44 / 177
使用人
しおりを挟む
「エストレヤ様の婚約者が決まったみたいだ。」
使用人達は調理場や洗濯場や庭掃除中と侯爵の目につかぬ場所で噂話をしていた。
「誰ですか?」
「なんとグラキエス様だってさ。」
「グラキエス様?」
相手の名前を出した瞬間、一気に熱気が高まった。
グラキエスは貴族だけではなく、貴族と接することのある者にも有名人であった。
「王子の婚約者の?」
王子の婚約者として知れ渡り眉目秀麗というだけで噂されているのではなく、平民街で貴族が平民を理不尽に侮辱し暴力を振るっている場に、駆けつけた騎士さえも止められない中グラキエスが止めに入り貴族の男に加勢するのではなく公平に判断し横柄な貴族に制裁を加えた話は有名だった。
その事もあり、一部の貴族からは潔癖な貴族と陰で噂されていたが平民からしたら公平に裁いてくれた信頼できる珍しい貴族として広まった。
その噂は平民から使用人に、そして貴族に伝わっていた。
「婚約は解消されたろっ。」
「あっ、確か王子の浮気と暴力だったよね。」
グラキエス信者とまではいかないが、グラキエスに味方するものは多くいた。
見た目も美しく不正をしない貴族と、婚約者がいる身で堂々と浮気をする王族では比べるのもおかしい事だ。
王族だからと許されて良いはずがない。
グラキエス家は公爵だ。
公爵家にそのような態度を取る事がどのような意味なのか全く理解していない無能と嫌われていたのに、暴力まで振るったとなれば王子に味方するものは居なかった。
「そっ、正確には突き飛ばしてグラキエス様を記憶喪失にさせたとか。」
記憶喪失までさせたのには、もう言葉もでなかった。
「記憶喪失…。」
「未だに記憶はないと?」
「そうなんじゃない?記憶が戻ったら王家としては王子の婚約者復帰にさせたいでしょ。」
能力もあり平民からも支持されている貴族は珍しく家柄は公爵家、申し分ない相手だ。
むしろそんな貴族は、今までに居なかったであろう。
「記憶喪失だからエストレヤ様と婚約が決まったってこと?」
「そうなんじゃない?」
「エストレヤ様は幸運ですね。」
「どうだろうな、記憶が戻ったら王家は欲しがるだろ?あのグラキエス様だよ?」
「確かに…えっ?婚約したのに記憶戻ったら解消される可能性もあるってことですか?」
「あるんじゃないのか?」
「うわぁ…。」
王子の暴力で記憶喪失になり婚約解消したのに、記憶が戻ったら再び婚約者なんて理不尽だ。
しかも、婚約解消させる可能性もあるなんて王族ならなにしても許されるのだろうか?
「使えるものはなんでも使う。貴族は王族のもの…。」
「………。」
「皆噂話はその辺にして、グラキエス公爵様がいらっしゃいます。粗相のないように。」
「「「「「「「「はい。」」」」」」」」
使用人長の言葉で、王家による身勝手な婚約解消(妄想)話は終了となった。
使用人も交えグラキエス公爵一行を出迎えた。
公爵と夫人に続きグラキエス様が降り立ち、エストレヤ様を目指し二人は口付けを交わした瞬間、予想だにしない光景に使用人もイグニス侯爵夫妻も二人の口付けに見入ってしまった。
「……ぁっ…まず中へ…どうぞ。」
「あぁ。」
公爵と侯爵の会話に己の役割を思い出した使用人達が動き出す。
お客様の後ろを歩く使用人は、エストレヤ様の腰に腕を回すグラキエス様に釘付けとなっていた。
応接室に入ることを許された使用人は、侯爵のアイコンタクトや紅茶のお代わりなど見逃さないように神経を尖らせた。
婚約話が問題なく進み書類にサインを終え、一気に穏やかな空気になった。
「エストレヤ。」
甘く名前を呼ぶグラキエス様に視線が集まった。
何が起こるのか視線で追えば、エストレヤ様がグラキエス様膝の上に座った。
目を見開き何が起きているのか、脳が理解できずにいた。
恥ずかしそうにエストレヤ様はグラキエス様の膝に座っているが、グラキエス様は見たこともない笑みを浮かべ口付けを交わしていた。
婚約者となったから問題はない…んだよな?
だめだ全く頭が回らない。
冷血だの無表情だの言われていた、あのグラキエス様が微笑んでいる姿。
理解が追い付かず、皆さんが困惑しながらも会話しているが全く脳が処理できずにいた。
既にエストレヤ様とグラキエス様には関係があるとか…。
関係ってなんだっけ?
関係って関係だよな?
グラキエス様も態と分からない振りをして、侯爵を弄んでいるようにも感じるのは気の所為か?
埒が明かないとばかりに「セックス」と侯爵の口から聞いたのには驚くべき事なんだろうが、驚きもでない程混乱していた。
侯爵の質問の答えは「はい」だった。
グラキエス様はなんの後ろめたさもなく事実を淡々と答えているが、エストレヤ様は顔を隠していた。
その行動により、グラキエス様が真実を言っているのだと受け取れた。
二人は既に恋人同士だった。
聞かされた事実にもう既に許容範囲を越え、己の仕事に支障を来すのではと不安になった。
すみません、お休みをください…。
使用人達は調理場や洗濯場や庭掃除中と侯爵の目につかぬ場所で噂話をしていた。
「誰ですか?」
「なんとグラキエス様だってさ。」
「グラキエス様?」
相手の名前を出した瞬間、一気に熱気が高まった。
グラキエスは貴族だけではなく、貴族と接することのある者にも有名人であった。
「王子の婚約者の?」
王子の婚約者として知れ渡り眉目秀麗というだけで噂されているのではなく、平民街で貴族が平民を理不尽に侮辱し暴力を振るっている場に、駆けつけた騎士さえも止められない中グラキエスが止めに入り貴族の男に加勢するのではなく公平に判断し横柄な貴族に制裁を加えた話は有名だった。
その事もあり、一部の貴族からは潔癖な貴族と陰で噂されていたが平民からしたら公平に裁いてくれた信頼できる珍しい貴族として広まった。
その噂は平民から使用人に、そして貴族に伝わっていた。
「婚約は解消されたろっ。」
「あっ、確か王子の浮気と暴力だったよね。」
グラキエス信者とまではいかないが、グラキエスに味方するものは多くいた。
見た目も美しく不正をしない貴族と、婚約者がいる身で堂々と浮気をする王族では比べるのもおかしい事だ。
王族だからと許されて良いはずがない。
グラキエス家は公爵だ。
公爵家にそのような態度を取る事がどのような意味なのか全く理解していない無能と嫌われていたのに、暴力まで振るったとなれば王子に味方するものは居なかった。
「そっ、正確には突き飛ばしてグラキエス様を記憶喪失にさせたとか。」
記憶喪失までさせたのには、もう言葉もでなかった。
「記憶喪失…。」
「未だに記憶はないと?」
「そうなんじゃない?記憶が戻ったら王家としては王子の婚約者復帰にさせたいでしょ。」
能力もあり平民からも支持されている貴族は珍しく家柄は公爵家、申し分ない相手だ。
むしろそんな貴族は、今までに居なかったであろう。
「記憶喪失だからエストレヤ様と婚約が決まったってこと?」
「そうなんじゃない?」
「エストレヤ様は幸運ですね。」
「どうだろうな、記憶が戻ったら王家は欲しがるだろ?あのグラキエス様だよ?」
「確かに…えっ?婚約したのに記憶戻ったら解消される可能性もあるってことですか?」
「あるんじゃないのか?」
「うわぁ…。」
王子の暴力で記憶喪失になり婚約解消したのに、記憶が戻ったら再び婚約者なんて理不尽だ。
しかも、婚約解消させる可能性もあるなんて王族ならなにしても許されるのだろうか?
「使えるものはなんでも使う。貴族は王族のもの…。」
「………。」
「皆噂話はその辺にして、グラキエス公爵様がいらっしゃいます。粗相のないように。」
「「「「「「「「はい。」」」」」」」」
使用人長の言葉で、王家による身勝手な婚約解消(妄想)話は終了となった。
使用人も交えグラキエス公爵一行を出迎えた。
公爵と夫人に続きグラキエス様が降り立ち、エストレヤ様を目指し二人は口付けを交わした瞬間、予想だにしない光景に使用人もイグニス侯爵夫妻も二人の口付けに見入ってしまった。
「……ぁっ…まず中へ…どうぞ。」
「あぁ。」
公爵と侯爵の会話に己の役割を思い出した使用人達が動き出す。
お客様の後ろを歩く使用人は、エストレヤ様の腰に腕を回すグラキエス様に釘付けとなっていた。
応接室に入ることを許された使用人は、侯爵のアイコンタクトや紅茶のお代わりなど見逃さないように神経を尖らせた。
婚約話が問題なく進み書類にサインを終え、一気に穏やかな空気になった。
「エストレヤ。」
甘く名前を呼ぶグラキエス様に視線が集まった。
何が起こるのか視線で追えば、エストレヤ様がグラキエス様膝の上に座った。
目を見開き何が起きているのか、脳が理解できずにいた。
恥ずかしそうにエストレヤ様はグラキエス様の膝に座っているが、グラキエス様は見たこともない笑みを浮かべ口付けを交わしていた。
婚約者となったから問題はない…んだよな?
だめだ全く頭が回らない。
冷血だの無表情だの言われていた、あのグラキエス様が微笑んでいる姿。
理解が追い付かず、皆さんが困惑しながらも会話しているが全く脳が処理できずにいた。
既にエストレヤ様とグラキエス様には関係があるとか…。
関係ってなんだっけ?
関係って関係だよな?
グラキエス様も態と分からない振りをして、侯爵を弄んでいるようにも感じるのは気の所為か?
埒が明かないとばかりに「セックス」と侯爵の口から聞いたのには驚くべき事なんだろうが、驚きもでない程混乱していた。
侯爵の質問の答えは「はい」だった。
グラキエス様はなんの後ろめたさもなく事実を淡々と答えているが、エストレヤ様は顔を隠していた。
その行動により、グラキエス様が真実を言っているのだと受け取れた。
二人は既に恋人同士だった。
聞かされた事実にもう既に許容範囲を越え、己の仕事に支障を来すのではと不安になった。
すみません、お休みをください…。
45
お気に入りに追加
1,848
あなたにおすすめの小説
王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
好きになるつもりなんてなかった
いちみやりょう
BL
高校から外部生として入学した学校で石平 龍介は生徒会長の親衛隊長をお願いされてしまう。
龍介はおじさんの教えで“情けは人のためならず”を思い出して引き受けてしまった。
ゲイやバイを嫌っているという噂の生徒会長。
親衛隊もさることながら親衛隊長ともなればさらに嫌われると言われたが、
人を好きになったことがない龍介は、会長のことを好きにならなければ問題ないと思っていた……。
【完結】あの子の代わり
野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、
婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。
ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。
18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、
キャリーヌにいないからという理由だったが、
今回は両親も断ることが出来なかった。
この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。
【完結】出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~
Rohdea
恋愛
──隠されていた私の真実(ほんとう)の力はあなたに愛されて知りました。
小国の末姫、クローディアは、王族なら誰もが持つはずの特殊能力を授からなかったせいで、
誰からも愛されず“無能な姫”と罵られて来た。
そんなある日、大国の王から姉に縁談話が舞い込む。
王妃待遇だけど後妻、年齢も親子ほど離れている為、
泣いて嫌がった姉は自分の身代わりとしてクローディアを嫁がせればいいと言う。
反発するクローディア。
しかし、国としてクローディアは身代わりとして嫁ぐ事が決定してしまう。
罪悪感に苛まれたまま、大国に嫁いでいくクローディア。
しかし、何故かそんなクローディアを出迎えたのは……
(あれ? 私、後妻になるのでは??)
それだけでなく、嫁ぎ先での生活は想像したものと大きく違っていた。
嫁いだ先でクローディアは愛される事を知り、
また、自分に隠された真実(ほんとう)の力を知る事になる。
一方、何も知らず“無能な姫”だと言ってクローディアを手放した祖国の者達は──……
王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。
Rohdea
恋愛
伯爵令嬢のフルールは、最近婚約者との仲に悩んでいた。
そんなある日、この国の王女シルヴェーヌの誕生日パーティーが行われることに。
「リシャール! もう、我慢出来ませんわ! あなたとは本日限りで婚約破棄よ!」
突然、主役であるはずの王女殿下が、自分の婚約者に向かって声を張り上げて婚約破棄を突き付けた。
フルールはその光景を人混みの中で他人事のように聞いていたが、
興味本位でよくよく見てみると、
婚約破棄を叫ぶ王女殿下の傍らに寄り添っている男性が
まさかの自分の婚約者だと気付く。
(───え? 王女殿下と浮気していたの!?)
一方、王女殿下に“悪役令息”呼ばわりされた公爵子息のリシャールは、
婚約破棄にだけでなく家からも勘当されて捨てられることに。
婚約者の浮気を知ってショックを受けていたフルールは、
パーティーの帰りに偶然、捨てられ行き場をなくしたリシャールと出会う。
また、真実の愛で結ばれるはずの王女殿下とフルールの婚約者は───
『聖女』の覚醒
いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。
安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。
王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。
※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。
お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる