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43 嘘と偽りと聖剣!(5)
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*
その知らせは突然やってきた。
生徒会室で魔王戦の対策を練っていたところに、リディアとステラの護衛を頼んでおいた騎士が、慌てて飛び込んできた。
「リディとステラ嬢が見当たらない?」
「はいどこにも!」
「いつからだ?」
「今朝の授業には出席されていましたが、休み時間の後には授業に戻られず。休み時間はお二人で仲良くご歓談されていることが多く、距離を置いて護衛していたのですが、一瞬目を離した隙にお姿が見えなくなりました! 申し訳ございません!」
「……一瞬で?」
「同じクラスの女子生徒に話しかけられた直後です。その生徒も行方知れずになっています」
キースと顔を見合わせる。今すぐ飛び出したい感情を必死に抑えて冷静に対処せねば。
「その女子生徒の身元を調べ尽くせ! 引き続き校内を探す者と、森を探す者に分かれて捜索しろ」
嫌な予感がする。
そしてその予感はすぐに当たった。
ディーンが息を切らして生徒会室にやってきた。
「クリス! はじまった!」
「!!!!」
急いで窓に駆け寄り外を眺める。生徒会室の窓から見える空は、無数の魔物によって黒く染まっていた。それは魔王戦の始まりだとリディアが言っていた状況そのものだ。
王都の南の森から、大量の魔物が湧いて出て、空を暗く覆い始めるのだと。
「至急王城に連絡。これより魔王追撃体制に入る。学園の生徒は全員退避。戦闘要因は配置につけ!」
「リディア嬢とステラは!?」
質問したアランも分かっている。だがそれでも聞いてしまう気持ちは、痛いほど分かる。
「……タイミングが良すぎる。恐らく罠だろう。魔王戦優先だ」
「クリス!」
「アランは聖剣を振るんだ。お前なら扱える」
グッと拳を握る。どうか、無事でいてくれ。
*
「ん」
「あ、気づきました?」
「ステラ?」
目を開けるとステラが私の顔を覗き込んでいた。見覚えのない薄暗い洞窟。よく見ると洞窟の入り口付近が牢のように鉄格子がしてある。外の様子はよく見えない。
「私たちうっかり攫われたみたいです」
「ええ!? っていったぁ!」
いろいろ体が痛い。乱暴に運んで投げ入れたのだろうか。砂埃と泥で、制服が汚れている。ゆっくりと起き上がるが、大きな怪我はしていないようだ。
ここはどこだろう。身体は拘束されてはいない。魔法で壊れるかしら──。
「あぁ! 駄目です! 魔法は跳ね返ってくるんです! 炎を使えば私たち燃えちゃう!」
ステラが慌てて言った。
「大きな魔法は跳ね返ってきます。それでさっき私もリディア様も吹っ飛ばされてしまって。てへへ」
先に起きたステラが試したのだろう。この小さな部屋の範囲だけ魔法が使えるが、外に影響をもたらすことはできないということか。うっかり鉄格子を外そうと攻撃魔法を打つと跳ね返って自分が怪我をする。つまりさっき私の体がいたかったのは、ステラの魔法が跳ね返ってしまったのだろう。
「ヒール」
ステラが私の身体の痛みを治してくれた。
「ありがとう。しかしどうやって脱出しましょうか……」
そう呟いたその時。
コツコツと洞窟に足音が響いてきた。そして段々と松明の火が近づいてくる。敵だろうか。そうして露わになった顔に、私とステラは驚いた。
「あ、お目覚めですか? よかったー! 殺す瞬間は起きていて欲しかったんです!」
「!」
クラスメイトのサンドラがニコニコしながら鉄格子の前に立った。
「サンドラ……?」
「そうですよ! 驚きました? お二人とも、全然気づかずに文化祭楽しんじゃって。 前世の記憶あるってバレバレの出し物しちゃって、もうおかしい!」
「え?」
「メイド喫茶なんて、日本の文化祭そのものじゃないですか。そんなことしなければゲームの知識があるって気づかなかったのに! ふふふっ」
「サンドラ、あなたまさか……」
私とステラ、すでに二人も前世の記憶持ちがいたのだ。敵にもいるとどうして疑わなかったのだろう!
悔しくて歯を食いしばる。
「ええ。そうですわ。私も転生者です。全部覚えています。ゲームのことも、前世のことも。大好きなゲームでしたからね。でも転生したら魔王だったなんて、酷いと思いません? 私もヒロインとか悪役令嬢が良かった!」
「魔王!?」
「だからね、あなたたちが魔王戦に備えていることもわかっていました。どこから邪魔しようか迷っていたんですけど、最後の最後に絶望してもらう方がいいかなって」
「何、言っているの……?」
サンドラは愉快そうに笑いながら、人差し指を一振りした。すると洞窟の壁に、プロジェクターのような映像が映り込む。
「テレビ中継と行きましょう。魔法で画面を出して、中継しますね!」
どうやら王都のようだ。複数の騎士達が聖魔法を空に飛ばしている。
「ここでお二人には世界が壊滅していく様子を見てもらって、その後ゆっくり死んでもらいますからね」
「出して!」
「聞いてました? 無理です」
愉快そうに笑うサンドラ。ステラはガクガクと震え始める。
聖剣は王城に預けている。魔王はここにいて、アラン様が聖剣を振ったとて届くわけがない。
『ギャァァ』
画面の中で黒龍が暴れている。街が、王都が、火の海に変わった。
その知らせは突然やってきた。
生徒会室で魔王戦の対策を練っていたところに、リディアとステラの護衛を頼んでおいた騎士が、慌てて飛び込んできた。
「リディとステラ嬢が見当たらない?」
「はいどこにも!」
「いつからだ?」
「今朝の授業には出席されていましたが、休み時間の後には授業に戻られず。休み時間はお二人で仲良くご歓談されていることが多く、距離を置いて護衛していたのですが、一瞬目を離した隙にお姿が見えなくなりました! 申し訳ございません!」
「……一瞬で?」
「同じクラスの女子生徒に話しかけられた直後です。その生徒も行方知れずになっています」
キースと顔を見合わせる。今すぐ飛び出したい感情を必死に抑えて冷静に対処せねば。
「その女子生徒の身元を調べ尽くせ! 引き続き校内を探す者と、森を探す者に分かれて捜索しろ」
嫌な予感がする。
そしてその予感はすぐに当たった。
ディーンが息を切らして生徒会室にやってきた。
「クリス! はじまった!」
「!!!!」
急いで窓に駆け寄り外を眺める。生徒会室の窓から見える空は、無数の魔物によって黒く染まっていた。それは魔王戦の始まりだとリディアが言っていた状況そのものだ。
王都の南の森から、大量の魔物が湧いて出て、空を暗く覆い始めるのだと。
「至急王城に連絡。これより魔王追撃体制に入る。学園の生徒は全員退避。戦闘要因は配置につけ!」
「リディア嬢とステラは!?」
質問したアランも分かっている。だがそれでも聞いてしまう気持ちは、痛いほど分かる。
「……タイミングが良すぎる。恐らく罠だろう。魔王戦優先だ」
「クリス!」
「アランは聖剣を振るんだ。お前なら扱える」
グッと拳を握る。どうか、無事でいてくれ。
*
「ん」
「あ、気づきました?」
「ステラ?」
目を開けるとステラが私の顔を覗き込んでいた。見覚えのない薄暗い洞窟。よく見ると洞窟の入り口付近が牢のように鉄格子がしてある。外の様子はよく見えない。
「私たちうっかり攫われたみたいです」
「ええ!? っていったぁ!」
いろいろ体が痛い。乱暴に運んで投げ入れたのだろうか。砂埃と泥で、制服が汚れている。ゆっくりと起き上がるが、大きな怪我はしていないようだ。
ここはどこだろう。身体は拘束されてはいない。魔法で壊れるかしら──。
「あぁ! 駄目です! 魔法は跳ね返ってくるんです! 炎を使えば私たち燃えちゃう!」
ステラが慌てて言った。
「大きな魔法は跳ね返ってきます。それでさっき私もリディア様も吹っ飛ばされてしまって。てへへ」
先に起きたステラが試したのだろう。この小さな部屋の範囲だけ魔法が使えるが、外に影響をもたらすことはできないということか。うっかり鉄格子を外そうと攻撃魔法を打つと跳ね返って自分が怪我をする。つまりさっき私の体がいたかったのは、ステラの魔法が跳ね返ってしまったのだろう。
「ヒール」
ステラが私の身体の痛みを治してくれた。
「ありがとう。しかしどうやって脱出しましょうか……」
そう呟いたその時。
コツコツと洞窟に足音が響いてきた。そして段々と松明の火が近づいてくる。敵だろうか。そうして露わになった顔に、私とステラは驚いた。
「あ、お目覚めですか? よかったー! 殺す瞬間は起きていて欲しかったんです!」
「!」
クラスメイトのサンドラがニコニコしながら鉄格子の前に立った。
「サンドラ……?」
「そうですよ! 驚きました? お二人とも、全然気づかずに文化祭楽しんじゃって。 前世の記憶あるってバレバレの出し物しちゃって、もうおかしい!」
「え?」
「メイド喫茶なんて、日本の文化祭そのものじゃないですか。そんなことしなければゲームの知識があるって気づかなかったのに! ふふふっ」
「サンドラ、あなたまさか……」
私とステラ、すでに二人も前世の記憶持ちがいたのだ。敵にもいるとどうして疑わなかったのだろう!
悔しくて歯を食いしばる。
「ええ。そうですわ。私も転生者です。全部覚えています。ゲームのことも、前世のことも。大好きなゲームでしたからね。でも転生したら魔王だったなんて、酷いと思いません? 私もヒロインとか悪役令嬢が良かった!」
「魔王!?」
「だからね、あなたたちが魔王戦に備えていることもわかっていました。どこから邪魔しようか迷っていたんですけど、最後の最後に絶望してもらう方がいいかなって」
「何、言っているの……?」
サンドラは愉快そうに笑いながら、人差し指を一振りした。すると洞窟の壁に、プロジェクターのような映像が映り込む。
「テレビ中継と行きましょう。魔法で画面を出して、中継しますね!」
どうやら王都のようだ。複数の騎士達が聖魔法を空に飛ばしている。
「ここでお二人には世界が壊滅していく様子を見てもらって、その後ゆっくり死んでもらいますからね」
「出して!」
「聞いてました? 無理です」
愉快そうに笑うサンドラ。ステラはガクガクと震え始める。
聖剣は王城に預けている。魔王はここにいて、アラン様が聖剣を振ったとて届くわけがない。
『ギャァァ』
画面の中で黒龍が暴れている。街が、王都が、火の海に変わった。
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