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7.捨てられた仔犬は溜息をつく

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『まだターベルって国に着かへんのか?』


あれから1時間以上は経過してると思う。いい加減ケツが痛い…。私がケツをモゾモゾさせているとベルナールは傍に居た騎士に「マントを脱げ」と言ってマントを取上げた。それを私のケツに轢く。マントを取られた騎士が若干嫌な顔をしたのは気のせいだろうか…。でもその騎士には悪いが、そのマントがクッション代わりになって私のケツは安泰だ。しわくちゃになろうが有り難く使わせてもらう。マントのおかげでモゾモゾ動く事のなくなった私にベルナールが呟いた。


「……あの丘を越えたらターベル国だ。もう少しだ我慢されよ」


いつ着くのか解らなかったものが、目の前の丘を指さされて安堵に変わる。
ベルナールが言った通り、丘を越えると大きな城壁に囲まれた街が見…え…………ん?!結構遠かった…。
街があんなに小さく見えるということは、結構な距離があるんじゃね?

ガックリと肩を落とし身長の高いベルナールを見上げると、どうした?というような顔をされた。他の騎士達は私と違って「もうすぐだ」と言って嬉しそうに声を上げている。こいつ等の言うもう少しって、このぐらいの距離を言うんやな。覚えとこう…そう1人ごちる私。

結局30分以上は過ぎた所で、城壁が目の前に迫って来た。城門から中に入る。数十人の兵士が待機していて、その中の1人が前に出て来た。

「ベルナール殿、早馬にて知らせは受けた。無事でなにより!隊員達も少なからず無事でなによりだ」
「あぁ、…この出迎えはどういう意味だ」
「帰還早々悪いのだが、アゼル宰相がお待ちだ。王城にて詳細を報告されよ。この女子はこちらが引き受け申す」
「どういう事だ」

ベルナールが威嚇するように声を低めて聞き返した。

「心配めされるな。王もアゼル宰相もこの女子に対して無礼は働かぬ。ただ、今だ素性の知れぬ者ゆえ、このまま王城へはお連れ出来ぬ。そこは貴殿にも理解できよう。但し今回の戦の立役者、監視付ではあるが、最大級のもてなしをするように仰せつかっておる。安心して貴殿は王城に向かわれよ」

それを聞くなり頭上でちっ、と小さく舌打ちのようなものが聞こえた。そして、その機嫌の悪い様を隠すようでもなく、目の前のおっさんに返答する。

「こちらはトーカ殿だ。我が隊員並びに我が国を守って頂いた方だ。失礼の無きよう、この方に接しられよ。私は一刻も早く、この非礼を正しに王城に向かう」

そう言ったかと思ったら馬上からベルナールが降り、ついで私を荷物のように降ろした。お前が一番酷くねぇか?そう思いながら、私が引き渡されるであろうおっさんを改めて見た。

そのおっさんを見て吃驚する。馬上に居てもその体格は大きく見えたが、降りて見れば馬上で見た以上だった。身長が2m以上、しかも筋肉ムキムキであった。私は身長165cmだが、首が痛いぐらいに垂直にしなければ目線が合わない。そのせいか、もしくは私に誠意を表す為か、目の前の大男は膝をついて私と目線を合せてこう言った。


「トーカ殿、私はラムス。我が兵並びに我が国の窮地をお救い頂きお礼を申す。今ご説明申し上げた通り、貴殿の身柄は暫し私がお預かり申す。トーカ殿を疑うような振舞いには申し訳なく思うが、必ずやベルナール殿が王にご説明申し上げ、然るべき処遇を下されようぞ。それまで我が屋敷でゆっくりされるよう」


私の手を取り、豪華な馬車に誘導される。少し不安になり後ろのベルナールを見ると、さっさと王城に向かっていた。余韻もないんかい!!そんな突っ込みをした後、捨てられた仔犬のような感覚に見舞われた…。今日会ったばかりのベルナールに、健太のような親しみはないが、それでも自分達を助けてくれたという恩義の気持ちが私に伝わり、一緒にこの国について行っても良いと思わせた人間だった。


はぁー…と大きな溜息をついて、仕方なくおっさんに誘導されるまま馬車に乗る。意外と馬車の中は広くゆったりしている事に吃驚した。フカフカの席に座る。クッションの良さに、さっきのケツの痛さが和らぐなぁと思っていたら、ギシッと馬車が傾いた。えっ?と思って入って来た扉を見ると、大男のおっさんも乗り込んで来た。

おっさんが座った方に馬車が傾く。そして、馬車の天井に頭をぶつけないよう猫背で座るおっさん。おっさんが馬蹄に出せと指示を出すと、斜めに傾きながら馬車がとろとろと動き出した……………。

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