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第五話「お腹が空いたので閉店、そして…大混乱!?」

第二章:ランチ営業開始、そして突然の営業時間短縮宣言

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雪乃が「ランチ!」と宣言した時、弥生と忍は複雑な表情を浮かべた。雪乃の突飛な発想には慣れているものの、今回はいつも以上に不安を感じていた。

「ランチ、ですか…」

弥生は慎重に言葉を選びながら尋ねた。雪乃の真意を測りかねていた。

「そうよ、ランチ。お昼の時間だけ、食事を提供するの。そうすれば、お腹が空いたからって途中で店を閉める必要もなくなるじゃない?」

雪乃は目を輝かせながら説明した。その表情は、新しい遊びを思いついた子供のようだ。

「確かに、それは理にかなっていますね」

忍が冷静に分析した。弥生も頷いた。ランチ営業は店の収入安定に繋がり、雪乃の気まぐれによる突然の閉店を防ぐ効果も期待できる。

「メニューはどうしましょうか?」

弥生の問いに、雪乃は少し考えて答えた。

「そうね…ここは喫茶店だから、軽食が良いわね。昔、母上がよく作ってくれた、ミートソースパスタと、サンドイッチが良いわ。簡単で美味しいし。」

「サンドイッチ、ですか…」

弥生は思案顔になった。サンドイッチにも様々な種類がある。雪乃の好みは少し変わっているかもしれない。

雪乃は弥生の様子を見て、にやりと笑った。

「あら、心配しているの?大丈夫よ。私が考えているのは、クラブサンドよ。具沢山で、見た目も華やかで、きっとお客様も喜ぶわ。」

「クラブサンド、ですか。承知いたしました。」

弥生は頷いた。クラブサンドは喫茶店の定番メニューであり、見た目も華やかだ。

「よし、決まりね!ランチメニューは、ミートソースパスタとクラブサンド!これを日替わりで出しましょう!シンプルで良いわ!」

雪乃は満足そうに言った。新しいことに期待を膨らませているようだ。

「営業時間はどうしましょうか?」

忍が尋ねた。雪乃は少し考えてから、突拍子もないことを言い出した。

「そうね…毎日同じ時間に来られるのも、なんだか窮屈だわ。そうね…これからは、営業時間は三時間にしましょう!」

「三時間ですか!?」

弥生は思わず声を上げた。あまりにも短い。通常の喫茶店であれば、午前中から夕方まで営業するのが一般的だ。

「お嬢様、それはあまりにも短いのでは…お客様が困惑されるかと…」

弥生が反論したが、雪乃は全く聞く耳を持たない。

「だって、長時間働くのは疲れるもの。それに、他のこともしたいし。それに、ランチタイムは一時間だから、三時間もあれば十分でしょ?」

雪乃は涼しい顔で言った。ここで重要なのは、雪乃は「ランチタイムは一時間」という事実は認識しているものの、「営業時間=ランチタイムではない」という基本的な概念が欠落していることだ。彼女の中では、ランチタイムを含めた三時間で全てが完結している、という認識なのだ。

弥生と忍は顔を見合わせた。この会話で、今後の大混乱を予感せざるを得なかった。

「では、具体的には何時から何時まで営業するのですか?」

忍が冷静に尋ねた。雪乃は少し考えてから、気まぐれに答えた。

「そうね…十二時から十五時、というのはどうかしら?ちょうどお昼時を挟んでいるし。」

「十二時から十五時…ランチタイムは十二時から十三時…」

弥生は頭の中で計算した。ランチタイムは営業時間内に含まれている。しかし、雪乃の「疲れたら一時間で閉店」という言葉が頭をよぎった。

「お嬢様、もし疲れた場合、閉店されるのは何時になるのでしょうか?」

弥生の問いに、雪乃はあっさりと答えた。

「あら、疲れたらもちろん一時間で閉店よ。だって、疲れているのに働くなんて、私には無理だもの。」

弥生と忍は再び顔を見合わせた。これは、大変なことになる、と二人は確信した。営業時間三時間、うちランチタイム一時間。しかし、疲れたら一時間で閉店。この矛盾だらけのルールは、客だけでなく、弥生と忍をも大いに混乱させることになるだろう。

翌日から、この新たなルールが適用されることになった。店の入り口には、手書きで書かれた営業時間のお知らせが貼り出された。「営業時間:12時~15時(ランチタイム:12時~13時)※ただし、店主の都合により、営業時間が変更になる場合がございます。」と、小さく注意書きが添えられている。この注意書きが、今後の大混乱を象徴していることを、弥生と忍は深く感じていた。雪乃の気まぐれが、どのような騒動を巻き起こすのか、二人は不安と、ほんの少しの諦めを抱えながら、その日を迎えることになった。

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