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第一章「迷宮都市ベーレント編」
第十三話「試験前日」
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ノーマルカプセルの中身は小太刀、ラージアクス、グラディウス、シルバーメイル、シルバーフォールドだった。
Dランクの中級冒険者シリーズには軽量化されたライトシリーズの防具と武器が入っている様だ。俺はライトメイルとライトフォールドを身に着け、小太刀を刀と共に帯に差した。
「ユリウス、騎士みたいで格好良い!」
「一応職業は魔法道具屋なんだけどね」
「ユリウスはお店を開きたいの?」
「魔法道具が溜まったら行商の旅をしながら道具を売るのも良いかなと思ってるよ。さぁララもガチャを回してごらん」
「うん!」
ララがガチャを回すと、虹色に輝くレジェンドカプセルが落ちた。
「羽根付きグリーヴだ! ララもユリウスとお揃い!」
「レジェンドが出るなんて運が良いよ」
ララは興奮しながら羽根付きグリーヴを身に着け、窓を開けて地上を見下ろした。それからララは二階の部屋から飛び降り、羽根付きグリーヴの効果を実感して歓喜の声を上げている。
ララは元々フェンリルの子だから身体能力が極めて高い。ララが羽根付きグリーヴを使いこなしたら、ハーピー程度の魔物は瞬殺出来る様になるだろう。
それからララは何度も飛び跳ねて遊ぶと、遂に満足したのか二階の部屋にめがけて飛び、俺の胸に飛び込んだ。身長百三十センチの小さなララを下ろすと、ララは再びガチャを回した。五回ガチャを回して中身は全てノーマルカプセル。それでも一日でレアカプセルととレジェンドカプセルを引き当てる事が出来たのだから、かなり運が良い方だろう。
ノーマルカプセルの中身は魔石が入ったランタン、使い道の分からないガーゴイルの人形、ゴブリンの生首、軽量化された食器セット、それからスケルトンの置物。
「なんか変な物ばっかりだね」
「そんな事はないよ。食器セットとガーゴイル人形以外はすべて魔法道具だからね」
「本当!? 魔石ランタンは暗くなると勝手に光るんだよね」
「そう、このランタンは広く普及してるからララも知ってるんだね」
「それじゃゴブリン生首は? こんなの気持ち悪いから要らない!」
「この生首は運勢を占ってくれるんだよ。まぁ殆ど当たる事はないけど、一カ月に一度は完璧に運勢を言い当てるんだ」
「運勢なんて信じない。ララはずっと希望なんてなかったから……」
「それでも最近の運勢は良くなったんじゃないかな?」
「運勢じゃなくてユリウスのお陰だもん! ララが幸せになれたのはユリウスのお陰なんだから……!」
ララは俺の胸に飛びつくと、俺はララのモフモフした頭を撫で、しばらく彼女が満足するまで触れ合っていた。
「それじゃこのスケルトンの置物はどういう効果があるの?」
「これは窓際に置いておくと侵入者を察知する力があるんだよ。外から窓を開けようとしたら動き出して持ち主に知らせるんだ」
「それだけ?」
「それだけなんだけど、防犯にはいいだろう? 勿論、窓を開けられても侵入者を阻止する力はないけど、結構大きい声で叫ぶから防犯にはなるんだ」
「変な置物だね」
ガチャは自分が作り上げた魔法道具をけなされたと思ったのか、憤慨しながら拳を振り上げてララに殴りかかった。と言っても小さなガチャの拳では誰も傷づける事は出来ないだろう。
ガチャは不安げに俺を見上げると、俺はオリハルコン製の友人を抱き上げた。
「ユリウス、明日はくれぐれも気を付けてね。エレオノーレ様は試験では大半の者が命を落とすと言っていたから……」
「大丈夫。必ず合格してみせるよ」
「ガチャには明日の試験は手伝えないけど、指環になって見守っているからね」
「ああ、いつもありがとう」
「僕はギルベルトからユリウスを守る様にと言われているからね。それから、そのゴブリンの生首、僕の予想だと今日が運勢を言い当てる事が出来る日だと思うよ。気になる事があるなら聞いてみたら?」
「どうしてそんな事がわかるんだい?」
「なんとなく表情がやる気に満ちているだろう? 普段はけだるげな感じだけどさ」
「俺には違いなんて分からないけど……」
それからガチャが指環の姿に戻ると、俺はテーブルの上にゴブリンの生首を置いた。ゴブリンの生首がニヤニヤしながら俺とララを交互見ると、小さく咳をしてから俺を見つめた。
「今日はお前さんの人生を大きく変える相手と出会うだろう。この縁はお前さんの人生で一度あるかないか。正しい行動をすればお前さんが大切に思っている人間は長く生き続ける。しかし、誤った選択をすれば蝕まれている命は尽きる。正しい道を選択してもお前は地獄を味わう事になるが、地獄の先で世界を変える力を手に入れる。困った時は茨の道を選択すると良い」
「え……? それはどういう事……?」
「……」
ゴブリンは俺を馬鹿にした様にニタニタと笑いながら見つめると、退屈そうに昼寝を始めた。それから何度話しかけてもゴブリンの生首が返事をする事はなかった。
「今日が俺の人生を変える日か……」
「ユリウス、気持ち悪いゴブリンの言葉を信じるの?」
ララが悪態をついた瞬間、ゴブリンは目をパッチリと開けてララを睨みつけた。
「ちなみにそこの小さい獣人。お前の運勢もそう悪くない」
「そうなんだ……」
「まぁそこの剣客よりは運気は低いがな。そっちの若い剣客は今日の行動で人生が決まる。それも自分の人生だけではなく、大陸中の人間の人生を決める事になるだろう」
「それってどういう事なんだよ! エレオノーレ様と関係してるのか?」
「俺が言えるのはここまでだ。信じるも信じないもお前さん次第……」
再びゴブリンが眠りに就くと、俺の頭の中は彼の言葉で一杯になった。とにかく、今日出会う全ての人を大切にし、困った時は困難な道を選べば良いのだろう。
「ララ、街に出ようか! 好きな物を買ってあげるよ」
「やった! それじゃエレオノーレ様みたいなワンピースが欲しい!」
「ちなみに俺は葡萄酒が飲みたいぞ」
再びゴブリンが目を開けると、ララがゴブリンの頭を叩いた。
「痛い……! 痛いって! やめろ!」
「こらこら、ゴブリンをいじめたらだめだよ」
ギーレン村の周辺でさんざんゴブリンを狩り続けていた俺がこんな言葉を言うのもおかしいが、占いしか出来ない無害のゴブリンを痛めつけるのは良くない。
「君の葡萄酒も買ってくるから待っててくれよ。占いのお礼だ」
「うむ、楽しみにしているぞ」
ゴブリンは俺に片目をつぶって見せると、ララに対しては舌を出して挑発した。まずは久しぶりの休みを満喫しよう。明日は封魔石宝流の継承者を選ぶ試験なのだから……。
それから俺はララと共に屋敷を出た。エレオノーレ様は朝早くから明日の継承者試験のために準備があると言って屋敷を出た。エレオノーレ様が「大勢の弟子が死ぬ」と言うのだから、ハーピー等とは比べ物にならない魔物を狩る事になるのは間違いないだろう。
明日の事を心配しながら街を見て歩き、ララのワンピースを購入し、ついでに下着屋でエレオノーレ様に似合いそうなピンクのブラジャーとパンツを見つけたので購入した。たまには贈り物も良いだろう。タダで屋敷に住まわせて貰い、毎日エレオノーレ様の豊満な肉体を見ているのだ。こんなに幸せな事はない。
「ユリウス! 向こうの方で何か大きな音がする!」
ララが指さす通路の先には市民達が大勢集まっており、武器が衝突する音や、魔法が炸裂する音が響いていた。時折街中で決闘を行う者がいるが、市民達が歓声を上げているので、遠くからでも決闘ではない事が分かる。
「見に行ってみようか!」
俺とララは石畳が規則正しく敷かれた道路を走り、野次馬達をかき分けて騒動の中心を目指して進んだ。市民達が円を描く様に三人の人物を取り囲んでいる。一人は酒場のバラック。ララを奴隷として働かせていた忌々しい男だ。
バラックがロングソードを構えて一人の青年を見つめている。赤髪を肩まで伸ばした、鋼鉄製のメイルを身に着けた育ちの良さそうな青年。彼は左右の手に一本ずつブロードソードを持ち、左の剣には雷を纏わせ、右の剣には風の魔力を纏わせている。二本の武器に別々のエンチャントを同時に掛けられる事から、並みの剣士ではない事が分かる。
青年は十五歳程の美しい少女を守る様に立っており、少女は紫色のロングヘア、エレオノーレ様程ではないが豊満な肉体をしており、深紫色のローブ超しに豊かな胸がはっきりと分かる。彼らが一体何をしているのかさっぱり分からないが、バラックの事だからろくな事ではないだろう。
「このボリス・フォン・イェーガーに一度でも攻撃を当てられたら百万ゴールド払おう! 僕はファルケンハイン王国第一王女、ヴィクトリア・フォン・ファルケンハイン様にお仕えする従者だ!」
どうやら青年と共に居る方が第一王女なのだろう。護衛がたった一人しか居ない事から、二刀流の彼が実力者だという事が想像出来る。
既に青年は十人以上もの挑戦者をなぎ倒したのか、バラックの背後には戦意を喪失した冒険者達が横たわっている。己の強さを証明したくてこんな事をしているのだろうか。そうだとするなら井の中の蛙も良いところだ。この街の最強はエレオノーレ様なのだから。
バラックがロングソードを振り上げた瞬間、青年は右手に持ったブロードソードを水平に走らせて風の刃を飛ばした。ハーピーの固有魔法であるウィンドエッジを切っ先から飛ばす事が出来るのだ。なんと器用な戦い方だろうか。
通常は杖か手の平から魔法を放出するが、切っ先から魔法を放つ事が出来るのだから、やはり王女の従者はけた違いの戦闘力を持っているのだろう。
しかし、バラックもCランクまで上り詰めた男。つい最近俺に敗北しているのだから、再び野次馬に見守られながら負ける訳にはいかないのだろう。瞬時にロングソードを振り下ろして青年の魔法を封じると、一気に距離を詰めて突きを放った。
バラックは青年の腹部に目掛けて鋭い突きを放ったが、青年は涼しい表情を浮かべて体に風の魔力を纏わせた。フェアリーが自分自身の体に風を纏わせ、移動速度を高速化するエンチャントの魔法だ。通常のエンチャントは武器だけに掛けるが、体に魔力を纏わせて移動速度を高速化出来る剣士は珍しい。
青年は目にも留まらぬ速度でバラックの背後に回ると、バラックのでっぷりと脂肪がついた尻を蹴り上げた。下半身の筋力もかなり高いのか、バラックは涙を流しながら倒れ、自ら敗北を認めた。
「おいおい、この街にはこんな男しか居ないのか!? 迷宮都市と聞いていたからどれだけ強い冒険者が居るのかと思ったら、僕に攻撃一つ当てられないのか? 全くレベルの低い街だな!」
青年が叫ぶと、人ごみの中に俺達を見つけたバラックが青ざめた表情を浮かべ、青年の足にしがみついた。
「あいつだ! あいつが挑戦する! あいつならお前が満足する戦いが出来るだろう!」
「それは興味深いな。そこのお方、是非お手合わせを願えますか?」
青年は丁寧に頭を下げると、ララが俺の手を握りながら見つめた。
「ユリウス、負けたら駄目だよ」
「え? 俺戦うの!?」
「うん! だって勝ったら百万ゴールドだよ!? それに、気持ち悪いゴブリンも言ってたでしょう? 今日は人生を変える出会いがあるって!」
「あの人が俺の運命の人なのかな……?」
「わからないけど、ララは百万ゴールドが欲しいもん!」
「そうだね、俺達が活動するベーレントをここまで馬鹿にされて引き下がる訳にはいかないし……」
バラックが何度も青年を煽ると、青年が俺を挑発する様に剣を向けた。流石に見ず知らずの男に剣を向けられては戦いに応じない訳にはいかないだろう。俺は青年との戦いを決めると、静かに精神を集中させた。
Dランクの中級冒険者シリーズには軽量化されたライトシリーズの防具と武器が入っている様だ。俺はライトメイルとライトフォールドを身に着け、小太刀を刀と共に帯に差した。
「ユリウス、騎士みたいで格好良い!」
「一応職業は魔法道具屋なんだけどね」
「ユリウスはお店を開きたいの?」
「魔法道具が溜まったら行商の旅をしながら道具を売るのも良いかなと思ってるよ。さぁララもガチャを回してごらん」
「うん!」
ララがガチャを回すと、虹色に輝くレジェンドカプセルが落ちた。
「羽根付きグリーヴだ! ララもユリウスとお揃い!」
「レジェンドが出るなんて運が良いよ」
ララは興奮しながら羽根付きグリーヴを身に着け、窓を開けて地上を見下ろした。それからララは二階の部屋から飛び降り、羽根付きグリーヴの効果を実感して歓喜の声を上げている。
ララは元々フェンリルの子だから身体能力が極めて高い。ララが羽根付きグリーヴを使いこなしたら、ハーピー程度の魔物は瞬殺出来る様になるだろう。
それからララは何度も飛び跳ねて遊ぶと、遂に満足したのか二階の部屋にめがけて飛び、俺の胸に飛び込んだ。身長百三十センチの小さなララを下ろすと、ララは再びガチャを回した。五回ガチャを回して中身は全てノーマルカプセル。それでも一日でレアカプセルととレジェンドカプセルを引き当てる事が出来たのだから、かなり運が良い方だろう。
ノーマルカプセルの中身は魔石が入ったランタン、使い道の分からないガーゴイルの人形、ゴブリンの生首、軽量化された食器セット、それからスケルトンの置物。
「なんか変な物ばっかりだね」
「そんな事はないよ。食器セットとガーゴイル人形以外はすべて魔法道具だからね」
「本当!? 魔石ランタンは暗くなると勝手に光るんだよね」
「そう、このランタンは広く普及してるからララも知ってるんだね」
「それじゃゴブリン生首は? こんなの気持ち悪いから要らない!」
「この生首は運勢を占ってくれるんだよ。まぁ殆ど当たる事はないけど、一カ月に一度は完璧に運勢を言い当てるんだ」
「運勢なんて信じない。ララはずっと希望なんてなかったから……」
「それでも最近の運勢は良くなったんじゃないかな?」
「運勢じゃなくてユリウスのお陰だもん! ララが幸せになれたのはユリウスのお陰なんだから……!」
ララは俺の胸に飛びつくと、俺はララのモフモフした頭を撫で、しばらく彼女が満足するまで触れ合っていた。
「それじゃこのスケルトンの置物はどういう効果があるの?」
「これは窓際に置いておくと侵入者を察知する力があるんだよ。外から窓を開けようとしたら動き出して持ち主に知らせるんだ」
「それだけ?」
「それだけなんだけど、防犯にはいいだろう? 勿論、窓を開けられても侵入者を阻止する力はないけど、結構大きい声で叫ぶから防犯にはなるんだ」
「変な置物だね」
ガチャは自分が作り上げた魔法道具をけなされたと思ったのか、憤慨しながら拳を振り上げてララに殴りかかった。と言っても小さなガチャの拳では誰も傷づける事は出来ないだろう。
ガチャは不安げに俺を見上げると、俺はオリハルコン製の友人を抱き上げた。
「ユリウス、明日はくれぐれも気を付けてね。エレオノーレ様は試験では大半の者が命を落とすと言っていたから……」
「大丈夫。必ず合格してみせるよ」
「ガチャには明日の試験は手伝えないけど、指環になって見守っているからね」
「ああ、いつもありがとう」
「僕はギルベルトからユリウスを守る様にと言われているからね。それから、そのゴブリンの生首、僕の予想だと今日が運勢を言い当てる事が出来る日だと思うよ。気になる事があるなら聞いてみたら?」
「どうしてそんな事がわかるんだい?」
「なんとなく表情がやる気に満ちているだろう? 普段はけだるげな感じだけどさ」
「俺には違いなんて分からないけど……」
それからガチャが指環の姿に戻ると、俺はテーブルの上にゴブリンの生首を置いた。ゴブリンの生首がニヤニヤしながら俺とララを交互見ると、小さく咳をしてから俺を見つめた。
「今日はお前さんの人生を大きく変える相手と出会うだろう。この縁はお前さんの人生で一度あるかないか。正しい行動をすればお前さんが大切に思っている人間は長く生き続ける。しかし、誤った選択をすれば蝕まれている命は尽きる。正しい道を選択してもお前は地獄を味わう事になるが、地獄の先で世界を変える力を手に入れる。困った時は茨の道を選択すると良い」
「え……? それはどういう事……?」
「……」
ゴブリンは俺を馬鹿にした様にニタニタと笑いながら見つめると、退屈そうに昼寝を始めた。それから何度話しかけてもゴブリンの生首が返事をする事はなかった。
「今日が俺の人生を変える日か……」
「ユリウス、気持ち悪いゴブリンの言葉を信じるの?」
ララが悪態をついた瞬間、ゴブリンは目をパッチリと開けてララを睨みつけた。
「ちなみにそこの小さい獣人。お前の運勢もそう悪くない」
「そうなんだ……」
「まぁそこの剣客よりは運気は低いがな。そっちの若い剣客は今日の行動で人生が決まる。それも自分の人生だけではなく、大陸中の人間の人生を決める事になるだろう」
「それってどういう事なんだよ! エレオノーレ様と関係してるのか?」
「俺が言えるのはここまでだ。信じるも信じないもお前さん次第……」
再びゴブリンが眠りに就くと、俺の頭の中は彼の言葉で一杯になった。とにかく、今日出会う全ての人を大切にし、困った時は困難な道を選べば良いのだろう。
「ララ、街に出ようか! 好きな物を買ってあげるよ」
「やった! それじゃエレオノーレ様みたいなワンピースが欲しい!」
「ちなみに俺は葡萄酒が飲みたいぞ」
再びゴブリンが目を開けると、ララがゴブリンの頭を叩いた。
「痛い……! 痛いって! やめろ!」
「こらこら、ゴブリンをいじめたらだめだよ」
ギーレン村の周辺でさんざんゴブリンを狩り続けていた俺がこんな言葉を言うのもおかしいが、占いしか出来ない無害のゴブリンを痛めつけるのは良くない。
「君の葡萄酒も買ってくるから待っててくれよ。占いのお礼だ」
「うむ、楽しみにしているぞ」
ゴブリンは俺に片目をつぶって見せると、ララに対しては舌を出して挑発した。まずは久しぶりの休みを満喫しよう。明日は封魔石宝流の継承者を選ぶ試験なのだから……。
それから俺はララと共に屋敷を出た。エレオノーレ様は朝早くから明日の継承者試験のために準備があると言って屋敷を出た。エレオノーレ様が「大勢の弟子が死ぬ」と言うのだから、ハーピー等とは比べ物にならない魔物を狩る事になるのは間違いないだろう。
明日の事を心配しながら街を見て歩き、ララのワンピースを購入し、ついでに下着屋でエレオノーレ様に似合いそうなピンクのブラジャーとパンツを見つけたので購入した。たまには贈り物も良いだろう。タダで屋敷に住まわせて貰い、毎日エレオノーレ様の豊満な肉体を見ているのだ。こんなに幸せな事はない。
「ユリウス! 向こうの方で何か大きな音がする!」
ララが指さす通路の先には市民達が大勢集まっており、武器が衝突する音や、魔法が炸裂する音が響いていた。時折街中で決闘を行う者がいるが、市民達が歓声を上げているので、遠くからでも決闘ではない事が分かる。
「見に行ってみようか!」
俺とララは石畳が規則正しく敷かれた道路を走り、野次馬達をかき分けて騒動の中心を目指して進んだ。市民達が円を描く様に三人の人物を取り囲んでいる。一人は酒場のバラック。ララを奴隷として働かせていた忌々しい男だ。
バラックがロングソードを構えて一人の青年を見つめている。赤髪を肩まで伸ばした、鋼鉄製のメイルを身に着けた育ちの良さそうな青年。彼は左右の手に一本ずつブロードソードを持ち、左の剣には雷を纏わせ、右の剣には風の魔力を纏わせている。二本の武器に別々のエンチャントを同時に掛けられる事から、並みの剣士ではない事が分かる。
青年は十五歳程の美しい少女を守る様に立っており、少女は紫色のロングヘア、エレオノーレ様程ではないが豊満な肉体をしており、深紫色のローブ超しに豊かな胸がはっきりと分かる。彼らが一体何をしているのかさっぱり分からないが、バラックの事だからろくな事ではないだろう。
「このボリス・フォン・イェーガーに一度でも攻撃を当てられたら百万ゴールド払おう! 僕はファルケンハイン王国第一王女、ヴィクトリア・フォン・ファルケンハイン様にお仕えする従者だ!」
どうやら青年と共に居る方が第一王女なのだろう。護衛がたった一人しか居ない事から、二刀流の彼が実力者だという事が想像出来る。
既に青年は十人以上もの挑戦者をなぎ倒したのか、バラックの背後には戦意を喪失した冒険者達が横たわっている。己の強さを証明したくてこんな事をしているのだろうか。そうだとするなら井の中の蛙も良いところだ。この街の最強はエレオノーレ様なのだから。
バラックがロングソードを振り上げた瞬間、青年は右手に持ったブロードソードを水平に走らせて風の刃を飛ばした。ハーピーの固有魔法であるウィンドエッジを切っ先から飛ばす事が出来るのだ。なんと器用な戦い方だろうか。
通常は杖か手の平から魔法を放出するが、切っ先から魔法を放つ事が出来るのだから、やはり王女の従者はけた違いの戦闘力を持っているのだろう。
しかし、バラックもCランクまで上り詰めた男。つい最近俺に敗北しているのだから、再び野次馬に見守られながら負ける訳にはいかないのだろう。瞬時にロングソードを振り下ろして青年の魔法を封じると、一気に距離を詰めて突きを放った。
バラックは青年の腹部に目掛けて鋭い突きを放ったが、青年は涼しい表情を浮かべて体に風の魔力を纏わせた。フェアリーが自分自身の体に風を纏わせ、移動速度を高速化するエンチャントの魔法だ。通常のエンチャントは武器だけに掛けるが、体に魔力を纏わせて移動速度を高速化出来る剣士は珍しい。
青年は目にも留まらぬ速度でバラックの背後に回ると、バラックのでっぷりと脂肪がついた尻を蹴り上げた。下半身の筋力もかなり高いのか、バラックは涙を流しながら倒れ、自ら敗北を認めた。
「おいおい、この街にはこんな男しか居ないのか!? 迷宮都市と聞いていたからどれだけ強い冒険者が居るのかと思ったら、僕に攻撃一つ当てられないのか? 全くレベルの低い街だな!」
青年が叫ぶと、人ごみの中に俺達を見つけたバラックが青ざめた表情を浮かべ、青年の足にしがみついた。
「あいつだ! あいつが挑戦する! あいつならお前が満足する戦いが出来るだろう!」
「それは興味深いな。そこのお方、是非お手合わせを願えますか?」
青年は丁寧に頭を下げると、ララが俺の手を握りながら見つめた。
「ユリウス、負けたら駄目だよ」
「え? 俺戦うの!?」
「うん! だって勝ったら百万ゴールドだよ!? それに、気持ち悪いゴブリンも言ってたでしょう? 今日は人生を変える出会いがあるって!」
「あの人が俺の運命の人なのかな……?」
「わからないけど、ララは百万ゴールドが欲しいもん!」
「そうだね、俺達が活動するベーレントをここまで馬鹿にされて引き下がる訳にはいかないし……」
バラックが何度も青年を煽ると、青年が俺を挑発する様に剣を向けた。流石に見ず知らずの男に剣を向けられては戦いに応じない訳にはいかないだろう。俺は青年との戦いを決めると、静かに精神を集中させた。
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