悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ

文字の大きさ
上 下
43 / 49

43 嘘と偽りと聖剣!(5)

しおりを挟む


 その知らせは突然やってきた。

 生徒会室で魔王戦の対策を練っていたところに、リディアとステラの護衛を頼んでおいた騎士が、慌てて飛び込んできた。

「リディとステラ嬢が見当たらない?」
「はいどこにも!」
「いつからだ?」
「今朝の授業には出席されていましたが、休み時間の後には授業に戻られず。休み時間はお二人で仲良くご歓談されていることが多く、距離を置いて護衛していたのですが、一瞬目を離した隙にお姿が見えなくなりました! 申し訳ございません!」
「……一瞬で?」
「同じクラスの女子生徒に話しかけられた直後です。その生徒も行方知れずになっています」

 キースと顔を見合わせる。今すぐ飛び出したい感情を必死に抑えて冷静に対処せねば。

「その女子生徒の身元を調べ尽くせ! 引き続き校内を探す者と、森を探す者に分かれて捜索しろ」

 嫌な予感がする。
 そしてその予感はすぐに当たった。
 ディーンが息を切らして生徒会室にやってきた。

「クリス! はじまった!」
「!!!!」

 急いで窓に駆け寄り外を眺める。生徒会室の窓から見える空は、無数の魔物によって黒く染まっていた。それは魔王戦の始まりだとリディアが言っていた状況そのものだ。

 王都の南の森から、大量の魔物が湧いて出て、空を暗く覆い始めるのだと。

「至急王城に連絡。これより魔王追撃体制に入る。学園の生徒は全員退避。戦闘要因は配置につけ!」
「リディア嬢とステラは!?」

 質問したアランも分かっている。だがそれでも聞いてしまう気持ちは、痛いほど分かる。

「……タイミングが良すぎる。恐らく罠だろう。魔王戦優先だ」
「クリス!」
「アランは聖剣を振るんだ。お前なら扱える」

 グッと拳を握る。どうか、無事でいてくれ。





「ん」
「あ、気づきました?」
「ステラ?」

 目を開けるとステラが私の顔を覗き込んでいた。見覚えのない薄暗い洞窟。よく見ると洞窟の入り口付近が牢のように鉄格子がしてある。外の様子はよく見えない。

「私たちうっかり攫われたみたいです」
「ええ!? っていったぁ!」

 いろいろ体が痛い。乱暴に運んで投げ入れたのだろうか。砂埃と泥で、制服が汚れている。ゆっくりと起き上がるが、大きな怪我はしていないようだ。
 ここはどこだろう。身体は拘束されてはいない。魔法で壊れるかしら──。

「あぁ! 駄目です! 魔法は跳ね返ってくるんです! 炎を使えば私たち燃えちゃう!」

 ステラが慌てて言った。

「大きな魔法は跳ね返ってきます。それでさっき私もリディア様も吹っ飛ばされてしまって。てへへ」

 先に起きたステラが試したのだろう。この小さな部屋の範囲だけ魔法が使えるが、外に影響をもたらすことはできないということか。うっかり鉄格子を外そうと攻撃魔法を打つと跳ね返って自分が怪我をする。つまりさっき私の体がいたかったのは、ステラの魔法が跳ね返ってしまったのだろう。

「ヒール」

 ステラが私の身体の痛みを治してくれた。

「ありがとう。しかしどうやって脱出しましょうか……」

 そう呟いたその時。
 コツコツと洞窟に足音が響いてきた。そして段々と松明の火が近づいてくる。敵だろうか。そうして露わになった顔に、私とステラは驚いた。

「あ、お目覚めですか? よかったー! 殺す瞬間は起きていて欲しかったんです!」
「!」

 クラスメイトのサンドラがニコニコしながら鉄格子の前に立った。

「サンドラ……?」
「そうですよ! 驚きました? お二人とも、全然気づかずに文化祭楽しんじゃって。 前世の記憶あるってバレバレの出し物しちゃって、もうおかしい!」
「え?」
「メイド喫茶なんて、日本の文化祭そのものじゃないですか。そんなことしなければゲームの知識があるって気づかなかったのに! ふふふっ」
「サンドラ、あなたまさか……」

 私とステラ、すでに二人も前世の記憶持ちがいたのだ。敵にもいるとどうして疑わなかったのだろう!
 悔しくて歯を食いしばる。

「ええ。そうですわ。私も転生者です。全部覚えています。ゲームのことも、前世のことも。大好きなゲームでしたからね。でも転生したら魔王だったなんて、酷いと思いません? 私もヒロインとか悪役令嬢が良かった!」
「魔王!?」
「だからね、あなたたちが魔王戦に備えていることもわかっていました。どこから邪魔しようか迷っていたんですけど、最後の最後に絶望してもらう方がいいかなって」
「何、言っているの……?」

 サンドラは愉快そうに笑いながら、人差し指を一振りした。すると洞窟の壁に、プロジェクターのような映像が映り込む。

「テレビ中継と行きましょう。魔法で画面を出して、中継しますね!」

 どうやら王都のようだ。複数の騎士達が聖魔法を空に飛ばしている。

「ここでお二人には世界が壊滅していく様子を見てもらって、その後ゆっくり死んでもらいますからね」
「出して!」
「聞いてました? 無理です」

 愉快そうに笑うサンドラ。ステラはガクガクと震え始める。
 聖剣は王城に預けている。魔王はここにいて、アラン様が聖剣を振ったとて届くわけがない。

『ギャァァ』
 
 画面の中で黒龍が暴れている。街が、王都が、火の海に変わった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

処理中です...