上 下
6 / 52

動き出す運命

しおりを挟む
制服に着替えると、見慣れたゲーム姿のヒロインが鏡の前に存在していた。

「…本物だ」

これから本格的にゲームのような出来事が本当に起こるのだろうか?

ゲームをプレイしていた時は選択肢の中から正解を選んで行動したが、現実ではそんな選択肢は存在しない。
攻略対象の好感度を上げる模範的な答えを知っているが、本当にそんなことをして良いんだろうか?

攻略対象には全員婚約者がいる。
貴族社会では男性に非があったとしても女性側に傷がつき、その後はまともな結婚は難しくなり後妻か訳あり貴族にしか嫁げなくなるというのが定番だ。

これが現実だとすれば、私は見ず知らずの誰かを不幸にして恋愛を行うことになる…そんなの絶対に嫌っ。私は、ゲームの選択肢通りには動かない

そう心に誓い、男爵が用意してくれた馬車で学園に向かう。
男爵位とはいえ貴族なので、誘拐の恐れがあるので馬車で通うようにと強く約束させられた。

元平民の私にここまでしてくれる男爵夫妻は、本当に良い人なんだと思う。
私はここまでしてくれる男爵家のためにも、不名誉な噂が立たないよう真面目に過ごすことを決めた。

私の気持ちが決まると馬車も止まり、学園に着いたことを知らせた。
扉を開ければ目の前には恋愛ゲームの舞台となる学園があった。

「はぁ…凄い…本物だ…」

圧倒される建物。

ゲームとして作り込まれているとはいえ、実物の建物に暫く立ち尽くしていた。
登校時間とはいえ次第に生徒も疎らになりだしたので、急いで人々の流れに乗りクラス表を確認した。緊張しながら自分の…エレナ・ワンダーソンの名前を探せばゲーム通り、私はBクラスだった。

同じクラスには攻略対象である王子の側近、騎士のサリモン・フィルデガードがいる。
彼は騎士としての誇りが高く余念がない。伯爵家嫡男で同格の婚約者もいる。
二人の関係は甘いものではないが格別悪いということもない。

攻略は簡単な方で、訓練場を覗き褒めて一緒にいる時間を増やすだけで好感度が高まる人物。初心者はまず彼から攻略したらいいと言われているくらい、難易度は低い。

彼の事を知っているからと言って攻略しようとは思わない。私の行動で傷つく人がいるから。他人の幸せを壊す人間は他人に幸せを壊されても文句は言えない、と私は思う。なので二人の関係はどうであれ、婚約者のいる彼に近づくつもりはない。

「…きゃっ」

しまった。

廊下を考え事をしながら歩いていると、曲がり角で反対から来た人にぶつかってしまった。まるで漫画のような状況だった。

「大丈夫か?」

気付いた時には男性の腕の中にいた。

「ぁっすみません…」

男性の腕の中から離れ相手を確認すると、見覚えのある人間に驚いた。

「君は…」

「…わ…私…は…その…ワンダーソン男爵の養女となりました…エレナ…ワンダーソン…です」

相手に頭を下げ床を見つめた。
記憶をフル回転させるも、目の前の男性は攻略対象一番人気の王子にしか見えなかった。

そうだ…確か…ゲームでは学園内で迷子になっているヒロインを王子に助けてもらうという出会いだった。
私は偶然にもゲーム通り、王子ルートの出会いイベントを起こしてしまった。

「…やはり、私はクリストフ・トルニダード。君の事は報告を受けているよ、何かあればいつでも相談に乗る」

名前だけでなくフルネームを名乗られてしまった…
この国に住んでいながら国の名前を知らなかったという言い訳は出来ないし、国と同じ名前であれば誰でも気付く…気付かないわけがない。
もしこれで「知らなかった」と口にした場合、鈍感ヒロインではなく、ただのバ…なので、「相手が王子だとは知りませんでした」という言い訳が通用しなくなってしまった。

「…ありがとうございます」

それ以上の接触はなかったが、私の意思とは別に運命は動き出してしまったといえる。
王子と別れ一人教室に向かうその間、ずっと王子のことを考えていた。恋愛的な意味ではない…ないが、ぶっちゃけ一番人気なだけあって格好良かった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...