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オマケの続きの番外編

紳士クラブ

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 娼館の最上階、選ばれた人間のみが入室が許される部屋がある。
 その部屋では必ず仮面を身に付けなければならない決まりがあり、決して相手の素顔・素性を喩え分かったとしても詮索してはいけない。当然娼館で得た情報は口外してはならない決まりがある。

 部屋には六人の人間がソファに座り、優雅にワインを嗜んでいる。

「先生は、最近どうです?」

「ん?」

 男は紳士クラブで先生と呼ばれていた。

「先生の夫人は今でも「恋に夢見ている」と以前語っていましたよね?」

「あぁ、今でも恋する少女のままだ」

「今でも先生に夢中ということですか?」

 質問してくる青年はまだ結婚していない。
 貴族令嬢の高飛車な雰囲気が好きにはなれないといい、週に何度もこの娼館を利用している。

「…ハハッ。妻は初恋に夢中ですよ」

「…初恋ですか?それは…」

「相手は私ではありませんよ」

 先生と呼ばれた男は妻が他の男性を慕っているのを楽しそうに語り、周囲の者はその違和感に困惑する。

「先生は許しているのですか?」

「あぁ。可愛いじゃないか。必死に慕っていても、思いを遂げるのは貴族社会では容易なことではない」

「えぇ、そうですね。全てを捨てる覚悟がなければ、なかなか…難しいですね」

 貴族社会の多くは政略的なもので結婚を決める。
 相手の爵位、財産、能力、時には怪我を追わせてしまった責任として結婚がある。
 結婚に夢を見ている貴族は極僅かだろう。

「夢を見ていながら、現状を確り理解している。初恋の相手を未だに懸想しているがいざ本人が手を差し出し「全てを捨てて、一緒に逃げよう」と言われても妻は逃げないだろうな」

「…逃げない…それは先生が監視していると言うことですか?」

「いや、妻はその先にあるのは不幸だと理解しているからだ。夫を捨て不貞相手と逃げたところで貴族社会への復帰は不可能。他国で平民からやり直すには、今の生活を捨てきれない。空想を思い浮かべつつも現状を捨てきれないでいる」

「ふぅん…そうなんですね」

 結婚に興味はないと発言する青年は、先生の発言で尚更結婚に縋り付く女性に幻滅する。

「今の現状のまま、妻は相手に愛を囁かれ幸せに浸りたいんだ」

「初恋の相手ってそんなに大事ですかね?」

「妻にとっては特別だ。手に入れるためにかなりの悪戯をしていたらしいからね」

「悪戯…ですか?」

「…ハハッ。私からすれば悪戯だな。愛する者を手に入れるために一生懸命よく頑張ったよ」

「では、頑張ったけど報われなかったと…」

「いや手に入れたのに、自らの意思で手放した」

「手放した?」

 男は声が裏返るほど妻の行動が理解できない様子だった。

「誤算だったんだろうな…間違いに気付いた時には取り返しがつかなくなっていた。泣き暮れ日が立つにつれ空想にのめり込んでいき、作り上げたのは「運命に引き裂かれた悲劇の恋人達」」

「…観劇で女性が好みそうな話ですね」

 男は嫌な思い出でもあるのか拒絶の反応を見せる。

「あぁ、妻はその世界が居心地が良いみたいでね」

「なら、先生はどんな役なんですか?」

「私は…妻の空想が現実で問題にならないように手引きしている調整役…と言ったところかな」

「…先生は寛大なんですね」

「私は妻が空想の世界と現実の区別があやふやとなり壊れてしまうんじゃないかと思うと…」

 青年は私の妻に対する思いを理解できない、と表情が言っている。

「…そうなんですね」

「あぁ」

「夫人といるのは幸せですか?」

「あぁ、実に愉快で仕方がないよ」



【完】

  オマケの続きの番外編までありがとうございました。
 まさかのその後が…
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