はやらない喫茶店を目指してるのに今日も大人気

ゆる

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第一話

第2章:新作スイーツ プリンの秘密

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ラルベニア王国の王都ラダニアンにある喫茶店「雪の庭」。気まぐれな営業時間にもかかわらず、この店は最近ますます評判を呼んでいた。その理由の一つは、新作スイーツ「冷やしプリン」の登場である。
この滑らかでとろけるようなプリンは、訪れる客たちを虜にしていた。しかし、その作り方を見れば、意外な真相が明らかになる。


---

プリンの仕込み

「さて、今日もプリンの仕込みを始めましょうか。」

雪乃が厨房に入り、エプロンをつける。その姿は店主というより、のんびりした趣味人のようだ。

「お嬢様、今日も愛情だけで作るおつもりですか?」

忍が冷ややかに尋ねると、雪乃は微笑みながら答える。

「もちろん。愛情を込めるのが一番大事なのよ。ほら、弥生、材料をお願い。」

弥生が冷静に材料を用意する。プリンの基本材料は以下の通りだ。

牛乳 … 500ml

卵 … 3個

砂糖 … 大さじ4

バニラエッセンス … 少々

砂糖(カラメル用)… 大さじ3

水(カラメル用)… 大さじ2


「まずはカラメルソースを作るわよ。」

弥生が鍋を用意し、砂糖と水を慎重に加える。火にかけると、だんだんと色が変わっていく。雪乃はその様子を眺めながら嬉しそうに呟く。

「この色がいいのよね。黄金色からちょっと濃い茶色になった瞬間が一番美しいわ。」

「お嬢様、それを眺めているだけではなく、手伝っていただけますか?」

忍が苦言を呈するが、雪乃は軽く笑って流す。

「弥生が完璧に作ってくれるから問題ないわ。」

出来上がったカラメルを器に流し込み、冷まし始めると、次はプリン液を作る段階に入る。


---

プリン液の準備

弥生がボウルに卵を割り入れると、雪乃が混ぜ始める。とはいえ、ゆっくりとかき混ぜるだけで、ほとんど力は入っていない。

「ほら、私が混ぜると特別な味になるのよ。」

「お嬢様、それはただの気分では?」

弥生は苦笑しながら牛乳を鍋で温め、砂糖を溶かす。火加減を調整しながら、牛乳が沸騰しないように注意を払う。

「次に、この温めた牛乳を少しずつ卵に加えるのよね。」

弥生が牛乳を注ぎ始めると、雪乃は混ぜる手を止め、再び傍観者となる。

「このタイミングでバニラエッセンスを入れると、香りが引き立つのよね。」

「お嬢様、それを口で言うだけではなく、手を動かしてください。」

忍の指摘に、雪乃はしぶしぶ再びかき混ぜ始めた。


---

魔法の冷蔵ストレージへ

滑らかに混ぜ終えたプリン液を器に注ぎ、準備完了。弥生がそれを慎重に魔法の冷蔵ストレージに運び入れる。

「この冷蔵ストレージ、優秀すぎるわ。ほとんど私が何もしなくても完璧な仕上がりになるもの。」

「お嬢様、それはストレージが優秀だからでは?」

「いいえ、私が愛情を込めて冷やすからなのよ。」

雪乃は堂々と主張するが、実際にはストレージが全自動で冷却と温度管理を行っている。忍と弥生は何も言わずに顔を見合わせた。


---

お客様の反応

昼過ぎ、店が開くと最初に入ってきたのは常連候補のレオンだった。

「今日もプリンがあるんだよな?」

「ええ、もちろん。今日はさらに愛情を込めて冷やしたから、特別な仕上がりよ。」

雪乃は胸を張りながら答える。
レオンが一口食べると、目を輝かせた。

「うまい! 本当に店長が作ったのか?」

「ええ、そうよ。この美味しさの秘訣は私が見守ったことにあるの。」

「……それ、冷蔵ストレージが優秀なだけでは?」

雪乃は笑顔を崩さず、さらりと答えた。

「冷蔵ストレージだって私の一部みたいなものよ。」

レオンは苦笑しつつも、プリンを最後まで美味しそうに食べた。


---

閉店後のひととき

営業終了後、雪乃はカウンターで紅茶を飲みながら満足そうに呟いた。

「今日もいい仕事をしたわ。」

忍が片付けの手を止めて言った。

「お嬢様、冷蔵ストレージに頼っていただけでは?」

「それが大事なのよ。あのストレージが私の愛情を冷やしてくれるんだから。」

「それ、どういう理屈ですか……?」

弥生は苦笑しつつも、冷蔵ストレージの中を点検しながらこう言った。

「お嬢様、明日もプリンを出すなら、そろそろ新しい材料を手配しましょう。」

「そうね。でも、明日開けるかどうかは私の気分次第よ。」

忍と弥生は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


---

こうして、「雪の庭」は店主の気まぐれなスタイルを貫きつつも、冷やしプリンの評判で王都にその名を広めていくのだった――。



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