鍵盤上の踊り場の上で

第2章 Disabled

光

「相原くん」
水瀬は、また僕の名を呼んだ。愛おしそうに、嬉しそうに。
「これからも、私にピアノを教えてくれませんか──？」
そう言って、僕に向けて手を差し伸べた。
まるで、プロポーズのようだな、と思った。
いや、もしかしたらそうなのかもしれない。君のピアノ人生に今の一時だけ寄り添う者として、君は僕に。
僕は笑って言った。ついでに、心の中の照れくささを添えて。
「もちろん、喜んで」
僕は、差し伸べてくれた水瀬の手をそっと握った。水瀬の手は、思っていたよりも細くて白くて、温かかった。それが、これからのピアノへ向けた愛情であってほしいと願わずにはいられない。
夕暮れ時の太陽が、視界の端で眩しく輝いた。同時に、水瀬の目からこぼれ落ちた涙も輝いた。
きっとそれは、太陽よりも強く。
小さな光を放っていた。