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8.迷い人と見定める者たち

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「どういう事でしょうか」

無礼極まりなくノックもせずに執務室に入り、威嚇じみた声で睨みつける。
机で書類に目を通していた男がこちらをチラッと見て、溜息を吐いた。


「貴君、ノックもせずに入るなど無礼ではないか。此処は王城、振舞いに気を付けられよ。それに開口一番貴君からの質問とは、これ如何に。私は騎士団隊長としての報告を待っていたのだが?」


その言葉にギリリと唇を噛んで、銀の眼で再度睨みつける。胸に手をあて騎士の礼をして目の前の男に報告する。

「第一騎士団隊長ベルナール・シュヴァイン只今戻りました。越境したザルビア軍との戦いは異国から来た女子の助けにより、戦況が一転しザルビア軍の一時撤退となりました」


机に座った男は首を振って、そうじゃないとばかりにまた溜息をつかれる。

「大体の報告は早馬にて聞いている。私が聞きたいのはその先だ。異国の者の事だ。何処の国の者で、間者という可能性はないのかという事だ」
「間者?それはないでしょう」
「何故そう言い切れる?」

道すがら聞いた女子の話をした。そして、容姿の話しになると

「なんと!」
「普通瞳が黒なら肌は茶褐色。肌が白色なら黒の瞳はありえません。肌の色が茶褐色と白色の者が結婚しても子供はどちらかの肌の色で生まれるのが普通。その女子のありえない容姿…そして国名も聞いた事がないとなれば導き出される答えは………」


「………"迷い人"か…」



──────迷い人。
召喚された者の事をこちらではそう呼んだ。
召喚は誰でも出来る訳ではない。脈々と続く高貴な血と場所があってそれが可能となる。
それが出来る所は、この世界で唯一あの国しかない。目の前の男もあの大国を、そしてあの王を今頭に描いているだろう…。


「だが、あの国は20年前の召喚事故でそれを禁忌としたはず…。何故その禁忌を破ってまで召喚したのか…」
 

暫く考えて、一度その女子に会って色々と聞かねばなるまいなと呟いた。

「お会いになるのであれば、こちらの世界の事などその者に説明して頂ければ、有り難いかと…。また、出来うるならば兵士一同の願いとして、その者に我等の命救われた恩義を返しとうございます。王よりその者が望む"対価"を与えて頂きたく」

「金品という言葉でなく、対価ときたか。何を考えておる?」
「別に…。普通の者と違い現状の立場が違います。普通の者ならば生活を潤す金品は素晴らしい対価と思われますが、別世界の"迷い人"にとっては、金品より価値のあるものが別にあるかと思いまして」
「えらく肩入れしているのだな」
「恩義でございます」
「まぁよい。王にはそのように進言しよう。おって詳細を連絡する故、その時貴君も同席するように」
「御意」
「話は以上だ。貴君も疲れたであろう。帰って休め」
「では…これにて」

そう言って室を出ようとした時後ろから呼び止められた。


「ベルナールよ無事で何よりであった。これは父としての言葉だ」
「……ありがとうございます。父上」


そう言って扉を閉めた。


怒りで宰相が父という甘えから、分を弁えずにした行動を今になって恥じた。ラムス殿も言っていた。



"素性の知れぬ者ゆえ、このまま王城へはお連れ出来ぬ"


その通りだ。いかに私が怪しくないと言っても、信じられる確証がない…。父上があのラムス殿に預けたのは、その確証を得る為だろう。
はぁ…と溜息をついて王宮の廊下を歩いていると、向うから見知った男がやって来た。


「ベルナール!無事で何よりだったな。女子に助けて貰ったんだって?その子、美人か?歳いくつだ?今からラムス閣下の所に行くのか?俺もついて行っていいか?」


陽気な雰囲気の男だが、これでも諜報部のやり手だ。

「マルクスその情報は余りにも早過ぎるだろう。情報源は何処だ。言った奴を処罰する」
「大事な情報源を売ると思うか?で、今から閣下の屋敷に行くんだろ?」
「・・・。」

この廊下を歩きながら、先程の行動に反省しながらも頭は迷い人のトーカの事を考えていた。こいつの言う通り、この後暇を貰った事でラムス殿の屋敷に行くつもりだった。これは、俺の頭で考えていた事だ。誰にも言っていない。

解せない顔でマルクスを見ると「やっぱり当たったー!」と言われた。
俺の心を読まれたと言う事か……。

「確かに今から行く所だが、俺はラムス殿に会いに行くだけだ」
「お前、将軍閣下のことラムス殿って……」
「元将軍閣下だろう。戦に出る身で残す妻子が哀れと言って独身を貫き通し、今になって独り身が寂しいとほざいて、将軍職を辞し妻探しの見合いをされている一般人だ。年配の敬意で殿は付けている、問題はない」
「辞してねぇし!王やお前の親父が握り潰しただろう。保留になってんだよ」
「ご本人が辞すると言われた以上、そこは尊重すべきだと思うが」
「………もういいや。取りあえず俺も行く。見定めにな!」


ラムス殿以外にも見定める者として、諜報部からこいつが選ばれたか…。眉間に皺を寄せながらマルクスを見ると、俺の心をまた読んだのかこう言われる。


「お前が信用してるって事は、信用度0からのスタートではなくまず50からのスタートって事で!」


そう言って、俺の肩に手を置いた。
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