、ずっとコンプレックスだったゴツい身体を褒められたのが嬉しくて舞い上がってしまった。
でも――。
「男の人はカッコいいなんて褒めてても、好きになるのは可愛い人なんだなって」
そう思うと、カッコいいと言われても全然嬉しくなくて、そう言われるのが苦手になってしまった。
「……ソイツがヘタクソだったヤツですか?」
「その人とは付き合ってないし、何もなかったよ」
ヒトミが肩をすくめる。
それでも未練がましく、その後BBQやボウリングなんかに誘われて何度か遊びに行ったけど、そのたびに彼女と仲良くしているのを見せつけられただけだった。
「先輩のこと好きでもなんでもないヤツに言われた言葉を気にして、先輩が褒め言葉を受け取れないなんて」
海老沢の声が悔しさをにじませる。
「オレはそんなヤツのせいでフラれるんすか」
ヒトミは何も答えることができなかった。
「オレはっ!! オレは……それでもカッコいい先輩が好きです」
ヒトミと海老沢はそのまま黙って歩き続けた。
ヒトミの家のドアの前まで来て、ヒトミが海老沢を見上げる。
「送ってくれてありがとう。電車まだある?」
「あー、駅前でカラオケか漫喫探して、ソコ行くんで」
スマホの画面で時間を確認してから、大丈夫っす、と海老沢がもごもごと告げた。
「あ、駅前のお店、この前つぶれちゃったから無いかも」
「……じゃあこのまま家まで歩きます。先輩が部屋のカギ閉めたのを確認したら帰るんで」
ヒトミは部屋のカギを開けながら、海老沢の家の場所を思い出した。
たしかヒトミの家から海老沢の家だと、川を迂回しなくちゃならなくてかなり遠回りになるはずだ。
「あの、泊まってく?」
ヒトミが部屋のドアを開けて半分身体を中に入れながらふり返った。
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