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143.Top Secret…
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「今日も、平和だな・・・」
陽気な日差しが入ってくる窓の傍で、今俺は報告書を書いている。そんな時、窓下から声が聞こえた。
『健太!ツーリングに行くぞ!』
「俺、三上さんをすぐ連れてくるっす」
声が聞こえて覗いてみれば、厩から出してきた鉄の馬を引いて来るトーカが見えた。木の下で昼寝でもしていたのか慌てて立ち上がった健太。
健太は、自分の鉄の馬に"三上さん"と名前を付けた。
こいつなりの不器用な愛情表現だ。三上という男がベルナールを連れて戻ったあの日、健太は悪態をつきながら、嬉しそうだった。いつも俺に絡むのに、ほとんど三上から離れず絡んでた。それを見て若干…妬けた俺。
そして別れの時、健太の素顔を見る。
"さよなら、三上さん"
たったそれだけのセリフだったが、そこにはちゃらけた健太は居なかった。
あれが、こいつの本当の姿。
ちゃらけた言動で自分自身を隠しているが、実際は軽い奴ではない。どうも俺にはあれが虚勢をはった態度のように思えて仕方がない。こいつが隠す以上、俺は気づかないふりをするしかないのだが。
人間観察…諜報部の基本。そして、自分だけの知り得た情報は手札だ。
だがこの情報、未来永劫手札として出てくる事はないだろう………。
そして大変苦労したという交尾が終わったベルナールとトーカは、その後身内だけで簡単な結婚式をやった。祖の王の娘としてではなく、ただの神崎桃花としてベルナールに嫁いだ。
シュヴァイン家で覚える事は多く、現場監督の任を降り、今は金儲けの案を出す相談役的な役職についている。だが誰もあいつの所に相談に行ってるのを見た事がない。人の斜め上をいくこいつの案は、ゲル様の所で却下されるのがオチだからだ。
そのゲル様も失恋の痛みはまだ引きずっているようで、時折、トーカが城内を歩いているのを切なそうに見ていた。失恋者が同じ城内に勤めてるというのも、辛いな…。こればかりは、どうにもならない。ゲル様の気持ちを思うと、やるせないばかりだ。
ふと窓下から歌が聞こえて来る。トーカだ。さっき健太が寝ていたそこに腰を下ろし、ザルビア観光の道中で歌っていた歌を口ずさんでいた。その歌の名を聞いたら"上を向いて歩こう"だと答えたあいつに、何だよそのふざけた題名は!って突っ込んだ事を思い出す。
あの時は、歌詞の内容に疑問も共鳴もしなかったが、今聞くといい歌だと思う。
そんなザルビア観光で発案した例の開墾地も、あれからあっという間にポツポツと畑が出来て人も住みだした。しかも、これから掛かる開墾地費用をあの温泉で稼ぎだしているから、抜け目がない。ゆくゆくは、温泉街にして、あの土地でしか食べれないものを作って観光スポットにするぞ!と息巻いてるトーカ。
豊かな土地になるには、あと数年は掛かるだろうと言われた開墾地は、今や緑豊かなものになり始め専門家から牛やヤギの糞だけで、あそこまで豊かになるのはおかしいと疑問の声が上がっている。
これもなのかと疑いが出る。あいつは、知識の益をもたらす迷い人ではなく、別の益なのかもしれない。
これも、俺の憶測だ…。
トーカが起こした奇跡はもう1つあった。ローレリアのミランダ妃だ。"子供を身籠った"と、この前ルビナス様が知らせてきた。姫さんの"お守り"という願掛けが効いたのかもしれんぞと喜んでいたが、俺はそれを聞いて顔を引きつらせた。本当にトーカがやったのではという疑念がここでも湧いたからだ。魔術もそうだし、極めつけは浄化。そして、此処にきて願掛け…誰もそれに気づいていない。と、言うか誰も信じないだろう……。
そして、そんなトーカがいた世界がどんなものなのかベルナールから情報をもらう。
トーカが住んでいた世界は魔物の住む世界のようだったとベルナールは言った。聞けば、墓石のような形の大きな建物がいっぱい立ち並んで、空にある月を隠していたとか。それに付け加え、得体の知れないウゥゥゥウゥゥゥ~~~ファンファンという変な唸り声がよく遠くに聞こえたらしい。夜というには明るく、昼というには空は黒かったと説明したベルナール。鉄が空を飛び、鉄が水に浮くと言っていた。
見て来たベルナールはいいが、俺には想像が出来ない為もう聞くのを止めた。ただ感動したのは、ベルナールが持ち帰った本だ。トーカと健太は"なんや、ただの漫画かいな…"といたく興味なさげだったが、俺等からしたら国宝級ものだと思う・・・。
ベルナールから1冊貰ったその国宝級な本をペラペラめくってると、下が騒がしくなった。
"三上さん"を連れてきた健太が鉄の馬に跨って、例のけたたましい鳴き声を出してトーカと城内から出て行ったからだ。その鳴き声が聞こえなくなった後、額に銀髪がべたりと引っ付いた汗だくなベルナールが必死にさっきまでいた所を探している。
こいつとジルだけは、警護人を解かれていない。ジルは要領よく、そしてこいつは警護人という立場以上に、番の立場として唯一無二の番を守るべく必死にへばり付いている。
そんな友に、溜息交じりな言葉が出た。
お前…結婚してもあいつに振り回されてるよな……。
ベルナールだけじゃなく全員があいつに振り回された。もつれた糸のように絡み合い、もう解けないほど固いものになった。トーカと過ごした時間は、濃密で皆を違うものに変えて今という時間を過ぎている。
この世界であいつを上回る奴は出てこないだろう。そんなトーカの名は桃の花。その花の意味は・・・
天下無敵──────
その名の通りの迷い人だと記しておこう。
143頁にも及んだが、これが迷い人神崎桃花の全てである。
そしてこの報告書は門外不出とし、ヘーデル家で管理とする。
……そう、これは俺だけが知る真実の物語。墓場まで持っていく物語であるからだ。
最後にこの言葉で報告書は終わりとする。
迷い人神崎桃花は──────
不良で、猿人で、愛さずにはいられない人・・・・
マルクス・ヘーデル
【完】
陽気な日差しが入ってくる窓の傍で、今俺は報告書を書いている。そんな時、窓下から声が聞こえた。
『健太!ツーリングに行くぞ!』
「俺、三上さんをすぐ連れてくるっす」
声が聞こえて覗いてみれば、厩から出してきた鉄の馬を引いて来るトーカが見えた。木の下で昼寝でもしていたのか慌てて立ち上がった健太。
健太は、自分の鉄の馬に"三上さん"と名前を付けた。
こいつなりの不器用な愛情表現だ。三上という男がベルナールを連れて戻ったあの日、健太は悪態をつきながら、嬉しそうだった。いつも俺に絡むのに、ほとんど三上から離れず絡んでた。それを見て若干…妬けた俺。
そして別れの時、健太の素顔を見る。
"さよなら、三上さん"
たったそれだけのセリフだったが、そこにはちゃらけた健太は居なかった。
あれが、こいつの本当の姿。
ちゃらけた言動で自分自身を隠しているが、実際は軽い奴ではない。どうも俺にはあれが虚勢をはった態度のように思えて仕方がない。こいつが隠す以上、俺は気づかないふりをするしかないのだが。
人間観察…諜報部の基本。そして、自分だけの知り得た情報は手札だ。
だがこの情報、未来永劫手札として出てくる事はないだろう………。
そして大変苦労したという交尾が終わったベルナールとトーカは、その後身内だけで簡単な結婚式をやった。祖の王の娘としてではなく、ただの神崎桃花としてベルナールに嫁いだ。
シュヴァイン家で覚える事は多く、現場監督の任を降り、今は金儲けの案を出す相談役的な役職についている。だが誰もあいつの所に相談に行ってるのを見た事がない。人の斜め上をいくこいつの案は、ゲル様の所で却下されるのがオチだからだ。
そのゲル様も失恋の痛みはまだ引きずっているようで、時折、トーカが城内を歩いているのを切なそうに見ていた。失恋者が同じ城内に勤めてるというのも、辛いな…。こればかりは、どうにもならない。ゲル様の気持ちを思うと、やるせないばかりだ。
ふと窓下から歌が聞こえて来る。トーカだ。さっき健太が寝ていたそこに腰を下ろし、ザルビア観光の道中で歌っていた歌を口ずさんでいた。その歌の名を聞いたら"上を向いて歩こう"だと答えたあいつに、何だよそのふざけた題名は!って突っ込んだ事を思い出す。
あの時は、歌詞の内容に疑問も共鳴もしなかったが、今聞くといい歌だと思う。
そんなザルビア観光で発案した例の開墾地も、あれからあっという間にポツポツと畑が出来て人も住みだした。しかも、これから掛かる開墾地費用をあの温泉で稼ぎだしているから、抜け目がない。ゆくゆくは、温泉街にして、あの土地でしか食べれないものを作って観光スポットにするぞ!と息巻いてるトーカ。
豊かな土地になるには、あと数年は掛かるだろうと言われた開墾地は、今や緑豊かなものになり始め専門家から牛やヤギの糞だけで、あそこまで豊かになるのはおかしいと疑問の声が上がっている。
これもなのかと疑いが出る。あいつは、知識の益をもたらす迷い人ではなく、別の益なのかもしれない。
これも、俺の憶測だ…。
トーカが起こした奇跡はもう1つあった。ローレリアのミランダ妃だ。"子供を身籠った"と、この前ルビナス様が知らせてきた。姫さんの"お守り"という願掛けが効いたのかもしれんぞと喜んでいたが、俺はそれを聞いて顔を引きつらせた。本当にトーカがやったのではという疑念がここでも湧いたからだ。魔術もそうだし、極めつけは浄化。そして、此処にきて願掛け…誰もそれに気づいていない。と、言うか誰も信じないだろう……。
そして、そんなトーカがいた世界がどんなものなのかベルナールから情報をもらう。
トーカが住んでいた世界は魔物の住む世界のようだったとベルナールは言った。聞けば、墓石のような形の大きな建物がいっぱい立ち並んで、空にある月を隠していたとか。それに付け加え、得体の知れないウゥゥゥウゥゥゥ~~~ファンファンという変な唸り声がよく遠くに聞こえたらしい。夜というには明るく、昼というには空は黒かったと説明したベルナール。鉄が空を飛び、鉄が水に浮くと言っていた。
見て来たベルナールはいいが、俺には想像が出来ない為もう聞くのを止めた。ただ感動したのは、ベルナールが持ち帰った本だ。トーカと健太は"なんや、ただの漫画かいな…"といたく興味なさげだったが、俺等からしたら国宝級ものだと思う・・・。
ベルナールから1冊貰ったその国宝級な本をペラペラめくってると、下が騒がしくなった。
"三上さん"を連れてきた健太が鉄の馬に跨って、例のけたたましい鳴き声を出してトーカと城内から出て行ったからだ。その鳴き声が聞こえなくなった後、額に銀髪がべたりと引っ付いた汗だくなベルナールが必死にさっきまでいた所を探している。
こいつとジルだけは、警護人を解かれていない。ジルは要領よく、そしてこいつは警護人という立場以上に、番の立場として唯一無二の番を守るべく必死にへばり付いている。
そんな友に、溜息交じりな言葉が出た。
お前…結婚してもあいつに振り回されてるよな……。
ベルナールだけじゃなく全員があいつに振り回された。もつれた糸のように絡み合い、もう解けないほど固いものになった。トーカと過ごした時間は、濃密で皆を違うものに変えて今という時間を過ぎている。
この世界であいつを上回る奴は出てこないだろう。そんなトーカの名は桃の花。その花の意味は・・・
天下無敵──────
その名の通りの迷い人だと記しておこう。
143頁にも及んだが、これが迷い人神崎桃花の全てである。
そしてこの報告書は門外不出とし、ヘーデル家で管理とする。
……そう、これは俺だけが知る真実の物語。墓場まで持っていく物語であるからだ。
最後にこの言葉で報告書は終わりとする。
迷い人神崎桃花は──────
不良で、猿人で、愛さずにはいられない人・・・・
マルクス・ヘーデル
【完】
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小説だから許されるが、これがアニメだったらピィーやモザイクまみれの上、健太自身が端折られるだろう。いや、全てか?!!(*`▽´*)ウヒョヒョ
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