上 下
45 / 52

パーティー会場

しおりを挟む
二人の会話を盗み聞きしていたが、クレアベールの言葉は不愉快になるだけだと感じたので会場に戻ることにした。

「何処に行っていたんだ?」

会場に戻ってすぐの私を見つけるというのは、きっとクリストフ王子は私の事を探していたに違いない。私の事を皆が出迎えてくれる光景に今までの不満が消え去っていく。

「心配しましたよ?」

「へぁっ?」

心配したと声を掛けてきた女性はシェリルだった。
何故私の目の前にいるの?
外でクレアベールと話している彼女より、私は先に戻ってきたというのに…

「どうしました?」

「…フィリップス子爵令嬢は、先ほど外に居たのでは?」

「ん?私はずっと会場におりましたよ」

笑顔で告げる彼女に、嘘を吐いているような後ろめたさは感じなかった。

「えぇ、シャナはずっと私達と一緒にいましたがどうかなさったんですか?」

エレンターナも彼女が会場にいたことを証言した。
確かに今、目の前にいる令嬢は複雑に髪を結い上げリボンの色はピンクだ。
急いで戻ってきて髪を結い上げるには時間が足りない…
なら、クレアベールと一緒にいたのはフィリップス子爵令嬢と勘違いしていたの?であれば、あの場にいた令嬢は誰だったのだろうか?

「貴方、まだここにいらしたの?早く出ていくべきではなくて?」

混乱している私の後ろからクレアベールが声を掛けてきた。

「いい加減身分を弁えなさい」

誰になんと言われようと、クレアベールは私を受け入れないようだった。
頑固というより、もう後に引けない感じに見える。

「私は聖女と判定されました。なので、これからは国の為にお仕えする所存です」

「国の為?我が国は貴方を必要とすることなど何もないわ」

美しい顔のクレアベールなのに、やはり後半にくると苦悶の表情ばかりだ。
彼女に気を取られていたが、高位貴族や聖女が集まり不穏な空気を醸し出していれば会場内の注目を集めてしまうのは必然だった。

「聖女?」
「やはり、あの子は聖女なの?」
「そうではないの?ジョバルディー公爵令嬢の口から「聖女」と聞きましたもの」

今までは噂が広まり私を聖女かもしれないと半信半疑だったが、公表は避けていた。それを公爵令嬢が口にしたことで一気に真実味が増す。

「皆に伝えなければならないことがある」

ざわめきだす場内を静めるため、クリストフ王子が場を制した。
私はクリストフ王子の横に立ち、注目を浴びる。

「こちらの令嬢は司祭の判定のもと聖女と判明した」

焦らすようにゆっくりと真実を告げるクリストフに、皆が引き込まれていく。

「以前から噂があり気付いていた者も居ただろうが、約二十年ぶりの聖女の為に我々は慎重にならざるを得なかった。王族に対して様々な噂が聞こえていたが、誤解させるような選択を選んだのは私達の責任だと理解している。だが、我々の行動は国のためだと考えてほしい」

不貞のような関係と誤解されても、否定しないでいたのは聖女を守るため…
と聞こえた。この聖女の為は私の為でなく、国の為と聞こえる。

王子は私より悪役令嬢を選んだの?

「そして、今後聖女は王宮で保護されることになる」

「えっ?」

突然の王子の発表に私も驚いた。そんな話しは男爵からも聞かされていない。

「ワンダーソン男爵とは話がついている。後は貴方次第だ」

あっ、お父様とは話がついているのね…外堀を埋められた?
残すは私次第…

「断りなさい」

クレアベールの声が響く。

「そうだな、我々も無理にとは言わない。聖女であっても国に仕えなければならないということではない。私も強制するつもりはない」

クリストフ王子も決断は私に委ねてくれた…だが、この大勢の前で「国に仕えたくありません」と宣言しても許されるのか?と疑問に思う。
逃げ道を塞がれた私の答えは…
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?

naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」 目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。 すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。 「貴様ら!何をする!?」 地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。 「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」 それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...