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6.すったもんだで漸く出発…

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「礼を言う。私はターベル国騎士団隊長のベルナール・シュヴァイン。助けて頂いた貴殿の名を伺っても宜しいか?」

そう言って兜を取って皆が私に感謝の意味で膝まづいた。皆が膝まづいた事にも驚いたが、目の前のベルナールという人間に一番驚いた。


"銀魔"


その異名の通り、色素の薄い銀の髪に銀の瞳。そして圧巻の強さをもつ剣士か…。しかもなんちゅう端正な顔や…、お前の遺伝子、羨ましい限りやな。

じーっと"銀魔"と呼ばれるベルナールを見ていたら、汗で額に髪がべたりと張り付いているのが気になった。この綺麗な顔を邪魔するように張り付いた髪の毛。脂ぎった剥げたおっさんだったらお似合いだが、目の前の男にはこの端正な顔を邪魔するものでしかない。

だからなのか自然と手が出た。
額に触れてべたりと張り付いている髪の毛を後ろにかきあげた。
手触りのいい毛質に前に飼っていた猫を思い出す。よくこうして撫でてやると、目の前にいる奴と同じように目を細めてたなぁ…。そんな思い出に浸りながら、何度も何度も手ぐしでかきあげるように頭を撫でる。

ややあって、がしっと手首を掴まれた。そこで、自分が何をしたか悟る。
無言で見つめ合うこと数分。「貴殿の名を…」と、再度問いかけられた。


『…か……かん…神崎桃花。日本という国から来ました』
「二ホン?そのような国の名は聞いた事が無いが………」

横に居た騎士に目をやり、聞いた事があるかというように振った。

「私も聞いた事がありません…。それにこの女子の瞳の色といい、着ているものといい全く見た事もありません」

そう言って上から下までマジマジとその男に見られた。その見方があまりに不躾だった為、眉間に皺がよる。すると突然、目の前が暗くなった。何事かと思って暗くなった原因の物から顔を出す。


それはベルナールという男のマントだった。

「貴殿の恰好は、女子としてはあるまじき恰好。失礼ながらマントを付けられよ。また、包帯のようなものをされているようだが、怪我をしているようであれば、医官を呼ぶがどうされるか?」

少し怒り口調で言われた。

『怪我はしてないで。これ晒しいうてこの特攻服と対のもんや』

ピラピラとマントから中の晒しで巻いた特攻服姿を見せると


「///っつ!どの国でもその格好は控えられた方が良かろう!!」


完璧に怒り口調で言うや否やマントの結び目をおもくそ閉められた。
何処に怒る要素があったんか解らず、手荒くされた事に睨み付けると、奴はすでに切り替えていた。

「貴殿の名前は、キ……キャン…キャンアキモーカで宜しいか?」

発音がしにくそうに、しかも何回か私が噛んだ通り言われてもうた。
再度名前を訂正したが、発音がどうしてもできにくそうで、仕方なくこちらが折れてただの"トーカ"となった。
"ももか"も音読みすれば"トウカ"と読める。ウが言えないらしく、伸ばして"トーカ"となったのだ。


早速私の出国と名が解り、本題に入って来た。
礼がしたいのでターベル国に来てほしいと言われた。行く当てのない私としては、願ったり叶ったりの申し出を受けた。負傷兵を馬車に乗せ終わって出発という合図と共に、私もバイクのエンジンを駆けた。が、その途端に馬が立ち上がり暴れ出した。

先程の戦いでも、騎馬隊の脅しにこの爆音が一役かっていたのは間違いなかった。慣れていない爆音に戦いの手を止めた騎士達は、出処と自分達に危害が無いと分かればこの爆音は五月蠅いだけだったが、馬はそうはいかない。

仕方なくエンジンを切って、隊長のベルナールを見ると、眉間に皺を寄せた男から無茶振りな言葉が出た。

「…申し訳ないが、鉄の馬を鳴かせないで頂けるか」
『…バイクは走らすと音が鳴るもんや。無茶言わんといてくれるか』
「バイク?」
『これのことや』

そう言ってバイクを指す。私と隊長のやり取りを周りの騎士達が馬を宥めながら見守る。

「では、走らなければ今のような静かな状態か?」

うんうんと首を縦に振って肯定すると、横にいた騎士にベルナールは目で合図を送る。その騎士は負傷兵の乗った馬車をこちらに移動させて来た。
なんや嫌な予感がするで…。


「こちらにトーカ殿の鉄の馬を誘導して頂けるか」


ベルナールという男からバイクを馬車に乗せるように言ってきた。
負傷兵も気味の悪いバイクが乗合すということで、存分に嫌な顔が見受けられた。が、隊長命令では仕方がない。嫌々納得をした負傷兵と、納得のいかない私。

納得できんまま、私1人で馬車に乗せれないと言うと手の空いている兵士4人を呼んで、積み込みさせた。横の負傷兵から「…これ、暴れませんか?」と聞かれて、バイクに乗れない腹いせに『暴れはしいひんけど、噛むかもしれんな!』と言った瞬間、バイクを持っていた兵士と負傷兵が同じ言葉を出した。


「「ト…トーカ殿!この鉄の馬の口は何処でございますか!!」」


その反応におもしろなって、ハンドルの所を指をさすとその付近を持っていた兵士が焦り出した。
余りにも焦っていたので、ちょっとやり過ぎたかと思い再度言い直す。

『嘘や。噛みつかんし暴れもせえへん。安心してええで。今はただの鉄の塊や』

その言葉に何度も何度も厳つい男が確認する様は、正直可愛かった。
バイクも積み終えてベルナールに疑問をぶつける。


『で、バイクが無くなった私はどうすんねん?』


目の前に一頭の馬が用意され、これに乗って着いて来いと言う。目をぱちくりして無理、無理、無理と首を振ると、ベルナールは馬車に乗せられたバイクを見て、再度私に持って来た馬を見た。そして私に向き直り眉間に皺を寄せ、解せなさそうな顔をされる。
多分、あれ(バイク)に乗れて4本足の馬に何故乗れないという感じだ。
ムッとして、こっちも眉間に皺を寄せて遺憾の意を表明する。


ベルナールは大きな溜息の後、手を差し出した。意味が分からず握手する。私の握力は破壊的だと自覚している為、やんわりと握った所をぐいっと馬上に引っ張り上げられた。余りにも吃驚して出た言葉がこれだった。


『何さらすんじゃっ!』


その場の空気が一気に冷えた気がする。いや気がするではなく間違いなく冷えた。
何故なら私を馬上に上げた張本人が己の剣の鞘に手をかけたからだ。今だ鞘から手を離してない男に、冷や汗まみれに弁明する。


『馬上に上げんねんやったら、一言言うてからにしてくれるか。脱臼するやないか。はぁ…マジ痛いわ』


全く痛くも痒くも無かったが、さもそっちが無礼やろとばかりに肩を擦った。


「…それはすまなかった……」


鞘から手を離し私に詫びるこの男にホッとした。周りの騎士達も私と同じようにホッとし、改めて出発したのだった。

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