6 / 22
第一章 天に真の武有り
七神流の技の冴え
しおりを挟む
「貴様ぁあああっ、七神流なのかぁあああ」
その声に弾けるように、双頭の狂い獅子は、躰中から、青い光を閃かせながら億姫に殺到した。
億姫はひらりとその突進を躱すと、手にした扇子で狂い獅子の横腹を突き上げた。
「ぐあぁあぁあ」
双頭の狂い獅子はどちらの顔も苦悶を浮かべ動きを止めると地に突っ伏した。
「馬鹿なぁああ、あたしは、あたしは……何でこんなに痛いんだぁあ。嫌だあよゥ、助けておくれよぅ」
苦悶の表情を浮かべ、血反吐を吐いた女形役者の顔に、億姫は寂し気な視線を投げて、
「貴方からは暗くて黒い妖気と殺気しか感じ取れません。残念です。ですが狂い獅子は塵に返し、貴方の魂を輪廻に戻します」
ときっぱりと言い放つと、天に向けてのびやかに手を真っ直ぐに伸ばした。
「我、盟約に適いしもの。故に装武奉る。参らせ給え、東雷竜王」
凛とした声が辺りに響く。
女形役者の巨大な顔は苦痛と憎悪に満ち満ちて、片方の外道獅子の顔から紅蓮の炎を吐きつけた。
月女の傍に居る童が驚きと恐怖の表情を浮かべたのを、月女は優しく見下ろして、
「大丈夫よ。貴方も貴方の大切なお母っちゃんも、ささくれ一つ出来やしないわ」
そうたおやかに微笑むと、炎は結界に阻まれて月女と童の少し手前で、巨大な武者の手により掻き消された。
茶屋の方へは火の粉すら飛んでいない。
それを見て、童は頷くと同時に億姫を指さした。
「姫様の心配までしてくれるの? 有難う、力強き男のこよ。でも姫様は大丈夫。美しいのと同じくらいに強いから。つまりはほぼ無敵ってところかしら。ほら、見てみて」
月女の視線の先では、外道獅子の吐いた火焔が雷の煌めきに四散していた。
億姫は、いつの間にどこから出したのか、自分の身長よりも大きい大剣を片手に、天に構えている。
その銀色に煌めくその巨大な刀身は、雷を纏い辺りに放たれている。
雷は敵を打ち砕く雷電龍の力紋様から生じており、握り柄は龍が咥えた拵宝珠がきらりと光っている。
意匠を凝らした見事な大剣で、号して『大雷身』東雷龍王の権能と加護を得ている神剣である。
すると、銀光が閃いた刹那、どんっと腹の底まで音が響き、地が揺れた。
あわせて、泥水が舞って水煙と化し辺りを覆って遮り、一瞬何も見えなくなった。
しばらくして、しゅうしゅうと水が蒸発する音も鳴りやんで視界も晴れ、水煙が収まると、街道が広い範囲にわたり土壁や地面が抉れられていた。
恐ろし気であった双頭の狂い獅子は、その巨体の痕跡すら残さず消し飛んでいた。
何かしらの凄まじい力が放たれたことだけは、誰の眼から見ても一目瞭然である。
其の技を放った当の億姫は、
「一の神様。申し訳ございません。まだまだ精進が足りません」
と剣を両手で捧げ、目を閉じて空に深く一礼するその表情は暗い。
足元には、千切れ飛んだ百合の花びらが幾つか落ちている。
億姫は片手で大剣をひゅんと振ると大剣はいつの間にか黒光りする大きな鞘に収まっていた。
黒光りする鞘には金色の家紋が大きく入っていて、金色の文字で大きく丸に七と書いてあり、七の文字を囲むように一、二、三、四、五、六の六つの数字が配されており、その七の文字がきらりと光ったと思ったら大剣は青い雷となって天へと消えた。
それを見送った億姫は、小さなため息一つと共にしゃがみ込むと、散った百合の花びらを掌にあつめてじっと見つめた。
拾った百合の花びらは傷ついて泥にまみれており、億姫はその泥を指先で丁寧に拭うと、目を閉じて静かに手を合わせた。
その姿は、何処までも美しく、絵画的であり、哀し気であった。
その声に弾けるように、双頭の狂い獅子は、躰中から、青い光を閃かせながら億姫に殺到した。
億姫はひらりとその突進を躱すと、手にした扇子で狂い獅子の横腹を突き上げた。
「ぐあぁあぁあ」
双頭の狂い獅子はどちらの顔も苦悶を浮かべ動きを止めると地に突っ伏した。
「馬鹿なぁああ、あたしは、あたしは……何でこんなに痛いんだぁあ。嫌だあよゥ、助けておくれよぅ」
苦悶の表情を浮かべ、血反吐を吐いた女形役者の顔に、億姫は寂し気な視線を投げて、
「貴方からは暗くて黒い妖気と殺気しか感じ取れません。残念です。ですが狂い獅子は塵に返し、貴方の魂を輪廻に戻します」
ときっぱりと言い放つと、天に向けてのびやかに手を真っ直ぐに伸ばした。
「我、盟約に適いしもの。故に装武奉る。参らせ給え、東雷竜王」
凛とした声が辺りに響く。
女形役者の巨大な顔は苦痛と憎悪に満ち満ちて、片方の外道獅子の顔から紅蓮の炎を吐きつけた。
月女の傍に居る童が驚きと恐怖の表情を浮かべたのを、月女は優しく見下ろして、
「大丈夫よ。貴方も貴方の大切なお母っちゃんも、ささくれ一つ出来やしないわ」
そうたおやかに微笑むと、炎は結界に阻まれて月女と童の少し手前で、巨大な武者の手により掻き消された。
茶屋の方へは火の粉すら飛んでいない。
それを見て、童は頷くと同時に億姫を指さした。
「姫様の心配までしてくれるの? 有難う、力強き男のこよ。でも姫様は大丈夫。美しいのと同じくらいに強いから。つまりはほぼ無敵ってところかしら。ほら、見てみて」
月女の視線の先では、外道獅子の吐いた火焔が雷の煌めきに四散していた。
億姫は、いつの間にどこから出したのか、自分の身長よりも大きい大剣を片手に、天に構えている。
その銀色に煌めくその巨大な刀身は、雷を纏い辺りに放たれている。
雷は敵を打ち砕く雷電龍の力紋様から生じており、握り柄は龍が咥えた拵宝珠がきらりと光っている。
意匠を凝らした見事な大剣で、号して『大雷身』東雷龍王の権能と加護を得ている神剣である。
すると、銀光が閃いた刹那、どんっと腹の底まで音が響き、地が揺れた。
あわせて、泥水が舞って水煙と化し辺りを覆って遮り、一瞬何も見えなくなった。
しばらくして、しゅうしゅうと水が蒸発する音も鳴りやんで視界も晴れ、水煙が収まると、街道が広い範囲にわたり土壁や地面が抉れられていた。
恐ろし気であった双頭の狂い獅子は、その巨体の痕跡すら残さず消し飛んでいた。
何かしらの凄まじい力が放たれたことだけは、誰の眼から見ても一目瞭然である。
其の技を放った当の億姫は、
「一の神様。申し訳ございません。まだまだ精進が足りません」
と剣を両手で捧げ、目を閉じて空に深く一礼するその表情は暗い。
足元には、千切れ飛んだ百合の花びらが幾つか落ちている。
億姫は片手で大剣をひゅんと振ると大剣はいつの間にか黒光りする大きな鞘に収まっていた。
黒光りする鞘には金色の家紋が大きく入っていて、金色の文字で大きく丸に七と書いてあり、七の文字を囲むように一、二、三、四、五、六の六つの数字が配されており、その七の文字がきらりと光ったと思ったら大剣は青い雷となって天へと消えた。
それを見送った億姫は、小さなため息一つと共にしゃがみ込むと、散った百合の花びらを掌にあつめてじっと見つめた。
拾った百合の花びらは傷ついて泥にまみれており、億姫はその泥を指先で丁寧に拭うと、目を閉じて静かに手を合わせた。
その姿は、何処までも美しく、絵画的であり、哀し気であった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる