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エストレヤ イグニス

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僕は数日学園を休み、屋敷で過ごした。
その甲斐もあり身体も大分回復し楽になった。

屋敷で過ごしていると申し訳ないほど皆が僕に気を使ってくれた。
学園での出来事を知らないと思うが、ずっと寝たきりだったので病気だと思われたに違いない。
今では食堂まで歩くことも問題なかった。
もう、学園に戻れそうだった。

アティは大丈夫かな?
「媚薬」ってどのくらいで抜けるのかな?
今も苦しんでいたりするのかな?
会って確認したい。
例えまだ回復していないのなら、僕がお世話したい。
僕以外の人に触れて欲しくないな…。
アティの事が知りたくて、お父様の執務室へ向かっていた。

こんこんこん

「お父様良いですか?」

「あぁ入りなさい。」

がちゃ

扉を開けるとお父様は僕を見て椅子から立ち上がりソファを促してくれたが、僕は部屋に入ってすぐお父様がなんだか難しい顔で、手紙を読んでいたのを目撃した。

「もう、身体の方は平気そうだな。」

「はい、もう大丈夫です。」

「そうか、良かった。」

「それでお父様、僕アティの事が知りたいんです。アティは…まだ?」

僕がアティの事を聞いたらお父様は明らかに険しい表情に変化した。

アティ…そんなに悪いの?
媚薬ってその場だけじゃなくて、後遺症とか残るものなのかな?
急に不安になってきた。

「…アティラン様は婚約について考え直しても良いと…。」

「…へっ?」

婚約について考え直す?
考え直してどうするの?

「エストレヤを傷付けたことを大変後悔していて…婚約解消しても構わないと…。」

「いっいや…嫌です。僕は婚約解消なんてしたくありません。」

何を言っているの?
どうして僕が婚約解消しなくちゃいけないの?
傷つけたって何?
僕は傷付いたりなんてしてないよ?

「酷い扱いをしたと本人から聞いている。」

「それは媚薬の所為でアティの意思じゃないのお父様も分かるでしょ?」

「あぁ。」

「なら、婚約解消はしません。僕はアティがいいです、アティとずっと一緒にいたいんです…お父様っ。」

婚約解消したくなくて縋った。

「エストレヤ次第だと思っている。エストレヤが解消を希望しないのであれば私も解消の話しは持ち出さない。」

「…良かった。」

解消されなくて安心した。

「だが、エストレヤ以上にアティラン様の方が酷いようだ。」

アティが酷い?

「まだ媚薬が抜けていないんですか?」

何日も経っているのに今も媚薬に苦しむなんて、そんなに怖い薬をアティに?

「いや、媚薬の方は完全に抜けている。問題は精神面のようだ…。エストレヤに酷い事をしたと後悔し塞ぎ込んでしまったようだ。」

僕は酷いことなんてされてない。
アティは記憶が混濁しているからそんなことを言うんだ。

「…アティに会わなきゃっ、お父様僕アティに会いに行ってきます。」

急いで立ち上がりアティの屋敷に向かう…。

「待ちなさいっ。」

「お父様っ。」

大きな声で止められたので驚いたが、僕は今すぐにでもアティに会いに行きたくて、抗議の意味を含みお父様を呼んだ。

「会いに行くには先触れを出してからだ。グラキエス家に手紙を送るから落ち着きなさい。」

「…はい。」

お父様は手紙を書いて、使用人に急いでグラキエス家に届けるよう指示してくれた。
だけど、僕は返事を待つより会いに行きたくて、寧ろ僕が手紙を届けたいくらいだった。

「お父様…婚約解消の話しはその手紙に書いてあるんですか?」

「…エストレヤが目覚める前日にアティラン様本人にされた…。」

「なっ、どうしてもっと早く教えてくださらなかったんですか?」

「エストレヤの事だ、すぐにアティに会いたいと言うと思ってな。」

「ぅん」

当然だ。
そんなこと言われてのんびり寝てなんていられない。
一刻も早くアティに会って誤解をとかなきゃいけない、

「ベッドから起き上がれない状態のエストレヤに会ったら、アティラン様の方から解消されると思ってな…。」

「………」

アティは優しいから、僕の身体の弱さが導いた結果を自分の所為と責めてしまいそう…。
その結果婚約解消という結論を出す可能性も…。

「そうならないよう、まずエストレヤが回復してからと思ったんだ。」

「…そうだったんですね…ごめんなさい。」

そんなこととは知らずにすぐに会わせてくれなかったお父様を責めてしまった。

「エストレヤ…今回の件どうしたい?」

「どうしたい?」

アティとは婚約解消しません。
これからも婚約者でいます。

「パーティーの最中にリーヴェス王子に飲み物を掛けられ、控え室に閉じ込められたんだ。控え室の件は「違う」としらを切るかもしれんが、飲み物の方は数人の目撃者がいるので立証できる。」

あっ、王子のことか…。
それはもうアティが解決してくれた。

「…僕は…あまり大事には…それに王子からは既に謝罪されましたから。」

「…そうか。」

これで良いんだ。
大事にするとアティと王子の接点が出来てしまいそうで怖かった。
アティは僕の隣にいるような人じゃない。
もっと才能を発揮できる…王子の隣の方が~なんて気付いてほしくない。

アティには王子の隣のが相応しいのかもしれないが、僕はアティを離したくなかった。

アティごめんなさい、こんなにも好きになっちゃて…。
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