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第四章 神の武と魔性と
不死身の大魔と神代の剣技
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大魔は大きな苦鳴を上げ、切り裂かれた途端に赤黒い霧のような瘴気をおびただしく吹きあげ、辺り一面に撒き散らしつつ、その姿は頽れ皮だけとなって萎れて行った。
大量の瘴気と妖気、つまりは魔素を浴びれは行かな装武士とはいえ無事では済まない。
億姫は青い雷を躰中に張り巡らせ、焼き払い振り解きつつ後ろへ大きく跳んだ。
「くっ」
億姫の顔が歪む。魔素を所々に食らったようだ。
暗闇の中、身に帯びる青い雷に浮かび上がる玉の様な肌に、黒ずんだ痣が見え隠れしている。
片膝をつく億姫を、赤黒い瘴気が渦巻きながら辺りを取り囲む。
この霧のような瘴気自体がこの大魔の本体だったのだ。
侵され満足に動けなくなりつつある躰を引き摺りながら、億姫は己の迂闊さに唇を嚙んだ。
四方に雷撃を張り巡らせ、身を護りつつ転機を窺う。
如何なる大魔が相手でも、これと相戦い組み伏せる。其の為の神武装術であり装武士であるのだ。
力が一歩及ばないのであれば、更なる神威で討ち果たすのみ。
億姫は強く願った。
「七神の約定を果たす為、魔を討つ更なる知恵と力を」
東雷龍王の強大過ぎる力と識が、億姫の乙女の躰へ流れ込む。
億姫の意識は烈しい流れに揺らぎ煽られ、躰中に大きな苦痛を生んで肉をむしり取られるような、内側から槍で刺されているかのような激しい痛みを生む。
悶え死にしそうな苦痛に溜息一つつくことなく、億姫は己の苦鳴を一息で嚙み殺した。
流れ込む識の奔流の中から、降魔の利剣が浮かび上がる。
憤怒の形相で炎を纏い魔障を踏みつけにする太陽神の化身。其の化身が持つのが白金の光炎を放つ降魔の利剣だ。
億姫は、意識を集中し力を集め、雷撃を右手に掴み左手の雷の剣に添えて重ねる。
剣が蒼い光から白金の輝きに代わり始めた。
億姫の顔に苦悶の表情が浮かんだ。体が震え、手が滑り、剣を取り落としそうになる。
余りにも力が大きすぎる。自身が霧散霧消してしまいそうであった。
だが、求める剣にはまだ及ばない。
自らの躰に宿る神恩も含め全て剣に全て集中した。
その途端、背中に激痛が奔り、額や腰のあたりから血が吹き出し滴り始め黒い痣が蠢き始めた。
神恩の加護が無くなり傷が開き、抑えられていた魔素が肉体を侵し始めた。
「武に寄りてこの身は神宿りなればっ、如何なることとておさ、め……ます」
歯を食いしばり顔を歪めながら苦悶する億姫であったが、神威と霊力が見事に重なって神に近い高みまで上がり、瞬間意識が爆発的に拡大されそして刃一点に集中する。
きらりと白炎が刃に灯った。
更なる霊力を込める為億姫は目を閉じた。
ぎぃぃいぃいえぇええええっ。
辺りを震わせ、気も怖気るような叫びが木魂する。
危険を感じ、霧のような魔素は再び集合し巨大な咢の大魔の姿を取って、雷撃に焼かれ躰の一部を消し飛ばされても怯むこと無く、その鉤爪と牙で切り裂き噛み砕くべく億姫へと迫った。
目を閉じたままの美少女は、珠の汗と紅い血潮を滴らせながらも、動く気配すらない。
剣気に集中している億姫は、迫りくる大魔の攻撃を躱し切れる状態には無く、最早命運は決まったかのように見えた。
だが、億姫の顔に焦りは無い。危急の折には必ず傍にいて何とかしてくれる頼りなる者がいるのだ。
その存在を忘れることなぞあり得ない。
「天冠の金。日輪の香」
月女の言霊が響きわたると同時に、空を埋め尽くす大量の光の矢が大魔へ降り注ぎ、瘴気の渦を掻き消し大魔の巨躯に突き刺さる。
大魔の動きが止まりよろめき膝をついた。月女の放った矢が全身を余すところなく射止め、その動きを封じたのだ。
月女は億姫が苦悶の表情を浮かべながら血を流しているのを目の当たりにして、己の判断の甘さを悔やんだ。
呼吸は荒く血もかなり滴っている。
しかし、億姫も月女も気配に微塵の乱れもなく一分の隙もない。
目を一瞬交わしただけでお互いに頷き合う。今は敵に当たるのみ。
黄金の輝きを放つ弓の弦を引きしぼり光の矢を放つ。月女の光の矢が大魔の動きを封じていた。
億姫にはその一瞬で充分であった。
「ひふみよいむなやことのとくさの實寶己が姿に変じ賜いてっ」
高らかに澄んだ声が響きわたる。
すると強く輝く白金の光の刃が辺りを眩しく照らし出した。
溢れ出す光は全ての影を滅し闇という闇を溶かしてゆく。
その力は熱く激しく燃え盛り、億姫自身すら灼き始めた。
苦悶の表情を浮かべながらも剣を構える億姫を助け支える為、龍王が姿を顕し光の剣にぐるりと巻き付くと、降魔之利剣が億姫の躰を灼いてしまわないように、金剛身で力を抑え込む。
あふれ出ていた光は和らぐと、煌く光の風となりその粒子で億姫の躰を覆いつくした。
億姫の躰と剣が眩いばかりの光を放つ。
その瞬間、億姫は剣を高く差し上げて一挙に振り下ろした。
閃光一閃。
一瞬にして、瘴気と妖気が散り散りになり、逃げだそうとしていた赤い口の大魔は悲鳴すら残さず光の中に掻き消えていく。
咆哮と共に辺りを揺るがしながら東雷龍王がその巨体を顕し、破魔の光の全てをその身に纏い、大きな龍の形をした光となり煌々と昼間のように辺りを照らしながら天へと駆け昇った。
「東雷龍王様。神恩いたみいります。月女、お蔭で助かりま……」
最期まで言葉は続かず億姫は糸の切れた人形の様に頽れ、抱きとめる月女が何やら叫んでいたがその声は耳に届かなかった。
大量の瘴気と妖気、つまりは魔素を浴びれは行かな装武士とはいえ無事では済まない。
億姫は青い雷を躰中に張り巡らせ、焼き払い振り解きつつ後ろへ大きく跳んだ。
「くっ」
億姫の顔が歪む。魔素を所々に食らったようだ。
暗闇の中、身に帯びる青い雷に浮かび上がる玉の様な肌に、黒ずんだ痣が見え隠れしている。
片膝をつく億姫を、赤黒い瘴気が渦巻きながら辺りを取り囲む。
この霧のような瘴気自体がこの大魔の本体だったのだ。
侵され満足に動けなくなりつつある躰を引き摺りながら、億姫は己の迂闊さに唇を嚙んだ。
四方に雷撃を張り巡らせ、身を護りつつ転機を窺う。
如何なる大魔が相手でも、これと相戦い組み伏せる。其の為の神武装術であり装武士であるのだ。
力が一歩及ばないのであれば、更なる神威で討ち果たすのみ。
億姫は強く願った。
「七神の約定を果たす為、魔を討つ更なる知恵と力を」
東雷龍王の強大過ぎる力と識が、億姫の乙女の躰へ流れ込む。
億姫の意識は烈しい流れに揺らぎ煽られ、躰中に大きな苦痛を生んで肉をむしり取られるような、内側から槍で刺されているかのような激しい痛みを生む。
悶え死にしそうな苦痛に溜息一つつくことなく、億姫は己の苦鳴を一息で嚙み殺した。
流れ込む識の奔流の中から、降魔の利剣が浮かび上がる。
憤怒の形相で炎を纏い魔障を踏みつけにする太陽神の化身。其の化身が持つのが白金の光炎を放つ降魔の利剣だ。
億姫は、意識を集中し力を集め、雷撃を右手に掴み左手の雷の剣に添えて重ねる。
剣が蒼い光から白金の輝きに代わり始めた。
億姫の顔に苦悶の表情が浮かんだ。体が震え、手が滑り、剣を取り落としそうになる。
余りにも力が大きすぎる。自身が霧散霧消してしまいそうであった。
だが、求める剣にはまだ及ばない。
自らの躰に宿る神恩も含め全て剣に全て集中した。
その途端、背中に激痛が奔り、額や腰のあたりから血が吹き出し滴り始め黒い痣が蠢き始めた。
神恩の加護が無くなり傷が開き、抑えられていた魔素が肉体を侵し始めた。
「武に寄りてこの身は神宿りなればっ、如何なることとておさ、め……ます」
歯を食いしばり顔を歪めながら苦悶する億姫であったが、神威と霊力が見事に重なって神に近い高みまで上がり、瞬間意識が爆発的に拡大されそして刃一点に集中する。
きらりと白炎が刃に灯った。
更なる霊力を込める為億姫は目を閉じた。
ぎぃぃいぃいえぇええええっ。
辺りを震わせ、気も怖気るような叫びが木魂する。
危険を感じ、霧のような魔素は再び集合し巨大な咢の大魔の姿を取って、雷撃に焼かれ躰の一部を消し飛ばされても怯むこと無く、その鉤爪と牙で切り裂き噛み砕くべく億姫へと迫った。
目を閉じたままの美少女は、珠の汗と紅い血潮を滴らせながらも、動く気配すらない。
剣気に集中している億姫は、迫りくる大魔の攻撃を躱し切れる状態には無く、最早命運は決まったかのように見えた。
だが、億姫の顔に焦りは無い。危急の折には必ず傍にいて何とかしてくれる頼りなる者がいるのだ。
その存在を忘れることなぞあり得ない。
「天冠の金。日輪の香」
月女の言霊が響きわたると同時に、空を埋め尽くす大量の光の矢が大魔へ降り注ぎ、瘴気の渦を掻き消し大魔の巨躯に突き刺さる。
大魔の動きが止まりよろめき膝をついた。月女の放った矢が全身を余すところなく射止め、その動きを封じたのだ。
月女は億姫が苦悶の表情を浮かべながら血を流しているのを目の当たりにして、己の判断の甘さを悔やんだ。
呼吸は荒く血もかなり滴っている。
しかし、億姫も月女も気配に微塵の乱れもなく一分の隙もない。
目を一瞬交わしただけでお互いに頷き合う。今は敵に当たるのみ。
黄金の輝きを放つ弓の弦を引きしぼり光の矢を放つ。月女の光の矢が大魔の動きを封じていた。
億姫にはその一瞬で充分であった。
「ひふみよいむなやことのとくさの實寶己が姿に変じ賜いてっ」
高らかに澄んだ声が響きわたる。
すると強く輝く白金の光の刃が辺りを眩しく照らし出した。
溢れ出す光は全ての影を滅し闇という闇を溶かしてゆく。
その力は熱く激しく燃え盛り、億姫自身すら灼き始めた。
苦悶の表情を浮かべながらも剣を構える億姫を助け支える為、龍王が姿を顕し光の剣にぐるりと巻き付くと、降魔之利剣が億姫の躰を灼いてしまわないように、金剛身で力を抑え込む。
あふれ出ていた光は和らぐと、煌く光の風となりその粒子で億姫の躰を覆いつくした。
億姫の躰と剣が眩いばかりの光を放つ。
その瞬間、億姫は剣を高く差し上げて一挙に振り下ろした。
閃光一閃。
一瞬にして、瘴気と妖気が散り散りになり、逃げだそうとしていた赤い口の大魔は悲鳴すら残さず光の中に掻き消えていく。
咆哮と共に辺りを揺るがしながら東雷龍王がその巨体を顕し、破魔の光の全てをその身に纏い、大きな龍の形をした光となり煌々と昼間のように辺りを照らしながら天へと駆け昇った。
「東雷龍王様。神恩いたみいります。月女、お蔭で助かりま……」
最期まで言葉は続かず億姫は糸の切れた人形の様に頽れ、抱きとめる月女が何やら叫んでいたがその声は耳に届かなかった。
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