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2-3: 貴族社会への第一歩

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レオンとの会談から数日後、セリカ・ラピッドは新たな舞踏会に出席する準備をしていた。今回の舞踏会は、貴族社会で重要な人脈を築く絶好の機会でもあった。婚約破棄というスキャンダルの後、セリカがどのように立ち振る舞うのか、出席者たちの注目が集まっていることは明らかだった。


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冷静な準備

侍女のエリザがセリカのドレスの仕上げを整えながら声をかけた。
「セリカ様、今回の舞踏会では、皆がセリカ様の動向を注目しているかと存じます。どうかお気をつけて。」

セリカは鏡越しにエリザに微笑みかけた。
「ありがとう、エリザ。今回の舞踏会では、私自身の力を見せるための一歩を踏み出しますわ。」

エリザは頷きながらも、少し心配そうな表情を浮かべた。
「噂はまだ根強く残っていますが、それでもセリカ様ならきっと……。」

「噂に囚われる必要はありませんわ。」
セリカは毅然とした声で答えた。
「私が見せるべきものは、冷静さと実力。それさえ示せれば、周囲の評価は自然と変わります。」

その言葉には揺るぎない自信が込められていた。


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舞踏会の幕開け

夜、王宮の広間には豪華なシャンデリアの光が煌めき、貴族たちが談笑を楽しんでいた。その中に、深い緑色のシンプルながらも上品なドレスを纏ったセリカが静かに登場した。

彼女が姿を現すと、瞬く間に人々の視線が集まった。婚約破棄のスキャンダルを経験した彼女が、何事もなかったかのように堂々と舞踏会に現れたことに、多くの者が驚いていた。

「セリカ様が……。」
「やはり冷静さは変わらないのね。」
「それにしても、あの堂々たる態度は見習いたいものだわ。」

そんな声が広間中で囁かれる中、セリカは周囲の注目を一切意に介さず、微笑を浮かべながら挨拶を交わしていった。


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新たな人脈の構築

セリカはまず、今回の舞踏会の主催者である侯爵夫人と挨拶を交わした。侯爵夫人は、セリカの冷静な態度に好感を抱いている様子で、柔らかい笑顔を見せた。

「ラピッド令嬢、よくいらっしゃいました。今回の舞踏会にお越しいただけて光栄です。」
「お招きいただきありがとうございます、侯爵夫人。」

その場にいた他の貴族たちも、セリカの落ち着いた態度に感銘を受け、次々と彼女に挨拶を交わし始めた。

「セリカ様、先日の舞踏会でのご振る舞い、噂になっておりますよ。」
「ありがとうございます。私にできることは、ただ自分の立場を守ることだけですわ。」

セリカの簡潔で誠実な返答に、多くの者が彼女の冷静さに好感を抱き始めた。


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予期せぬ邂逅

舞踏会の終盤、セリカは一人で広間の隅に立っていた。その時、一人の貴族が近づいてきた。それは、若手ながらも急速に台頭している貿易商人出身の男爵、ヴィクトール・エバーグリーンだった。

「ラピッド令嬢、噂は耳にしていますよ。だが、直接お話するのは初めてですね。」
彼はそう言いながら、礼儀正しく頭を下げた。

「お噂は存じ上げております、エバーグリーン男爵。」
セリカは冷静に返答しながら、彼の真意を探るように視線を向けた。

「私は正直に申し上げますが、あなたの冷静な対応には感銘を受けています。婚約破棄という状況であれほどの態度を示すとは。」

ヴィクトールの率直な言葉に、セリカは軽く微笑んだ。
「お褒めいただき光栄ですわ。ですが、それも私自身の生き方を示すために必要なことです。」

「ならば、少しお話を伺いたいのですが。」
ヴィクトールはそう言い、セリカに差し出されたワインを勧めた。二人は静かな一角で、経済政策や貿易に関する話題について意見を交わした。

「あなたの見解は興味深い。いずれ、正式にお力を借りたいと思います。」
ヴィクトールはそう言い残し、礼儀正しく去っていった。その背中を見送りながら、セリカは内心で確信を抱いた。

(新たな人脈の第一歩ですわ。私の計画を実行するための道が開けてきました。)


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動き出す未来

舞踏会が終わる頃、セリカは貴族たちの間で確実に評価を取り戻しつつあることを実感していた。婚約破棄というスキャンダルを跳ね返すのではなく、その逆境を力に変えることで、彼女は新たな立場を築き始めていた。

帰路に着く馬車の中、セリカは一人静かに微笑みを浮かべた。
(私は、私自身の力で未来を切り開いてみせます。そして、私を信じてくれる人々と共に、新たな価値を築いていくのです。)

その瞳には確かな自信と情熱が宿っていた。婚約破棄という挫折を機に、セリカ・ラピッドは貴族社会の中で新たな地位を築くための道を歩み始めたのだった。

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