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35.それぞれの愛の形と立場

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大雨の中、フードを被り急いで馬を走らす。


トーカ殿に何があった?!


王城から、夜も明けない時間にすぐラムス邸に向かうよう指示が来た。
マルクスは、同時刻ゲル様から呼び出されたという。

遠くに見えたラムス邸が暗闇の中、そこだけが屋敷に火をともしていた。
物凄い警備に何かがあったとすぐ分かる。


数時間前、俺達はトーカ殿と別れたばかりだ。

"ほな、また明日な。おやすみ!ベルナール、マルクス・・・・・"
そう言って笑顔で別れた。


手綱を持つ手が震える。
怖い・・怖い、怖い────────


それは、初めて感じる怖さだ。息苦しく、死にそうな感覚に自分自身でも動揺していた。

屋敷に着き扉付近にいた、メイドにすぐ声を掛ける。

「くっ、トーカ殿はっ!!」
「ベルナール様っ!!トーカ様はご無事です。ご案内いたします。こちらです!」
「悪いが、急いでくれ。今にも・・」


その後に続く、死にそうだと言う個人的な言葉を飲んだ。

そして、メイドが早足で行く後を追う。


***


結局、ラムスのおっさんへの怒りと命を狙われたという興奮で眠れず、グラン達と紅茶を飲んでいると、扉が勢いよく開いた。


「トーカ殿!!」
『あっ、ベルナール。さっきぶ・・///りっ』

走り寄り、力の限り抱きしめられ、死ぬかと思った・・・と耳元で言われた。
私は逆に、ベルさんの筋肉質な胸に鼻が潰れ、息が出来ずに私が・・死ぬ思いをしている・・・。
顔を何とか横に向けて酸素を確保する。顔を横に向けたことで、ベルさんの早く打つ心音が聞こえ、あぁ・・心配してくれてたんやなと理解した。その思いに胸が熱くなった。

されるがままになっていると、片方の手が腰に回った。その態勢でもう一度ギュッとされる。
さっきとニュアンスが違う抱き方に違和感を感じると、腹付近に異物を感じた。その異物が警棒であってほしいと思い、後ろ手でベルさんがベルトをしてるかを確認する。そして警棒を引っかけるベルトが無いと確認できた。

ベルさん・・、家出てくる時に股間に武器を所持して来た・・っちゅうことはないな。
ということで・・・、これは男の武器・・ってことになる。

スンスンと私の匂いを嗅いでいるベルさん。


マルクスに言われたことを思いだす。


"常に匂いが微妙に出てて興奮を呼び起こす・・・"


やばい、やばすぎるぞ。
まずこの警棒から距離を置こうと、腕でベルさんの腹を押した。が、逆にベルさんにその行動を予測され、ガッチリとホールドされた。そのため手が警棒に当たる。

『///げっ!』

途端、警棒がバットに変わった。
思わずさっきの警棒が半勃ち状態だったことに驚いた。マジか・・あれで半勃ちって・・・
顔に似合わんモノを持っているベルさんの顔を見る。

『・・・』
「・・・」

見つめ合うこと数秒・・・。
奴が半分意識があることに気づく。理性(警棒)と本能(バット)が格闘している様子で、眉間に皺を寄せていた。その度に、バットが警棒になったり、またバットになったりと変化へんげを繰り返していた。

丁度男の武器が警棒に変化した所で、声を大にして言う。


『///おい!///冷静になりたかったら周りを見ろ!!』


そう言われて周りを見るベルさん。グラン以下3名が、私達をガン見な事に気づく。



「・・・」


冷静になったのか、警棒が存在を主張しない小さなナマコになった。


グランがニヤニヤしながら言う、

「もういいか?それとも続けるか?」
「・・・」

もういいと言うしかないやろ・・・。これで続けられるほど股間と違ってベルさんの神経・・は太くない。

漸く冷静になったベルさんに、詳細を話す。驚愕するベルさんだったが、何故か考え込んだ。
意味が分からず、ベルさんに声を掛ける。

『どないしてん?』
「引っかかる・・。何故マルクスはゲル様に呼び出された?」

ここに居ない、マルクス。警護人なら真っ先に駆けつけるべきなのに、来なかったマルクス。
王城でも何かが起ってると推測された。

今は、王城に行ったラムスのおっさんが何か情報を持って帰って来るだろうと、皆がそれを待つことになった。それを待つ間に、ベルナールが閉じ込めている賊を見に行くと言って部屋を出ていった。
出て行ったベルナールを確認してガントが私に話しかける。

「俺達もラムス将軍が帰り次第、ザルビアに連絡を入れる。その前に、1つ言っておく。俺等に隠し事は無しだ。随時詳細は教えろ。友好関係が、情報の隠ぺいでおじゃんになったら、お前がやった事が無駄になる。いいな?!銀魔たちはターベル側でお前は中立だ。お前を信じて付いて来た俺等を裏切るな」
『それ言うんやったら、お・互・い・にって言うてくれへんか。迷い人に関して、皆何かしら隠しよる。当事者に取ったら、それが一番腹立つで?!』
「親分のいう事ごもっともだ。俺達はトーカの特別騎士隊になったわけだし、お互い包み隠さずってことでいいんじゃないか、ガントよ?」
「あぁ。そうだった」
『絶対やからな!』

ベルナールが戻って来た所で、王城から戻ったラムスのおっさんが兵士達を連れて来た。押し入った賊の身柄を引き渡すためだ。

そして、兵士達が去った後、ラムスのおっさんが自分の執務室に全員を呼んだ。


***


「結果から申す。確定ではないが、ローレリア絡みのようです。マルクスがそれを確認しに先程出立しました」
『・・・』
「その根拠を聞いてもいいか?っとその前に俺は、トーカ付きザルビア特別騎士団隊長のグランだ。隣りからガント、ビリーにディオだ宜しく頼む」
「あっ、挨拶が遅れ申した。当屋敷の主人ラムス。挨拶が遅れたご無礼を謝罪する。少し気落ちが合って引きこもりになってい・・・」
「自己紹介も終わったのだ、ラムス殿先を急がれよ!事が急がれる時の報告、挨拶は手短にすべきが常識。そんな常識も引退した半年でお忘れか!」

イライラモードのベルナール。私は黙っとこ。

「む・・・す、すまぬ。続きだが、トーカ殿が襲われた頃、王城でも立て込んだ情報が入って来てたようだ。"ローレリ国に送り込んだ諜報部の者から連絡が途絶えたと・・"その後、トーカ殿が狙われたと報告が入れば、おのずと答えが出た」
「何故迷い人であるトーカの命を狙う必要があるんだ・・。召喚したのは、ローレリア国じゃないのか?」

ビリーが聞き返す。ようよう見たら、こいつ騎士男Aやった。

「ゲル閣下から、内密だと言われたが・・・皆に言おう。ゲル閣下はトーカ殿を召喚したのは、祖の王だと見ている。これは、マルクスの推測だとも言っていた。その為に諜報部の者にその方向で探らせていたらしい。諜報部の者達が行方不明になる前に届いた内容では、20年前の召喚事故が関わっているとあった。そして、それを最後に途絶えた。多分殺されたのだろう・・・。そして、トーカ殿の命を狙うという行動で、分かるのが・・・」

私の方を向いて言いにくそうにするおっさん。

『何や。言い渋るな!』
「ローレリア国にとって、それを保護するターベルも狙われるってことだ」

言い渋るおっさんの代りにグランが答えた。
一同黙り込む。それでも冷静に聞くベルナール。

「ゲル様の意向は?」
「マルクス次第だ。そう言って答えを先延ばしにされた」
「他の大臣たちは?」
「・・・」
「無言と言うことは、ローレリア国側の意向に沿うってことか・・・やばいな。ザルビアも同じようになるぞ」
「隊長、クロード皇太子は引かないんじゃないですか?王もかなりトーカ寄りだし、そうなると、第一皇太子派と第二皇太子派が揉めるということになるのか?!頭が痛いですね・・」
「あぁ・・。」

グランとビリーが自国の内情を話し出した。

「しかし、内密な所まで話して良かったのか将軍閣下?あんた、仮にも国を守る立場の頂点だろ」

ガントがラムスに呆れ口調で言う。

「守る人間に隠し事をしていては、いざという時守れぬもの。まだ、トーカ殿の警護人と保護者の任を解かれていない以上、私はそれを遂行するのみ。いざとなれば、愛の逃避行ですぞトーカ殿」

「・・・・・この男、真面目なのか、バカなのか?」
『多分両方やと思うで』



結局、皆でその後早めの朝食を取り、仮眠すると言って自分の新しい部屋に入った。
私は頭を整理する。

まず、私がきっかけで一波乱も二波乱も起こりそうということ。
ターベル国は、ゲルが"マルクス次第"と言って逃げてくれた。が、国の事を考えるなら、マルクス云々関係なく即、私をローレリア国に突き出すべきだ。それをしなかったのは、ゲルが私を番認定している為、精一杯の庇いだろう。
ザルビアもさっきの話から、第一皇太子派と第二皇太子派に別れてるって言うてた。私のせいでそれが大きくなるみたいなことを言っていた。
国の中枢にいる人間は、ラムスのおっさんのように冗談でも"愛の逃避行"なんて口にできん。
私中心で渦が巻く。


──────なら、私はどうすればいい?
答えは簡単や。



──────中心の私が此処からいなくなればいい。


大きな溜息をついて、荷物の準備をする。決行は仮眠を取ると言った今か・・・。夜は結構警備がきつくなって、前みたいに風呂侵入事件のように簡単に部屋から出れん・・・。
お金は、ザルビア観光の時ラムスのおっさんから貰ったお金を持っていく。
何も言わんままだったら、心配させるし置手紙を書く。



皆へ
私はローレリアに向かう。色々考えたらこれが一番の解決方法と気づいた。
これ解決したら、帰って来るし留守番頼むわ。ほんじゃ、いってきます!

追伸、ラムスのおっさんこれ土産や。大事に使ってや

                               トーカ


それを書いて、賊と一緒に部屋に置き去りになっていた物を手紙と一緒に置いといた。
そして、ザルビアで着た男物のシャツとズボンのいで立ちで、窓から飛び降りる。
まんまと抜け出し、また子だくさんな警備主任が給料減給されるなと思い、心の中で謝った。



『ほんじゃ、喧嘩上等でいきますか!!』


そう言って頬をバシッと叩いて気合いを入れた。

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