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40 嘘と偽りと聖剣!(2)
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白い柱に壁、白の祭壇。空間全てが白を基調としており、突然別世界にやってきたかのよう。
ダンジョンの奥深くであるはずなのに、天井から一筋の光が差している。その光の先には、少し高くなった床に聖剣が突き刺さっていた。
「あれが……」
「聖剣……!」
「床に突き刺さっているのか」
その神々しさに男性陣が恍惚と見入っている間、ステラと私は神妙な面持ちで顔を見合わす。
「スチルそのままですね」
「やっぱりゲームの世界、ってことね。あの剣を抜いた後が勝負よ」
「分かってます。……私が、抜きます」
「アラン様じゃなくて?」
ゲームのスチルがそのまま目の前に展開している。ということは恐らく今後の展開もゲームそのままなのだろう。だとすれば、ここからが本当の勝負だ。
聖剣を扱うことができるのは『聖女』もしくは『聖女に愛されている聖騎士』だ。アラン様以外のルートならばステラが、アラン様ルートならば聖騎士であるアラン様が抜くことができる。
ステラはアラン様ルートを選んでいるのだから、アラン様が聖剣を扱うのがゲーム通りなのだが、ステラは自分が抜くと言う。
「少しでもゲームと違う動きをしていきたいんです。私も、未来を変えたいから」
「ステラ……」
ステラはクリス様やお兄様、キース様に視線を送り、最後に私をしっかりとその視界に入れた。ヒロインの強い輝きの瞳に私が映る。力強く頷くと、ステラはニッと笑った。
「ヒロインは無敵です。常に私と居れば、きっと絶対大丈夫です!」
そう言って祭壇へかけ出す。男性陣は突然のステラの行動に驚くが、ステラはそのまま聖剣に手をかけた。
「私が抜いたら一気に退避開始です! 来た道は戻れません! リディア様に続いてください!」
「!」
「私の合図で走るわよ! まずはみんな目を閉じて!」
「いっきまーす!」
ステラが剣を抜くと同時に、強い閃光が走る。
「リディ!」
「!」
光のど真ん中にいるステラ。入り口付近で脱出開始時期を見計らう私。
ステラの方ではなく、クリス様は私の元へ飛んできた。目を閉じておくよう言ったのに。光の衝撃から私を守るように強く抱きしめられた。何も見えなくても、その声とぬくもりでクリス様だと分かる。私は瞳を固く閉じたまま、ステラではなく私の元に走ってくれたことに、どうしようもなく歓喜してしまっていた。彼の綺麗なアイスブルーの瞳は大丈夫だろうか。
「クリス様……!」
「すまない。目を閉じるよう言ってくれたのに、多分……目をやられた」
私を抱きしめたまま、クリス様は懺悔した。聖石で治癒したいところだが、今は脱出が先だ。
「時間がありません。私と手を繋いでいただけますか?」
「あぁ。すまない」
ステラが剣を抜き切る時、光が落ち着いていくはずだ。そしてその瞬間から、この神殿の崩落が始まる。
ゴゴゴゴゴゴ………
轟音とともにパラパラと天井が落ち始める。
「なっ!?」
「まさか、崩れるのか?」
「そのまさかです。光が止んだら退避します!」
ステラが聖剣を抜き切る。光が落ち着き、天井から漏れる光だけが残る。その光の元に、聖剣を握りしめるステラがいる。神々しい姿も、スチルそのままだ。やはり彼女がヒロインだ。
ドンっ! という音で我に帰る。祭壇横の柱が落ちた。
「走るわよ! 続いて!!」
「ライトウォール!!」
「さ、先に言っとけぇえ!」
一気に全員で神殿を抜け、今来た道とは逆方向に走り出した。ステラの光の壁が展開して、私たちを衝撃から守ってくれる。お兄様は走りながら文句を言ってくるが、応える暇もない。間に合うか──!?
ゲームの知識を頼りに、入り組んだ洞窟を進む。予想通り広い空間に出た。左右に道が分かれる。迷わず右へと走ると道が途切れ、穴が大きく空いている。
「間違えたのか?」
「ダメだ! 後ろは崩れていってる!」
「どうする!?」
「大変です! 大きな落石が!」
ゴロゴロと大きな石がこちらに転がってくる。このままここにいれば全員ぺちゃんこに潰されてしまう。
「魔法で砕くか?」
「ここで魔法を展開すれば洞窟ごと崩れそうですよ!?」
「うるさいわね。跳ぶのよ!」
「はぁ!? 正気か? 結構幅あるぞ……」
お兄様とキースが何やら文句を言っているが、気にしない。
「クリス様! 前方に穴があるので、せーのでピョーンと跳んでくださいね」
「わ、分かった!」
先ほどの光で目があまり見えていないクリス様の手を引く。
「せーのっ!」
ドゴォォォォン!!!
私たちが跳んだ瞬間に、背後の穴へ大石が落ちた。
「危機一髪……」
「ほっとしてる暇はありませんよ! 走りましょう!」
「ステラ、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
聖剣を持ったまま走るステラはなかなか大変だ。そして彼女は最後尾を走っている。それは彼女がヒロインであるからこそ、ギリギリのところで崩壊を免れることができるはず、と言う希望的観測の作戦だった。
魔物ならば倒せるが、一度始まった崩壊は止められない。誰かか転んだり取り残されてしまえば、危機的状況に陥る。だからこそ、ヒロインの幸運に賭けてみることにしたのだった。
全員で走り抜けると、王都の外れの森にでた。全員が退避完了したその時に、洞窟の全てが崩壊した。
「いやギリギリすぎだろ……」
「聖剣を抜くと崩れるなんて」
「はーい! じゃあお怪我を治療しますね!」
ステラが全員にヒールをかけた。落石で負った小さな怪我があっという間に消えていく。クリス様の目もしっかりと景色を映しているようだ。よかった。
クリス様はパチパチと両目を瞬かせ、目が見えることを実感すると、すぐさま私を見つめた。そして、私の無事を確認するかのように頭の先から足の先までじっと観察し、最後に甘く微笑む。
「っ!」
「無事で、よかった」
繋いだままだった手を、思わず離そうとすると、ぎゅっと握り締められた。
「私の手を引いてくれて、ありがとう」
「いっ、いえ……!」
クリス様は優雅に腰を折ると、私の手の甲にそのままキスを落とす。
他の皆は何も見ていないかのように、帰る算段をしている。ちょ、ちょっと待って、置いていかないで。クリス様、そんなことしたら、ステラに誤解されちゃう。
「ほらほら、帰りますよ!」
「ステラ、剣は重くないか?」
「大丈夫です!」
アラン様とステラは相変わらずイチャイチャと順番で聖剣を持つ話をしている。お兄様は木の棒で地面に魔法陣を描いているし、キース様は崩れた洞窟を観察している。
「さぁ戻ろう」
「ええ」
クリス様に手を引かれ、私はお兄様の書いた転移陣によって王都に帰還したのだった。
ダンジョンの奥深くであるはずなのに、天井から一筋の光が差している。その光の先には、少し高くなった床に聖剣が突き刺さっていた。
「あれが……」
「聖剣……!」
「床に突き刺さっているのか」
その神々しさに男性陣が恍惚と見入っている間、ステラと私は神妙な面持ちで顔を見合わす。
「スチルそのままですね」
「やっぱりゲームの世界、ってことね。あの剣を抜いた後が勝負よ」
「分かってます。……私が、抜きます」
「アラン様じゃなくて?」
ゲームのスチルがそのまま目の前に展開している。ということは恐らく今後の展開もゲームそのままなのだろう。だとすれば、ここからが本当の勝負だ。
聖剣を扱うことができるのは『聖女』もしくは『聖女に愛されている聖騎士』だ。アラン様以外のルートならばステラが、アラン様ルートならば聖騎士であるアラン様が抜くことができる。
ステラはアラン様ルートを選んでいるのだから、アラン様が聖剣を扱うのがゲーム通りなのだが、ステラは自分が抜くと言う。
「少しでもゲームと違う動きをしていきたいんです。私も、未来を変えたいから」
「ステラ……」
ステラはクリス様やお兄様、キース様に視線を送り、最後に私をしっかりとその視界に入れた。ヒロインの強い輝きの瞳に私が映る。力強く頷くと、ステラはニッと笑った。
「ヒロインは無敵です。常に私と居れば、きっと絶対大丈夫です!」
そう言って祭壇へかけ出す。男性陣は突然のステラの行動に驚くが、ステラはそのまま聖剣に手をかけた。
「私が抜いたら一気に退避開始です! 来た道は戻れません! リディア様に続いてください!」
「!」
「私の合図で走るわよ! まずはみんな目を閉じて!」
「いっきまーす!」
ステラが剣を抜くと同時に、強い閃光が走る。
「リディ!」
「!」
光のど真ん中にいるステラ。入り口付近で脱出開始時期を見計らう私。
ステラの方ではなく、クリス様は私の元へ飛んできた。目を閉じておくよう言ったのに。光の衝撃から私を守るように強く抱きしめられた。何も見えなくても、その声とぬくもりでクリス様だと分かる。私は瞳を固く閉じたまま、ステラではなく私の元に走ってくれたことに、どうしようもなく歓喜してしまっていた。彼の綺麗なアイスブルーの瞳は大丈夫だろうか。
「クリス様……!」
「すまない。目を閉じるよう言ってくれたのに、多分……目をやられた」
私を抱きしめたまま、クリス様は懺悔した。聖石で治癒したいところだが、今は脱出が先だ。
「時間がありません。私と手を繋いでいただけますか?」
「あぁ。すまない」
ステラが剣を抜き切る時、光が落ち着いていくはずだ。そしてその瞬間から、この神殿の崩落が始まる。
ゴゴゴゴゴゴ………
轟音とともにパラパラと天井が落ち始める。
「なっ!?」
「まさか、崩れるのか?」
「そのまさかです。光が止んだら退避します!」
ステラが聖剣を抜き切る。光が落ち着き、天井から漏れる光だけが残る。その光の元に、聖剣を握りしめるステラがいる。神々しい姿も、スチルそのままだ。やはり彼女がヒロインだ。
ドンっ! という音で我に帰る。祭壇横の柱が落ちた。
「走るわよ! 続いて!!」
「ライトウォール!!」
「さ、先に言っとけぇえ!」
一気に全員で神殿を抜け、今来た道とは逆方向に走り出した。ステラの光の壁が展開して、私たちを衝撃から守ってくれる。お兄様は走りながら文句を言ってくるが、応える暇もない。間に合うか──!?
ゲームの知識を頼りに、入り組んだ洞窟を進む。予想通り広い空間に出た。左右に道が分かれる。迷わず右へと走ると道が途切れ、穴が大きく空いている。
「間違えたのか?」
「ダメだ! 後ろは崩れていってる!」
「どうする!?」
「大変です! 大きな落石が!」
ゴロゴロと大きな石がこちらに転がってくる。このままここにいれば全員ぺちゃんこに潰されてしまう。
「魔法で砕くか?」
「ここで魔法を展開すれば洞窟ごと崩れそうですよ!?」
「うるさいわね。跳ぶのよ!」
「はぁ!? 正気か? 結構幅あるぞ……」
お兄様とキースが何やら文句を言っているが、気にしない。
「クリス様! 前方に穴があるので、せーのでピョーンと跳んでくださいね」
「わ、分かった!」
先ほどの光で目があまり見えていないクリス様の手を引く。
「せーのっ!」
ドゴォォォォン!!!
私たちが跳んだ瞬間に、背後の穴へ大石が落ちた。
「危機一髪……」
「ほっとしてる暇はありませんよ! 走りましょう!」
「ステラ、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
聖剣を持ったまま走るステラはなかなか大変だ。そして彼女は最後尾を走っている。それは彼女がヒロインであるからこそ、ギリギリのところで崩壊を免れることができるはず、と言う希望的観測の作戦だった。
魔物ならば倒せるが、一度始まった崩壊は止められない。誰かか転んだり取り残されてしまえば、危機的状況に陥る。だからこそ、ヒロインの幸運に賭けてみることにしたのだった。
全員で走り抜けると、王都の外れの森にでた。全員が退避完了したその時に、洞窟の全てが崩壊した。
「いやギリギリすぎだろ……」
「聖剣を抜くと崩れるなんて」
「はーい! じゃあお怪我を治療しますね!」
ステラが全員にヒールをかけた。落石で負った小さな怪我があっという間に消えていく。クリス様の目もしっかりと景色を映しているようだ。よかった。
クリス様はパチパチと両目を瞬かせ、目が見えることを実感すると、すぐさま私を見つめた。そして、私の無事を確認するかのように頭の先から足の先までじっと観察し、最後に甘く微笑む。
「っ!」
「無事で、よかった」
繋いだままだった手を、思わず離そうとすると、ぎゅっと握り締められた。
「私の手を引いてくれて、ありがとう」
「いっ、いえ……!」
クリス様は優雅に腰を折ると、私の手の甲にそのままキスを落とす。
他の皆は何も見ていないかのように、帰る算段をしている。ちょ、ちょっと待って、置いていかないで。クリス様、そんなことしたら、ステラに誤解されちゃう。
「ほらほら、帰りますよ!」
「ステラ、剣は重くないか?」
「大丈夫です!」
アラン様とステラは相変わらずイチャイチャと順番で聖剣を持つ話をしている。お兄様は木の棒で地面に魔法陣を描いているし、キース様は崩れた洞窟を観察している。
「さぁ戻ろう」
「ええ」
クリス様に手を引かれ、私はお兄様の書いた転移陣によって王都に帰還したのだった。
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