鍵盤上の踊り場の上で

紗由紀

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第1章 Encounter

探し人

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そんなことがあった昨日だったから、僕は人のことを気にするようになった。
水瀬が何組なのか知り得なかったからだ。
もし何か言いたいことがあったりすれば、水瀬のクラスに行って伝えられると思ったのだ。
隣のクラスから探した。C組にはいなかった。少なくとも、僕が見える範囲内で、だが。
A組へと向かった。
「あれ?昨日の人だ!」
昨日初めて鼓膜に響いた声がまた響いた。驚いてそちらへと振り向く。
そこには、水瀬がいた。
僕は水瀬の言葉に応じようとした。
けれど。
…昨日の人?
どうやら、水瀬の方は僕の名前を覚えていなかったらしかった。
…少しからかってやろう。
「…名前、覚えてなかったのか」
「……」
無言で笑ってこの場から逃れようとする水瀬を見て、僕は可笑しくなった。
「湊斗。相原湊斗」
「…あぁ、そうだったー」
「絶対覚えてなかっただろ」
「そ、そんなことありませんよ?」
慌てている水瀬を見て、少し可笑しかった。僕がそうして笑っていると水瀬もまた笑った。僕の笑顔はそんなにおかしいだろうか。
ふと時計を見ると、休み時間は終わりに近づいていた。そう言えばと用件を思い出した僕は水瀬にそれを伝えた。
「何組?」
「A組。君は?」
「B組」
「え、隣だったの?知らなかった」
水瀬は目を見開いて僕を見た。確かに、こういう出会いというものは意外と近いところにあるのかもしれないな、なんて考えた。
「あ、次の授業、体育だから」
水瀬はそう言った。言われてみれば水瀬はジャージ姿になっている。
「まだ暑いのに、長袖ジャージ着てるのか」
「…寒がりなんだよね、私」
そのまま水瀬と休み時間が終わるまで話した後、僕は教室へと向かった。
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