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3 再会と寂しい涙
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*
その特別授業が始まるのは、決まって夜だった。
「いいかい。身体の魔力をふわっと指先に集めて外に出すんだ。するとあのコップが浮かぶ」
祖母の説明は抽象的で、習得する為のはとても大変だった。魔法を使うには感覚で覚えていくしかない。それでもフローラは、何度も練習して、生活魔法や結界魔法を習得していった。
「フローラ。魔法が使えることは秘密だよ」
「私が魔女だってことも内緒でしょう?」
「そうだね。内緒にして生きていくんだ。だけどちょっとだけ魔法が使えた方が、楽しいだろう?」
「うん!」
そんなことを言いながら、少しずつ祖母から魔法を教わった。そして、解呪魔法の授業になると、それまでとは異なり、かなり時間をかけて練習を積んだ。
「いいかい、フローラ。呪術を使おうって考える者に碌な者はいないからね。呪術のことは外に漏らしちゃいけないよ」
「それでも覚えておいた方がいいの?」
「あぁ。フローラは、解呪魔法を覚えておくべきだ」
「? うーん。すごく難しいけど、パズルみたいで楽しいから、頑張って覚える」
祖母は占術も得意で、フローラの行く末を知っている様子だった。その祖母の方針で解呪魔法はかなり詳しくなった。
「フローラ。魔女であることも、魔法が使えることも、誇らしいことだ。本当に嘘をつきたくない人が現れたら、秘密にしなくてもいい。それは自分で決めていいんだよ」
「うーん。よく分からない」
「今は分からなくていいよ。でも覚えておきな」
「うん!」
自分がいつ解呪魔法が必要となるのか分からずに生きてきた。だが、この時のためだったのだと、今は確信している。祖母はきっと、私が愛する人のために解呪魔法を使うことを予見していたのだろう。
*
コンコン
フローラの客室のドアが叩かれた。こういう時どうしたら良いのか分からない。王宮へ来てから様々な人がこの部屋に入室してくるので、フローラは戸惑ってばかりだ。着替えやベッドメイクまでしてくれるお世話係(メイドさんというらしい)がいたり、予定を教えてくれる素敵な老紳士(執事さんというらしい)がいるのだ。
ノックされたら返事をするらしいが、なんと答えるべきなのか分からない。
(どうぞお入りくださ~いとか叫んだらいいのかしら?)
ドギマギしていると、ドアが開いた。
「突然すまないね、少し話できるかい?」
入室してきたのは、金色の髪とレオと同じ金の瞳を持った美しい男性だった。初めてレオの瞳を見た時同様、言葉には出来ない威圧感に圧倒された。
(国王陛下とレオと同じ、金の瞳……もしかして)
「私はガルディア王国王太子、アルノルドだ。挨拶が遅くなってすまない。昨晩まで遠征していてね」
「お、王太子……様」
つまりはレオのお兄様、第一王子ということだろうか。何故そんな高貴な方がフローラの客室にやってくるのか。意図が分からず困惑していると、アルノルド殿下は優しい眼差しでフローラを見つめ微笑んだ。
「魔女殿。以前、弟の命を救ってくれたと聞いた。心から礼を言うよ。ありがとう」
「い、いえ……」
「レオの呪いは、気づいたかい?」
「ええ……」
呪いのことを知っている。レオの命を狙っている人が誰なのか分からない以上、この人には余計なことを言わないようにしたほうがいいのかもしれないと、身構える。そして曖昧な返事をしたところで、アルノルド殿下は真剣な顔になった。そしてゆっくりと頭を下げる。
「!」
「魔女殿。貴女の力をお借りしたい。二度も弟を救ってくれというのは、魔女迫害の歴史を思えば、都合の良い願いだということは分かっている。……私はいずれ国王となる。その時に背中を預けられるのは、あの弟ただ一人なのだ。どうかレオを救ってくれ……!」
切迫した声だった。弟を想う兄の気持ち。フローラには兄弟がいないので分からないが、そこには愛があるように感じた。
「あの、どうか、頭を上げてください」
「魔女殿のどんな願いも叶えよう。どうか、レオの呪いを解いてほしい! どうか!」
「えっと、だから、頭を……」
すると、アルノルド殿下はフローラに近づきその手を両手で握った。そして「どうか」と切に嘆願する。
「で、殿下にご依頼される以前より、私はそのつもりでここに来ました。上手くいくか保証はできませんが、最善を尽くします」
「! そうか! ありがとう! 礼を言う」
アルノルド殿下は、フローラの言葉を噛み締めるように目を瞑り、感謝を述べた。レオのことを心から大切に想っているのだと伝わってくる。そうしてフローラと固く握手をし、部屋を出ていった。
国王といい、アルノルド殿下といい、レオには素敵な家族がいるのだと思うと、フローラは胸の奥が暖かくなるのを感じたのだった。
その特別授業が始まるのは、決まって夜だった。
「いいかい。身体の魔力をふわっと指先に集めて外に出すんだ。するとあのコップが浮かぶ」
祖母の説明は抽象的で、習得する為のはとても大変だった。魔法を使うには感覚で覚えていくしかない。それでもフローラは、何度も練習して、生活魔法や結界魔法を習得していった。
「フローラ。魔法が使えることは秘密だよ」
「私が魔女だってことも内緒でしょう?」
「そうだね。内緒にして生きていくんだ。だけどちょっとだけ魔法が使えた方が、楽しいだろう?」
「うん!」
そんなことを言いながら、少しずつ祖母から魔法を教わった。そして、解呪魔法の授業になると、それまでとは異なり、かなり時間をかけて練習を積んだ。
「いいかい、フローラ。呪術を使おうって考える者に碌な者はいないからね。呪術のことは外に漏らしちゃいけないよ」
「それでも覚えておいた方がいいの?」
「あぁ。フローラは、解呪魔法を覚えておくべきだ」
「? うーん。すごく難しいけど、パズルみたいで楽しいから、頑張って覚える」
祖母は占術も得意で、フローラの行く末を知っている様子だった。その祖母の方針で解呪魔法はかなり詳しくなった。
「フローラ。魔女であることも、魔法が使えることも、誇らしいことだ。本当に嘘をつきたくない人が現れたら、秘密にしなくてもいい。それは自分で決めていいんだよ」
「うーん。よく分からない」
「今は分からなくていいよ。でも覚えておきな」
「うん!」
自分がいつ解呪魔法が必要となるのか分からずに生きてきた。だが、この時のためだったのだと、今は確信している。祖母はきっと、私が愛する人のために解呪魔法を使うことを予見していたのだろう。
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コンコン
フローラの客室のドアが叩かれた。こういう時どうしたら良いのか分からない。王宮へ来てから様々な人がこの部屋に入室してくるので、フローラは戸惑ってばかりだ。着替えやベッドメイクまでしてくれるお世話係(メイドさんというらしい)がいたり、予定を教えてくれる素敵な老紳士(執事さんというらしい)がいるのだ。
ノックされたら返事をするらしいが、なんと答えるべきなのか分からない。
(どうぞお入りくださ~いとか叫んだらいいのかしら?)
ドギマギしていると、ドアが開いた。
「突然すまないね、少し話できるかい?」
入室してきたのは、金色の髪とレオと同じ金の瞳を持った美しい男性だった。初めてレオの瞳を見た時同様、言葉には出来ない威圧感に圧倒された。
(国王陛下とレオと同じ、金の瞳……もしかして)
「私はガルディア王国王太子、アルノルドだ。挨拶が遅くなってすまない。昨晩まで遠征していてね」
「お、王太子……様」
つまりはレオのお兄様、第一王子ということだろうか。何故そんな高貴な方がフローラの客室にやってくるのか。意図が分からず困惑していると、アルノルド殿下は優しい眼差しでフローラを見つめ微笑んだ。
「魔女殿。以前、弟の命を救ってくれたと聞いた。心から礼を言うよ。ありがとう」
「い、いえ……」
「レオの呪いは、気づいたかい?」
「ええ……」
呪いのことを知っている。レオの命を狙っている人が誰なのか分からない以上、この人には余計なことを言わないようにしたほうがいいのかもしれないと、身構える。そして曖昧な返事をしたところで、アルノルド殿下は真剣な顔になった。そしてゆっくりと頭を下げる。
「!」
「魔女殿。貴女の力をお借りしたい。二度も弟を救ってくれというのは、魔女迫害の歴史を思えば、都合の良い願いだということは分かっている。……私はいずれ国王となる。その時に背中を預けられるのは、あの弟ただ一人なのだ。どうかレオを救ってくれ……!」
切迫した声だった。弟を想う兄の気持ち。フローラには兄弟がいないので分からないが、そこには愛があるように感じた。
「あの、どうか、頭を上げてください」
「魔女殿のどんな願いも叶えよう。どうか、レオの呪いを解いてほしい! どうか!」
「えっと、だから、頭を……」
すると、アルノルド殿下はフローラに近づきその手を両手で握った。そして「どうか」と切に嘆願する。
「で、殿下にご依頼される以前より、私はそのつもりでここに来ました。上手くいくか保証はできませんが、最善を尽くします」
「! そうか! ありがとう! 礼を言う」
アルノルド殿下は、フローラの言葉を噛み締めるように目を瞑り、感謝を述べた。レオのことを心から大切に想っているのだと伝わってくる。そうしてフローラと固く握手をし、部屋を出ていった。
国王といい、アルノルド殿下といい、レオには素敵な家族がいるのだと思うと、フローラは胸の奥が暖かくなるのを感じたのだった。
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